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Google、検索の「AIモード」を全米提供開始: Gemini 2.5搭載でこれまでと何が変わる?

Y Kobayashi

2025年5月21日8:43AM

Googleは2025年5月20日(現地時間)、年次開発者会議「Google I/O 2025」において、同社の検索サービスに「AIモード」を導入し、米国内の全ユーザーに向けて提供を開始したと発表した。この動きは、従来のキーワード検索中心だった情報探索のあり方を根底から変革する可能性を秘めており、テクノロジー業界内外で大きな注目を集める出来事になりそうだ。

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AIモードとは何か?従来の検索との決別、そして「AIによる概要」との関係

Googleが提供を開始した「AIモード」は、単に検索結果の表示方法が変わるというレベルの話ではない。ユーザーがより複雑で、対話的な方法で情報を得られるように設計された、全く新しい検索インターフェースと言えるだろう。従来の検索が、入力されたキーワードに対して関連性の高いWebページの「リスト」を提示することに主眼を置いていたのに対し、AIモードは、AIがユーザーの質問の意図を深く理解し、Web上の情報を統合・要約して、直接的な「回答」を生成することを特徴とする。

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すでに一部ユーザーに提供されていた「AI Overviews(AIによる概要)」は、検索結果の最上部にAIが生成した要約を表示するものだったが、AIモードはさらに一歩進んで、AIとの対話を通じて情報を深掘りしていくことに特化した専用のインターフェースとなる。Googleによれば、AIモードはLabs(実験的な機能を提供するプログラム)を経ずに、米国の全ユーザーが利用可能となり、Google検索のホームページやGoogleアプリの検索バーに専用のタブとして表示される。

GoogleのLiz Reid氏(Google副社長兼Google検索責任者)は、「AIモードは、我々がGeminiの最先端の能力を最初に投入する場所であり、検索全体の未来を垣間見るものでもある」と述べており、AIモードで評価の高かった機能は、将来的にはAI Overviewsを含むコアな検索体験にも取り入れられていく方針のようだ。このことから、AIモードはGoogleのAI検索技術における最前線であり、イノベーションの実験場としての役割も担うと考えられる。

AIモード全米展開の背景:競争激化と「検索の再発明」への強い意志

GoogleがこのタイミングでAIモードを全米に本格展開する背景には、いくつかの要因が考えられる。まず、OpenAIのChatGPTやPerplexity AIといった、AIを活用した新しい情報探索ツールが急速に台頭し、Googleの牙城である検索市場における競争環境が変化しつつあることだ。これらのツールは、従来の検索エンジンとは異なるアプローチでユーザーの疑問に答えようとしており、Googleとしても座視できない状況だったと言えよう。

また、Google自身が長年研究開発を続けてきたAI技術、特に大規模言語モデル(LLM)の進化が、いよいよ実用的なレベルで検索体験に統合できる段階に来たと判断したことも大きいだろう。Googleは「Transformer」アーキテクチャなど、現代のAI革命の基礎となる技術を生み出してきた自負があり、その技術力を検索という最も重要なプロダクトで最大限に発揮しようとするのは自然な流れだ。

Nick Fox氏(Googleの知識・情報製品担当)は、「我々はこの技術の多くを検索のために発明した」と語っており、AIモードの導入は、単なる機能追加ではなく、Googleにとって「検索の再発明」とも言える戦略的な一手なのである。

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注目の新機能群:AIモードで検索はどう進化する?

AIモードのローンチに伴い、Googleは多くの野心的な新機能を発表、または今後Labsを通じて提供していくことを明らかにした。これらは、検索が単なる情報検索ツールから、ユーザーの思考を助け、タスクを代行する「インテリジェント・アシスタント」へと進化していく未来を示唆している。

Gemini 2.5搭載:より賢く、速く、そして深い理解力

AIモードおよびAI による概要の頭脳となるのは、Googleの最新かつ最も高性能なAIモデル「Gemini 2.5」のカスタムバージョンだ。これにより、ユーザーの質問に対する理解度が向上し、より複雑でニュアンスに富んだ問い合わせにも的確に対応できるようになる。Googleは、AI Overviewsが業界最速のAI応答速度を実現しているとも述べており、Gemini 2.5の搭載は、質と速度の両面での向上をもたらすだろう。

Deep Search:専門家レベルの深掘り調査をAIが代行

特に複雑なリサーチを必要とする質問に対して、「Deep Search」機能が提供される。これは、AIモードがユーザーの質問を複数のサブトピックに分解し、それぞれに対して数百もの検索クエリを同時に実行、Web上の広範な情報を収集・分析し、数分で専門家レベルの引用付きレポートを生成するというものだ。従来、人間が数時間かけて行っていた調査作業を大幅に短縮できる可能性がある。例えば、特定の製品カテゴリーにおける詳細な比較検討や、複雑な社会問題に関する多角的な情報収集などに威力を発揮するだろう。

Search Live (Project Astra連携):カメラ越しのリアルタイム対話型検索

Google Lensが切り開いたビジュアル検索の領域をさらに進化させるのが「Search Live」だ。これは、Googleの次世代AIアシスタント構想「Project Astra」の技術を活用し、スマートフォンのカメラを通じてリアルタイムで見ているものについて、AIと対話しながら検索できる機能。例えば、故障した家電製品をカメラで写しながら修理方法を尋ねたり、見慣れない植物の名前や特徴をその場で調べたりといったことが可能になる。単に物体を認識するだけでなく、その物体に関する文脈的な情報を引き出し、ユーザーの疑問解決をサポートする。

Agentic Search (Project Mariner連携):面倒なタスクをAIが代行

AIがユーザーの代わりに具体的なタスクを実行する「エージェント機能」もAIモードに統合される。これは「Project Mariner」と呼ばれる研究プロジェクトの成果であり、例えば「今週土曜日の野球の試合のチケットを2枚、手頃な価格で内野席で探して」といった指示を出すと、AIモードが複数のチケット販売サイトを横断的に検索し、価格や在庫状況をリアルタイムで分析、条件に合う選択肢を提示してくれる。将来的には、チケット購入フォームの入力補助や、レストランの予約、地域サービスの予約などもAIが代行できるようになる計画だ。Ticketmaster、StubHub、Resy、Vagaroといった企業との連携も発表されている。

パーソナルコンテキスト連携:Gmailなどと連携し、より「自分仕様」の検索へ

AIモードは、過去の検索履歴に基づいてパーソナライズされた提案を行うだけでなく、ユーザーが許可すればGmailなどの他のGoogleアプリと連携し、より個人の文脈に即した情報提供が可能になる。例えば、Gmail内のフライトやホテルの予約情報から旅行の日程や目的地を把握し、その期間・場所で楽しめるイベントやレストランを提案するといった具合だ。Googleは、この機能は常にユーザーのコントロール下にあり、いつでも接続・切断が可能であると強調している。

データ可視化:複雑な情報をグラフで瞬時に理解

数値データが絡む複雑な情報を扱う際、AIモードはオンデマンドでカスタムチャートやグラフを生成し、データの可視化をサポートする。例えば、「過去5年間の特定の野球チームのホームゲーム勝率を年ごとに比較して」といった質問に対し、AIが関連データを収集・分析し、インタラクティブなグラフを提示してくれる。まずはスポーツと金融の分野から提供が開始される予定だ。

AIショッピング:バーチャル試着から価格追跡、代理購入まで

AIモードはショッピング体験も大きく変えようとしている。Googleの広大な商品データベース「Shopping Graph」とGeminiモデルを組み合わせ、商品の発見から比較検討、購入までをシームレスにサポートする。特に注目されるのは、ユーザーが自身の写真をアップロードするだけで、AIがその服を着用したイメージを生成する「バーチャル試着」機能だ。さらに、気に入った商品について、特定価格になったらGoogle Payを通じて代理購入を依頼できるエージェント機能も将来的に提供される(ユーザーの最終確認は必要)。

パブリッシャーへの影響とSEOの未来:コンテンツの価値はどこへ向かうのか?

AIモードの登場は、Webサイト運営者やコンテンツパブリッシャーにとって、大きな懸念材料ともなっている。AIがユーザーの質問に対して直接的な答えを生成してしまうと、ユーザーが個別のWebサイトを訪問する機会が減少し、トラフィックや広告収益の低下に繋がるのではないか、という不安だ。実際、以前に報告したように、AIによる概要の導入によって既に一部のサイトではトラフィックが大幅に減少したという事例も報告されている

これに対し、GoogleのLiz Reid氏は「AI Overviewsが表示されるページでは、Webサイトへのより質の高いクリックが増えている」と主張する。つまり、ユーザーはAIの概要を見た上で、より深く知りたい場合にWebサイトを訪れるため、滞在時間が長く、直帰率が低い傾向にあるというのだ。

この問題は、SEO(検索エンジン最適化)のあり方にも大きな影響を与えるだろう。元Google検索エンジン開発者として筆者が考えるに、AIが情報を要約する時代においては、表層的な情報や単なるまとめコンテンツの価値は相対的に低下し、AIでは代替できない独自の視点、深い専門知識、一次情報、そして強いE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を持つ高品質なコンテンツの重要性がますます高まる。AIが参照する「元情報」としての価値を高めることが、今後のWebサイト運営の鍵となるのではないだろうか。

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Google AI検索の進化が意味するものと、私たちが備えるべきこと

GoogleによるAIモードの全米展開は、単なる一企業の製品アップデートに留まらず、私たちが情報とどう向き合い、テクノロジーとどう共存していくかという、より大きな問いを投げかけている。

情報消費のあり方は、より「対話的」で「能動的」なものへと変化していくだろう。私たちはAIに質問を投げかけ、深掘りし、時にはAIの提案に異議を唱えながら、共に答えを見つけ出していく。このプロセスにおいて、クリティカルシンキング(批判的思考)の重要性はこれまで以上に増す。AIが生成する情報は便利だが、それが常に完全で客観的であるとは限らないからだ。情報の真偽を見抜き、多角的な視点から判断する能力が求められる。

開発者やクリエイターにとっては、AIをいかに活用し、自らの創造性を拡張していくかが問われる。AIモードが示すように、AIはリサーチを助け、データ分析を支援し、さらにはタスクの自動化まで行う。これらを脅威と捉えるのではなく、生産性を向上させ、より本質的な創造活動に集中するためのツールとして使いこなす視点が重要だ。

GoogleのAI検索の進化はまだ始まったばかりだ。AIモードが示す未来は、利便性と効率性を飛躍的に高める一方で、情報の偏り、プライバシー、そしてWebエコシステムの持続可能性といった新たな課題も生み出すだろう。私たちユーザーは、この変化を冷静に見つめ、テクノロジーの恩恵を享受しつつも、その潜在的なリスクを理解し、賢く付き合っていく必要があるだろう。


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