中国の技術企業50社以上が連携して開発した次世代マルチメディア接続規格「GPMI(General Purpose Multimedia Interface)」が正式発表された。現行のHDMI 2.1(48Gbps)の4倍にあたる最大192Gbpsの帯域幅と、HDMIにはない480Wの電力供給能力を持つこの新規格は、映像・音声・データ・ネットワーク・電力をたった1本のケーブルで処理できるという。中国からこのような規格が登場したことは、中国による西側諸国からの脱却を目指す動きとして注目に値する物だ。
GPMIとHDMIの違い:次世代規格の全容と比較

HDMIの限界を超える新規格の開発背景
GPMIは「General Purpose Multimedia Interface(汎用マルチメディアインターフェース)」の略称で、超高精細映像産業の急速な発展に伴う新たな接続ニーズに応えるため、中国の深圳市8K超高清視頻産業協作聯盟(深圳8K UHDビデオ産業協力アライアンス)が中心となり、Huawei、Hisense、Skyworth、TCLなど50社以上の中国企業が協力して開発した新しいインターフェース規格だ。
深圳8K UHDビデオ産業協力アライアンスの発表によると、HDMIを含む現在の接続技術には「機能が単一であり、業務拡張が困難」という制限があり、将来の産業発展ニーズに適応できないという課題があったという。GPMIはこれらの課題を解決するために、「一線通聯」(1本のケーブルですべてを接続)というコンセプトのもと開発されたとのことだ。従来は個別のケーブルが必要だった映像・音声伝送、データ通信、ネットワーク接続、制御信号、そして電力供給(給電)といった複数の機能を、文字通り1本のケーブルに集約することを目指している。これにより、テレビやモニター周りの配線を劇的に簡素化し、ユーザー体験を向上させるとともに、機器設計の自由度を高める狙いがある。
GPMI開発の歴史とHDMIとの関係
GPMIの開発は以下のようなタイムラインで進められてきた:
- 2019年:深圳国際8K超高清视频産業協作聯盟が超高清接口作業グループを設立し、GPMI技術の研究開発を正式に開始
- 2021年:核心団体標準の意見募集稿を発表
- 2023年:最初のFPGAサンプルを公開
- 2024年:業界標準の意見募集稿を発表し、Huawei、Hisense、Skyworth、TCLなどを含む50社以上の企業と共同で産業ロードマップを発表
- 2024年12月:USB組織からSVID(0XFF10)の認可を取得し、Type-Cエコシステムとの深い統合を実現
- 2025年2月28日:「通用多媒体接口規範」に関する5項目の団体標準が正式に発表
この開発プロセスは、HDMIが2002年に最初に発表され、その後バージョンアップを重ねてきた歴史とは対照的に、比較的短期間で進められてきたのが分かるだろう。HDMIが主に映像と音声の伝送に特化していたのに対し、GPMIは当初から複合的な機能を視野に入れて設計されている点が大きな違いだ。
GPMI vs HDMI:技術仕様と性能詳細比較
Type-BとType-C:HDMIを超える2つのGPMIバージョン
GPMIには「Type-B」と「Type-C」の2つのバージョンが用意されている:
- GPMI Type-C
- 既存のUSB Type-Cと互換性あり
- 最大96Gbpsのデータ転送速度(HDMI 2.1の2倍)
- 最大240Wの電力供給能力(HDMIには電力供給機能なし)
- USB Type-C生態系との互換性
- GPMI Type-B
- GPMI Type-Cより大型の独自コネクタ形状
- 最大192Gbpsの帯域幅(HDMI 2.1の4倍)
- 最大480Wの電力供給能力
- 超高帯域幅と高電力供給に最適化
HDMIとGPMIの詳細スペック比較
GPMIと既存の主要接続規格を詳しく比較すると以下の通りだ:
規格 | 最大帯域幅 | 電力供給能力 | 8K/60Hz対応 | 主な機能 |
---|---|---|---|---|
HDMI 2.1 TMDS | 18Gbps | なし | × | 映像・音声 |
HDMI 2.1 FRL | 48Gbps | なし | △(圧縮必要) | 映像・音声 |
DisplayPort 2.1 UHBR20 | 80Gbps | 240W | ○ | 映像・音声・電力 |
Thunderbolt 4 | 40Gbps | 100W | × | データ・映像・電力 |
USB4 | 40Gbps | 240W | × | データ・映像・電力 |
GPMI Type-C | 96Gbps | 240W | ◎ | 映像・音声・データ・電力・制御 |
GPMI Type-B | 192Gbps | 480W | ◎◎ | 映像・音声・データ・電力・制御 |
GPMI Type-Bの192Gbpsという帯域幅は、現行のHDMI 2.1 FRL(48Gbps)の4倍に相当する。これは8K/60Hzはもちろん、8K/120Hzや16K解像度などの将来的な超高解像度映像も、色深度や圧縮率に妥協することなく伝送できることを意味する。
現行のHDMI 2.1でも8K/60Hzは対応可能だが、Display Stream Compression(DSC)などの圧縮技術を使用する必要があり、画質に若干の影響が出る可能性がある。一方、GPMIの高帯域幅は無圧縮または低圧縮での超高解像度伝送を可能にする。
また、電力供給能力についても、HDMIには電源供給機能がないのに対し、GPMI Type-Bは480Wという高電力供給が可能で、これは一般的なゲーミングノートPCの電力需要を十分にカバーできる水準である。
GPMIの技術優位性
GPMIはHDMIに対して以下の優位性を持つと開発元は説明している:
- 双方向マルチストリーム: HDMIが基本的に一方向の映像・音声伝送であるのに対し、GPMIは映像や音声のデータを双方向で送受信できる。これにより、例えばメイン画面とサブ画面の同時表示や、複数デバイス間の連携がより柔軟になる。
- 双方向制御: HDMIにおけるCEC(Consumer Electronics Control)機能のように、接続された機器間での制御信号のやり取りが可能。GPMIではこれをさらに拡張し、例えばテレビのリモコンを使って、接続されたスマートフォン上のゲームを大画面で操作する、といったクロスデバイス・コントロールが想定されている。これにより、スマートフォンのアプリやコンテンツを、よりシームレスに大画面エコシステムに取り込むことが可能になる。
- 高電力供給: HDMIには電力供給機能がないが、GPMIは最大480Wの電力供給により、高性能デバイスをサポート
- エコシステム互換性: GPMIはUSB Type-Cエコシステムとの互換性を確保しており、既存のエコシステムとの統合が容易
- デイジーチェーン接続: 複数のGPMI対応デバイスを「数珠つなぎ」で接続できる。例えばテレビからサウンドバーへ、サウンドバーからゲーム機へ、といった形で接続でき、配線を大幅に簡略化できる。家庭内の複数のAV機器や、屋外のデジタルサイネージなどで特に有効であり、設置コストの削減と低遅延・高画質伝送の両立を目指す。
- 超高速伝送: HDMIの4倍となる最大192Gbpsの超高速データ転送能力
- 高速起動: 接続デバイスの迅速な起動と認識機能
- 全チェーン安全保障: データ転送全体のセキュリティ確保機能
これらの特長により、GPMIはHDMIの単なる高速版ではなく、根本的に異なる包括的な接続ソリューションを提供するとのことだ。
HDMIからGPMIへ:具体的メリットと使用シーン
「一線通聯」:HDMIを含む複数ケーブルからの解放
GPMIの最大の特長は「一線通聯」(1本のケーブルで全機能を実現)というコンセプトにある。現在のホームエンターテイメントシステムでは、以下のような複数のケーブルが必要とされている:
- HDMIケーブル:映像・音声伝送用
- LANケーブル:ネットワーク接続用
- 電源ケーブル:電力供給用
- オーディオケーブル:外部スピーカー接続用

GPMIは、これらの機能をすべて1本のケーブルに統合することで、接続を大幅に簡素化する。例えば、以下のようなシーンでメリットが生まれる:
- ホームシアター設置:テレビ、サウンドバー、セットトップボックス、ゲーム機などの接続が1本のケーブルで完結
- ビジネスプレゼンテーション:ノートPCと大画面ディスプレイの接続と電力供給が1本で可能
- デジタルサイネージ:複数画面の「菊花鏈組網」(デイジーチェーン接続)による簡易設置
これにより、配線が大幅に簡素化され、見た目もすっきりする上、設置コストも削減できる。
HDMIの制限を超える:双方向制御による新たなユーザー体験
HDMIにもCEC(Consumer Electronics Control)という制御機能があるが、GPMIはより高度な双方向制御プロトコルをサポートしている。これにより:
- テレビのリモコンで接続されたすべてのデバイスを操作可能
- スマートフォンのコンテンツをテレビで表示しながら、テレビのリモコンやコントローラーでスマートフォンを操作
- 複数のデバイス間でのシームレスなコンテンツ共有と制御
この機能はHDMI-CECの発展版と見ることも出来、すべての接続機器を1つのリモコンで操作できる統一制御標準とも言えるだろう。
8K時代のHDMI代替:高帯域と高電力の実用例
GPMIの高帯域幅と高電力供給能力は、特に以下のような用途で威力を発揮する:
- 8K映像の無圧縮伝送:HDMI 2.1では圧縮が必要な8K/60Hzコンテンツも、GPMIでは無圧縮で伝送可能
- ゲーミングノートPC:最大480Wの電力供給により、高性能ゲーミングノートPCもディスプレイケーブル1本で電源供給とデータ転送が可能
- VR/AR機器:高解像度・高リフレッシュレートの没入型体験に必要な高帯域幅と電力供給の両立
HDMIからGPMIへの移行:産業への影響と将来展望
中国メーカーの採用計画と市場展開
GPMIの産業チェーンには50社以上の中国企業が参加しており、主要メーカーには以下が含まれる:
- 華為(Huawei)
- 創維(Skyworth)
- 海信(Hisense)
- TCL
これらの企業は、今後のスマートテレビ製品にGPMIインターフェースを採用する計画を表明している。中国国内市場におけるこれらの企業のシェアを考えると、GPMIの普及が急速に進む可能性が高い。
GPMIの3段階展開計画
GPMIの応用は、HDMIなどの既存規格からの移行を考慮した3つの段階で展開される予定だ:
第1段階(現在~近未来):スマートホームとエンターテイメント
- スマートテレビを中心とした家庭用エンターテイメントシステム
- HDMIなどの複数ケーブルから単一GPMIケーブルへの移行
- マルチスクリーン連携の強化
第2段階(中期):自動車・モビリティ分野
- 車載システムにおけるデバイスインターフェースの統一
- 高効率データ転送による自動運転や高度情報エンターテイメントシステムのサポート
- マルチスクリーン連携による新たなユーザー体験
第3段階(長期):産業応用
- スマート製造
- スマート物流
- 新エネルギーと環境保全
- 産業自動化の促進
HDMIとの共存か置き換えか:グローバル市場への影響
GPMIの登場は、これまで欧米企業が主導してきたHDMIなどのインターフェース標準の分野において、中国企業が独自の規格を確立する重要な一歩と言えるだろう中国のテック産業がUSB-Cや西洋のケーブル標準を超える広範な動きを示すものであり、中国国内ブランドにインターフェース標準の制御を与え、HDMIなどの西洋開発フォーマットへの依存を減らす可能性がある。
短期的には、GPMIとHDMIは共存する可能性が高いが、長期的にはGPMIがその多機能性と高性能により、特定の用途でHDMIを置き換える可能性がある。特に、GPMI Type-CがUSB組織から認可を得て、既存のUSB Type-Cエコシステムとの互換性を確保していることは、グローバル市場での普及にとって重要な要素だ。
しかし、実際の普及スピードは、主流デバイスへの採用速度と既存ケーブル・アクセサリとの互換性に大きく依存するだろう。HDMIが20年以上かけて確立した市場ポジションを考えると、GPMIが完全にHDMIに取って代わることが出来るかは未知数だ。
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