HyProMag USAは2026年10月26日、米国内のレアアース磁石製造事業の拡張に向けた予備的事業化調査(PFS)の結果を公表した。2034年までに4工場体制を構築し、完成磁石の年間生産能力を4192トンに引き上げる構想で、計画中の第1工場の完成時能力と比べて4倍に相当する。ただし、これは米国全体の磁石生産能力を4倍にするという発表ではなく、拡張投資や量産開始が正式に決定したわけでもない。同社は2027年に輸入磁石ブロックの仕上げ工程を先行して立ち上げ、2028年には米国内で回収した廃磁石から完成品までを製造する一貫再生体制の確立を目指している。段階的な事業化計画を詳しく見ると、大規模な増産構想を支える技術と、その実現に向けた課題が浮かび上がる。
完成磁石の生産能力を4倍に、2034年には年4192トンを計画
テキサス州ノースレイクに建設を計画する第1工場は、現在も詳細設計の段階にある。同社が生産能力を4倍にすると説明する際の基準は、この工場が完成時に備える予定の年間1048トンというネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)磁石の製造能力だ。今回の構想では、サウスカロライナ州、ネバダ州、テキサス州に新たな工場を追加し、合計4工場で生産する体制を目指す。2026年6月の段階では追加施設の設計検討と拡張目標を示すにとどまっていたが、今回はPegasusTSIとBBA USAによる調査を終え、設備配置や原料の種類に応じた採算性を具体的に示した。
2034年の販売可能な製品・材料の年間生産量は、合計6000トンを見込んでいる。ただし、この数字には完成磁石だけでなく、磁石の製造に使用する合金粉末なども含まれる。10月26日の発表による内訳は以下の通りだ。
| 製品・材料 | 2034年の年間計画生産量 |
|---|---|
| 完成NdFeB磁石 | 4192トン |
| NdFeB合金粉末 | 1305トン |
| その他 | 503トン |
| 合計 | 6000トン |
完成磁石の4192トンは、第1工場の完成時能力である1048トンのちょうど4倍に相当する。一方、6000トンは完成磁石、合金粉末、その他の材料を合計した数字であり、そのすべてが完成磁石として出荷されるわけではない。また、いずれも2034年に向けた計画値であり、現在の生産実績を示したものではない。完成磁石の供給能力を評価するには、粉末などを含む総生産量と区別する必要がある。
新設する3工場では、最終加工前の焼結磁石ブロックを製造する計画だ。その後の切削加工や仕上げは、テキサス州の第2工場内に設ける集中拠点で担当し、品質保証や顧客認定に関する業務も同拠点へ集約する。つまり、集中仕上げ拠点は独立した5番目の工場ではなく、複数の製造工場から送られてくる磁石ブロックを顧客向け製品に仕上げるための施設となる。
この構成では、各工場で焼結ブロックの生産量を増やすだけでなく、集中拠点がそれらを滞りなく加工し、顧客の品質基準を満たす製品として出荷できるかが重要になる。製造工場の数が増えても、仕上げや品質認定の工程が追いつかなければ、完成磁石の供給能力は計画通りに拡大しない。集中化によってどの程度の費用を削減できるのか、顧客認定にどれほどの期間を要するのかについては、今回公表された数字だけでは判断できない。
廃磁石を水素で粉末に戻す「HPMS」、完成品までには複数の工程
HyProMag USAの事業を支える中核技術が、バーミンガム大学で開発されたHPMS(Hydrogen Processing of Magnet Scrap)と呼ばれる廃磁石の水素処理技術だ。NdFeB廃磁石に水素を作用させて磁石を崩壊・脱磁させ、合金を粉末として回収する。従来の製造工程で使用された磁石を、再び磁石の原料として利用できる状態に戻す技術であり、廃棄物から有用な材料を取り出す役割を担う。
ただし、HPMSによって合金粉末を回収できても、それだけで完成磁石が得られるわけではない。回収した粉末はさらに微細化し、成形したうえで焼結する必要がある。その後も、焼結ブロックの切削加工、表面の被覆処理、着磁といった工程が続く。顧客が指定する寸法精度や表面処理、磁気特性などの品質要件を満たして初めて、完成磁石として出荷できる。したがって、廃磁石から回収できる合金粉末の量と、最終的に販売できる完成磁石の量は、別々に評価しなければならない。
2034年の計画に完成磁石4192トンと合金粉末1305トンがそれぞれ計上されているのも、こうした製造工程の違いを反映している。合金粉末はそれ自体が販売可能な材料となる一方、購入した企業が完成磁石として利用するには、さらに加工が必要だ。総販売量が6000トンに達したとしても、それは6000トンの完成磁石を供給できることを意味しない。米国内にどの製造工程が整備されるのかを評価するうえでも、この区別は重要になる。
HPMSの商用化に向けては、英国ですでに先行施設が稼働を始めている。バーミンガム大学が2026年1月15日に発表した内容によると、英国Tyseleyに開設した磁石再生施設では、1バッチ当たり400kg以上の材料を回収できるという。処理能力は単一シフトで年間100トン、複数シフトで運転すれば年間300トン以上とされる。ただし、これらは設備の想定処理能力であり、実際に年間を通して生産した実績ではない。英国の施設はHPMSを工業規模へ展開する先行事例となるものの、米国で計画する4工場が同じように立ち上がることを保証するものではない。
今回の増産構想を実現するには、HPMSによる回収能力を拡大するだけでは不十分だ。使用済み磁石を安定して集める原料調達網と、回収粉末から顧客仕様の完成磁石を製造する加工設備の両方が必要になる。さらに、それぞれの工程を継続的に稼働させ、品質を維持できる体制を整えることが商用化の条件となる。
再生原料のみか、新規合金も使うか――PFSが示した採算性
今回のPFSでは、再生原料だけを使用する場合と、新規に製造された合金原料も併用できる設備を導入する場合の2案について、投資額と採算性を比較している。比較対象は、ノースレイクの第1工場を除く新設3工場と集中仕上げ拠点であり、4工場全体の投資額を示したものではない。公表された主要な試算結果は以下の通りだ。
| PFSの比較項目 | 再生原料のみ | 新規合金原料も併用 |
|---|---|---|
| 設備投資額 | 6億2300万ドル | 6億5600万ドル |
| 税引後正味現在価値(NPV) | 20億6200万ドル | 18億5400万ドル |
| 内部収益率(IRR) | 36% | 31% |
| 2030年の最初の拡張工場のAISC | 37.4ドル/kg | 41.6ドル/kg |
新規合金にも対応する設備を導入した場合、設備投資額は再生原料のみの案より3300万ドル増加する。一方、税引後NPVは2億800万ドル低くなり、IRRも36%から31%へ低下する。2030年の最初の拡張工場について示されたAISCも、再生原料のみの37.4ドル/kgに対し、併用案では41.6ドル/kgと高い。AISCは維持投資などを含めた総コストを表す指標であり、今回の試算では、新規合金への対応によって投資負担と単位当たりコストが増える結果となった。
それでも新規合金に対応する設備には、調達できる原料の選択肢を増やせるという利点がある。使用済み磁石から回収した材料だけでなく、新規に製造された合金も利用できれば、再生原料の供給量が不足した場合にも別の調達先を検討できる。ただし、両案の採算性の差がすべて原料調達の柔軟性によって生じたとは限らない。PFSは製品構成や販売価格などの前提条件を設定した事業モデルの比較であり、それぞれの条件が結果に影響している可能性がある。また、新規合金を利用できるからといって、原料をすべて中国以外から調達できることや、必要な調達契約が成立していることを意味するわけではない。
NPVは、将来得られると予想される収益や支出を現在価値に換算した指標であり、実際の利益や確定した受注額ではない。同社が公表した試算では、2026年を基準年とし、実質割引率7%、米国の連邦税率21%を採用している。州税は含まれておらず、連邦政府や州政府による支援、炭素価格に関連する収益も算入されていない。また、2030年の平均販売価格として100.5ドル/kgを想定しているが、これも将来の市場環境に基づく予測値だ。政府支援を織り込まない試算であっても、想定した販売価格や稼働率、製造コストが実際に達成されるかどうかは別の問題となる。
2027年の仕上げ工程から2028年の米国内一貫再生へ
HyProMag USAは、最初から米国内で廃磁石の回収・再生から完成品の製造までを一貫して行うのではなく、段階的に事業を立ち上げる方針だ。2026年7月に公表した計画では、まず2027年上期に輸入磁石ブロックの仕上げ設備を稼働させるとしている。この初期段階では、英国とドイツから最大20トンの磁石ブロックを受け入れ、米国内で加工・仕上げ工程の試運転を進める。米国内で回収した廃磁石を原料に使用する一貫再生は、その次の段階となる。
この方式なら、廃磁石の回収設備や再生工程が整う前に、完成磁石の加工・仕上げ設備を立ち上げることができる。一方、初期段階で使用する磁石ブロックは海外から輸入するため、米国内だけで回収から製造までを完結する供給体制にはならない。2027年の仕上げ工程の稼働と、2028年に予定する一貫再生の開始は、それぞれ異なる進捗として評価する必要がある。
2026年7月時点では、一貫再生の開始目標は2028年第2四半期とされていたが、10月の発表では2028年半ばという表現に変わっている。稼働初期の年間生産能力は、完成磁石400トンと副産物278トンを合わせた678トンを見込む。そこから段階的に能力を拡大する計画であり、ノースレイク第1工場が完成時に備える予定の年間1048トンを、稼働開始直後から生産できるわけではない。工場の完成、設備の試運転、安定した量産への移行は、それぞれ別の段階となる。
原料調達に向けた設備の整備も進められている。HyProMag USAは2026年10月の発表で、3台目となるInserma製のハードディスクドライブ(HDD)分離装置を移動式設備として配備したと明らかにした。従来のようにHDDを固定設備へ運び込むだけでなく、顧客の施設に装置を持ち込んで処理できるようにする取り組みだ。回収したプリント基板の販売収入によって、磁石を含む原料の取得費用や保管費用の一部を相殺できるという。
同社は、すでに契約済みまたは保管中の原料が、初期の試運転と生産立ち上げを支えると見込んでいる。ただし、これは2034年に計画する4工場の操業に必要な原料をすべて確保したことを意味しない。事業の規模が拡大するにつれて、廃磁石の回収量を増やし、継続的に供給を受けられる契約を整える必要がある。原料の量だけでなく、安定した品質の材料を確保できるかどうかも重要になる。
一方、先行するノースレイク第1工場の事業計画にも変化が生じている。2026年6月の発表では設備投資額を1億5200万ドルとしていたが、10月には1億6700万ドルへ増加した。予測価格などに基づくNPVも7億9700万ドルから7億2300万ドルへ低下している。同社は、工期の後退と建設コスト・操業条件に関する前提の見直しを理由に挙げている。6月には金融機関との資金調達協議を進めていると説明していたものの、資金調達が完了したことを示す発表ではなかった。
今後、まず注目されるのは、2027年上期に予定される仕上げ設備の試運転と、顧客の品質認定取得に向けた進捗だ。その後、必要な原料調達契約と資金を確保し、2028年に米国内で回収した廃磁石から完成磁石を製造する一貫再生体制へ移行できるかが焦点となる。2034年の年間4192トンという目標を実現するには、回収原料の供給、各工場の製造能力、集中仕上げ拠点の処理能力、顧客認定を伴う出荷体制のすべてを整えなければならない。今回のPFSは大規模な増産構想の採算性を示したものだが、実際に米国内のレアアース磁石供給能力を拡大できるかどうかは、これからの設備立ち上げと商用生産の実績によって判断されることになる。



