2026年3月4日、サンフランシスコで開催されたMorgan Stanley Technology, Media & Telecom Conference。壇上に立ったIntelのCFO、David Zinsner氏はCEO Lip-Bu Tan氏の名前を口にしながら、静かではあるが重大な事実を明かした。「18Aを外部顧客に提供する好ノードとして、Lip-Buも認識し始めている」:昨年の戦略方針から踏み込んだ、この一言が市場を動かした。Intelの株価は同日、約6%上昇した。

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「内部専用」から「外部販売も視野」へ:何が変わったのか

そもそも18Aとは、前CEO Pat Gelsinger氏が巨額投資を注ぎ込んだ最先端のトランジスタ製造プロセスである。ゲート長にして約1.8ナノメートル相当とされ、EUVリソグラフィと「RibbonFET」と呼ばれる新世代トランジスタ構造を組み合わせた、Intelの技術的な賭けとも言えるノードだ。

Lip-Bu Tan氏が2025年にCEOに就任した当初、彼は18Aについて懐疑的な姿勢を見せた。「合理的なリターンが見込めるのは、自社製品に使う場合のみ」というのが当時の立場であり、外部のファウンドリ顧客に向けては次世代の14Aを主軸に据える方針を打ち出していた。18Aはあくまでも社内向け、そういう位置づけだった。

その方針が、今回の発言で揺らいだ。Zinsner氏は「18A-Pへのインバウンドの関心が入ってきている」と述べており、顧客側からアプローチがあったことを示唆している。外部需要が先に動き、Tanの認識がそれに追いついた形だ。

背景にあるのは、18Aの歩留まり(ウェハーあたりの良品チップ数)が着実に改善されているという事実である。Zinsner氏は「パートナーに大量のデータを開示したことが、歩留まり改善の主因だった」と語った。従来のIntelは自社ノウハウを囲い込む文化が強く、製造パートナーに渡す情報量が限られていた。Tan氏はその壁を取り払い、製造プロセスの「見える化」を推進した。この方針転換が実を結びつつある。

もっとも、Reutersの報道によれば、現時点でも18Aで製造されたチップのうち、顧客に出荷できる品質のものは「わずかな割合」にとどまるとされる。歩留まりの改善は月次で進んでいるとIntelは主張しているが、低歩留まりはマージン(利益率)を直撃する問題でもあり、この数字が商業的な採算分岐点を左右する。

18A-Pという変数:AppleとNVIDIAの存在

Zinsner氏が言及した「18A-P」は、標準的な18Aから派生した派生プロセスであり、顧客が電力効率や性能パラメータを一定範囲でカスタマイズできる点が特徴とされる。これは、独自SoC設計を追求するAppleのようなファブレス大手にとって、魅力的な仕様だ。

報道によれば、AppleがM系列SoC向けに18A-Pを採用する可能性があるとされ、NVIDIAもテストを進めているとの観測がある。ただし、これらはいずれも現時点では確定した受注ではなく、「エンゲージメント(協議中)」の段階だ。Zinsner氏の発言も「インバウンドの関心が入っている」という表現にとどまっており、契約締結を示唆するものではない。

それでも、顧客の属性は注目に値する。AppleとNVIDIAというテクノロジー業界を代表する2社が、同時期にIntel 18A系のプロセスに関心を示しているという構図は、TSMC一強体制への依存リスクを分散させたい大手ファブレス各社の戦略的思惑と、Intelのファウンドリ事業の可能性が交差する点を示している。TSMC N2やSamsung SF2との競合という視点だけでなく、地政学的なサプライチェーンの多様化という需要側の文脈も読み取れる。

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14Aの位置づけは変わらず、ただし「2027年リスク生産」が使える

18A外販の可能性が浮上したからといって、14Aの戦略的優先度が下がったわけではない。Zinsner氏はカンファレンスで14Aのロードマップを明確に再確認した。

現在の計画では、14Aはリスク生産(歩留まりが安定しない段階での限定的な製造)を2027年に開始し、ボリューム生産(本格量産)は2029年を目標とする。市場には「2028年にずれ込む」という観測もあったが、Zinsner氏はWccftechの取材に対して「それはコールでの混乱だった。今でも2027年リスク生産、2029年量産という計画は変わっていない」と明言した。

興味深いのは、「顧客が同じタイムラインを望むなら、2027年にリスク生産に入ることはできる」という発言だ。内部需要を軸にしながらも、外部顧客の要求次第では前倒しも可能だという柔軟性を示している。年末までには14AのPDK(プロセス設計キット)がある程度の成熟度に達し、顧客が「採用するかどうか」の判断を下せる段階になる見通しだという。

ただし、Intelが14Aへの設備投資に「慎重」な立場を維持していることは明記しておく必要がある。Zinsnerは「顧客のエンゲージメントと内部需要を見極めてからCapExを投入する」と繰り返した。前体制のGelsinger時代に、需要の裏付けが取れないまま大規模投資を進めた失敗の轍を踏まない、という経営判断である。

EMIB:「数百万ドル」から「数十億ドル」へ引き上げられた見通し

今回の発言の中で、ある意味もっとも具体性が高く、かつ市場インパクトが大きかったのは、先端パッケージング事業に関するZinsner氏の発言かもしれない。

IntelのEMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)は、異なる製造プロセスで作られた複数の半導体チップを2.5次元的に高密度で接続するパッケージング技術だ。TSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)に相当する技術であり、AI向け大規模チップの製造において急速に重要性が増している領域でもある。

ZDNet Koreaの報道によれば、2025年9月時点でEMIB技術を用いた半導体の出荷数は2,000万個以上に達しているが、その大半はIntel自社製品に適用されてきた。この状況が変わろうとしている。

Zinsner氏は「EMIB、EMIB-Tのパッケージング顧客について、年間数十億ドル規模の取引を締結しつつある」と述べた。そして当初は「数百万ドル規模」として投資家に説明していたこの事業の見通しを、「数十億ドル規模」に引き上げたと明言した。「近くクローズできそうな案件があり、それが年間数十億ドル単位の収益になる」という表現は、かなり具体的な進捗を示唆している。

具体的な顧客名としては、Apple、NVIDIA、Qualcommとの協議が進んでいるとされる。なかでも注目を集めているのはNVIDIAで、台湾のサプライチェーン筋からは、次世代GPU「Feynman」の製造においてIntelのEMIB技術が採用される可能性が浮上している。GTC 2026での発表があるかどうか、業界の視線が集まっている。

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ファウンドリ損益分岐点:2027年という目標の現実味

今回の一連の発言を統合すると、Intelが描いているファウンドリ事業の収益モデルが見えてくる。

現状、Intel Foundry部門は赤字が続いており、その状況を変えるためのカギが複数の収益源の同時立ち上げである。18A自社製品(Panther Lake等)による歩留まりとマージンの改善、18A-P外部顧客の獲得、EMIBパッケージングの大型契約化、そして中期的には14Aの外部顧客——これらが組み合わさることで、2027年のファウンドリ部門の収支トントン(損益分岐点到達)という目標に現実味が出てくる。

Zinsner氏が「今やこの目標は以前よりはるかにリアルに見える」と述べた背景には、Panther Lakeの供給不足という好問題がある。「Panther Lakeは、特にバッテリー駆動時間の面で高い評価を受けている。供給よりも需要が上回っている状態だ」という発言は、18Aで量産した製品が市場で実際に機能していることの証拠でもある。

ただし、Intelは「リスクと機会が混在している」という慎重な姿勢も崩していない。サプライチェーンにおけるメモリ不足、基板(サブストレート)不足、T-ガラスの供給制約が年内を通じて続く見通しであり、Q1 2026が出荷面でもっとも苦しい時期になるとZinsnerは述べた。製造設備の稼働率が100%を超えているにもかかわらず、供給制約で機会損失が生じている状況だ。

「情報開示」という経営改革の本質

Lip-Bu Tanがこの1年で実行した変革の中で、見落とされがちだが重要なものがある。それは社外パートナーへのデータ開示の拡大だ。

Intelはかつて、製造プロセスに関するデータを徹底的に囲い込む文化を持っていた。企業秘密の保護という観点から理解できる判断ではあるが、それはEDAツールベンダーや材料メーカーといった製造エコシステムのパートナーが、Intelのプロセス改善に本当の意味で貢献できないことを意味していた。Tan氏はこの壁を取り払い、「パートナーにデータを渡した結果、18Aの歩留まりが意味のある形で改善し始めた」とZinsner氏は言う。

これはファウンドリビジネスの本質に直結する変化だ。TSMCが長年にわたって構築してきた強みの一つは、世界中のEDAベンダー、材料企業、設計ツール企業との密なエコシステムにある。Intelがファウンドリとして外部顧客を取り込もうとするなら、同様のオープンなエコシステムを構築しなければならない。その方向への第一歩が、すでに歩留まりという形で数字に現れ始めている。

地政学リスクと安全保障の影

もっとも、明るい見通しと並走する形で、別の問題も浮上している。Reutersは同じ時期に、中国と深い関係を持つ半導体製造装置メーカーACM Researchの検査ツールをIntelが使用していることに対し、米国議会の超党派グループが国家安全保障上の懸念を表明したと報じている。ACMの海外子会社2社は米国の制裁対象となっている。

これに対してIntelは「ACMのツールは半導体製造プロセスに使用していない」との声明を出しているが、米中デカップリングが加速する中で、Intelのサプライチェーンに対する政治的なスクリーニングは今後も続くとみるべきだ。ファウンドリビジネスにおける外部顧客の獲得には、技術力と歩留まりだけでなく、地政学的な信頼性も評価軸になる時代に入っている。

18Aの外部販売という新たな選択肢の浮上、EMIBによる数十億ドル規模の受注見通し、そして14Aのロードマップ維持——これらは一つひとつが単独のニュースではなく、Intelがファウンドリとして再出発するための戦略的なパズルのピースだ。Lip-Bu Tanが静かに進める「実需確認先行・投資後追い」という経営哲学が、数字という形で現れ始めるのが2026年下半期になるかどうか。業界全体がその答えを待っている。


Sources