2026年2月、IntelのCEOであるLip-Bu Tan氏は、Cisco AI Summitの壇上で、同社の将来を決定づける極めて重要な戦略を発表した。長年NVIDIAが支配してきたグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)市場に本格的に参入し、自社工場(ファウンドリ)での製造を含めた垂直統合モデルによって、AIおよびゲーミング市場の勢力図を塗り替えるという宣言だ。

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伝説の設計者の招聘:Eric Demersがもたらす技術的転換点

Intelの本気度を最も端的に示しているのが、2026年1月にChief GPU Architectとして招聘されたEric Demers氏の存在である。

Eric Demersという名は、GPU業界の歴史に刻まれている。かつてATI Technologies(現AMD)において、NVIDIAを技術的に圧倒した伝説的なビデオカード「Radeon 9700 Pro」の開発を主導した人物だ。その後、Qualcommへ移籍し、モバイルGPUの代名詞となった「Adreno」シリーズ(Radeonのアナグラムであることは有名だ)を成功へと導いた実績を持つ。

IntelのCEOであるLip-Bu Tan氏は、Eric Demersの採用にあたり「多大な説得を要した」と語っている。Tanは、現代のワークロードにおいてCPU(Xeon)のみに固執する時代は終わったと断言し、GPUの重要性を説いた。この人事により、IntelのGPU開発チームはKevork Kechichian副社長の下で再編され、顧客のニーズを起点とした新たなロードマップの構築に乗り出している。

自社ファウンドリによる「GPU製造」のパラダイムシフト

IntelのGPU戦略がNVIDIAやAMDのそれと決定的に異なる点は、自社のファウンドリ部門を活用し、最先端プロセスによる内製化を目指していることにある。

Lip-Bu Tanは、将来のIntel製GPUを自社の工場で製造することを明言した。具体的には、次世代プロセスノードである「14A」への注力を強調しており、このプロセスを用いたPDK(プロセス設計キット)の外部顧客向け提供も間近に控えている。

現在、NVIDIAやAMDなどの主要プレイヤーは、その製造の大部分をTSMC(台湾積体電路製造)に依存している。世界的なサプライチェーンの脆弱性がリスクとなる中で、設計から製造までを米国国内を含む自社拠点で完結できるIntelのモデルは、地政学的な優位性のみならず、設計とプロセスの最適化を極限まで突き詰められるという技術的メリットをもたらす。

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消費者向け市場の展望:BattlemageからCelestialへ

ゲーマーやクリエイターが注目するコンシューマー向けディスクリートGPU市場においても、Intelは着実な歩みを見せている。

2024年末に投入された「Battlemage」世代のSKUに続き、2026年のComputexでは新たな主力モデルとなる「Arc B770」の発表が期待されている。さらに、リーク情報によれば、32GBという大容量VRAMを搭載したプロフェッショナル向けモデル「Arc Pro B70」の登場も示唆されている。

また、モバイル市場においては、Panther Lake世代に搭載される「Xe3 Celestial」アーキテクチャのiGPUが、AMDのStrix Haloに匹敵するパフォーマンスを発揮するというデータも出始めており、Intelの内蔵グラフィックスが、エントリークラスのディスクリートGPUを不要にする可能性すら現実味を帯びている。

データセンターとAI:Jaguar ShoresとCrescent Island

Intelが最も大きな機会を見出しているのは、AIトレーニングおよび推論の市場である。

現在、AIアクセラレータのロードマップには、以下の2つの重要な柱が存在する。

  • Crescent Island: 推論に特化したGPUであり、高い電力効率とスループットを両立させることを目的としている。
  • Jaguar Shores: 次世代のAIトレーニングを担うフラッグシップモデル。NvidiaのBlackwellやAMDのInstinctシリーズに対する直接的な対抗馬となる。

Lip-Bu Tanは、x86アーキテクチャ(Xeon)へのこだわりを捨て、RISC-Vを含む柔軟なエコシステムの採用にも前向きな姿勢を見せている。これは、顧客が求めるワークロードに対して、最適な計算資源を柔軟に提供するというプラットフォーム企業への変貌を意味している。

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競合他社への影響と市場の再編

NVIDIAが圧倒的なシェアを誇る中、Intelの参入は市場に健全な競争をもたらすことが期待される。NVIDIAのGPUは非常に高度で人気があるが、供給不足や高価格化が課題となっている。Intelが自社ファウンドリによる供給能力を背景に、高いコストパフォーマンスとTCO(総保有コスト)の最適化を実現できれば、特に大規模な計算資源を必要とするクラウドプロバイダーや企業にとって、有力な代替選択肢となるだろう。

ただし、Intelにとっての課題は、単なるハードウェアの性能だけではない。Nvidiaの牙城を崩すには、CUDAに匹敵する強力なソフトウェアエコシステム(oneAPIなど)の成熟と、開発者コミュニティからの支持が不可欠である。Eric Demersのような経験豊富なリーダーシップが、このソフトウェアとハードウェアの統合をいかに進めるかが、今後の成功の鍵を握ることになる。

シリコンの覇権を賭けた第2幕

IntelがGPU事業を撤退するという噂は、もはや過去のものとなった。Lip-Bu Tanの下で、Intelは自らを「設計と製造を両輪とする総合半導体企業」として再定義し、その中心にGPUを据えたのである。

かつてCPUで世界を支配した巨人は、AIという新たな戦場で、GPUという「最も人気のあるチップ」を武器に、再び頂点を目指す準備を整えた。2026年は、Intelが「NVIDIAの背中を追う者」から、「市場をリードする供給者」へと転換を図る、極めて重要な1年になるだろう。


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