Intelの決算を巡る数字は一見すると矛盾している。売上高は前年比25%増と15年以上ぶりの伸びを記録し、営業利益も1年前の赤字から黒字へ転換した。それにもかかわらず、最終損益は110億3300万ドルの純損失で、前年同期の赤字幅からさらに3倍以上に拡大した。この落差を生んだのは事業の失速ではなく、2025年8月の米商務省への出資に伴うエスクロー株式の会計処理にある。株価が上がるほど、Intelの帳簿上の損失は膨らむ仕組みで、その裏側では米政府が保有する株式の含み益も同時に膨らんでいる。

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増収25%でも純損失110億ドル、Intel決算の逆説

Intelが2026年7月23日に発表した2026年第2四半期決算は、売上高161億ドルで前年同期比25%増となった。この伸び率は同社にとって15年以上ぶりの高水準だ。GAAP基準(米国会計基準)の営業利益は17億9600万ドルで、前年同期の31億7600万ドルの営業損失から黒字に転換した。粗利益率もGAAP基準で40.4%と、前年同期から12.9ポイント改善した。

ところが最終損益はGAAP純損失110億3300万ドル、1株当たり損失(EPS)は2.16ドルとなった。前年同期の純損失29億1800万ドルと比べても、赤字幅は3倍以上に拡大している。この差を生んだ最大の要因は、米商務省への出資に伴うエスクロー株式の時価評価損125億2900万ドルだ。営業利益ベースでは黒字化していながら、この一項目だけで純損失110億ドルという結果になった。

一方、特別項目を除いた非GAAP基準の1株当たり利益は0.42ドルで、アナリスト予想の0.21〜0.22ドルからほぼ倍増した。GAAP純損益は2025年10〜12月期の5億9100万ドルの赤字を皮切りに、2026年1〜3月期は37億2800万ドルの赤字、4〜6月期は110億3300万ドルの赤字と、これで3四半期連続の赤字になる。ただし赤字の中身は四半期ごとに異なる。1〜3月期はMobileye事業ののれん減損を含む40億7000万ドルの構造改革関連費用が主因だったのに対し、4〜6月期はエスクロー株式の評価損という非現金項目が中心だ。後述するように、データセンター向けAI事業や製造受託事業、クライアント事業の3部門がそれぞれ増収か黒字を確保しており、本業の立て直しは幅広く進んでいる。

エスクロー株式の評価損はなぜ生まれるのか、2025年8月の米政府出資に潜む仕組み

Intelの決算資料は、純損失の主因を「エスクロー株式の時価評価損」と説明している。エスクロー株式とは、米商務省との契約に基づきIntelがいったん保管し、一定の条件を満たすたびに順次同省へ引き渡していく自社株式のことだ。会計上、Intelはこの引き渡し義務を負債として時価で評価し直す必要があり、Intel株の株価が上がるほど引き渡す株式の価値が膨らんで負債評価額も増え、その増加分がそのまま費用として計上される仕組みになっている。

経緯はこうだ。2025年8月、米商務省は半導体産業向け補助金を定めた米CHIPS法の未払い助成金57億ドルと、国防関連半導体の国内確保を目的とするSecure Enclaveプログラムの32億ドルを原資に、Intel株式への出資に合意した。このうちCHIPS法分は2億7458万3000株(1株20.74ドル)として直接交付済みだ。

一方Secure Enclave分は1億5874万株(1株20.00ドル)がエスクロー口座に留め置かれ、Intelが現金を受け取るたびに順次同省へ引き渡す仕組みになっており、2026年6月27日時点でも約1億4300万株が未引き渡しのまま残る。この未引き渡し分を含むエスクロー株式全体が、四半期ごとの時価評価の対象になる。なお同時に、Intelがファウンドリ事業の過半保有を手放した場合にのみ行使可能な最大2億4051万6150株分のワラート(行使価格20ドル)も別途発行されているが、現時点では行使条件を満たしていない。

Intel株は2026年7月のQ2決算発表前の時点で、2025年末の終値36.90ドルから100.23ドルへと年初来171.6%上昇していた。この株価上昇によってエスクロー株式の評価額が膨らみ、4〜6月期だけで125億2900万ドルの評価損として計上されている。

同じ株価上昇は、米政府がすでに直接交付を受けている2億7458万3000株の価値も押し上げている。取得コスト(1株20.74ドル、約57億ドル)を基準に2026年7月23日終値100.23ドルで評価すると、保有株式の評価額は約275億ドル、含み益は約218億ドルに達する計算になる。エスクロー株式の評価損と、米政府がすでに保有する持ち分の含み益は会計上は別々の項目だが、どちらも同じIntel株の値上がりが生んだ結果である点は変わらない。

この評価損はキャッシュの動きを伴わない点も見逃せない。エスクロー株式の時価が上がっても、Intelから米商務省へ現金が流出するわけではない。将来引き渡す株式の理論価値が膨らんだ分を、会計ルールに従って費用計上しているに過ぎない。裏を返せば、Intel株が下落すればエスクロー株式の評価額も下がり、次の四半期には評価益として計上に転じる余地がある。

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好調なDCAI、縮小するFoundry赤字、CCPGへ改称されたクライアント事業

セグメント 売上高 前年比 営業損益
DCAI(データセンターとAI) 62.6億ドル 59% 24.7億ドルの黒字
Intel Foundry 57.7億ドル 31% 20.9億ドルの赤字(Q1は24億ドルの赤字)
CCPG(旧CCG) 88.8億ドル 23.4億ドルの黒字

DCAI(データセンターとAI事業)の売上高は前年比59%増の62.6億ドルとなり、1〜3月期の前年比22%増から大きく加速した。AI関連のサーバー需要が主導役だ。Tan氏(CEO)は決算資料で「AIが前例のない計算需要を牽引しており、IntelはCPU(中央演算処理装置)製品ラインアップやASIC(特定用途向け集積回路)、先進パッケージング、ウェーハファウンドリ網を通じて持続的な成長を実現できる立場にある」と述べている。

Intel Foundryセグメント全体では57.7億ドルの売上に対して、20.9億ドルの営業損失を計上した。売上の中心は依然として社内向けだが、赤字幅は1〜3月期の24億ドルの損失から13%程度縮小している。

CCPG(旧CCG、Client Computing and Physical AI Group)は、クライアント向けCPU事業を軸に売上高88.8億ドル、営業利益23.4億ドルを計上した。名称がCCG(Client Computing Group)からCCPGへ変わったのは、ロボティクスや物理AIの領域を事業に組み込む狙いを示すサインだ。3事業の中では最も安定した収益源で、DCAIやFoundryの変動を支える屋台骨の役割を担っている。この改称は、Lip-Bu Tan氏がCEO就任後に進めてきた事業再編の一環でもある。クライアント向けCPU一本足の事業構成から脱し、ロボティクスや物理AI向けの新しい需要を取り込む布石を、名称変更という形で先に示した格好だ。

14A外部顧客2社の行方と、8万2300人体制で伸びた収益力

製造面では、Intel Foundryが次世代プロセス「Intel 18A-P」のリスク生産(量産直前の試験生産)へ移行した。これとは別に、通常のIntel 18Aで製造する新型データセンター向けCPU「Xeon 6+」(開発コード名Clearwater Forest)も投入しており、Intel 18A世代として初のサーバー向け製品と位置づけている。Zinsner氏(CFO)は「工場の歩留まり向上とサイクルタイム短縮が数量面の上振れを牽引した」とし、AI主導の需要拡大に対応するため装置やクリーンルーム、基板への投資を大幅に増やす方針を示した。

さらに先の「Intel 14A」については、2026年1月時点で外部の見込み顧客2社が早期のPDK(プロセス設計キット、チップ設計に必要な標準データ一式)評価を進めていると説明されており、Q2の決算資料でもPDKの完成度を高めながら外部顧客との協議を進めている状況が示されている。顧客による初期の設計コミットメントの有無は、2026年後半から2027年前半にかけて判明する見通しだ。そこから正式な量産投資判断に進むかどうかで、Intel Foundryの外部売上の規模が大きく変わる。

人員面では、従業員数が8万2300人となり、前年同期の10万1400人から約19%減った。この減少にはAltera株式51%売却に伴う連結除外分(約3000人)も含まれるが、大半はTan氏がCEOに就任した2025年3月以降に進めてきた人員削減の結果だ。売上高161億ドルを従業員数8万2300人で割ると、1人当たりの売上高は約19万6000ドルになる。前年同期の売上高は約128億8000万ドル(前年比25%増という伸び率から逆算した値)で、当時の従業員10万1400人で割ると1人当たり約12万7000ドルだったから、54%の増加になる計算だ。

人員削減は今回の四半期に限った動きではない。2022年時点で13万2000人程度いた従業員数は、その後の複数回のリストラを経て8万人台まで減少してきた。Tan氏体制はこの流れを引き継ぎ、加速させている段階にある。

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Q3ガイダンスと株価の乱高下、決算資料が語らなかったこと

Intelが示した2026年7〜9月期(Q3)の会社側見通しは、売上高158億168億ドル、GAAP基準のEPSが0.31ドル、非GAAP基準では0.38ドルとなる。この水準が実現すれば、4〜6月期に続いて本業の回復基調が続くことになる。株式市場の反応は乱高下した。決算発表直後の時間外取引でIntel株は一時12〜13%上昇したが、翌朝の取引ではその上昇分の半分以上を失った。決算発表前の時点でIntel株はすでに年初来171.6%上昇しており、好材料の多くは株価に織り込まれていた可能性がある。

日本の読者にとっての接点は円換算した金額にある。純損失110億3300万ドルは、2026年7月23日時点の為替レート(1ドル=163円)で換算すると約1兆8000億円にのぼる。Intel Foundryが18Aや14A向けの設備投資を拡大すれば、東京エレクトロンなど国内の半導体製造装置メーカーが恩恵を受ける可能性もある。

決算資料には、Intel 14Aの外部見込み顧客2社の社名や量産投資の具体的な時期の記載がない。エスクロー株式の評価損についても、株価下落時に評価益へ転じうる裏返しのリスクには触れていない。この2点は、次の四半期以降に投資家が独自に追う必要がある。

14Aの外部顧客獲得が実現し、エスクロー株式の評価損が株価の反転で縮小に向かえば、IntelはGAAPと非GAAPの数字がねじれて見える四半期から抜け出すことになる。それまでは、増収と営業黒字という本業の実力と、政府出資に伴う会計上の赤字という見た目が、当面併存することになる。