台湾の国立清華大学(NTHU)が、米Multibeamの第2世代マルチカラム電子ビームリソグラフィ装置「MBX」を発注した。装置は2027年に出荷される予定で、半導体研究学院の新施設で学術研究と台湾半導体メーカーとの共同開発に使う計画だ。狙いは、最先端ロジックのトランジスタ層を露光するEUV装置との置き換えではない。マスクを作らず、設計データから配線パターンを直接描く能力を、先進パッケージや多品種の試作へ持ち込むことである。
2024年の200mm装置から、台湾の第2世代MBXへ
Multibeamが台湾で装置を受注するのは初めてだ。発表によると、NTHUは評価を経てMBXを選び、チップを先に配置する工程と配線層を先に形成する工程の双方、大判インターポーザーなどを研究対象にする。高密度なチップ間配線を直接描き、異なる機能のダイを一つのパッケージへ組み込む製造法を探る。共同開発に参加する台湾企業の名前や契約条件は明かしていない。
今回の受注は、Multibeamにとって製品世代をまたぐ節目でもある。同社の最初の量産向けMEBL装置は2024年7月、米SkyWater Technologyのミネソタ州200mm工場へ納入された。SkyWaterは初期試作から短納期生産までを用途に挙げ、2024年第4四半期から顧客設計への開放を予定していた。Multibeamは2025年9月になると、次世代300mm装置の開発が進んでいると公表した。現在はMBX-300を第2世代として販売しているが、NTHU向け装置の詳しい構成は非公表である。
受け入れ先のNTHU半導体研究学院は、2021年に台湾教育部から設置計画の承認を受けた。初代院長は、TSMCで液浸露光の開発を率いた林本堅(Burn J. Lin)氏だ。設立時にはTSMC、Micron、Tokyo Electronなどが年間計1億3,000万台湾ドル超を拠出し、修士約80人、博士約20人を毎年受け入れる計画を掲げた。今回のMBXは教室用の実習装置というより、大学で工程を試し、企業との共同開発へつなぐための設備として導入される。
1本ずつ描く弱点を、複数カラムの並列動作で崩す
電子ビームリソグラフィは、微細な電子線でレジストを露光する。フォトマスクが要らず、設計を変更すれば次のウエハーから別のパターンを描ける。しかし従来の単一ビーム方式は、広い面積を順番に走査するため遅い。学術文献でも、直接描画型EBLが量産へ広がらなかった中心的な理由として処理速度が指摘されてきた。
MBXは小型の電子ビームカラムを複数並べ、それぞれを独立させたまま並列に動かす。Multibeamの説明では、GDSII、OASIS、MULTIGONの設計データを装置内で処理し、各カラムへ高速に送る。高い電流を1本のビームへ集中させず、複数の描画点を同時に動かすことで、電子線の精度と総処理量を両立させる考え方だ。
同社が現行製品に示す主な仕様は次の通りである。いずれも装置構成や描画条件に左右されるメーカー公称値だ。
| 項目 | 公表仕様 | 読み取れる範囲 |
|---|---|---|
| 対応基板 | 150/200/300mmウエハー、310mmパネル | 研究用の小径から量産標準径、パネルまで構成を選べる |
| 最小寸法 | 孤立30nm、密集50nm | 装置の描画寸法であり、半導体のプロセスノードではない |
| 通常処理速度 | 描画チャンバー当たり毎時1〜2枚 | パターン密度などで変動する |
| 加速電圧 | 5kV | 同社は速度と基板損傷の抑制に利点があると説明する |
| 焦点深度 | 10µm | 凹凸や反りを持つ基板を扱いやすい |
| 対応する段差 | 100µm超 | 再構成ウエハーなどを想定する |
毎時25枚という別の数値も公表されているが、これは小さな固有IDを書き込むSecure Chip ID用途の上限である。一般的な全面描画の数字ではない。また「光学露光より100倍超速く最初のパターンへ到達する」との訴求は、マスク製作を省いた開発着手までの時間を比べたものだ。ウエハーの露光速度が光学装置の100倍になるという意味ではない。
先進パッケージでは、固定マスクより補正できる配線が効く
先進パッケージでは、複数のチップを配置した後、その上に再配線層を形成してチップ同士をつなぐ。ところがダイは実装や樹脂封止の工程で設計位置からずれ、再構成ウエハーも反る。固定したマスクで同じ配線を全体へ転写すると、実物の電極位置と配線が合わないチップが生じ得る。
直接描画なら、実測したチップ位置に合わせて配線データを変えられる。Multibeamは、インターポーザー上のチップ間オフセットや欠陥を補うパターン調整と、ウエハー上のチップごとに異なる描画を製品機能として掲げる。NTHUが計画するチップファースト、チップラストの両工程では、固定マスクを作り直す前に複数の補正案を同じウエハーで比べられる。
大判インターポーザーにも相性がある。光学露光では一度に転写できる領域がレチクルの大きさに制約され、広い回路は複数の露光領域をつなぐ必要がある。MBXは最大でウエハー全面を描画領域にでき、直線に加えて曲線や放射状のパターンも扱う。チップ間を短い高密度配線で結びたい場合、マスクの固定パターンと露光領域の制約を外せることが価値になる。
ただし、設計自由度は量産性を保証しない。まずチップ位置を測り、補正データを生成する。その後にレジストを露光・現像し、検査までを一つの工程として安定させる必要がある。描画寸法が細くても、欠陥密度や重ね合わせ誤差が大きければ高密度配線の歩留まりは上がらない。大学と企業が共同で確かめるべき部分は、まさにこの工程統合である。
受注を量産実績へ変えるには何を測るべきか
NTHU向けMBXは、2026年7月時点では受注段階にある。価格とカラム数、描画チャンバー数は公表されていない。使用するレジストや共同開発先も不明だ。30nmの孤立パターンや毎時1〜2枚という仕様も、NTHUの先進パッケージ工程で達成した実測値ではない。
先行するSkyWater向けの初代量産装置は、200mm工場へ2024年に設置された。一方、NTHUは研究施設に第2世代装置を置く計画で、台湾メーカーへ工程を移す前の評価拠点を担う。試作の速さを示すデモだけでは足りない。長時間稼働時の安定性に加え、チップ位置を補正した後の重ね合わせ精度と欠陥密度を測る必要がある。実際のレジストでの処理速度や、マスク費用を含む層当たりコストも量産判断を左右する。
2027年の出荷後に設置と検収を終え、同じ装置で試作から共同開発までを回して補正配線を再現よく形成できれば、MBXは大学の研究設備から台湾の先進パッケージ工程へ進む足場を得る。反対に、評価結果や企業への工程移管が示されなければ、今回の発表は台湾初受注という商業上の節目に留まる。装置の価値は最小線幅ではなく、設計変更から検証済みウエハーまでの時間と、その工程を何回同じ品質で繰り返せるかによって決まる。
