中国のディスプレイ・カバーガラス企業が、AI半導体のパッケージ基板へ踏み込んでいる。IntelとLens Technologyは2026年7月24日、ガラス基板を使う先端パッケージの戦略協業を発表した。BOEも同年上期、設計能力を月1,000枚とするパネルレベルのガラスコア基板試験線で、全自動化設備を通線している。
ただし、両社が量産を始めたわけではない。Lensの開示は、工程検証、認定、量産を別契約に委ねる1年間の覚書である。BOEの月1,000枚も試験線の設計値で、同社は量産歩留まりと量産売上が未達だと明記した。台湾で開発が進むTSMCのCoPoSも、工程用ガラスキャリアを使いうるパネルレベルパッケージングであり、最終製品に残るガラスコア基板と同じものではない。
一連の動きを一つの「ガラス基板争奪戦」として数えると、製品も時間軸も見誤る。実際に始まったのは、ガラス材料そのものの競争よりも、微細な穴を開け、銅で満たし、多層配線を形成し、大面積のまま反りと位置ずれを抑える製造工程の競争である。
Lensの覚書が定めたのはTGV工程協業の検討範囲
Intelの発表は、Lensの精密ガラス加工、高精度レーザー、大規模生産能力と、Intelの半導体設計・先端パッケージ技術を組み合わせるとしている。対象はAI、データセンター、特定用途コンピューティング向けで、狙いは接続密度を上げ、電力効率を高めるガラス基板パッケージの開発だ。
Lensの会社開示まで読むと、協業の粒度はさらに細かい。重点分野はTGVで、両社が検討・評価するのは、ガラス基板への穿孔、高精度レーザー加工、金属化した貫通孔の形成、多層相互配線である。Intelは説明用のアーキテクチャ情報、製造容易化設計(DFM)の指針、ベンチマークと検証方法を提供する。
これは、IntelがLensへ量産を発注したという内容ではない。工程検証、製品認定、量産活動には個別の書面契約が必要で、今回の覚書は秘密保持や知的財産などを除けば取引や商業成果を約束しない。有効期間も署名から1年である。
LensはTGV関連の試験線をすでに持ち、サンプルを一部の潜在顧客へ送っている。一部は初期の概念実証を通過し、技術試験へ進んだという。それでもTGV事業は現時点で業績に実質的な影響を与えていない。量産の時期、能力、顧客は開示されていない。
技術的な期待は大きい。Intelは2023年、自社のガラス基板について、有機基板よりパターン歪みを50%減らし、接続密度を最大10倍にできる可能性を示した。10年以上の研究を経て、2020年代後半の市場投入と、2030年までに1パッケージへ1兆トランジスタを収める目標を掲げている。もっとも、これらはIntelの技術ロードマップであり、Lensとの共同サンプルで測定された性能ではない。
BOEの月産1,000枚は「量産能力」ではなく試験線の設計値
BOEの進み方は、Lensより設備投資の履歴が見えやすい。同社は2020年にガラスコア基板の技術調査を始め、2022年に3.9億元を投じてガラス/シリコン互換のウェハ級実験プラットフォームを建設した。2024年には9.93億元を投じ、パネルレベルのガラスコア基板試験線へ規模を広げた。2025年に主要設備の搬入と調整を終え、2026年上期に全自動化設備を通線した。
この試験線の設計能力が月1,000枚である。BOEはTGV微細孔の形成と銅充填から、ビルドアップと多層配線まで全工程を通し、2025年には9-2-9構成、計20層の大寸法サンプルを開発して顧客へ送った。対象は大規模な計算チップ向けのGlass Core Substrateで、一部の中国国内顧客は概念実証を終え、技術試験へ進んでいる。
設備通線と量産の間には、なお大きな距離がある。BOEがCorningとの協業覚書で公表した説明では、試験線の歩留まりは量産水準に達しておらず、連続生産も量産売上も始まっていない。Corningとの覚書も3年間の協業意向で、個別案件の投資、商業条件、正式契約は別途協議となる。
したがって、月1,000枚を現在の良品出荷能力として扱うことはできない。この数字は、設備が想定する投入規模を示すにとどまる。実際の供給力を測るには、稼働率、TGV形成後のクラック率、銅充填と配線の良品率、反り、信頼性試験、顧客認定を通過した枚数が要るが、いずれも開示されていない。
BOEが持ち込む強みは、ディスプレイで蓄積した大面積ガラス加工、薄膜形成、統合製造である。同社自身もガラス基パッケージの特徴を「大寸法、低反り、高集積」と位置付ける。表示パネル用の設備をそのまま転用できるわけではないが、大型ガラスを搬送し、均一な膜と微細パターンを形成する経験は、パネルレベルパッケージングの出発点になる。
ガラスコア、ガラスキャリア、CoPoSは役割が違う
ガラスは先端パッケージの中で少なくとも二つの役割を持つ。一つは最終製品に残るガラスコアである。パッケージ基板の中核を有機材料からガラスへ置き換え、TGVを介して上下方向へ電気信号と電力を通す。BOEは対象製品をGlass Core Substrateと明記している。一方、Lensの開示が特定したのはTGVを使うガラス基板工程までで、最終製品に残るガラスコアとは明記していない。
もう一つは、製造途中で薄いウェハや再構成パネルを支えるガラスキャリアである。Corningは、ウェハ薄化、fan-out、2.5D/3Dパッケージングの一時接合に使う支持体として説明し、515×510mmや600×600mmの角形パネルにも対応できるとしている。透明性を使ったレーザー剥離や位置合わせが可能で、工程内の反りを最大40%低減するという。ただし、これはCorningの製品説明であり、キャリアは通常、工程後に剥がされる。
TSMCのCoPoSは、チップを円形ウェハではなく角形パネル上で統合するパネルレベルパッケージングのアーキテクチャである。ガラスキャリアを工程に使っても、それだけで最終基板がガラスコアになるわけではない。
TSMCの公式説明も、この二つの時間軸を分けて読む必要がある。C.C. Wei CEOは2026年4月、CoPoSのパイロットラインを建設中で、生産は数年後になると説明した。その時点の主力供給は大型CoWoSである。7月の決算説明会では、質問者がガラスコア、ガラス基板、ガラスキャリアをまとめて進捗を尋ねた。Wei氏は、現時点の大半はなおCoWoSで、コストを下げる代替技術と基板ベンダーとの工程を開発しており、成熟までさらに約1年かかると答えた。
この回答から、特定のガラスコア基板が1年後に量産されるとは断定できない。質問の時点で異なる三つの用語が束ねられ、回答も個別の構造や製品を指定していないためだ。確認できるのは、TSMCがCoPoSのパイロットラインと、ガラスを含む基板・工程の選択肢を並行して開発していることまでである。
勝負を分けるのは大面積での統合歩留まり
TrendForceは、TSMCのCoPoSが310×310mmのパネルを標準とし、2026年を設備・材料の検証期、2027年を試産、2028年後半を量産と予測する。さらに、ガラスコア基板の商用規模生産は2030年以降になるとの見方を示した。CoPoSとガラスコアが同じ時期に立ち上がるという予測ではない。
台湾のディスプレイ企業は、すでに隣接工程へ足を掛けている。Innoluxは2025年上期の投資家資料で、AI・HPC向けTGVを含むFOPLPのガラスソリューションを示し、95×240mmのストリップ、または297×240mmのサブパネルで供給する形を記載した。これは大面積ガラス、RDL-first、chip-first、TGVを一つの製造体系で扱う能力の提示である。一方、TSMCの310×310mm CoPoS向けに認定されたことを示す開示ではない。
量産を難しくする要因は、寸法を大きくすれば増幅する。TrendForceは、レーザーエネルギーの揺らぎによるTGV径のばらつき、穿孔で生じる微小クラック、10µm未満のビアでの金属化、量産装置内での動的位置合わせを課題に挙げる。材料側でも、500×500mmを超えるパネルでナノメートル級の平坦性を保ち、異種材料の熱膨張係数差から生じる反りを抑えなければならない。反りは露光と位置合わせを崩し、最終的に歩留まりを落とす。
中国勢は、Lensが精密ガラスとレーザー加工、BOEが大型パネルと薄膜工程を持ち込む。台湾勢は、パネル企業とファウンドリーを、装置・材料メーカーと近距離で接続できる。だが、どちらも強みの足し算だけで量産にはならない。TGV、銅充填、RDL、反り制御、検査を一枚のパネル上で安定させ、顧客の信頼性条件を通過させて初めて供給能力になる。
直近の確認点は、2027年や2028年という予測日付そのものではない。LensがIntelのDFMと評価方法を実工程へ落とし、個別契約と認定へ進めるか。BOEが月1,000枚の試験線で量産歩留まりへ到達するか。TSMCがCoPoSのパネル仕様と基板材料をどこまで公開し、台湾の供給網が認定を得るかである。ガラス基板競争は、発表件数から良品と量産売上を数える段階へ移ろうとしている。
