LumentumのMichael Hurlston CEOは2026年7月8日、パリで開かれたRAISE Summitで、リン化インジウム(InP)の供給不足がDRAMやNANDを上回る事態になり得ると警告した。Tom's Hardwareが伝えた同日の発言では、Hurlstonは同社のInP拠点を「5カ所」と数えた。ただし、Lumentumが公開する既存の量産基盤は4拠点で、5番目の米Greensboro工場は改修中、量産開始は2028年半ばの予定だ。同じ7月の発言でHurlstonは、同社の出荷が顧客需要に30%以上届かず、NVIDIAとハイパースケーラーが求める数量は従来の通信顧客の数百個から数億個へ跳ね上がったと説明した。製品範囲をEMLとポンプレーザーに限った30%超の需給差は、5月の決算説明で示された数字である。
強い発言だが、需給の逼迫を示す材料はそろっている。NVIDIAは3月、競合するLumentumとCoherentへ20億ドルずつ投資した。両契約には複数年で数十億ドル規模の購入約束と将来の生産枠へアクセスする権利も付く。GPU企業がレーザー企業2社へ同時に資金を出した事実は、AIクラスターの増設を光部品が遅らせるリスクを物語る。
ただし、「メモリ以上」という表現を価格上昇の予測として読むと実態を外す。InPの問題は、原料からレーザーまでの細い供給網と、シリコンフォトニクスへ移っても光源をInPに頼る構造にある。供給を増やす手段は動き始めたものの、効き始める時期は2026年から2028年までばらついている。
売上90%増の背後にある30%超の自社需給差
Lumentumの2026会計年度第3四半期売上高は8億ドルを超え、前年同期から90%以上増えた。うちレーザーなどのコンポーネント売上高は5億ドルを超え、前年同期比77%増である。200G EMLの売上高は前四半期から2倍超に伸び、ポンプレーザーの出荷も前年同期比80%増えた。それでも5月の決算説明で、HurlstonはEMLとポンプレーザーの需給差が30%を超えたと述べている。
EML(電界吸収型変調レーザー)は、光を出す分布帰還型レーザーと、信号を載せる電界吸収型変調器を1枚のInPチップへ集積する。800Gや1.6Tの着脱式光トランシーバーで、1波長当たり最大200Gを運ぶ中核部品だ。Lumentumが生産を増やしても不足率が縮まらないのは、顧客側の800G導入と1.6Tへの移行が、それ以上の速さで進んでいるためである。
NVIDIAの契約は、この数量不足を資本と長期発注で囲い込む設計になっている。Lumentumとの合意は非独占だが、20億ドルの投資とは別に購入約束と将来の生産枠がある。Coherentにも同じ日に同額を投じたため、NVIDIAは一社依存を避けながら、二つの大手から供給を先に押さえたことになる。短期の部品調達を超え、今後数年の光配線方式を支える生産能力への予約だ。
CPO移行後も部材表に残るInP光源
シリコンは光を導き、分岐し、変調する回路を量産するのに向くが、通常のシリコンフォトニクス工程で効率よく発光するのは難しい。そこで光源には、直接遷移型半導体であるInP系レーザーを組み合わせる。光トランシーバーをスイッチ前面へ挿す現在の構成ではEMLやCW(連続波)レーザーが使われ、光学エンジンをスイッチASICの近くへ置くCPO(Co-Packaged Optics)でも高出力CWレーザーは残る。
NVIDIAのCPOスイッチは、発熱するASICからレーザーを離し、前面の交換可能な外部レーザー光源へ集約する。NVIDIAによれば、従来構成よりレーザー総数を4分の1に減らせる。一方、Spectrum-X Ethernet Photonicsの最大構成は800Gbpsポートを512基備え、総帯域は409.6Tbpsに達する。同社資料だけでは、レーザー削減がポート数と帯域の増加をどこまで相殺するかは分からない。確定しているのは、CPOでもInP光源が部材表から消えず、高出力CWレーザーへ需要の形が変わる点だ。
CPOが変えるのはInPの要否より、求めるデバイスの種類だ。着脱式トランシーバーではデータを直接変調するEMLが伸び、CPOでは複数の光学エンジンへ光を配る高出力CWレーザーと外部レーザーモジュールが増える。住友電工は、データセンター内光デバイスの数量構成でCWレーザーの比率が2024年の24%から2028年には69%へ上がると見積もる。移行期には旧方式と新方式の需要が重なりやすい。
原料・輸出許可・6インチ基板の連鎖
InPレーザーの供給網は、完成品の工場より上流でも細い。米国地質調査所(USGS)によると、2025年の精製インジウム生産量は世界で推計1,100トン、そのうち中国が760トンと69.1%を占めた。インジウムは主に亜鉛鉱石の処理残渣から回収される副産物であり、レーザー需要が増えたからといって単独で採掘量を増やしにくい。
| 段階 | 供給制約 | 増産に必要なもの |
|---|---|---|
| 精製インジウム | 中国が2025年生産の69.1% | 亜鉛精錬と回収能力 |
| InP基板 | 中国の輸出許可、結晶成長、口径拡大 | 4〜6インチの高品質基板 |
| エピウェハ | 用途別の化合物半導体層を基板上に成長 | エピ成長設備、顧客認定、長期供給契約 |
| レーザーチップ | EMLと高出力CWで工程・設計が異なる | InPファブ、歩留まり、組立・試験 |
中国は2025年2月4日、InP基板を輸出管理対象へ加えた。基板メーカーAXTの中国子会社Tongmeiは同年6月11日に欧州と日本の一部顧客向け許可を得たが、同社は申請の審査時期を予測できないとしている。原料を確保しても、基板を国境の外へ出せるとは限らない。
企業は上流の生産枠にも長期契約を広げている。AXTは2026年6月25日付でCoherentと6インチInP基板の開発・供給契約を結び、契約期間を3年とした。エピウェハ大手IQEとTower Semiconductorも6月15日、最低購入量と最低供給量を伴う複数年契約を発表している。レーザーファブを増やす計画は、基板とエピウェハを同じ速度で増やせて初めて出荷へつながる。
2026年の口径転換と2028年の新工場
既存の製造基盤から供給を増やす手段が、InPウェハの大口径化だ。Coherentは、3インチから6インチへ移ると1枚から取れるデバイス数が4倍になり、チップ原価を60%以上下げられると説明する。同社によれば、6インチ工程はすでに量産に入り、歩留まりも3インチを上回る。2025年末を基準にInP生産量を2026年末までに2倍、2027年末までにさらに2倍超へ引き上げる計画である。
既存拠点を使うため、新規工場より早く供給へ寄与する可能性はある。Coherentは米テキサス州ShermanとスウェーデンJärfällaで6インチを増やし、スイスZurichにも展開する。住友電工も4〜6インチ基板とInP光デバイスの生産能力を2028年へ向けて拡大している。LightCountingの「2026年末までに不足解消もあり得る」という市場予測は、これら個社の計画を直接の根拠として示してはいない。ただ、口径転換と歩留まり改善が各社の計画どおり重なれば、予測と整合する供給増になる。
対してLumentumが米ノースカロライナ州Greensboroで取得した24万平方フィートの工場は、GaAs工程を6インチInPへ転換し、量産開始は2028年半ばの予定だ。数億ドルを投じ、400人超の雇用を維持・新設する大規模計画だが、2026年の不足には間に合わない。短期の需給を左右するのは既存4工場の増産であり、新工場はCPOが本格化する2028年以降の需要を受け止める設備になる。
「メモリ以上」という警告の射程
価格の動きでは、現在のメモリ不足の方がはるかに明瞭だ。TrendForceは2026年第1四半期の一般DRAM契約価格が前四半期比90〜95%、NANDが55〜60%上昇すると予測した。第2四半期にもDRAMは58〜63%、NANDは70〜75%上がる見通しである。InPには同じ透明度の契約価格指標がなく、二つの市場を不足率だけで比べることはできない。
調査会社LightCountingは4月、光トランシーバー需要が供給を30%上回ると推計する一方、不足は2026年末までに解消し得るとした。6月には第1四半期の光トランシーバーとAOCの売上高が前年同期比90%超増えたと推計しながら、供給制約は緩み始めたとも報告している。GPUの供給が伸びれば光部品不足は2027年へ続くが、GPUが詰まればトランシーバー需要も抑えられる。InPだけを見ても需給の期間は決まらない。
Hurlstonの警告を支えるのは、値上がり幅より代替の難しさである。メモリは巨額の設備投資でビット供給量を増やせるが、InPは亜鉛の副産物から基板、エピウェハ、レーザー認定までを同時に通過しなければならない。反対に、6インチ化が会社側の計画どおり4倍のデバイス数と高い歩留まりを実現すれば、新工場を待たずに不足は縮む。警告が現実になるかは、需要の増加率と6インチ工程の立ち上がりの競争で決まる。
Lumentumが次回決算で示すEMLとCWレーザーの出荷量が、最初の判定材料になる。30%超の需給差が縮めば、2026年末までに不足が緩むシナリオの確度は上がる。差が広がったままなら、NVIDIAが競合2社へ20億ドルずつ投じた理由は、2028年の新工場稼働を待つ前に一段重くなる。



