Mercedes-Benzは2026年11月3日、電池セルごとの電力の流れを制御し、最大800Vの安定した高電圧を供給する「Power Converter」の研究内容を紹介した。現世代の出力は最大3kWで、交流(AC)と直流(DC)の用途に対応するという。800Vの定電圧化は2025年12月更新の公式資料でも説明されており、今回の発表では出力や対応用途がより具体的に示された。ただし、量産車への採用が決まったわけではない。電池セルの構成と車両への供給電圧を切り離す仕組みは、充電機能の統合にもつながる可能性があるが、実際の価値を判断するには車両全体の電力損失や整備性も検証する必要がある。
電池セルの数と出力電圧を切り離す
電池セルを直列につなぐと、それぞれのセルの電圧が積み重なり、電池全体の電圧になる。つまり、従来の基本的な構成では、直列接続するセルの数と取り出せる電圧が密接に関係している。Power Converterは、電力変換器とソフトウェアによる制御を組み合わせ、この制約を解消しようとする技術だ。
Mercedes-Benzの米国向け公式発表によると、この技術では「マイクロコンバーター」と呼ばれる小型の電力変換器を使用し、個々のセルの電力の流れを調整する。セルまたはセルグループの単位で電力を制御し、複数のPower Converterを並列接続することで、安定した直流高電圧を供給する構想だ。総出力も構成に応じて調整できるとしている。これにより、出力電圧をセルの直列数に直接依存させず、分散配置した変換器によって制御できる。ただし、すべてのセルを単純に並列接続する仕組みでも、直列接続を完全に廃止するという発表でもない。
Mercedes-Benzは、セルの充電状態や劣化状態にかかわらず、最大800Vの電圧を一定に保てると説明している。ここで注意したいのは、800Vと3kWが異なる指標だという点だ。800Vは電圧、3kWは電力を表すため、最大3kWという数字から車両全体の駆動出力や急速充電の出力を判断することはできない。電池に蓄えられるエネルギー量を示す数字でもない。さらに、公式発表では最大3kWがPower Converter単体の出力なのか、複数を組み合わせた構成全体の出力なのかも明示されていない。
また、電圧を一定に保つことと、電池のエネルギーを回復させることは別だ。出力電圧を制御しても、放電によって減少した残存エネルギーや、劣化によって失われた容量そのものが回復するわけではない。そのため、定電圧化だけを根拠に航続距離が延びると判断することはできない。
800Vの構想から、最大3kWの具体的な仕様へ
Mercedes-Benzが公開した2025年12月更新の公式資料では、セルペアとその間の通信について説明されていた。この資料と2026年11月3日の公式発表について、Power Converterに関する説明を比較すると、次のようになる。
| 比較項目 | 2025年12月更新の公式資料 | 2026年11月3日の公式発表 |
|---|---|---|
| 電圧 | 800Vの一定高電圧出力 | 最大800Vの一定高電圧出力 |
| 制御単位 | セルペアとその間の通信 | 個々のセルの電力の流れを制御。セルまたはセルグループ単位で利用 |
| 出力 | 比較対象の節に最大3kWの記述は確認できない | 現世代は最大3kW |
| 変換対応 | 双方向充電などの機能統合構想 | AC・DC用途への対応を明示 |
比較すると、800Vの定電圧化は2025年12月更新の資料ですでに説明されており、今回の発表では最大3kWの出力とAC・DC用途への対応が明示されたことが分かる。ただし、これは市販製品の性能を比較したものではなく、各時点でMercedes-Benzが公表していた情報を整理したものだ。2025年12月という日付は資料の更新時期であり、技術そのものの初発表時期を意味するわけではない。また、今回が3kWという数値の初公表だったかどうかも、この比較だけでは判断できない。過去の資料に記載がないからといって、その時点で技術的に対応していなかったと解釈することも適切ではない。
従来の説明には、部品の種類を減らす狙いや、再プログラムによって機能を変更する構想も含まれていた。今回の発表は、そうした構想の実現可能性を評価するための具体的な情報が増えたものと位置付けられる。
充電機能の統合には、車両への実装と検証が必要
AC・DC用途への対応は、Power Converterにどこまでの機能を集約できるかという問題にも関係する。Mercedes-Benzは将来的な可能性として、AC・DC変換や双方向充電の機能を統合する構想を示している。その一例が、電気自動車から家庭へ電力を供給するV2H(Vehicle to Home)や、電力網へ電力を戻すV2G(Vehicle to Grid)だ。これらの機能を電池側の電力変換システムに統合できれば、車両の電力系統を簡素化できる可能性がある。
ただし、現世代のPower ConverterがAC・DC用途に対応するという説明と、実際の車両で双方向充電が利用できるという発表は区別する必要がある。米国向け公式発表の末尾には、紹介した技術が研究開発段階にあり、顧客向け機能や量産採用を発表するものではないと明記されている。採用車種や量産時期も示されておらず、家庭や電力網への給電機能がどのような条件で利用できるようになるかも未定だ。
Mercedes-Benzは、この技術によって効率の改善や航続距離の延長、システムの小型化につながる可能性があるとしている。しかし、確認した公式発表の該当部分には、変換効率の実測値や出力範囲全体にわたる性能データが示されていない。冷却条件についても具体的な説明はなく、セルごとの電力変換を車両全体に組み込んだ際に、どの程度の利点が得られるかはまだ判断できない。
整備性も重要な検証項目となる。ただ、修理に必要な作業が変換器の配置やアクセス方法によって左右されるため、現時点では不明な点には注意が必要だ。これは分散配置によって修理が必ず難しくなるという意味ではなく、実際の設計を確認しなければ判断できないということだ。
したがって、評価すべきなのは部品をどこまで統合できるかだけではない。変換器で発生する熱をどう処理するか、異常時にどの範囲を保護するか、故障した部分を切り離して交換できるかといった点も重要になる。これらは現時点で実装が確認された機能ではなく、車両に採用した際の利点や課題を判断するための検証項目である。
窓ガラスの表示技術も研究段階、次の焦点は車両全体での検証
Mercedes-Benzは同じ発表で、車両の窓ガラスにLEDを組み込み、後続車などに警告を伝える表示技術も紹介した。ミニLEDは大きな表示面、マイクロLEDは小面積で高解像度の表示を想定している。また、ホログラフィック光学素子(HOE)を利用して投影光の特定の波長を反射させ、見る角度によって運転席と助手席に異なる情報を表示する構想も示された。これらの表示技術についても、法規への適合や量産車への採用が決まったわけではない。
Power Converterと表示技術に共通する課題は、個々の技術として成立する機能を車両全体に組み込んだ際の有効性を検証することだ。Power Converterでは、変換器の損失や放熱を含む電力系統全体の効率を測定し、保守に必要な作業や費用も明らかにする必要がある。そうした検証が進めば、電池セルの構成に縛られずに供給電圧や機能を設計するという構想が、実際の車両開発でどれほど有用な選択肢となるのかを判断できるようになる。



