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Meta、320億ドル企業買収断念もGitHub元CEOら電撃獲得:「アクハイヤー」が示すザッカーバーグの執念

Y Kobayashi

2025年6月21日7:36AM

MetaがAIの未来を賭けた人材獲得競争で、またも大胆な一手を打った。OpenAIの共同創設者であるIlya Sutskever氏が立ち上げた評価額320億ドル(約5兆円)のAIスタートアップ「Safe Superintelligence (SSI)」の買収に失敗した後、Metaは即座に戦略を転換。同社のCEOであるDaniel Gross氏と、彼の長年のパートナーで元GitHub CEOのNat Friedman氏を直接雇用する交渉を進めていることが複数の報道から明らかになった。

これは企業の買収(Acquisition)が失敗した後に、主要な人材を獲得する「アクハイヤー(Acqui-hiring)」という、シリコンバレーの熾烈な競争を象
徴する動きであり、Mark Zuckerberg氏が「スーパーインテリジェンス」の実現にいかに執念を燃やしているか、そしてAI業界のパワーバランスが「人材」という最も重要な資源を巡って、いかに激しく揺れ動いているかを浮き彫りにしている。

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買収失敗から「Acqui-hire」へ:Metaの執念の戦略転換

事の発端は、CNBCが報じたMetaによるSSIへの買収提案だった。SSIは、OpenAIでチーフサイエンティストを務め、昨年のSam Altman CEO解任劇でも中心人物とされたIlya Sutskever氏が、安全な超知能の開発を唯一のミッションに掲げて設立した企業だ。設立からわずか1年で、その評価額は320億ドルに達したと報じられている。

しかし、この野心的な買収提案はSutskever氏本人によって拒否された。報道によれば、Sutskever氏は自身の会社を売却する気はなく、Metaからの個人的な雇用オファーにも応じなかったという。

通常の企業であれば、ここで交渉は打ち切りとなるだろう。だが、Zuckerberg氏は違った。彼は即座にターゲットを変更し、SSIのもう一人の共同創設者でありCEOを務めるDaniel Gross氏に白羽の矢を立てた。買収という「プランA」が頓挫するや否や、中核人材の獲得という「プランB」へ滑らかに移行したのだ。この迅速かつ執拗な動きは、Metaが特定の企業や技術そのもの以上に、それを動かす「人間」の才能を渇望していることを示している。

新たに加わる「二人のキーマン」:Daniel GrossとNat Friedmanとは何者か

今回Metaが獲得を目指す二人の人物は、AI業界で絶大な影響力を持つ投資家であり、起業家でもある。

Daniel Gross氏は、SSIのCEOを務める以前から、その輝かしい経歴で知られている。彼が設立した検索エンジン「Cue」は2013年にAppleに買収され、その後Appleで機械学習やSiriの開発を主導した。さらに、名門アクセラレーターであるY Combinatorのパートナーも務めるなど、技術とビジネスの両面で卓越した実績を持つ。

Nat Friedman氏は、Microsoftによる買収後のGitHubでCEOを務め、世界中の開発者コミュニティを牽引してきた人物だ。

この二人は共同でベンチャーキャピタルファンド「NFDG」を運営しており、Perplexity AIやCharacter.AIといった今をときめくAIスタートアップに初期から投資してきた。今回の契約の一環として、MetaはNFDGの株式(限定パートナーの持ち分を買い取る形)も取得すると報じられており、これはMetaが将来有望なAIエコシステムへ間接的にアクセスする足がかりを得ることを意味する。

彼らの合流は、MetaのAI開発に製品化や事業化の視点を強力に注入することになるだろう。

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Metaが描く「スーパーインテリジェンス」の布陣:Wang、Gross、Friedmanの役割

今回の動きは、単独の出来事としてではなく、Metaが描く壮大なAI戦略の文脈で捉える必要がある。

ほんの数週間前、Metaはデータラベリング企業Scale AIに対し、約140億〜150億ドル規模という巨額の投資を行い、同社の株式49%を取得。そして、その創業者兼CEOであったAlexandr Wang氏をMetaに迎え入れ、新たに設立された「スーパーインテリジェンス」部門の責任者に据えたばかりだ。

関係者の話によれば、今回獲得するGross氏とFriedman氏は、このWang氏の配下で製品開発に取り組むことになるという。これにより、Metaのスーパーインテリジェンス部門は、以下のような強力な布陣を形成することになる。

  • トップリーダー(Alexandr Wang氏): 大規模なデータ基盤とAIインフラ構築の専門家。
  • 製品・投資のキーマン(Daniel Gross氏 & Nat Friedman氏): 技術を具体的な製品に落とし込み、未来の技術トレンドを見抜く投資家としての視点を持つ。

この布陣は、基礎研究に留まらず、AGI(汎用人工知能)やその先のスーパーインテリジェンスを、具体的な製品やサービスとして社会に実装していくというMetaの強い意志の表れと考えられる。

1億ドルボーナスも?激化するAIタレントウォーの実態

Metaの一連の動きは、シリコンバレー全体で激化するAI人材獲得競争、いわゆる「タレントウォー」の氷山の一角に過ぎない。

OpenAIのSam Altman CEOはポッドキャストで、「MetaがOpenAIの従業員に対し、1億ドル(約160億円)もの契約ボーナスを提示して引き抜きを図った」と暴露している。Altman氏は「我々のトップタレントは誰もそのオファーを受けなかった」と付け加えたが、提示される金額の異常な高騰ぶりは業界の狂騒を物語っている。

この競争はMetaとOpenAI間に限った話ではない。

Axiosが指摘するように、かつては自身のスタートアップを率いることを選んだであろう優秀な創業者が、巨額の報酬と潤沢なリソースを求めて巨大テック企業へ移籍することへの抵抗感は、明らかに薄れつつある。AIモデルの開発には、膨大な計算資源とデータが必要であり、それが巨大テック企業への人材集中の要因となっているのだ。

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なぜZuckerbergはここまで焦るのか?Metaの戦略の根底にあるもの

Zuckerberg氏が、時に強引とも思える手法で人材獲得に奔走する背景には、深い戦略的意図と、過去の教訓からくる強烈な危機感が存在する。

Meta(旧Facebook)は、PCからモバイルへのプラットフォームシフトにおいて、AppleとGoogleの後塵を拝し、彼らが作ったOSの上でアプリを提供するという立場に甘んじた苦い経験を持つ。Zuckerberg氏は、AIが次なるコンピューティングプラットフォームの核となることを確信しており、二度と同じ過ちを繰り返すまいと固く決意しているのだ。

彼の戦略は、オープンソースモデル「Llama」を広く提供してAIエコシステムの主導権を握るというオープンな戦略と、世界最高峰の頭脳を集めて究極のAI「スーパーインテリジェンス」を開発するというクローズドな戦略の二正面作戦と分析できる。

報道によれば、Zuckerberg氏自身が「ファウンダーモード」に入り、自宅にトップ研究者を招いて直接リクルーティングを行うなど、この戦いを陣頭指揮している。今回のSSIに対する動きは、彼の執念と、未来のテクノロジー覇権を絶対に手放さないという強い意志の証明に他ならない。買収が失敗しても、即座に次の手を打ち、目的を達成しようとするその姿は、AIを巡る競争が単なる技術開発競争ではなく、未来の社会基盤を賭けた壮大なチェスゲームであることを我々に教えてくれる。


Sources

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