Micronは10月1日、台湾で進める4拠点の拡張計画を説明した。中央通訊社(CNA)の会見取材によると、同社の台湾への累計投資額は2026年6月までに1.6兆台湾ドルを超え、その約半分を直近4年間の投資が占める。同日には、台湾のDRAMメーカー南亜科技(Nanya Technology)も、屏東に3Dウェハーパッケージング・検査工場を設ける認可を得たと発表した。AI向けメモリーへの投資が広がる一方、各拠点が担う工程は異なる。回路を作る前工程と、チップを積み重ねて製品に仕上げる後工程を分けて見ると、今回の拡張がどの部分の供給能力を強化するのかが見えてくる。
4拠点を工程別に見ると、何が増えるのか
1.6兆台湾ドルは、今回新たに決まった投資額ではない。 CNAによると、台湾Micron董事長の盧東暉氏が示した2026年6月までの累計投資額である。直近4年間の投資額は、それ以前の25年間の合計とおおむね同じ規模だという。台湾への投資が近年急速に増えていることは分かるが、この1.6兆台湾ドルを今後の4拠点拡張計画の予算とみなすことはできない。CNAの会見報道
Micronは台湾で、桃園・銅鑼のウェハー製造、台中のHBMパッケージング、台南のウェハー検査をそれぞれ増強する。10月1日の会見を取材した経済日報の施設情報に、Micronの取得発表と直近の決算説明を重ねると、拠点ごとの役割と計画の進み具合は次のように整理できる。
| 拠点 | 今回増強する工程・施設 | 確認された段階 | 公表された予定・時期 |
|---|---|---|---|
| 桃園 | EUVに対応するウェハー製造棟「Fab 11E」 | 新棟を計画。将来のHigh-NA EUVも見据えた設計 | 2028年ごろの稼働を予定。経済日報の10月2日報道 |
| 台中 | 従来施設を転用した第2の先端パッケージング工場 | 2025年から転用を進めている | 2026年10月中旬にHBM生産を開始予定。経済日報の10月2日報道・CNAの10月1日報道 |
| 台南 | AUOの旧液晶工場を転用し、主に前工程のウェハー検査を担う施設 | 2026年9月初めから装置を搬入 | 装置搬入時期を公表。経済日報の10月2日報道には量産・出荷開始日の記載なし |
| 銅鑼 | PSMCから取得したP5工場と追加の製造棟 | 2026年3月16日にP5の取得を完了 | 2027年半ばから本格的な製品出荷を見込む。Micronの9月30日決算説明 |
出典:経済日報、CNA、MicronのP5取得完了発表、Micronの2026年度第4四半期決算説明資料。2026年10月2日までに確認した情報を、増強する工程と実行段階に分けて整理した。各拠点の既存機能すべてを示した表ではない。
台中の「生産開始」と銅鑼の「本格的な製品出荷」は、同じ段階を指す言葉ではない。台南への装置搬入も、検査設備が実際の出荷を支え始めたこととは区別する必要がある。4拠点の予定をまとめて「台湾で増産」と捉えると、こうした工程ごとの時間差が見えにくくなる。
銅鑼のスケジュールについては、台湾での会見報道だけでなく、Micronの直近の公式説明でも確認できる。同社は9月30日の決算説明資料で、同施設から2027年半ばに本格的な製品出荷を始める計画は順調だとしている。建物を取得しただけでは供給量は増えず、実際に出荷へつながるまでには、設備導入や立ち上げに時間が必要になる。
銅鑼と台中をつなぐ、既存施設の転用
Micronが3月16日に取得した銅鑼のP5は、300mmウェハーに対応する約30万平方フィートの既存クリーンルームを備える。同社の取得完了発表では、近隣の台中拠点と垂直統合する方針も明記している。さらに銅鑼では、約27万平方フィートのクリーンルームを備える第2の製造棟も計画している。既存の製造設備を取り込みながら、台湾内の工程を連携させる構想だ。Micronの取得完了発表
ただし、クリーンルームの面積だけでは実際の出荷能力は分からない。どの装置を入れ、どの製品を作り、どの程度の歩留まりを確保できるかによって、同じ面積から得られる供給量は変わる。Micronは台中との統合方針を示しているが、各製品を4拠点の間でどのように移動させるかまでは公表していない。
既存施設の転用は、台中と台南でも進んでいる。経済日報によると、台中では従来施設を第2の先端パッケージング工場へ改修している。台南の旧AUO工場では、高さ11mの倉庫を3層構造のクリーンルームへ改装し、主にウェハー検査を行う計画だ。液晶パネルの製造に使われていた建物が、メモリーの検査施設へと生まれ変わる。今回の拡張が、すべて新しい土地に工場を建てる計画ではないことが分かる。経済日報の施設報道
一方、桃園の新棟は、将来の製造装置に合わせて建物そのものを設計する計画だ。経済日報は、Fab 11EがEUV装置の設置や保守に必要な床荷重と高さを確保し、将来のHigh-NA EUVにも対応できるよう設計されると報じた。High-NAは、EUV露光でさらに微細な回路を形成するための技術だ。ただし、将来の装置を想定して建物を設計することと、実際に装置を導入して量産を始めることは別の段階である。
桃園や銅鑼の製造能力と、台中のパッケージング能力では役割が異なる。MicronはEUVを使うDRAM製造技術「1γ(1-gamma)」について、1β世代と比べてウェハー上のビット密度を30%以上高めると説明している。これは1枚のウェハーから得られる記憶容量を増やす技術であり、台湾工場全体の出荷量が30%以上増えるという意味ではない。Micronの1γ技術説明
HBMは、DRAMチップを縦方向に積み重ね、シリコン貫通電極(TSV)で各層を接続するメモリーだ。回路を微細化して1枚のウェハーから得られる容量を増やす工程と、複数のチップを積層して高速に接続する工程の両方が必要になる。ウェハー製造棟の拡張だけを見ていると、台中で増やすパッケージング能力が果たす役割を見落としやすい。MicronのHBM構造の説明
南亜科技の屏東工場、TSVだけではHBM量産とは言えない
南亜科技は10月1日、台湾の国家科学及技術委員会から、屏東に3Dウェハーパッケージング・検査工場を設ける認可を得たと発表した。TSVとウェハー積層技術を使い、高性能・高帯域幅メモリー向けのウェハーレベルパッケージングと検査を行うとしている。南部科学園区管理局も同日、同様の工程と用途を説明した。南亜科技の認可取得発表、南部科学園区管理局の発表
8月14日時点の同社説明では、候補地を評価しながら関係当局と協議を続けている段階だった。今回は場所が屏東と明示され、工場設立に必要な認可を取得した。候補地を検討する段階から、具体的な場所で事業を進める段階へ前進したことになる。ただし、認可取得は工場の完成や量産開始を意味するものではない。南亜科技の8月14日の説明
「AI向け」「高帯域幅」「TSV」という言葉が並ぶと、HBMの量産工場を連想しやすい。しかし、南亜科技の今回の発表では、特定のHBM世代には言及していない。積層する層数や帯域幅、量産開始時期、投資額も明らかにしていない。工場で使う技術だけを根拠に、将来どの製品を量産するのかまで決めつけることはできない。
TSVはHBMだけに使われる技術ではない。 Micronは2026年5月、256GBのDDR5サーバー向けモジュールのサンプル提供を発表し、複数のDRAMチップを積層する3DS構造にTSVを使うと説明した。つまり、積層とTSVを使っていても、製品がDDR5である場合はある。南亜科技が同じDDR5モジュールを製造することを示すものではないが、「TSVを使うからHBM」と判断できない具体例にはなる。Micronの256GB DDR5モジュール発表
現時点で南亜科技の計画から確認できるのは、DRAMを積層し、パッケージングと検査を行う能力を屏東に設ける方針だということだ。具体的な競合製品との比較は、採用するメモリー規格や製品仕様が明らかになってからになる。同じ台湾での投資でも、Micronが示すHBMの生産開始予定と、南亜科技の新工場認可を同じ段階として扱うべきではない。
次に見るべきは投資額ではなく、工程ごとの出荷
Micronは9月30日の決算説明で、2027暦年のHBM供給量の大半について顧客との契約を終えたと述べ、価格は前年比で大幅に上昇していると説明した。HBM需要の強さを示す発言ではあるが、これはMicron全体のHBM供給についての説明だ。台中の第2工場で作る分がすべて契約済みだという意味でも、台湾での拡張によって市場価格がすぐに下がるという意味でもない。Micronの決算説明資料
台湾で進む投資が実際の供給増加につながるかを見るには、各工程の計画が予定どおり出荷へ結び付くかを追う必要がある。台中では2026年10月中旬のHBM生産開始が最初の節目になる。銅鑼は2027年半ばの本格的な製品出荷を目指す。台南の検査施設が供給能力の拡大にどの程度貢献するかは、装置搬入の報告だけでは判断できない。生産量や検査能力が公表されれば、工場の数ではなく、実際にどれだけ供給力が増えたのかを具体的に評価できる。
南亜科技については、認可を得た屏東工場でどのメモリー製品を仕上げるのかという重要な情報がまだ残っている。製品規格や操業計画が明らかになれば、AI向けのどの用途を狙い、既存メーカーとどの分野で競うのかを比較できるようになる。現時点では、Micronと南亜科技が設備や顧客を共有するような計画も示されていない。
今回の台湾での拡張から見えてくるのは、ウェハーを作る前工程だけでなく、チップの積層や検査を担う後工程にも投資が広がっていることだ。今後、台中での生産開始や銅鑼からの本格出荷が計画どおり進み、各工程の増強が実際の製品供給につながれば、Micronは台湾の中でDRAMを製造し、HBMなどの製品へ仕上げる能力をさらに高めることになる。巨額の累計投資がどれだけ供給力の向上につながったのかを判断するには、投資額そのものではなく、実際の生産と出荷まで確認する必要がある。
