Micronが台湾・桃園で建設を進める新工場棟「Fab 11E」の工事が、ほぼ停止したとBloombergが2026年11月5日に報じた。2028年の稼働を予定していた新棟で、製造装置の購入費を含む投資規模は30億〜45億米ドルに上る。一方、Micronは既存工場の操業は通常どおり継続していると説明しており、新棟の建設停止と現在の生産活動は区別する必要がある。台湾では台中の労組との待遇改善交渉が合意に達したものの、桃園では利益配分をめぐる協議が続いており、将来の増産計画に不透明感が生じている。
2028年稼働予定のFab 11E、建設停止をBloombergが報道
Bloombergの報道を転載した11月6日付のTaipei Timesによると、MicronはFab 11Eで安全確保に必要な小規模工事を終えた後、建設を凍結する方針だという。ただし、これは匿名の関係者から得た情報であり、Micronが正式に建設計画の変更を発表したわけではない。建設の再開時期についても明らかになっていない。
Fab 11Eでは、AI向けの高帯域幅メモリ(HBM)やDRAMを製造する計画だった。投資予算は30億〜45億米ドルで、ASML製の半導体製造装置の購入費も含まれている。つまり、建物の建設費だけでなく、製造設備を含む工場全体の投資規模を示す数字だ。従来の稼働予定は2028年であり、建設の凍結が長期化すれば、将来のDRAM・HBM供給能力の拡大に影響する可能性がある。ただし、新たな稼働予定や工事の再開時期は示されておらず、現時点で遅延の規模を判断することはできない。
MicronはBloombergへの声明で、現在の操業は通常どおり続いており、顧客への供給を含む事業継続にも自信を持っていると説明した。一方、Bloombergによると、Fab 11Eの建設に関する質問には回答しなかった。この声明はあくまで既存設備の操業状況についての説明であり、新棟の建設が予定どおり進んでいることを意味するものではない。
また、Bloombergは関係者の話として、Micronが建設停止の方針を台湾の当局者や供給会社に伝えたと報じた。しかし、桃園市政府は通知を受けていないとしている。報道では通知先の当局者が具体的に特定されておらず、桃園市政府がその対象に含まれていたかは不明だ。そのため、台湾政府全体が建設停止を確認したと解釈することも、双方の説明が矛盾していると断定することもできない。
台中では待遇改善で合意、桃園では利益配分が争点に
Micronの台湾における労使交渉では、すでに合意が成立した台中と、協議が続く桃園で状況が異なる。台湾経済部が10月22日に公表した声明では、台中の労組との合意を歓迎するとともに、桃園についても引き続き対話と協議を進めるよう求めていた。この時点で、台湾全体の労使交渉が決着していたわけではない。
経済部が紹介した待遇改善策には、雇用主による退職年金の拠出率を10%に引き上げる措置が含まれている。また、日勤の交替勤務手当は1,500台湾ドルから4,500台湾ドルへと3倍に増額された。ただし、3倍になったのは交替勤務手当であり、基本給全体ではない。
エンジニアの待遇についても大幅な改善例が示された。経済部の発表では、初級エンジニアの待遇が145万台湾ドルから400万台湾ドルへ、中堅・上級エンジニアでは200万台湾ドル超から600万台湾ドルへ増える例が挙げられている。Bloombergはこれらを年間報酬として説明しており、基本給だけでなく賞与などを含む可能性がある。そのため、全従業員の固定給が一律に、恒久的にこの水準まで引き上げられると解釈すべきではない。
一方、桃園の労組が求めているのは、給与や手当の引き上げにとどまらない利益配分制度の見直しだ。桃園労組のJerry Lin委員長はBloombergに対し、Micronの営業利益の15%を世界中の従業員に分配し、株式ではなく現金で支給するよう求めていると説明した。この15%はあくまで労組側の要求であり、会社が受け入れた条件ではない。AI需要の拡大を背景に企業収益が伸びるなか、業績に応じた利益を従業員へどう配分するかが交渉の焦点となっている。
Jerry Lin委員長は、台中の従業員にも加入を呼びかけ、成立済みの合意を取り消して再交渉することを目指すとも述べている。ただし、これは労組側が示した今後の方針であり、台中で成立した合意がすでに無効になったわけではない。台中で待遇改善が実現したことと、桃園側が求める利益配分制度で合意できるかは別の問題だ。
Tom's Hardwareの11月5日付記事も利益配分の仕組みを交渉の主要な争点として取り上げ、Micronと労組が11月6日に再協議する予定だと伝えた。ただし、その結果については現時点で確認できていない。
建設停止が意味するのは将来の増産計画への不透明感
今回の報道では、Fab 11Eの建設状況、既存工場の操業、台中での労使合意を区別することが重要だ。それぞれ対象と確認時点が異なるため、建設停止の報道をMicronの台湾全体で生産が止まったという意味に受け取るべきではない。11月5〜6日の報道と10月22日の公式発表を整理すると、次のようになる。
| 対象 | 確認時点 | 情報源 | 状況と判断できる範囲 |
|---|---|---|---|
| 桃園新棟Fab 11E | 2026年11月5日報道 | Bloomberg/Taipei Times転載 | 建設がほぼ停止し、安全確保工事後に凍結すると報道。2028年稼働予定の変更や再開時期は未確認 |
| 既存工場の操業 | 2026年11月5日報道 | Micronの声明/同報道 | 現在の操業は通常どおり継続と説明。ただし、新棟の建設計画への回答ではない |
| 台中労組との合意 | 2026年10月22日 | 台湾経済部 | 待遇改善の合意が成立。一方、桃園では協議が継続しており、台湾全体の交渉終結を意味しない |
なお、Tom's Hardwareが伝えた11月6日の再協議は、記事掲載時点では予定段階の情報であり、交渉結果やFab 11Eの建設再開時期は未確認だ。上記の情報から、実際の生産減少量や建設停止による損失額を算出することはできない。
台湾の生産拠点がMicronの事業に占める重要性も、今回の報道を理解するうえで欠かせない。Bloombergによると、台湾はMicronの世界全体における従来型DRAM生産の約60%を担っている。ただし、この60%は台湾全体の生産比率であり、Fab 11E単体の生産能力を示すものではない。また、世界のDRAM市場におけるMicronのシェアとも異なる数字だ。
今回の建設停止報道が直接示しているのは、将来の供給能力の拡大に不確実性が生じたということだ。Micron自身は現在の操業が通常どおり続いていると説明しており、Fab 11Eの建設停止を既存工場の生産停止と同一視することはできない。新棟の月産能力や新たな稼働予定が明らかになっていない以上、供給への具体的な影響やメモリ価格の上昇幅を見積もる根拠もない。
今後の焦点は、桃園での利益配分交渉がどのような条件で決着するか、そしてMicronがFab 11Eの建設・稼働計画についてどのような方針を示すかにある。労使交渉の進展と工場建設の再開時期が明らかになれば、今回の問題が将来のDRAM・HBM供給計画に及ぼす影響も、より具体的に判断できるようになるだろう。



