2025年11月20日、世界のテクノロジー市場が固唾をのんで見守る中、NVIDIAが発表した2026年度第3四半期(2025年8月-10月期)決算は、またしてもウォール街の予想を遥かに上回るものだった。
売上高は前年同期比62%増の570億ドル(約8.8兆円)、純利益は同65%増の319億ドル(約4.9兆円)。
市場の一部で囁かれていた「AI需要の減速」や「バブル懸念」を、圧倒的な数字とJensen Huang CEOの力強い言葉が吹き飛ばした形だ。時間外取引で同社株は一時4%以上急騰し、時価総額にして約1200億ドル(約18兆円)が瞬時に積み上がった。これはStarbucks 1社分の価値に相当する。
決算ハイライト:成長の勢いは止まらない
まず、今回の決算における最も重要な数値を整理する。これらはすべて、同社が「AIの好循環」に入ったことを裏付ける証拠である。
1. 驚異的なトップラインとボトムライン
- 売上高(Revenue): 570億ドル(前四半期比 +22%、前年同期比 +62%)。アナリスト予想の549億ドルを大きく上回る「レコード(過去最高)」を更新。
- データセンター部門売上: 512億ドル(前四半期比 +25%、前年同期比 +66%)。全売上の約90%をこの部門が稼ぎ出している。
- 粗利益率(Gross Margin): GAAPベースで73.4%、Non-GAAPベースで73.6%。ハードウェアメーカーとしては異次元の高収益体質を維持している。
- 希薄化後1株当たり利益(EPS): 1.30ドル(前年同期比 +67%)。
2. 第4四半期(11-1月期)の見通し
市場が最も注目していたガイダンスも強気だった。
- 売上高見通し: 650億ドル(プラスマイナス2%)。
- これはアナリストの平均予想(約617億ドル)を30億ドル以上も上回る数値であり、成長が今後も加速し続けることを示唆している。
「Blackwell」の狂騒:需要は供給を遥かに凌駕する
今回の決算発表で最も注目すべきポイントは、次世代AIチップ「Blackwell」に関するHuang CEOのコメントだ。
「Blackwellの売上は桁外れ(off the charts)だ。そしてクラウドGPUは完売状態にある」
— Jensen Huang, NVIDIA CEO
供給制約という「嬉しい悲鳴」
Huang氏は声明で、AIエコシステムが急速に拡大しており、コンピューティング需要が「学習(Training)」と「推論(Inference)」の両方で加速していると述べた。
特に興味深いのは、Blackwellがすでに量産体制に入っており、TSMCのアリゾナ工場で米国初のBlackwellウェハーが製造されたことだ。これは米国の製造業復活を象徴する出来事としてもアピールされている。
しかし、ここには課題も潜む。需要があまりにも強すぎるため、供給が追いついていないのだ。「完売(Sold out)」という言葉は、顧客であるMicrosoftやMeta、Google、Oracleといったハイパースケーラー(巨大クラウド事業者)たちが、文字通りチップを奪い合っている状況を示唆している。
なぜ「バブル懸念」は払拭されたのか?
決算発表直前、市場には不穏な空気が漂っていた。NVIDIAの株価は11月に入ってから約8%下落しており、投資家の間では「AI投資のリターンが見合っていないのではないか」「1990年代のドットコムバブルの再来ではないか」という懸念が広がっていたからだ。
1. インフラ投資の継続性
Google、Microsoft、Amazon、Metaの直近の決算において、各社はAIインフラへの投資(CapEx)を継続・拡大する意向を示していた。今回のNVIDIAの数字は、その「投資」が実際にNVIDIAの「売上」として計上され続けていることを証明した。
2. 「推論」へのシフト
バブル論者の主張の一つに、「AIモデルの学習需要は一巡する」というものがある。しかし、Huang氏は「推論(Inference)」の需要も指数関数的に伸びていると強調した。
これは、AIが単に「賢くなる(学習)」フェーズから、「実際に使われる(推論)」フェーズへと移行し、実社会で価値を生み出し始めていることを意味する。NVIDIAが発表した「Rubin CPX」や「Blackwell Ultra」といった新製品群は、この推論需要を捉えるために設計されている。
3. 割高感の解消
実際に株価収益率(PER)の観点から見ても、NVIDIAの株価は決して「バブル」とは言えない水準にある。
- NVIDIA: 予想PER 約30倍
- Tesla: 予想PER 約200倍
- Palantir: 予想PER 約174倍
利益の成長スピードが株価の上昇スピードに追いついている(あるいは追い越している)ため、バリュエーションはむしろ過去5年平均(34倍)よりも低い水準にあるのだ。
NVIDIAの「次の一手」
筆者が今回の決算資料と発表内容から読み解く、NVIDIAの真の強さと戦略的意図は以下の3点に集約される。
① ソブリンAI(Sovereign AI)の世界的拡大
ハイパースケーラー頼みからの脱却として、NVIDIAは「国家単位のAIインフラ構築」を推進している。今回のレポートでも以下の国々での大規模な展開が強調された。
- 日本(ソフトバンク等): 資料では直接言及はないが、ソフトバンク等との連携は既知の事実であり、文脈上の「AIエコシステムの拡大」に含まれる。
- 英国: 次世代AIインフラ構築に向け、パートナー企業と連携。
- ドイツ: ドイツテレコムと世界初の「産業用AIクラウド」を立ち上げ。
- 韓国: 政府やHyundai、Samsung、SKグループと連携し、25万基以上のGPUを用いた国家AIインフラを拡張。
これは、AIインフラが「企業の持ち物」から「国家の安全保障・産業競争力の基盤」へと変質していることを示しており、需要の底堅さを担保する要因となる。
② 「物理AI(Physical AI)」への布石
「AIは画面の中だけの話」という時代は終わろうとしている。自動車・ロボティクス部門の売上は、データセンターに比べればまだ規模は小さいが、着実な伸びを見せている。
- 自動車: 売上高5.92億ドル(前年同期比 +32%)。
- ロボティクス: 物理AI(Physical AI)による米国の再工業化を掲げ、トヨタやAmazon Robotics、Foxconnなどと連携。
Huang氏が「AI is going everywhere(AIはあらゆる場所へ)」と語った通り、次の成長エンジンは、工場や倉庫、道路上で動くAI、すなわち「物理AI」にある。
③ エコシステムの支配力強化
単にチップを売るだけでなく、NVIDIAはネットワーク(Spectrum-X Ethernet)、ソフトウェア(NVIDIA AI Enterprise)、そして設計図(Omniverse DSX)までをセットで提供している。
今回、OpenAIとの戦略的パートナーシップ(10ギガワット規模のシステム展開)や、Oracleとの世界最大級のAIスパコン「Solstice」構築が発表された。これにより、顧客はNVIDIAのエコシステムから離れることがさらに困難になる(ロックイン効果)。
死角はあるのか?
死角がないように見えるNVIDIAだが、リスクはゼロではない。
エネルギーと物理的な制約
アナリストのJacob Bourne氏(eMarketer)が指摘するように、GPUの需要がいくらあっても、「電力」「土地」「送電網」の物理的なボトルネックが供給を制限する可能性がある。10ギガワット規模のデータセンターとなれば、原子力発電所数基分の電力が必要となる。この「物理的な壁」をどう乗り越えるかが、2026年以降の成長の鍵を握るだろう。
競合の追随
AMDやIntel、そしてハイパースケーラー各社の自社開発チップ(Amazon Trainium等)も進化している。しかし、NVIDIAの「CUDA」を中心としたソフトウェアエコシステムの壁は依然として厚く、短期間で崩れる兆候は見られない。
AI産業革命はまだ「序章」に過ぎない
NVIDIAの2026年度第3四半期決算は、AIブームが一過性のものではなく、産業構造を根本から変える長期的なトレンドであることを再確認させるものだった。
売上高8.8兆円、利益率73%という数字は、製造業の常識を覆すものだ。しかし、Jensen Huang氏にとっては、これも「AIがあらゆる産業、あらゆる国へ浸透する」プロセスの通過点に過ぎないのかもしれない。
我々一般消費者にとっても、この決算は対岸の火事ではない。スマートフォン、自動車、医療、そして日々の仕事のツールに至るまで、NVIDIAのGPU上で学習・推論されたAIが、より深く生活に浸透してくる未来が、確実なものとして示されたからだ。
短期的には株価のボラティリティ(変動)は避けられないかもしれないが、ファンダメンタルズ(基礎的条件)は極めて強固だ。今回の決算は、AIという名の「列車」がまだスピードを上げ続けていることを、明確な数字で証明したと言えるだろう。
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