2025年6月5日の発売が目前に迫る「Nintendo Switch 2」。この次世代ゲーム機の心臓部であるカスタムNVIDIA製SoC(システム・オン・チップ)の製造を、韓国Samsung Electronicsのファウンドリ部門(半導体受託製造部門)が獲得したとの報道が相次いでいる。これは、長らくTSMCが牙城を築いてきたゲーム機向け半導体市場において、Samsungが風穴を開ける大きな一歩となる可能性を秘めたものだ。さらに、この動きは業界全体に波紋を広げ、これまでTSMCを主要パートナーとしてきたSonyやAMDといった大手企業までもが、Samsungファウンドリとの協業に関心を示しているとの観測が浮上している。
Switch 2が火種?Samsungファウンドリ、任天堂とのタッグで業界地図を塗り替えるか
Nintendo Switch 2に搭載されるSoCは、NVIDIAがカスタム設計した「T239」とされる。初代SwitchではTSMCが製造を担当していたが、今回はSamsungの8nm FinFETプロセスが採用された模様だ。この変更の背景には、いくつかの戦略的な理由があったとみられている。
DigiTimesなどの報道によれば、NintendoがTSMCからSamsungに切り替えた主な要因として、Samsungの8nmプロセスの安定した生産能力とプロセス互換性が挙げられている。Switch 2の初期生産目標は2000万台を超えるとも言われ、大規模な量産体制の確保は至上命題だ。Samsungの8nm FinFETプロセスは、すでにNVIDIAのGPUなど高性能チップの製造実績があり、歩留まりも安定しているとされる。
さらに、SamsungはSwitch 2向けにSDカードも供給すると報じられており、チップだけでなく関連コンポーネントを含めたシステムレベルでの最適化ソリューションを提供できる点も、Nintendoにとって魅力的に映ったようだ。また、Samsungが将来的なダイシュリンク(半導体チップの縮小版製造)を含む長期契約や、初代Switch OLEDで実績のあるOLEDパネルの供給契約も視野に入れている可能性もあり、両社のパートナーシップがより多層的なものになる可能性も否定できないだろう。
この契約はSamsungにとって経済的にも大きな意味を持つ。市場調査機関は、Switch 2が初年度に2000万台販売されれば、Samsungファウンドリに約1.6兆ウォン(約1660億円)もの収益をもたらすと試算している。これは、TSMCの牙城であったゲームコンソールチップ市場への本格参入の足がかりとして、Samsungにとって極めて重要なマイルストーンと言えるだろう。
TSMC一強時代は終わる?Samsungへの期待と囁かれる「大口顧客」の影
今回のNintendo Switch 2のSoC製造受注は、Samsungファウンドリが長年のライバルであるTSMCに対して「一矢報いた」形となり、業界関係者の間では「TSMCへの挑戦の第一歩」「Samsungファウンドリ事業の転換点」として注目されている。そして、この成功が他の大手企業を引きつける呼び水となるかもしれない。
特に注目されるのが、SonyとAMDがSamsungファウンドリとの協業に関心を示しているという報道だ。DigiTimesによると、両社は将来のカスタムチップ製造の選択肢としてSamsungを検討している可能性があるという。
Sonyに関しては、次世代のPlayStation 6に加え、携帯型ゲーム機(通称「PS6携帯機」)の開発も噂されている。この携帯機のSoC(コードネーム「Jupiter」)開発において、SonyとAMDがSamsungの次世代2nmプロセス採用を視野に入れている可能性も囁かれているが、もしこれが実現すれば、Samsungは最先端プロセスにおいても大きな実績を手にすることになる。
AMDもまた、CPU、GPU、そしてカスタムSoCと幅広い製品ラインナップを持つ。現在はTSMCと強固な関係を築いているが、リスク分散やコスト交渉力の強化、あるいは特定の製品におけるSamsungプロセスの優位性などを考慮し、Samsungファウンドリの活用を検討する可能性は十分に考えられる。
これらの動きの背景には、TSMCの現状も影響しているかもしれない。Apple、NVIDIA、AMDといった巨大テック企業からの最先端プロセスへの旺盛な需要により、TSMCの生産キャパシティは常に逼迫していると言われる。一方で、Samsungは生産能力に比較的余裕があるとされ、これが新たな顧客を引き付ける要因の一つになっている可能性がある。
Samsungの戦略と将来展望:8nmの成功から2nm、さらにその先へ
SamsungがNintendo Switch 2で採用された8nmプロセスは、最先端ではないものの、性能、消費電力、コストのバランスに優れた成熟したプロセスだ。Switch 2のSoCのダイサイズは207mm²と比較的大きく、これはコスト効率が重視される量産品において、8nmプロセスが適切な選択であったことの証左とも言えるだろう。
Samsungにとって、8nmプロセスでの成功は、顧客からの信頼を醸成し、現在開発に注力している3nmや2nmといったGAA(Gate-All-Around)構造を採用する最先端プロセスへの顧客誘致にも繋がる重要な布石となる。最近の報道では、Samsungの2nmプロセスが歩留まりにおいてTSMCの同等プロセスに匹敵するレベルに達しつつあり、NVIDIAやAMD、そしてSonyからの受注が期待されることも報じられていた。
DigiTimesは、Samsungファウンドリが従来のスマートフォンやサーバー向けチップという得意分野から、ゲームコンソールのような新たな家電分野へも積極的に進出することで、顧客基盤を多様化し、収益基盤を拡大していく戦略であると分析している。
半導体業界の勢力図はどう変わるのか
一連の動きは、長らくTSMC一強とされてきた半導体ファウンドリ市場の勢力図に、少なからず影響を与える可能性がある。もしSamsungがSonyやAMDといった大口顧客の獲得に成功すれば、TSMCとの競争はさらに激化し、技術開発競争や価格競争が新たな局面に入ることも考えられる。
また、地政学的リスクの高まりや米中対立の先鋭化などを受け、半導体サプライチェーンの多様化は多くの企業にとって喫緊の課題となっている。そうした観点からも、TSMC以外の有力な選択肢としてSamsungの存在感が増すことは、業界全体にとって歓迎すべき動きと捉えることもできるだろう。
しかし、Samsungファウンドリが本格的にTSMCの牙城を崩すには、まだ乗り越えるべきハードルも多い。過去には先端プロセスの立ち上げで苦戦した経験もあり、顧客からの絶対的な信頼を勝ち取るためには、技術力、生産能力、そして納期遵守といったあらゆる面で最高水準を維持し続ける必要があるだろう。
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