欧州宇宙機関(ESA)は2026年11月6日、再使用を目指して開発中のロケットエンジン「Prometheus」が、ドイツの改修済み試験設備で燃焼試験に成功したと発表した。10月29日に実施された試験では、高圧スターターを使わず、エンジン入口の圧力を利用して複数回の再着火に成功した。Prometheusは2025年にも連続着火を達成しているが、今回は始動条件の改善に加え、新しい製造方法を採用した燃焼室と、液体メタンに対応した地上設備の検証も行われた。ロケットの帰還や着陸に必要な再着火を、異なる始動条件で繰り返せることを確認した成果となる。

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2025年の4回連続着火から前進、高圧スターターなしで再着火

Prometheusは2025年6月20日、フランスのVernonにあるPF20試験台で4回連続の着火に成功していた。ESAが同年7月2日に発表したこの試験では、2基目の開発用エンジンが使用された。したがって、今回の成果はPrometheusが初めて再着火に成功したというものではない。前回の試験から何が進歩したのかを理解するには、着火回数だけでなく、エンジンの始動条件に注目する必要がある。

ESAの今回の発表によると、最大の違いは高圧スターターを使わずに再着火できたことだ。エンジン入口の圧力を利用する方式で、燃焼を停止した後に再びエンジンを始動できることを確認した。ESAは、このクラスの欧州製エンジンとして初めての実証だと位置付けている。ただし、不要になったのは高圧スターターであり、始動に必要な補助装置や制御機構がすべて不要になったという意味ではない。

試験場所も、2025年のPF20からドイツのLampoldshausenにあるP5試験台へ変わった。P5はESAが所有し、ドイツ航空宇宙センター(DLR)が運営する設備である。Prometheusの開発はESAの将来打ち上げ輸送準備計画(FLPP)の支援を受けており、ArianeGroupが主契約者を務めている。今回の試験では、エンジン単体の性能だけでなく、燃焼と再着火を支える地上設備も含めた検証が行われた。

DLRは、再使用型ロケットの機体が帰還して着陸するには、エンジンの再着火と推力調整が重要だと説明している。ただし、今回の試験で実際に何回着火したのかは公表されていない。DLRが示した「1日に最大5回」という数字は試験設備の運用能力に関する説明であり、今回の着火回数を示したものではない。そのため、2025年の4回連続着火と比較して、再着火回数が増えたと判断することはできない。今回の進歩は、着火回数の更新よりも、始動条件の改善と試験環境の拡充にある。

金属粉末を高速で吹き付ける新製法の燃焼室を初試験

今回の試験では、燃焼室の製造方法にも新たな技術が採用された。ArianeGroupによると、初めて燃焼試験に使用した新しい燃焼室には「コールドスプレー」と呼ばれる製法が使われている。これは金属粉末を高速で吹き付け、母材の表面に衝突させて固着させる技術だ。従来とは異なる製造工程を取り入れた燃焼室を実際のエンジンに組み込み、燃焼時に動作することを確認した。

ただし、コールドスプレーは金属粉末を利用する製造技術だからといって、燃焼室全体を一体造形したことを意味するわけではない。今回の発表で説明されているのは、燃焼室の母材表面に金属を堆積させる工程であり、部品全体の製造方法や構造の詳細までは明らかにされていない。このため、一般的な金属3Dプリンティングによる一体造形と同一視するのは適切ではない。

ESAは、コールドスプレーの採用によって製造時間と費用を削減できると説明している。しかし、従来の製法に必要だった日数や費用、新製法による削減率など、具体的な比較データは公表されていない。今回確認されたのは、新製法を採用した燃焼室が実際の燃焼試験で動作したという事実であり、製造コストの削減効果が定量的に実証されたわけではない。

新しい製法を使った部品が燃焼試験に進んだことは、製造技術の実用化に向けた重要な一歩となる。ただし、再使用型エンジンへの採用を判断するには、繰り返し燃焼させた後の耐久性や、製造工程の安定性も確認する必要がある。製造時間と費用の削減幅が実測値として明らかになれば、従来の製法に対する優位性をより具体的に評価できるようになる。

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P5試験台を改修、液体メタンの供給と再着火に対応

今回の試験では、P5試験台が初めて液体メタンと液体酸素を使用する燃焼試験に対応したことも重要な成果となった。ロケットエンジンの試験台は、エンジンを固定するだけの設備ではない。推進薬を適切な温度と圧力で供給し、推力や流量などの運転データを測定する役割を担う。特に再着火を繰り返す試験では、燃焼停止後に供給系を安全な状態へ戻し、次の始動条件を整える必要がある。

DLRの発表によると、燃焼を終えるたびにエンジンと供給系を安全に停止させ、次の始動に向けた準備を行う。具体的には、供給系に残った液体を排出し、内部に残留する流体を追い出すパージ処理を実施する。その後、圧力と温度を次の試験に適した条件へ調整し直す。再着火試験では、エンジンの燃焼が停止している間も、地上設備で複数の作業が必要になる。

エンジン単体に再着火能力があっても、推進薬の供給条件を適切に整えられなければ、繰り返し試験を実施することはできない。今回のP5の改修は、液体メタンと液体酸素を使った燃焼を可能にするだけでなく、停止と再始動を繰り返すための設備能力を拡充するものでもある。こうした地上設備の整備によって、異なる運転条件でエンジンの挙動を継続的に調べられるようになる。

DLRは試験中、エンジンの推力や推進薬の流量を測定するとともに、圧力比や温度も記録している。改修後のP5では、長時間燃焼や推力の変化を伴う試験に加え、それらの条件が再着火に与える影響も調べられるという。ArianeGroupも、液体メタンと液体酸素を使用する長時間燃焼試験にP5が対応できることを確認したと説明している。ただし、これは長時間の燃焼試験を実施できる設備能力の確認であり、今回の各燃焼が実際に何秒続いたかを示すものではない。個々の燃焼時間については公表されていない。

燃料として液体メタンを採用することは、地上設備の設計にも影響する。DLRによれば、液体メタンは液体水素より密度が高く、より高い温度で貯蔵できるため、タンクや供給系の設計、燃料の取り扱いを容易にする利点がある。一方、ESAは改修したP5について、従来の液体水素と液体酸素を使用する試験にも再び切り替えられると説明している。今回の改修では、既存の推進薬への対応能力を残しながら、メタンエンジンの試験に必要な機能を追加したことになる。

再使用の実用化に向けて残された課題

ArianeGroupはPrometheusを、推力100〜120トンクラスのロケットエンジンとして説明している。ただし、この数値はエンジンの設計上の推力区分であり、今回の燃焼試験で測定された実測推力を示しているわけではない。また、今回の成果はESA、DLR、ArianeGroupによる公式発表に基づくものであり、査読論文やプレプリントとして報告された研究成果ではない。実際のエンジンを使った地上燃焼試験ではあるものの、公開された情報だけで推力性能や耐久寿命、運用コストを詳しく評価することは難しい。

今回の成果を正確に理解するには、再着火能力、燃焼室の製造技術、地上試験設備、実際の飛行での再使用を区別する必要がある。ESAが公表した2025年の試験結果と、今回のESAおよびDLRなどの発表を整理すると、確認済みの成果と今後の検証項目は次のようになる。

検証対象 確認された成果 未公表の情報・今後の課題
2025年のPF20試験 6月20日に4回連続着火に成功 P5試験とは始動条件や試験環境が異なる
2026年のP5試験 10月29日に高圧スターターを使わず複数回再着火 正確な着火回数、各燃焼時間、エンジン入口圧力
新製法の燃焼室 コールドスプレーを採用した燃焼室の初燃焼試験に成功 製造時間・費用の削減幅、反復燃焼後の耐久性
改修されたP5 液体メタンと液体酸素を使用する燃焼試験に対応 今回の詳細な測定値、反復運転時の性能データ
飛行での再使用 今回は地上燃焼試験を実施 帰還・着陸、飛行後の整備、反復飛行時の耐久寿命

※2025年と2026年の試験は実施場所と始動条件が異なるため、着火回数だけで性能の改善率を比較することはできない。また、ESA、DLR、ArianeGroupの発表は同じ試験に関するものであり、それぞれが独立した追試を実施したわけではない。

地上燃焼試験では、推進薬の供給条件を整えながらエンジンの動作を詳細に測定できる。しかし、再使用型ロケットの実用性を評価するには、飛行後のエンジンがどの程度の損耗を受け、再び使用するまでにどれだけの整備が必要になるかを確認しなければならない。今回の発表では、試験に使用したエンジンの総個体数や累積燃焼サイクル数、詳細な測定データは公開されていない。そのため、今回の再着火成功から反復飛行時の耐久寿命や経済性まで判断することはできない。

次の開発段階として、ESAとArianeGroupは改良型エンジン「Mark 2」をフランスのVernonで試験する予定だ。ただし、具体的な試験日や初飛行日、運用開始時期は今回の発表では明らかにされていない。今後は再着火条件のさらなる検証に加え、反復燃焼後の部品の状態、整備に必要な作業、製造時間と費用の実測結果が重要になる。Prometheusの開発は、再着火が可能であることを示す段階から、繰り返し使用するための技術的・経済的な条件を明らかにする段階へ進みつつある。