米Qneticは2026年9月21日、フライホイール蓄電システムの試作機「Pulsar」について、低速での統合試験を始めたと発表した。設計上の蓄電容量は200kWh。組み上げた試作機を実際に動かし、制御装置や安全装置、電力変換装置などが連携して正常に機能するかを確認する段階に入った。
ただし、今回の発表は「200kWhの電力量を実際に充放電できた」という意味ではない。同社が公表した100回の充放電試験と、別に実施したモーター単体の性能試験は、Pulsarの実用化に向けた別々の性能を確認したものだ。
200kWhという数字だけでは、まだ分からないこと
Qneticによると、Pulsarは低速運転で100回連続して充放電し、故障や容量低下は確認されなかった。部品単体の動作を確認する段階から、複数の装置を組み合わせて動かす段階へ進んだことに意味がある。
回転体を支える機構、電力を出し入れする装置、異常を監視する制御系は、それぞれ単独では問題なく動いていても、組み合わせると振動や発熱、制御の遅れなどが生じる可能性があるためだ。
ただし同社は、100回の各サイクルで何kWhを充放電したのか、1回にどれほどの時間をかけたのか、どの程度の出力で試験したのかを明らかにしていない。「容量低下がなかった」という結果も、あくまで今回の試験条件下での初期的な観察である。設計容量の200kWhをフルに使った試験や、長年の運転に相当する耐久試験の結果とみなすことはできない。
もう一つの性能値は、別途試験されたモーターから得られたものだ。Qneticは、出力130kW、モーター効率97.3%、最高回転数11,010rpmを記録したと報告している。
これは電気エネルギーを回転エネルギーへ変換するモーター単体の性能を示す。一方、この97.3%という効率には、蓄電システム全体で生じる損失は含まれていない。
電力変換器や軸受、待機中の消費電力などを含め、充電時に投入した電力量の何割を放電時に取り戻せるかを示す「往復効率」は、まだ公表されていない。130kWという値もモーター単体の試験結果であり、Pulsarが130kWを連続して放電できることを示したものではない。
Qneticは9月12日に鋼製の仮ローターを使った試験計画を説明し、15日にはモーター単体の試験結果、21日には低速での統合試験を公表した。ここまでの結果から確認できるのは、装置の組み立てと低速域での基本動作までであり、200kWhの実放電、システム全体の往復効率、待機損失、高速回転時の安全性については、今後の試験を待つ必要がある。
鋼製の仮ローターを使って試験する理由
Qneticが9月12日に説明した試験計画には、もう一つ重要な条件がある。同社は、最終製品で使用する炭素繊維製ローターと寸法や質量特性をそろえた鋼製の仮ローターを使い、組み立てと初期の低速試験を進めている。炭素繊維製ローターは当時、まだ製造中だった。
9月21日の発表ではPulsarを「初の実寸試作機」と呼んでいるが、最終仕様のローターを使って定格条件まで運転したという意味ではない。
仮ローターの寸法や質量特性を最終品に近づけることで、回転体を支える機構や筐体、制御装置を完成品に近い条件で試すことができる。一方、鋼と炭素繊維では、高速回転時に耐えられる応力や、破損した場合の挙動まで同じにはならない。
つまり今回の試験によって、組み立てや低速域でのシステム統合に関する不確実性は減らせるが、最終的な材料構成で高速回転させた場合の性能や安全性は、まだ確認されていない。
仮ローターを使えば、回転体が装置内部でどのように振る舞うのかを早い段階で調べられる。組み立て精度や回転バランスのずれ、軸受や制御装置の応答などを確認し、問題があれば速度を上げる前に修正できる。Qneticが低速から段階的に運転条件を引き上げているのは、このためだ。
フライホイールに蓄えられるエネルギーは、回転体の慣性モーメントと回転速度の二乗に比例する。同じ回転体であれば、回転速度を上げるほど蓄えられるエネルギーは急激に増える。
その一方で、材料にかかる負荷も大きくなり、万が一破損した場合には、より大きな回転エネルギーを安全に封じ込める必要がある。鋼製の仮ローターを使った低速試験は、制御や装置全体の連携を確かめる材料にはなるが、炭素繊維製ローターを使った高速運転時の強度や安全性まで証明するものではない。
200kWhに近いエネルギーを実際に蓄えた状態で装置がどう振る舞うのかは、今後の試験で確認されることになる。
既存のフライホイールと比べて何が違うのか
フライホイールを電力系統の蓄電設備として使う発想自体は新しいものではない。
米エネルギー省が紹介しているBeacon Powerの設備では、Gen4フライホイールの設計値は1基あたり25kWh、出力100kW。200基を組み合わせ、合計20MWの周波数調整設備として運用する構成が示されている。
周波数調整とは、電力需要と供給のわずかなずれに応じて、電力を素早く充放電する用途だ。
同省の資料では、Beaconの装置は15万回を超える完全充放電サイクルを想定し、機械部分を20年以上使用できるよう設計されていると説明されている。
もちろん、これはPulsarの寿命を示す数字ではない。それでも、蓄電技術の実用性を評価する際には、「最初の100回で容量が低下しなかったか」だけでは不十分だと分かる。どの程度の充放電深度で、何回繰り返せるのか。さらに保守を含めて長期間安定して使えるのかを確認する必要がある。
Pulsarの設計容量200kWhは、Beacon Gen4の1基あたり25kWhと比べると8倍になる。ただし、これはあくまで設計値同士の比較であり、Pulsarが実際に200kWhを充放電できたことを意味しない。
Beaconの例では、比較的小容量のフライホイールを多数組み合わせて高い出力を得ている。一方のPulsarは、1基あたりの蓄電容量を200kWhまで増やそうとしている。
この違いが、より長時間の電力供給に結びつくかどうかは、実際に利用できる蓄電容量と連続出力を試作機で測定して初めて判断できる。
ここでは「容量」と「出力」を分けて考える必要がある。kWhは蓄えたり取り出したりできる電力量を表し、kWはその瞬間にどれだけの電力を出せるかを表す。
どれだけ長く電力を供給できるかは、利用可能な容量と継続的に出せる出力の両方で決まる。Pulsarの設計容量200kWhと、別の試験で得られたモーター出力130kWを単純に割っても、実機の連続放電時間を求めることはできない。
回転速度が低下するにつれて取り出せるエネルギーや出力がどう変化するのかも含め、完成したシステム全体で測定する必要がある。
独立評価で問われるのは、実際に使える電力量と損失
Qneticは、米電力研究所EPRIの「deRISKED」プログラムに参加し、サクラメント市営電力公社SMUDの支援を受けながら評価を進めるとしている。
2026年秋から試作機の試験データをEPRIへ提供し、その後は実地試験のデータも共有する計画だ。EPRIの資料によると、deRISKEDは商用化前の蓄エネルギー技術について、性能、安全性、信頼性を研究室や実地試験のデータから評価する取り組みである。
ただし、プログラムへの参加が発表されたことと、Pulsarの性能をEPRIがすでに認証したことは別である。
SMUDが評価を支援することで、実際の電力事業者が試験や評価に関与する体制も整う。ただし、SMUDへの導入や商用運転が決まったわけではない。また、EPRIに提供されたデータや評価結果が、どの範囲まで一般公開されるのかも現時点では明らかになっていない。
電力会社が実際に採用を判断するには、最終仕様の炭素繊維製ローターを定格速度まで回したとき、何kWhを実際に取り出せるのかを確認する必要がある。定格出力をどれだけの時間維持できるかも重要だ。
さらに、充電から放電までの往復効率に加え、待機中に消費する電力や、一定時間のうちに失われるエネルギーも別々に測る必要がある。
頻繁に短時間の充放電を繰り返す用途と、数時間にわたってエネルギーを保持して供給する用途では、重視すべき性能指標が異なるためだ。
フライホイールは、受け取った電気エネルギーを化学反応ではなく回転エネルギーとして蓄える。しかし、長時間待機すれば損失は積み重なる。
回転体を支える装置や真空を維持する設備、制御系などに必要な電力も含めて評価しなければならない。瞬間的な充放電が得意でも、数時間後にどれだけのエネルギーを保持できているかによって、適した用途は変わる。
安全性とコストも重要な評価項目だ。大きな回転エネルギーを持つローターに異常が起きた場合、保護装置や外殻がどのように機能するのか。軸受や真空系の保守費用まで含め、長期的に見てどの用途なら既存の蓄電技術と競争できるのか。
今回の低速100サイクル試験は、こうした性能を本格的に検証するための第一歩となった。最終仕様のローターを使った試験で、実際の蓄電容量や損失が明らかになり、さらにEPRIの評価や実地運転でも同様の性能が確認されれば、Pulsarが周波数調整のような高頻度の充放電用途だけでなく、より長時間の蓄電用途にも使えるのかを具体的に判断できるようになる。



