Raspberry Piが2026年4月1日、LPDDR4(低電力DDR4)DRAMの価格高騰を理由に3度目となる価格改定を実施した。値上げ幅は製品・メモリ容量によって$11.25から$150と大きく開き、16GB搭載のRaspberry Pi 5は$305に達した——ケースも電源もストレージも含まない、ボード単体の価格だ。直接の引き金は1年で7倍に跳ね上がったDRAMコストだが、その背景にはAIデータセンター向け高性能メモリの需要急増がある。CEOのEben Upton氏は「一時的な措置」と繰り返すが、12月・2月・4月と3ヶ月おきに続いた値上げは、消費者向けメモリ市場で何かが根本的に変わったことを示している。

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AI需要が引き起こした「7倍高騰」の構造

価格上昇の直接原因はDRAMの需給崩壊だが、その起点にあるのはAIデータセンター投資の急拡大だ。Samsung、SK hhynix、MicronといったDRAM大手は、GoogleやAmazon、Microsoftが大規模展開するAIインフラ向けに、HBM(高帯域幅メモリ)の生産を優先するよう設備と工程を組み直している。HBMはAIアクセラレーター(GPUやTPU)に搭載される高マージン品で、LPDDR4の数倍の利益率を持つ。DRAM各社の経営判断としては合理的だが、その結果として民生向け省電力DRAMのサプライチェーンが締め付けられた。

Counterpointリサーチが公開するメモリ価格トラッカーによれば、LPDDR4 DRAMの価格はこの1年で7倍に達している。Upton氏はブログポストでこの数値を直接引用し、価格転嫁の必然性を説明した。12月に初めて値上げに踏み切り、2月に2度目の改定を行い、今回が3度目——4ヶ月足らずで3回という頻度は、DRAMコストの上昇が一過性のスパイクではなく、持続的な構造変化であることを示している。前回2月の改定ではRaspberry Pi 4・5のみが対象だったが、今回はCompute ModuleやAIアクセサリーにまで範囲が広がった。

Raspberry Pi以外にも被害は広がっている。ゲーミングハンドヘルドのAyaneo Next 3はメモリコストの高騰を理由に発売がキャンセルされ、Valveが発表したSteam Machineも同じ理由で延期が続く。IoT機器や組み込みシステムを扱うメーカーはどこも同じ壁に直面しており、LPDDR4を使う小型コンピューターの製造コストは軒並み跳ね上がっている。Raspberry Piはその中でも「安価なコンピューティングを提供する」という使命を公に掲げた組織だけに、値上げの影響が際立って見える。

今回の値上げ全容:$11.25から$150まで

今回の改定対象は4GB以上のメモリを搭載するRaspberry Pi 4・5シリーズを中心に、Raspberry Pi 500・500+、全バリアントのCompute Module 4・4S・5、Compute Module 5の開発キット、Raspberry Pi AI HAT+ 2だ。メモリ容量に応じて値上げ幅が上昇する設計で、4GBなら$25、8GBなら$50、16GBなら$100の増加となる。最大の影響を受けたのはRaspberry Pi 500+で、本体のみ・キットともに$150の値上げとなり、キット価格は合計$410に達した——これは6ヶ月前の多くのミニPCよりも高い価格帯だ。

製品メモリ値上げ幅
Raspberry Pi 4・54GB+$25
Raspberry Pi 4・58GB+$50
Raspberry Pi 516GB+$100
Raspberry Pi 500(本体・キット)+$50
Raspberry Pi 500+ 本体のみ+$150
Raspberry Pi 500+ キット+$150
Compute Module 4・4S1GB+$11.25
Compute Module 4・4S・52GB+$12.50
Compute Module 4・4S・54GB+$25
Compute Module 4・4S・58GB+$50
Compute Module 516GB+$100
Compute Module 5 開発キット+$25
Raspberry Pi AI HAT+ 2+$50

The Vergeが指摘したように、16GB Raspberry Pi 5への$100値上げは、2024年の初発売時の価格$120に迫る増加額だ。発売から2年以内に、値上げ分だけで当初価格の83%に相当する。ただし、全製品が対象ではない。Raspberry Pi 400(4GB)は$60を維持し、Raspberry Pi 4・5の1GB2GB版は$35〜$65の価格帯をキープした。ZeroシリーズやRaspberry Pi 1・3シリーズは旧世代のLPDDR2 DRAMを使用しており、同社が相当量の在庫を確保しているため今回の影響を受けない。

新製品として3GB版のRaspberry Pi 4が$83.75で登場した。4GB版より低コストなメモリ構成を採用した中間的な選択肢で、既存の認定リセラーから即日購入できる。Upton氏は「必要以上のメモリに対して費用を払わないようにしてほしい」と述べており、この3GBモデルはその「必要分だけ選ぶ」戦略の一環だ。発表が4月1日だったことから、エイプリルフールと疑う反応もあったが、Upton氏は「今日の日付にかかわらず、新しいコンピューターは他の製品と同様に本物だ」とわざわざ断った。

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$305のボードvs$150のミニPC——競合図が逆転した

16GB搭載のRaspberry Pi 5は$305だが、これはボード単体の価格だ。実際に使えるシステムにするには、MicroSDカードまたはSSD、USB-C電源ユニット、ケースが最低限必要で、合計でさらに$50〜$80程度の出費が加わる。一方、同程度の予算があれば、Windows 11またはLinuxがプリインストールされ、USBポートやHDMI出力が揃ったミニPCを入手できる。KAMRUIやACEMAGICといったブランドのエントリーモデルは$150前後から存在し、大半がユーザーによるRAM増設・SSD換装に対応しており、Raspberry Piに不可能な拡張性を持つ。

ただし、この価格比較が成立するのは「安価な汎用コンピューター」を目的とする場合に限られる。Raspberry Piが本来の価値を発揮するのは、GPIO(汎用入出力)ピンを使ったハードウェア制御、クレジットカードサイズの基板で実現するコンパクトな組み込みシステム、IoTセンサーやロボット制御、そして「Linuxをゼロから学ぶ」教育環境だ。これらの用途では、ミニPCはRaspberry Piの代替にならない。アイドル時の消費電力も、5W以下のRaspberry Piに対してミニPCは10〜20Wが一般的で、常時稼働するホームサーバーでは電気代の差も積み重なる。

しかし、ホームサーバーやNAS(ネットワーク接続ストレージ)、Plexといったメディアサーバーの構築、あるいはセルフホスティングを試したい用途では、ミニPCの方が合理的な選択になりつつある。ストレージの拡張性、処理速度、ユーザーによるRAM増設といった点で、安価なミニPCはRaspberry Pi 5の高価格帯モデルを圧倒する場合も出てきた。「純粋なコストパフォーマンス」の比較では、$300超の予算でRaspberry Pi 5の16GBを選ぶ積極的な理由は、以前より確実に狭まっている。

Raspberry Piが守ろうとしている「最後の砦」

Upton氏は今回の値上げを「一時的な措置」と位置づけ、「DRAMの価格が下がれば、我々も値下げする」と明言した。DRAMメーカーのHBM向け生産シフトは既存設備の転用を伴うため、長期的にはLPDDR4の供給が回復する可能性はある。Upton氏の「値下げ」約束にはこの見立てが背景にある。ただし、そのタイムラインは「AIデータセンター投資がいつ鈍化するか」という不確定要素に完全に依存しており、Raspberry Pi側は具体的な見通しを示せていない。

Raspberry Piが明確に守ろうとしているのは、1GB2GB4GB(Raspberry Pi 400のみ)という低容量帯と、ZeroシリーズをはじめとするクラシックラインのLPDDR2製品だ。LPDDR2の在庫を積み増すことで、教育・入門用途のユーザーが使える$35〜$65の価格帯を意図的に確保している。皮肉なことに、「スペックの低い旧世代ボード」こそが今のRaspberry Piの価値命題の核になっている。3GBモデルの新規投入も同じ方向性で、高メモリ版に費用をかけたくないユーザーへの選択肢を広げることで、少しでも多くのユーザーを手の届く価格帯につなぎとめようとしている。

高容量版が$305を超えた今、Raspberry Piが設立当初から掲げてきた「誰でも買えるコンピューター」という理念は、少なくとも高メモリ帯では形骸化した。残る強みは、GPIOを活かしたハードウェアプロトタイピングの自由度と、20年かけて世界中に形成されたエコシステムだ。豊富なドキュメント、ユーザーコミュニティ、対応ハット(拡張基板)の蓄積は、どの安価なミニPCも持ち合わせていない。AI産業のDRAM争奪戦が長引くほど、Raspberry Piは「誰でも買える安価なコンピューター」から「特定の用途に特化したSBC(シングルボードコンピューター)」へとポジションが移動していく。それはRaspberry Pi Foundationが2012年の創設以来掲げてきた使命から、かなり遠い場所だ。


Sources