RIAAが2026年9月1日に公表した上半期報告で、米国のCD出荷は1,750万枚、前年同期比45.7%増となり、卸売収入も1億7,110万ドルへ58.6%伸びた。2025年通年のCD出荷は枚数で11.6%減っており、その直後の半年で数字は反対を向いたことになる。ところが同じ期間の実売を集計するLuminateのデータでは、CDは1,630万枚・16%増にとどまり、伸び幅にして29.7ポイントの開きがある。増えたCDは、いま誰の手元にあるのか。
前年11.6%減った出荷が、半年で1,750万枚へ
RIAAの中間報告が示すCDの数字は、直前の推移と比べると振れ幅の大きさが分かる。米国のCD出荷は2024年通年で3,330万枚・3億3,890万ドル、2025年通年で2,950万枚・3億1,240万ドルだった。RIAAの2025年通年報告は、この間の減少率を枚数で11.6%、金額で7.8%と記載している(丸めた枚数同士の単純な引き算では11.4%になるが、RIAAの原表がそのまま11.6%としている)。ところが2026年上半期は1,200万枚から1,750万枚へ増え、収入も1億790万ドルから1億7,110万ドルへ伸びた。半年で550万枚を積み増した計算になる。
この表を読むときに押さえておく前提が二つある。ひとつは集計の単位で、RIAAが並べているのは「米国卸売ドル建て・返品控除後」の金額と、レーベルから小売への出荷枚数である。店頭で消費者が払った金額ではない。
もうひとつは基準の切り替えである。RIAAは2025年の報告から集計を小売推定額から卸売額へ変更し、2024年分もこの基準へ再計算して並べている。2024年と2025年はこの再計算後の卸売額どうしで比較できるが、旧基準の小売推定額(2023年以前)とはそのままつなげられない。長期の推移を追うなら枚数で見るのが安全であり、枚数はこの基準変更の影響を受けない。
CDが伸びたといっても、米国の録音音楽全体でCDが占める位置は小さいままだ。上半期の総収入は59億7,490万ドル(6.9%増)で、うちストリーミングが48億9,070万ドル、全体の82%を占める。有料サブスクリプションの会員数は1億1,110万で5.5%増えた。CDの1億7,110万ドルは総収入の2.9%(171.1÷5,974.9)にすぎない。ストリーミングが土台を支える構造は変わっていない。
それでも今回の中間報告でCDが注目を集めたのは、収入の伸び率が全カテゴリで最も高かったからである(枚数の伸び率ではカセットなどその他の物理が73.4%増で最大となる)。アナログレコードは2,650万枚・5億4,380万ドルで、枚数20.9%増・金額17.7%増。カセットなどその他の物理は160万枚・1,650万ドルで、枚数73.4%増・金額44.9%増だった。物理メディア全体では前年同期の5億8,120万ドルから7億3,150万ドルへ、25.9%増えている。
伸び率でCDがレコードを上回ったのは、2020年にレコードが収入でCDを逆転して以来の反転にあたる。RIAA会長兼CEOのMitch Glazierは、米国の音楽収入がフォーマットを横断して伸び続ける中で、レーベルがアーティストとファン、配信プラットフォームの結びつきを強めていると説明している。
なぜ2つの公式統計は29.7ポイントも食い違うのか

同じ2026年上半期を、Luminateは別の測り方で集計している。実売ベースのCDは1,630万枚で16%増、アナログレコードは2.4%増、物理アルバム計は3,820万枚で7.8%増だった。Luminateは大手小売とEコマースからオンライン・店頭双方の直接販売データを集め、独立系小売の欠落分は数理モデルによる推計で補っている。RIAAの出荷と並べると次のようになる。
| フォーマット | 出荷ベース(RIAA) | 実売ベース(Luminate) | 差 |
|---|---|---|---|
| CD | +45.7% | +16.0% | 29.7ポイント |
| アナログレコード | +20.9% | +2.4% | 18.5ポイント |
この差は、どちらかの調査が間違っているという話ではない。RIAAが数えるのはレーベルから小売への出荷(返品分を差し引いた純出荷)を軸に、直販や特別販路の分も含む枚数である。Luminateが数えるのは小売とEコマースの直接販売データ、つまり注文や店頭購入が確定した枚数で、独立系小売の一部は推計値を含む。両者が集計する対象の範囲自体が完全には一致せず、測定点も違う以上、同じ半年でも別の量を測っている。
出荷が実売より速く伸びる要因はいくつか考えられる。ひとつは流通の途中、小売の棚や倉庫への積み増しで、返品が発生すればRIAAの次の期の出荷から差し引かれるため、積まれた分は消えずに翌期の数字へ跳ね返る。ただしLuminateのオンライン販売は出荷段階で計上される場合があり、独立系小売の推計にも誤差は残る。RIAAもLuminateも、この差を在庫の積み増しだと明言してはいない。
増えた出荷の行き先を推測させる材料はいくつかある。Luminateの集計を扱ったBillboardの記事によれば、K-POPを除いてもCDの実売は6.7%増えており、伸びの全部がK-POPで説明できるわけではない。ただし牽引役として目立つのはやはり複数形態の販売設計で、BTSのアルバム『ARIRANG』はCD5形態で約56.7万枚を売ったとされる。この種の設計は、1人の購入者が複数枚を買うことを見込んでいるとみられ、レーベルは形態の数だけ出荷計画を立てられる。
売り場の側も変わった。Luminateの集計では、物理アルバム販売に占める大手量販店(Mass Market、TargetやWalmartが代表例)のシェアが28.7%となり、前年の23.3%から5.4ポイント伸びた。独立系小売の比率は2025年の36.6%から2026年には32.1%へ下がっている。
量販店は限定版や店舗別特典を大量に確保し、まとめて棚に積む傾向があるとみられる。棚に積んだ時点でRIAAの出荷にはカウントされ、Luminateの集計に反映されるのは販売が確定してからだ。29.7ポイントの差が生まれる経路は、この販売設計と売り場構成の組み合わせで無理なく説明がつくが、両調査の対象範囲の違いだけでも一定の差は生じうる。
CDが有料ダウンロードを上回るのは、今回が初めてではない
2026年上半期のCD卸売収入1億7,110万ドルは、有料ダウンロード全体の1億2,100万ドルを上回った。ダウンロード合計には楽曲、アルバム、着信音などデジタル販売が含まれるが、その総和よりCD単体が大きくなった。前年同期はCDが1億790万ドル、ダウンロードが1億3,860万ドルで、半期どうしの比較では順位が逆だった。
ただし、これは初めての逆転ではない。RIAAの年次集計を見ると、2023年通年でCD5億3,710万ドルに対しダウンロード4億3,430万ドル、2024年通年でCD3億3,890万ドルに対しダウンロード2億7,480万ドル、2025年通年でもCD3億1,240万ドルに対しダウンロード2億7,260万ドルと、通年ベースでは少なくとも2023年から2025年まで3年連続でCDがダウンロードを上回っている。半期ベースの順位交代は、CDが有料ダウンロードを打ち負かした新しい出来事ではない。通年で先に起きていた構図が、半期の数字にも表れただけだ。
その構図は、CDの伸びだけで生まれたわけではない。有料ダウンロードは2025年通年で前年比0.8%減、2026年上半期は前年同期比12.7%減で縮み続けている。同じ上半期でダウンロードシングルは13.7%減、ダウンロードアルバムも3.0%減で、ストリーミングに置き換えられて久しいこの形式に反転を見込ませる材料はRIAAの表にない。CDの収入が58.6%増える一方でダウンロードが12.7%減るという、双方向の動きが今回の順位交代を生んでいる。
CDの伸びには、枚数に加えて単価の上昇も効いている。RIAAの表から卸売収入を出荷枚数で割ると、2026年上半期のCD1枚あたりの卸売単価は9.78ドル(171.1÷17.5)になる。前年同期は8.99ドル(107.9÷12.0)だった。枚数が45.7%増える一方で単価も8.8%上がっており、収入の58.6%増はこの二つの積である。
RIAAの表は商品構成別の内訳までは示していないが、単価の上昇幅から見ると、限定版や複数形態のような単価の高い商品が一定の比率を占めたとみられる。廉価な旧譜だけを大量に流しても、この上昇は説明しにくい。
収益への効き方はさらに偏っている。上半期の総収入は前年同期の55億8,740万ドルから59億7,490万ドルへ、3億8,750万ドル増えた。このうち物理メディアの増分は1億5,030万ドル(7億3,150万ドル−5億8,120万ドル)で、増収額の38.8%を占める。物理メディアは総収入の12.2%(前年同期は10.4%)を占めるにすぎないのに、上半期に増えた金額の4割近くを生んだ計算になる。
絶対額ではストリーミングの増分2億1,910万ドルが依然として最大だが、規模あたりの寄与で見ると物理メディアの効率が突出している。同じ上半期に18.2%伸びて2億3,180万ドルとなったシンクロ収入と比べても、7億3,150万ドルの物理メディアは金額でも成長率でも上回った。レーベルが物理在庫へ資源を割く理由は、この一点で説明できる。
レコードの47.6%という、CDが持っている価格の武器
同じRIAAの表からアナログレコードの卸売単価も計算できる。5億4,380万ドルを2,650万枚で割ると20.52ドルで、CDの9.78ドルはその47.6%にあたる。レーベルから小売へ渡る段階で、CDはレコードの半額以下で流れている。
ここで比べているのは卸売単価であって店頭価格ではない。デラックス版やダブルLPといったフォーマット内の構成比も調整していない。それでも、同一レポート・同一期間・同一基準の2行を割っただけの数字である。
価格差はフォーマット選択に直接効く。Loudwireの取材に応じた、インディー小売とアナログ盤に詳しい匿名の業界関係者は、フォーマット間のコスト差について「一方の形式のコストがもう一方の3倍であることが、安いほうを選ばせる要因になっていないと言うのはばかげている」と述べている。同じ関係者は、パンデミック期のように受注から納品まで6〜12か月待つ状況ではないとも説明する。予算の限られたアーティストにとって、単価が低く納期の読める形式は選びやすい。
製造側の数字もこれに沿って動いている。独立系アーティスト向けにCDを製造するDisc Makersは、2026年のCD収入が年初来9%増、4月は前年同月比18%増だったと説明している。同社CEOのTony van Veenは、CDが戻ってきているのは懐古のためではなく理にかなっているからだと述べ、Z世代にとって手頃で手に取れる形式である点を挙げた。レコードが1枚20ドル台の商材として物理メディアの高価格帯を占めるなら、CDはその下の帯を埋める。
CDが4割を占め続ける日本と、2.7%の米国
米国でCDが伸びたといっても、日本の物差しで見れば比率はまだ小さい。日本レコード協会が2026年3月4日に公表した2025年の国内録音音楽市場推計は3,988億円で、うちCDが1,686億1,900万円を占める。比率にして42.3%である。一方のRIAA集計では、2025年通年の米国CD収入3億1,240万ドルは録音音楽合計115億ドルの2.7%にとどまる。同じ2025年で、CDの構成比には約15倍の開きがある。
この比較には条件が付く。日本レコード協会の「CD」はCDシングルとCDアルバムの合計で、返品を控除した正味出荷実績をもとにした市場推計である。一方のRIAAの「CD」はフルレングスのアルバムだけを指し、CDシングルは別カテゴリの「その他物理」に計上される。米国のその他物理は2025年通年で2,580万ドルとごく小さく、これをすべてCDシングルとみなして加えても米国側の比率は2.9%程度にしかならない。
分母の作り方も、日本は音楽ソフトと音楽配信の合計、米国はRIAAの録音音楽合計と完全には一致しない。したがって金額そのものを国際比較には使えず、各国の統計の内側で構成比だけを比べている。それでも、CDの範囲を広めに取り直しても15倍という開きはほとんど動かない。
2025年の日本の音楽ソフト生産実績は数量1億4,302万枚・巻(前年比101%)、金額2,157億円(同105%)だった。アナログレコードは金額で1988年以来37年ぶりに80億円を超えている。国内の録音音楽市場推計を見ると、CDの1,686億1,900万円に対して音楽配信は1,699億6,700万円で、配信がCDをわずかに上回る水準まで来た。同じ推計のアナログディスクは88億4,700万円、音楽ビデオは507億1,500万円で、日本でCDに次ぐ規模の物理商品はレコードではない。その位置を占めるのは、CDの3割に相当する規模の音楽ビデオである。
配信が首位に立った後もCDが4割を保っているのは、複数形態と特典による複数購入という販売設計が、20年以上かけて売り場と購買行動に組み込まれてきたからである。
米国でK-POPが持ち込んだ複数形態の売り方は、日本で先に定着したこの設計と重なる。違いは規模と土台にある。日本ではCDが市場の主要フォーマットとして残ったまま複数形態が乗ったが、米国ではCDが2.7%まで縮んだ後に、特定ジャンルの販売設計として持ち込まれた。同じ「CD復活」という言葉でも、日本が指すのは既存市場の維持であり、米国が指すのは小さくなった土俵での局所的な増加である。
この伸びが本物かは、下半期の在庫が答える

2026年下半期以降にRIAAとLuminateの差が縮めば、上半期に出荷された分の多くが実際に販売されたと推測できる。差が開いたままなら、積まれたCDの一部は値引きか返品として処理される可能性が高い。RIAAの集計は返品控除後の純出荷なので、返品が出れば次の期の数字がその分だけ削られる。年末商戦を挟んだ通年報告は、上半期の45.7%がどこまで実需だったかを測る最初の機会になる。
需要側にも確認すべき点がある。CDを買ったZ世代とミレニアル世代の約半数はCDプレーヤーを所有していないという集計があり、購入の動機は再生よりも所有と収集に寄っている。所有目的の購買はアーティストの活動周期と限定版の供給に強く依存し、話題作が途切れれば速く冷える。一方で、K-POPを除いてもCDの実売が6.7%増えたという事実は、K-POPの外側にも一定の需要があることを示している。この6.7%が2026年下半期も残るかどうかが、コレクター需要と一般需要を分ける境目になる。
売り場の構成も見ておきたい。物理アルバム販売の28.7%を大手量販店(Mass Market)が占め、独立系小売は36.6%から32.1%へ後退した。量販店の棚は在庫回転が合わなくなれば速く縮み、独立系より判断が早い。棚の面積が減れば、レーベルが複数形態を刻む前提そのものが崩れる。
CDの卸売収入がダウンロードを上回り、収入の12.2%の物理メディアが増収額の38.8%を生んだという構造は、2026年上半期については確かめられた事実である。それが一過性でないと言えるのは、通年報告で出荷と実売の差が縮み、単価9.78ドルの水準が維持され、K-POP以外の6.7%が残った場合に限られる。この三つがそろえば、レーベルにとってCDは在庫リスクを取る価値のある商材として残り、独立系アーティストは20ドル台のレコードを待たずに手元の予算で物理商品を出せるようになる。



