Samsung Electro-Mechanicsは、MLCC(積層セラミックコンデンサ)の供給契約を2026年6月30日に開示した。契約金額は4539億9480万ウォンで、契約日は6月29日、供給期間は2027年1月1日から12月31日までの1年間である。契約相手は「グローバル大手企業」とだけ記され、相手先名や主要条件は営業秘密を理由に2027年12月31日まで伏せられる。
この契約の注目すべき点は、金額の大きさよりも、2027年のMLCC供給枠がこの時点で1年単位で押さえられた点にある。MLCCはスマートフォンから車載、産業機器まで広く使われる受動部品だが、AIサーバーでは電源まわりと高速演算部品の近くで、より小さく、高容量で、温度条件に強い品種への需要が集まり始めている。Samsung Electro-Mechanics自身も2026年第1四半期の決算資料で、AIサーバーとデータセンター向け高性能MLCCの需要は強い状態が続くとの見方を示している。
1年4540億ウォンは、2025年売上の4.0%に当たる
開示資料によると、契約金額は2億9400万ドルを2026年6月29日の為替レート、1ドル=1544.20ウォンで換算したものだ。直近売上高は2025年末の連結財務諸表を基準にした11兆3144億5923万8100ウォンで、今回の契約はその4.0%に当たる。
契約条件には、前受金や契約金は「なし」と記されている。販売・供給地域、支払い条件、相手先との関係も開示されていない。Samsung Electro-Mechanicsは、契約金額や期間は事業の進行過程で変わる場合があるとも明記している。つまり、今回の数字は2027年にそのまま売上計上される保証ではなく、現時点で合意された供給契約の規模として読む必要がある。
それでも、今回の開示はMLCCの需給を見るうえで意味がある。MLCCは一般に短い発注サイクルで動きやすい部品だが、供給が細る高性能品では、顧客側が先に供給枠を確保する動機が強くなる。AIサーバーの設計では、電源の安定、ノイズ抑制、限られた基板面積での実装が同時に求められるため、単価の高い特殊品種に注文が寄りやすい。
AIサーバーでは、MLCCが電源とアクセラレータの近くに入る
Samsung Electro-Mechanicsのサーバー向け製品ページを見ると、MLCCはCPUとFPGA、電圧レギュレータ、デバイスソケットやAIアクセラレータの周辺に配置される部品として示されている。高速演算チップは短い時間で大きく電流を変動させるため、電源ラインのノイズを抑え、電圧を安定させる部品の役割が増す。
同社のMLCC説明ページでは、MLCCを一定量の電気を充放電する部品として説明し、高容量品を作るには薄い内部に多数の層を積む必要があるとしている。Samsung Electro-Mechanicsは、最大600層まで積層した高容量MLCCを生産できる技術力を持つとも説明している。AIサーバーで求められるのは数量の確保に加え、小型化、高容量化、低インダクタンス、温度変動への耐性を同時に満たす品種を、量産の歩留まりを保ちながら供給することだ。
低ESL品の位置づけも大きい。ESLは等価直列インダクタンスを指し、高速回路では電源ノイズ対策や実装面積に直結する。Samsung Electro-Mechanicsは低ESL MLCCについて、限られた実装面積の回路で使え、少ない数量で高速IC向けMLCCを置き換えられると説明している。AIアクセラレータの周辺では、基板上の空間と電源品質の両方が厳しくなるため、こうした仕様の部品が調達上の焦点になりやすい。
高性能MLCCは、設計変更で必要数が跳ね上がる
市場側の圧力も強まっている。TrendForceは6月17日のMLCC調査で、クラウド事業者による自社設計ASICの採用が進み、小型・高容量・高温対応のMLCCに需要が集中していると指摘した。次世代AIアクセラレータでは、最終認定段階の設計変更によって高性能MLCCの使用量が大きく増えているという。
同調査では、AMDのMI450プラットフォームで47マイクロファラド、2.5V、X6S、0402サイズのMLCC使用数が1ボードあたり1440個から1万544個へ増えた例が挙げられている。増加率は632%である。NVIDIAのVera Rubinプラットフォームでも、100マイクロファラド、4V、X6S、0805サイズのMLCCが1ボードあたり320個から500個へ増えたとされる。
この種の数字は、AIサーバー向けMLCCが一般部品の延長で語りにくくなった理由を示している。AIアクセラレータの設計が変われば、基板1枚あたりの必要数も、要求される容量やサイズも変わる。量産直前の仕様変更が重なると、サプライヤーは同じ工場能力でも有効に出荷できる数量を増やしにくい。TrendForceは、特定の高容量X6S品でリードタイムが8週間から最長20週間まで延びたとも述べている。
Samsung Electro-MechanicsはAI関連売上の伸びをすでに示している
Samsung Electro-Mechanicsの業績資料にも、今回の契約を支える背景が出ている。2025年通期売上高は11兆3145億ウォンで、コンポーネント部門の売上高は5兆1985億ウォンだった。2026年第1四半期には全社売上高が3兆2091億ウォンとなり、前年同期比17%増、前四半期比11%増だった。コンポーネント部門の売上高は1兆4085億ウォンで、前年同期比16%増、前四半期比7%増である。
同社は2026年第1四半期資料で、サーバー、電源、ネットワーク機器などAI関連売上が強く伸びたと説明した。さらに、AIサーバーとデータセンター向け高性能MLCCの需要は堅調に続くとし、小型・超高容量の産業向け先端品の開発と供給に注力するとしている。
2025年第4四半期資料でも、同社はAIインフラ投資が続くなかで産業・車載向け需要が堅調に推移すると見ていた。2026年の戦略として、AIサーバーやネットワーク向けの高性能産業用MLCCを増やす方針を掲げていた。今回の契約は用途を明かしていないが、こうした需要環境のなかで、大口顧客が2027年分のMLCC供給を1年単位で確保した点が目立つ。
MLCCから周辺部材へ広がる長期契約が焦点になる
AIサーバーの部品調達では、MLCCだけを見ても全体像はつかめない。Samsung Electro-Mechanicsのサーバー向けページでは、MLCCと並んでFC-BGA基板やシリコンキャパシタもCPU、FPGA、AIアクセラレータ、電圧レギュレータ周辺の部材として示されている。シリコンキャパシタはシリコン上に誘電体と内部電極を積み重ねる部品で、同社は100マイクロメートル以下まで薄くでき、パッケージ内に配置しやすく、低ESLによる電源安定化に向くと説明している。
AIサーバーの設計が高密度化すれば、供給契約の長期化はMLCCだけで終わらない可能性がある。電源安定化、パッケージ内実装、サーバーCPUやAIアクセラレータ向け基板など、同じデータセンター投資に結びつく部材で、顧客側が先に枠を確保する動きが広がり得る。
今回の開示で確定しているのは、2027年分のMLCC供給契約の金額、期間、相手先を伏せる期限までである。契約相手の正体や価格条件、対象品種の内訳はまだ分からない。ただ、開示金額が2025年売上高の4.0%に達し、Samsung Electro-Mechanics自身がAIサーバー向け高性能MLCC需要の強さを説明している以上、この契約はMLCC市場が短期の需給調整から、AIインフラ投資を前提にした供給枠の争奪へ移っていることを示す材料になる。