Seagate Technologyは2026年10月27日、2027年度第1四半期(2026年7〜9月期)の決算を発表した。売上高は前年同期比61%増、非GAAP営業利益は約2.8倍に拡大した。同社の決算発表にはHDDの出荷量が記載されていないため、増収が販売数量と単価のどちらによるものかを直接判断することは難しい。しかし、同じ四半期のWestern Digital(WDC)の決算と比較すると、利益率が大幅に改善した背景をある程度推測できる。Seagateの粗利率は前年同期から17.7ポイント上昇したが、その約8割に相当する改善は、HAMR(熱アシスト磁気記録)の本格量産を控えるWDCでも確認されている。このことから、Seagateの大幅増益にはHAMR固有の原価低減効果だけでなく、HDD業界に共通する市場環境の変化が大きく寄与していると考えられる。
売上高61%増、営業利益は2.8倍に拡大
2026年10月2日に終了した四半期の売上高は42億3,300万ドル(約6,650億円)で、前年同期の26億2,900万ドルから61%増加した。非GAAP営業利益は前年同期の7億6,300万ドルから21億4,700万ドルへ約2.8倍に拡大し、営業利益率も29.0%から50.7%へ上昇している。フリーキャッシュフローは14億7,900万ドル(約2,300億円)と、前年同期の4億2,700万ドルから約3.5倍になった。円換算には、日本銀行が10月22日に公表した外国為替市況に基づく、1ドル=157円台前半のレートを使用している。
Dave Mosley CEOは、同四半期も過去最高の収益性を達成し、フリーキャッシュフローは過去最高を記録したと説明した。続く2027年度第2四半期(2026年10〜12月期)については、売上高48億ドル(±1億ドル)、非GAAPの希薄化後1株利益(EPS)9.20ドル(±0.20ドル)を見込んでいる。見通しの中央値を今回の実績と比較すると、売上高は約13%、EPSは約20%増加する計算だ。
設備投資額は2億1,100万ドルとなり、前年同期の1億500万ドルから約2倍に増加した。売上高に対する比率は約5%である。一方、株主還元では4億ドルの自社株買いと1億6,800万ドルの配当を実施し、合計5億6,800万ドルを株主に還元した。四半期配当も約3%引き上げ、1株当たり0.76ドルとしている。
こうした業績からは、売上高の拡大を大きな利益成長につなげていることが分かる。ただし、今回の決算発表には出荷量の記載がなく、数量の増加、販売価格の改善、製品構成の変化がそれぞれどの程度寄与したのかは明らかではない。その内訳を考える手掛かりになるのが、売上原価の推移と競合他社の業績である。
売上原価は13%増にとどまり、競合も粗利率が大幅改善
売上原価は、売上高から売上総利益を差し引いた金額である。Seagateが公表した売上高と非GAAP売上総利益率を使って逆算すると、非GAAPベースの売上原価は前年同期の約15億7,500万ドルから、当期は約17億8,600万ドルへ増加した。増加率は約13%で、売上高の伸び率61%を大きく下回っている。つまり、売上高は大幅に増えたにもかかわらず、それに伴う原価の増加は比較的小さかった。
この結果、増収額16億400万ドルに対して、非GAAP営業利益は13億8,400万ドル増加した。増収額の約86%が営業利益の増加につながった計算になる。非GAAP営業費用が前年同期の2億9,100万ドルから3億ドルへと、ほぼ横ばいにとどまったことも利益率の改善を支えている。
売上高が原価を大幅に上回るペースで増えた背景としては、主に四つの要因が考えられる。第一に、出荷量の増加によって製品当たりの固定費負担が軽減された可能性がある。第二に、高容量HDDの販売比率が高まり、製品構成が改善したことだ。第三に、同じ記憶容量に対する販売価格が上昇した可能性もある。そして第四に、HAMRによる記録面密度の向上が、記憶容量当たりの製造原価を引き下げた可能性が挙げられる。最後の要因はSeagateの技術戦略に固有のものだが、それ以外は競合他社にも共通して起こりうる。
そこで注目したいのが、Western Digitalの業績である。同社が10月22日に発表した2027年度第1四半期決算は、Seagateと同じ2026年10月2日を期末としている。売上高は前年同期の28億1,800万ドルから43億8,100万ドルへ55%増加し、Seagateに近い成長率を記録した。非GAAP売上総利益率も43.9%から58.1%へ14.2ポイント上昇している。一方、Seagateの非GAAP売上総利益率は40.1%から57.8%へ17.7ポイント改善した。
WDCの粗利率改善幅14.2ポイントは、Seagateの17.7ポイントの約80%に相当する。WDCはまだHAMRの本格量産を開始しておらず、決算説明会の書き起こしによると、第1世代HAMR製品の量産出荷は2027年上期(暦年)に始める計画だ。それにもかかわらず、WDCでも14ポイント以上の粗利率改善が生じている。これは、Seagateの利益率改善をHAMRによる原価低減効果だけで説明するのは難しいことを示唆している。
WDCのKris Sennesael CFOも決算発表で、エクサバイト単位で見た出荷容量の堅調な増加と販売価格の改善が、好業績を支えたと説明している。共通の要因としては、価格上昇に加えて、出荷量の増加に伴う固定費負担の軽減や、高容量モデルへの移行も考えられる。ただし、両社の粗利率改善幅が近いからといって、Seagateの改善分の80%が共通要因によるものだと厳密に算定できるわけではない。決算数値から確認できるのは、HAMRの量産を始めていない競合でも、Seagateに匹敵する大幅な利益率改善が起きているという事実である。
HAMRの原価低減効果はどこまで寄与したのか
この見立てに対する反論として、まず考えられるのは、Seagateが導入を進めるHAMRの効果である。Mosley CEOは決算発表で、HAMRを基盤とする技術ロードマップにより、記録面密度を高めながら増大するエクサバイト需要に対応できると説明している。1枚のディスクに記録できるデータ量が増えれば、同じ記憶容量を製造するために必要なディスクや関連部品の数を減らせる。Seagateの粗利率改善幅がWDCを3.5ポイント上回った背景には、こうしたHAMR固有の原価低減効果が含まれている可能性がある。
ただし、この3.5ポイントはSeagateの改善幅全体の約2割にとどまる。HAMRによる効果を否定する必要はないものの、それだけが利益率改善の主因だったとは考えにくい。また、両社の差には製品構成や販売価格、製造効率などの違いも反映されるため、3.5ポイントをそのままHAMRの寄与分とみなすこともできない。現時点では、HAMRがどれほど原価を押し下げたかを正確に切り分けるだけの情報は公表されていない。
もう一つの重要な反論は、両社に共通する粗利率改善の主因が、販売価格の上昇ではなく、出荷量の増加や製品構成の変化だった可能性である。HDDの出荷が増えれば、製造設備などの固定費をより多くの製品に分散できる。また、高容量モデルへの移行が進めば、記憶容量当たりの製造原価が下がる場合もある。こうした要因が中心だったとしても、両社の利益率改善に業界共通の要因が大きく寄与したという見立ては変わらない。ただし、その場合は「販売価格の上昇が主因だった」とは言えなくなる。両社とも決算発表では詳細な出荷数量や平均販売単価を開示していないため、価格、数量、製品構成それぞれの寄与率は特定できない。
さらに、中長期的には供給能力の拡大が価格を押し下げる可能性もある。Toshibaのフィリピン子会社であるToshiba Information Equipment (Philippines)は10月2日、ラグナ・テクノパークの工場でニアラインHDDの生産を開始し、拡張した生産ラインから初出荷したと発表した。ニアラインHDDは、主にデータセンターで使われる大容量ストレージ製品である。同社は、2027年度までに年間生産能力を2025年度比でほぼ2倍に引き上げることを目指している。ただし、この目標はHDDの台数ではなく、製造する製品の総記憶容量を基準としている。
Seagate自身も設備投資を前年同期の約2倍に増やしており、HDD業界では供給能力の増強が進んでいる。需要の拡大に対して供給が追いつくようになれば、現在の価格改善が鈍化し、粗利率を押し下げる可能性がある。ただし、Toshibaの生産能力拡大は2027年度までの計画であり、今回の四半期決算に反映されたものではない。現時点の高い利益率が、今後も同じ水準で維持されるかどうかは、需要と供給の増加ペースに左右される。
次の決算で確認すべき条件
今回の見立てを検証するうえで、次の四半期決算は重要な判断材料になる。Seagateが示した2026年10〜12月期の業績見通しは、売上高48億ドル(±1億ドル)、非GAAP EPS9.20ドル(±0.20ドル)である。実績が売上高47億ドル、または非GAAP EPS9.00ドルという会社見通しの下限を割り込んだ場合、現在の好調な事業環境が想定より早く変化している可能性を考える必要がある。
ただし、これらの数値が下回っただけで、今回の粗利率改善に業界共通の要因が大きく寄与したという分析が否定されるわけではない。売上高やEPSの減少は、価格の下落だけでなく、出荷量の減少や製品構成の変化によっても起こりうるためだ。原因を見極めるには、今回57.8%だったSeagateの非GAAP売上総利益率が、次の四半期にどう変化するかを確認する必要がある。
比較対象となるWDCは、次期の非GAAP売上総利益率を60〜61%と予想している。今後も両社の粗利率が同じ方向に動くのであれば、価格や需給、製品構成など、業界共通の要因が引き続き大きく影響しているという見方が強まる。一方、Seagateだけが粗利率をさらに高め、WDCとの差を継続的に広げるようであれば、HAMR固有の原価低減効果が競争優位につながっている可能性を検討する材料となる。ただし、その差には両社の製品構成や販売条件の違いも含まれるため、HAMRの効果を直接測定した数字とは区別しなければならない。
Seagateの今回の決算は、HDD需要の拡大が大幅な利益成長につながっていることを示した。一方、競合のWDCも同時期に大きく利益率を改善しており、Seagateの収益性向上をHAMRだけの成果として捉えるのは適切ではない。今後は両社の粗利率の推移を比較し、業界全体の需給改善とHAMRによる技術的な優位性をどこまで切り分けられるかが焦点となる。



