SiFiveは2026年8月24日、32基のRISC-V CPUコアを載せた2Uラックマウント型のデータセンター開発機「BigSky SF-2U870」を発表した。狙いは完成した商用サーバーを大量販売することではなく、ハイパースケーラーやソフトウェア企業がRISC-V向けの移植、最適化、システム検証を実機で進められる環境を渡すことにある。RISC-Vサーバーの前提は、CPU IPを評価する段階から、LinuxやCUDAをラック内で継続検証する段階へ一歩進んだ。ただし、性能や供給の実力を判断する材料はまだ薄い。

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32コアを2Uへ、開発ボードからラック実機へ

BigSkyはTSMCのN6プロセスで製造したP870-Dを32基搭載し、SiFiveの現行発表文では2.0GHzで動作する。メモリーは256GBのDDR5-5600、拡張I/OはPCIe Gen5 x16を4本、合計64レーンだ。さらにPCIe Gen3 x4と10/25Gb対応のOCP 3.0 NICを備え、ダブルワイドGPUも挿せる。ストレージは7.68TBのU.2 NVMe SSDを2台とされている。

従来のHiFive Premier P550は、机上でRISC-V版Linuxを試すためのMini-DTX開発ボードだった。BigSkyは同じ開発用途を、ラックで必要なI/OとGPU接続へ広げている。

項目 BigSky SF-2U870 HiFive Premier P550
形状 19インチ・2Uラック型 Mini-DTXボード
CPU P870-D×32、公式発表は2.0GHz P550×4、1.4GHz
メモリー 256GB DDR5-5600 16GBまたは32GB LPDDR5
PCIe Gen5 x16×4とGen3 x4 Gen3 x4
標準OS Ubuntu 26.04、RHEL 10をSiFiveが表明 Ubuntu 24.04

コア数は8倍、メモリー容量は8倍または16倍になった。だが、これはシステム性能が同じ比率で伸びたという意味ではない。SiFiveはBigSkyの消費電力とメモリーチャネル数、キャッシュ容量を示していない。価格と公開ベンチマークもなく、x86やArmの量産サーバーと性能や運用コストを比べられる状態にはない。

しかも、SiFiveの製品ページは仕様が食い違う。主仕様欄と発表文は2.0GHz7.68TB SSD×2とする一方、同じページの別欄には2.2GHz3.84TBとも書かれている。現時点では一致する2.0GHz7.68TB×2を採るのが妥当だが、購入判断の前にSiFiveの訂正が必要だ。

提供も一般販売とは異なる。SiFiveは「現在入手可能」と説明するが、生産は限定数量で、対象は戦略的な開発案件である。需要が供給を上回るという説明に台数はなく、価格は営業への問い合わせとなる。先行するハイパースケーラー、ソフトウェア企業、大手SoC企業が導入済み機でワークロードを動かしているというが、顧客名や検証結果も非公表だ。

RVA23で何が揃い、何が揃わないのか

BigSkyの技術的な節目は、RVA23に準拠するラック型実機が出たことである。RVA23は64ビットのアプリケーションプロセッサが備える命令セットの共通基準で、ベクトル演算やハイパーバイザー関連の機能を含む。OS、コンパイラ、アプリケーションの開発者は、ベンダーごとに異なる命令の有無を追いかける負担を減らせる。CanonicalがUbuntu 25.10以降でRVA23を基準にした理由もここにある。

ただし、RVA23はISAのプロファイルであり、サーバー一式の適合規格ではない。RISC-V Internationalが2026年5月に公開したServer Platform v1.0は、RVA23対応コアとSoCから、周辺機器やUEFI/ACPI、BMC管理とセキュリティまで規定する。SiFiveはBigSkyがServer Platform v1.0に準拠するとは表明していない。

この区別はデータセンター運用で効く。ソフトが同じ命令を使えることと、遠隔管理や障害記録、ファームウェア更新を既存の運用基盤へ組み込めることは別の課題だからだ。BigSkyは前者を大きく進めたが、後者の適合範囲はまだ公開されていない。

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Ubuntu 26.04とRHEL 10の温度差

SiFiveはUbuntu 26.04 LTSとRHEL 10を「そのまま使える」OSとして挙げる。Ubuntu側では整合する公開情報がある。CanonicalはUbuntu 25.10以降のRISC-V版でRVA23を最低基準とし、Ubuntu 26.04 LTSを通常5年、Ubuntu Proでは最大15年支援すると説明している。BigSkyのRVA23対応は、この標準バイナリ環境へ乗るための条件を満たす。

RHELは慎重に読む必要がある。SiFiveの発表文には、Red Hatの技術ストラテジストがRHEL 10のBigSky上での動作を語る一方、Red Hatが2026年6月に更新した公開情報はRISC-V版RHEL 10.2をDeveloper Previewと呼び、対象ハードはHiFive Premier P550のままだとしている。ほかのボードは起動例があっても実験的で、調整が必要という説明だ。

したがって、BigSkyでRHEL 10が起動したことは前進だが、Red Hatによる一般提供版の認証や本番サポートを意味しない。SiFiveの発表後にRed Hat側の対象機種、既知の制約、サポート条件が更新されるかを確認する必要がある。

AI用途では、SiFiveがP870-D搭載BigSkyでCUDAを動かしたと発表した。ここでRISC-V CPUがGPUの計算を代行するわけではない。BigSkyをホスト兼ヘッドノードにしてNVIDIA GPUへジョブを渡し、LLMの学習や推論を制御するためのCUDAソフトウェアスタックがRISC-V上で動いたという意味である。

現行BigSkyはPCIe Gen5 x16のダブルワイドGPUを搭載できる。しかし、SiFiveがNVIDIAと進めるNVLink Fusionの統合は将来のプラットフォーム向けだ。NVLink FusionはCPUとGPUを一貫性のある高帯域接続で結ぶ計画であり、今回の2U機に搭載済みとは書かれていない。CUDAのバージョンと使用GPUは不明だ。ドライバーやテストしたLLMも明らかにしておらず、性能と安定性も公表されていない。「動いた」を本番対応へ広げて解釈することはできない。

BigSkyの32コアは、将来の大規模RISC-V CPUを先取りした量産構成とは説明されていない。今回の実機は、ソフトウェアと運用手順を先に育てるための基準機と見るべきだ。

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性能表より先に、移植とCIの入口

SiFiveはCPU完成品を大量販売する企業ではなく、顧客が独自SoCへ組み込むCPU IPを供給する。BigSkyを配る狙いも、自社製2Uサーバーの台数を競うことではない。顧客が将来のRISC-V SoCを設計している間に、OSやドライバーを実機で動かす。さらにコンテナからデータベース、AIソフトまでを直し、継続的インテグレーションへ載せる時間を稼ぐことにある。

この開発機が成果を上げるかは、32コアという数字より、移植したソフトが上流へ入り、別ベンダーのRVA23機でも同じバイナリが動くかで決まる。まず一般供給が始まり、価格と消費電力、第三者ベンチマークが出る必要がある。Server Platform v1.0への適合とRed Hatの支援状態まで揃ったとき、BigSkyはRISC-Vをラックへ置いた試験機から、量産データセンターSoCへの橋へ変わる。