任天堂のSwitch 2で、ハード販売の勢いとソフト販売の伸びがきれいに連動しない現象が表面化している。背景にあるのは、256GBという内蔵ストレージ容量そのものより、容量を後から足すコストが急速に重くなっていることだ。AI向けインフラ投資の拡大でNANDフラッシュ需給が逼迫し、拡張ストレージの価格が上がる局面に入った結果、ユーザーがゲーム購入時にまず確認する項目が「欲しいかどうか」から「空き容量に収まるかどうか」へ動き始めている。

Bloombergが任天堂の開示資料を基に試算したところ、2025年12月末時点でSwitch 2の累計販売台数が1737万台に達した段階で、1台当たりの平均購入本数は2.18本だった。初代Switchが2018年3月に近い販売水準へ到達した時点では3.88本であり、差は大きい。もちろん、この比較には単純化しにくい要素がある。Switch 2は旧Switch向けソフトの後方互換を持ち、既存ライブラリを新ハードへ移すユーザーも多い。Switch 2 Editionの計上方法を巡る見方もあり、現時点の本数差だけで需要失速を断定するのは早い。それでも、ユーザーが追加購入のたびに容量とコストを意識せざるを得ない環境が、ソフトの衝動買いを削っているという構図自体は無視しにくい。

AD

問題の中心は「容量不足」ではなく「容量単価の上昇」である

Switch 2の内蔵ストレージは256GBである。任天堂の自社タイトル中心なら運用できるという見方は強いが、サードパーティーの大型作品が増えると事情は変わる。Bloombergは、Square Enixが6月に投入予定の「Final Fantasy VII Rebirth」のSwitch 2版が約102.5GBを必要とし、内蔵容量の約4割を占めると報じた。価格コムを見てみると、1TBmicroSD Expressカードは3万5,000円近辺、512GB品が2万3,000円前後まで上がっており、Switch 2発売時から約3割上がっているる。

ここで効いてくるのが、Switch 2が採用するmicroSD Expressという規格だ。従来のmicroSDより高速だが、供給が潤沢な成熟市場ではない。価格が上がりやすく、代替品も限られる。しかも今回の値上がりは、ゲーム市場固有の需給ではなく、MetaやAmazonのような大手がAI向け設備投資を拡大する中で、データセンターと民生機器が同じNAND需給の圧力を受けていることに起因する。TrendForce予測として、NAND契約価格は前四半期比で最大90%上昇する見通しが示されている。要するに、Switch 2のストレージ問題は携帯ゲーム機の設計論にとどまらず、AI投資が家電とゲーム機の部材コストへ跳ね返る典型例になっている。

任天堂の収益構造はハードではなくソフト側で傷みやすい

この問題が任天堂に重いのは、ハードの採算が厚くないからだ。BloombergはSwitch 2本体を450ドル前後とし、米国関税や中東情勢に伴う輸送コストの上振れも重なって、マージンが薄いと伝えた。任天堂の古川俊太郎社長も価格調整の可能性を否定しておらず、周辺機器はすでに一部値上げされたという。ハード価格を上げれば利益は守りやすいが、普及速度には傷が入る。価格を据え置けば、今度はソフト本数を稼いで回収する必要がある。そこへストレージ追加費用が割り込む。

ユーザーにとってmicroSD Expressカードの購入費は、新作ゲーム1本分に近い出費である。Bloombergが取材した東京のユーザー、長谷川氏は、以前は気軽にゲームを買っていたが、今は容量の埋まる速さを見て慎重になったと語る。PlayStation 5やPCのストレージ増設費用はSwitch 2より割安で、同じタイトルが他機種にもある場合はそちらを選ぶとまで述べている。これは任天堂にとって厄介な兆候だ。ソフト購入を見送るだけでなく、プラットフォーム選択そのものがずれるからである。

任天堂は対策を打っていないわけではない。Bloombergによれば、SamsungとSandiskが供給する任天堂ブランドのmicroSD Expressカードを市場価格の半額程度に抑えるため、日本の量販店に利益圧縮を求めたという。仮に100ドルの販売価格で従来50ドル取れていた粗利が30ドルまで削られる、といったイメージである。これは短期的には効果があるが、任天堂自身がストレージ価格の上昇分をサプライチェーン全体で吸収しようとしていることを意味する。ハードの薄利、流通への配慮、周辺機器価格の管理を同時にこなす構図は長く続けにくい。

AD

サードパーティーにとっては「出せるか」より「売れるか」が重くなる

ストレージ制約は、作品の投入判断にも響く。Switch 2は初代より高性能になり、AAA級タイトルの移植先として魅力を増した。ところが大作ほど容量が大きく、ダウンロード依存が強いほど、ユーザーの購入障壁が上がる。Bloombergは、任天堂がサードパーティーにGame-Keyカードの採用を促している点も問題を複雑にしていると伝えた。カード自体にフルデータを入れず、本体へのダウンロードを前提とする方式は、物理パッケージを買ってもストレージを圧迫する。旧Switchライブラリの移行やライブサービス型タイトルの継続アップデートも空き容量を削る。

Pelham Smithers AssociatesのPelham Smithers氏は、Switch 2が「任天堂のゲームを遊ぶための乗り物」という評判を持てば、サードパーティーが挑戦をやめ、消費者の関心も連鎖的に弱まると警告した。これは誇張ではなく、プラットフォームの自己強化が逆回転するシナリオである。ハードが売れるからソフトが集まり、ソフトが集まるからユーザーが増える。そこに「大型タイトルほど保存しづらく、追加コストも高い」という摩擦が入ると、最初に鈍るのはサードパーティー作品の回転率だ。任天堂の自社IPは残っても、棚の厚みと継続的な稼働時間を支える外部タイトル群が細るおそれがある。

興味深いのは、この問題が単なる記憶容量の話ではなく、AI時代の部材配分がゲーム産業の競争軸を変えている点である。データセンター向け需要がNAND価格を押し上げれば、ゲーム機メーカーは本体価格、内蔵容量、外部ストレージ規格、流通政策、ソフト販売計画を一体で考え直さなければならない。Switch 2で起きているのは、AIブームの利益が半導体メーカーへ集中する一方、そのコストが消費者向けハードとソフトの販売現場へ分散して流れ込む構図である。

今後の争点は明確だ。任天堂が内蔵容量の大きい派生機種を用意するのか、microSD Expressの価格抑制をどこまで継続できるのか、サードパーティー各社がSwitch 2向けに容量を削った専用ビルドをどこまで作り込むのか。この3点が揃わなければ、Switch 2は売れているのにソフトの裾野が広がりにくいハードになりかねない。AI向け投資の熱狂が遠いデータセンターで起きている話に見えても、その余波はすでに携帯ゲーム機の1本目、2本目、3本目の購入判断にまで届いているのだ。


Sources