台湾の海洋委員会(海委会)は2026年10月26日、同委員会が支援する国立成功大学航空太空工程学系の研究チームが、垂直離着陸(VTOL)に対応する固定翼無人機3機種を使い、2つの機群に分けた計20機を同時に飛行させるシミュレーションを完了したと発表した。海外メディアは中国によるグレーゾーンでの圧力に対抗する技術として報じているが、海委会が想定する主な利用者は軍ではなく、傘下の海上法執行機関である海巡署だ。海委会は今回の成果を、単機の制御から複数機群の協調制御へ進む重要な節目と位置づけているものの、実際に20機を飛行させたわけではない。次の段階となるハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)試験や実海域試験の時期、必要な予算についても明らかにしていない。
今回の研究が注目される背景には、台湾周辺海域で活発化する中国公船の活動がある。2026年7月には、台湾本島周辺で確認された中国の海警船や調査船などが過去最多の244隻に達したと報じられた。こうした状況のなか、複数の無人機を協調させて広い海域を監視する技術は、海巡署の監視能力を拡張する手段として期待されている。ただし、シミュレーション上の20機を実際の海で運用するには、まだ複数の検証段階を経る必要がある。
3機種20機の同時飛行シミュレーションで何を検証したのか
研究の正式名称は「海巡立體化之多機型多機隊VTOL之定翼型無人機群飛AI任務規劃」である。海巡署による海上監視を空から広げるため、異なる機種で構成された複数の無人機群に任務を割り当て、自律的に飛行させるAIの開発を目指している。海委会によると、AI、垂直離着陸可能な固定翼無人機、飛行力学、機群の協調制御を統合する研究で、対象にはJUMP 20、V-BAT、Flexrotorの3機種を選んだ。いずれも垂直に離着陸し、上空では固定翼機として飛行できる無人機だ。
研究チームはまず、3機種それぞれの外形を3Dモデルとして再現し、空力パラメーターを解析した。そのうえで、6自由度(6-DOF)の飛行シミュレーションを実施し、各機種の飛行特性と制御モデルを構築した。6自由度とは、前後・左右・上下の3方向への移動に、機首の上げ下げ、機体の左右への傾き、機首の向きという3種類の回転を加えた運動を指す。これらをモデル化することで、各機体が操縦指令に対してどのように反応するかを計算できるようにした。
複数の無人機を協調して飛ばすには、それぞれの飛行特性を把握する必要がある。特にVTOL固定翼機は、ホバリングから水平飛行へ移る際に機体の姿勢や空力特性が大きく変化するうえ、機種によって同じ制御指令への反応も異なる。例えばV-BATは、機体を垂直に立てた状態で離陸し、空中で姿勢を変えて水平飛行へ移るテールシッター型だ。こうした機種ごとの違いを制御モデルに反映させることが、異なる機体を協調して運用するための前提となる。
複数機の協調制御には、マルチエージェント強化学習(MARL)を採用した。これは、複数の機体をそれぞれ学習主体として扱い、周囲の機体の行動や環境の変化を考慮しながら、任務の分担や飛行経路を最適化する手法である。研究チームはこれに、先頭の機体を基準として他の機体が位置を調整するリーダー・フォロワー型の編隊制御と、移動する障害物を回避する制御を組み合わせた。海委会は、急激な環境変化や障害物に遭遇した場合でも、機群が自律的に飛行経路を変更できると説明している。
今回の成果は、2つの機群に分けた計20機を、シミュレーション環境で同時に飛行させたことだ。海委会は、単機の制御から複数機群の協調制御へ移行する重要な成果であり、異なる機種間での自律的な協調に関する課題を克服したと評価している。衝突を防ぐため、制御アルゴリズムには機体間の3次元的な距離と、100フィート(約30m)の最小垂直間隔が組み込まれた。一部の英語圏メディアは100フィートを3次元空間における機体間の最小距離として紹介しているが、海委会の発表で明示されているのは上下方向の間隔である。いずれにしても、今回確認されたのは計算機上での制御結果であり、実機による20機の同時飛行が成功したわけではない。
次の段階はHIL試験と実海域試験、時期と予算は未公表
海洋委員会は今後の開発段階として、ハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)試験、原型機の統合、実際の海域での飛行試験を挙げている。これらを通じて、海の状態が異なる環境での飛行の信頼性や、実用化の可能性を検証する方針だ。ただし、10月26日の発表では、各試験の開始時期や対象海域、補助金の規模について具体的な情報を示していない。予算書や研究計画書など、別の資料に記載されている可能性はあるものの、今回の発表だけでは実海域試験がいつ始まるのか判断できない。
HIL試験は、実際の飛行制御コンピューターやセンサーなどのハードウェアをシミュレーション環境に接続し、仮想的な飛行条件で動作を検証する手法だ。ソフトウェアだけのシミュレーションでも通信遅延や処理時間を再現することはできるが、その値は設定したモデルや仮定に依存する。一方、実際のハードウェアを組み込めば、演算にかかる時間や信号伝達の遅延、処理能力の限界などを実測値として確認できる。ソフトウェア上では問題なく動作していた制御アルゴリズムが、実機の計算能力や通信条件でも期待どおりに機能するかを確かめる重要な段階となる。
特に無人機の協調制御では、各機が周囲の機体の位置や動きを把握し、短い時間で飛行経路を修正する必要がある。通信や演算の遅延が大きくなると、編隊の間隔を維持できなくなったり、障害物の回避判断が遅れたりする可能性がある。HIL試験では、こうした問題を実機の墜落や衝突の危険なしに検証できる。シミュレーションからHIL試験、原型機による検証、実環境での飛行試験へ進むのは、開発上のリスクを段階的に減らすための一般的な手順だ。
海委会も、海上での運用には特有の課題があると認めている。海巡署の監視対象は広範囲に及び、海の状態も変化しやすく、従来は隊員や巡視船への依存が大きかった。風や波の影響を受ける海上で、異なる機種がシミュレーションどおりに飛行し、編隊を維持できるかは、今後の実海域試験で検証すべき課題だ。今回の発表は、あくまで海委会が補助した研究の成果報告であり、実際の配備日程や調達規模を示したものではない。
海巡署の無人機整備と中国公船の活動、2026年の動き
台湾では2026年に入り、海巡署の無人機導入と中国公船への対応が並行して進んでいる。6月16日、海洋委員会の管碧玲主任委員は、海巡署が新台湾ドル21億元の予算を投じ、近距離用、中距離用、艦載用、特殊任務用の4種類の無人機システムを複数年かけて整備する方針を明らかにした。これはNOWnewsが報じた発言で、海巡署による海上監視能力の強化を目的としている。
7月には複数の動きがあった。海巡署は訓練用マルチコプター45機の検収と納入を完了し、各部隊に配備して隊員に基本的な操縦技能を習得させる計画を進めたと、South China Morning Post(SCMP)が報じている。同じ月には、Shield AIが海巡署の「艦載無人機」計画の競争選定でV-BATが採用されたと発表した。さらに、中国の海警船や調査船などの台湾周辺での活動も増加しており、10月19日付のTaipei Timesは、台湾当局のデータに基づき、7月に台湾本島周辺で検知された船舶が過去最多の244隻に達したと伝えた。
| 期間 | 台湾本島周辺で検知された中国の海警船や調査船など |
|---|---|
| 2025年7月 | 58隻 |
| 2026年5月 | 30隻 |
| 2026年6月 | 55隻 |
| 2026年7月 | 244隻 |
出典:Taipei Times(2026年10月19日)。軍艦は集計に含まれない。
2026年7月の244隻という数字は、5月の30隻、6月の55隻から急増したもので、前年同月の58隻も大幅に上回っている。Taipei Timesによると、検知された船舶の約6割を海警船が占めた。ただし、この数字は台湾本島周辺で確認された中国の海警船や調査船などを集計したものであり、軍艦は含まれていない。中国の軍事活動全体を示す数字ではない点には注意が必要だ。
10月に入ると、海巡署では新たな装備の受領と現場での対応が続いた。10月7日には、台北港に到着したV-BATが管主任委員と国家安全会議の呉釗燮秘書長に披露された。Shield AIは10月13日に最初の納入を正式発表し、台湾側の提携先として漢翔航空工業(AIDC)の名前を挙げている。なお、10月7日の披露日はShield AIの発表を転載した報道に基づく情報だ。また、10月18日には、台湾本島の東、南、南西の沖合と東沙周辺で同時に活動していた中国の海警船、調査船、漁船の計16隻を退去させたと海巡署が発表した。
海巡署が最初に受領したV-BATを10月7日に披露してから19日後、海洋委員会は20機による協調飛行シミュレーションの完了を発表した。両者はいずれも海巡署の無人機運用能力の強化に関係しているが、海委会の研究成果発表ではV-BATの納入には触れていない。そのため、今回のシミュレーションとV-BATの導入計画が直接連携しているかどうかは明らかになっていない。
海巡署の12機と海軍の280機、同じV-BATでも異なる調達計画
SCMPによると、海巡署はV-BAT 12機と指揮統制システム6式の取得に、新台湾ドル12億元(同紙の換算で約3,900万ドル)を計上している。最初に納入された機体は主に訓練に使用し、残りは今後数カ月で納入される予定だ。V-BATは米国のShield AIが開発したダクテッドファン式のテールシッター型VTOL無人機で、艦上の限られたスペースから垂直に離陸し、水平飛行へ移行できる。同社は12時間を超える飛行が可能だと公称している。
一方、台湾海軍は別の大規模な調達計画を進めている。Taipei Timesが伝えた国防部の2027会計年度報告によると、海軍は「遠鴞」計画の下、4年間で新台湾ドル360億元を投じ、V-BAT 280機、制御システム140式、輸送車両82両を調達する方針だ。海巡署と海軍は同じV-BATを導入する計画だが、運用主体と調達規模は大きく異なる。
| 主体 | 機数 | 付属する装備 | 予算(新台湾ドル) | 現在の段階 |
|---|---|---|---|---|
| 海巡署(法執行機関) | 12機 | 指揮統制システム6式 | 12億元 | 予算計上済み。最初の機体を受領し、残りは数カ月以内に納入予定(SCMP) |
| 海軍 | 280機 | 制御システム140式、輸送車両82両 | 360億元(4年間) | 国防部の2027会計年度報告に記載された調達計画(Taipei Times) |
海巡署の12機に対して海軍は280機を計画しており、機数では約23.3倍の差がある。ただし、両者の予算には異なる付属装備が含まれているため、単純に予算を機数で割って1機当たりの価格を比較することはできない。また、海軍の280機はあくまで調達計画の段階にある。いずれの数字も予算書の原文ではなく、報道に基づく情報である点にも留意したい。
自律飛行を制御するソフトウェアについても、軍側では別の開発が進んでいる。TaiwanPlusは8月7日、台湾の国家中山科学研究院(NCSIST)がShield AIの自律飛行ソフトウェア「Hivemind」を国産無人機「Mighty Hornet III」に搭載し、完全自律の捜索任務を完了したと報じた。試験では3機がそれぞれの担当範囲を飛行し、相互に連絡を維持しながら着陸したという。これは実機を使用した飛行試験であるのに対し、成功大学の20機による協調飛行はシミュレーションにとどまる。ただし、機体構成や試験条件、目的が異なるため、両者の機数や試験段階だけで技術的な優劣を判断することはできない。
海巡署とNCSISTの間には、海上無人機の整備でも接点がある。TechNewsは、日経アジアが匿名の台湾高官の話として報じた内容を紹介し、海巡署がNCSISTから水上無人艇25隻と無人潜水艇2隻を調達する計画だと伝えている。NCSISTは米国のMARTACと協力し、2027年上半期に最初の艇を試験することを目指している。また、V-BATは日本でも採用されており、Shield AIは2025年1月、海上自衛隊が艦載無人機としてV-BATを選定したと発表した。
このように台湾では、海巡署による無人機の導入、海軍の大規模調達、NCSISTの自律飛行試験など、複数の計画が並行して進んでいる。今回の成功大学の研究は、そのなかでも海委会が海巡署の運用を想定して支援する取り組みに位置づけられる。すべてを一括して「台湾のドローン群開発」と捉えるのではなく、それぞれの運用主体、目的、技術的な成熟度を区別する必要がある。
20機の無人機群を実海域で運用するために残る課題
海巡署が無人機による監視能力の拡充を急ぐ背景には、中国の海警船による活動への対応がある。NOWnewsが4月に掲載したインタビューで、海巡署の副署長は、中国の海警船が金門周辺の禁止水域や制限水域に年間46回進入しており、毎回4隻で行動していると説明した。最近では、進入後に2隻ずつ左右に分かれ、海巡署の巡視船を分散させて消耗を強いる戦術を取っているという。限られた船艇と人員で広い海域を監視する海巡署にとって、監視対象が複数の方向に分かれることは大きな負担となる。
海委会が今回の群飛行技術に期待しているのは、複数機の協調、広域の監視、継続的な監視という3つの能力だ。無人機を海巡署の隊員にとっての「空中の目」として活用し、巡視船や沿岸の監視設備だけでは対応しにくい範囲まで監視を広げる構想である。SCMPも、無人機の導入によって船艇や沿岸センサーの監視範囲を補完できる可能性を指摘している。ただし、今回の海委会の発表には、中国の海警船が分散して行動する戦術に対して、無人機群を具体的にどう運用するかまでは記載されていない。
実際の運用に向けて、装備と技術の両面で準備は進み始めている。成功大学の研究では、異なる3機種を組み合わせた20機の協調飛行シミュレーションが完了した。海巡署には訓練用マルチコプター45機が納入され、V-BATも最初の機体が到着している。残りのV-BATについても、今後数カ月で納入される予定だ。しかし、これらの装備を組み合わせて20機規模の機群を実海域で運用できる段階に達したわけではない。
今後確認すべき点の一つは、HIL試験と実海域試験の具体的な日程と予算である。もう一つは、研究対象となった3機種の実機をどこまで確保できるかという問題だ。V-BATは最初の納入が確認されており、JUMP 20についても、2023年に米国から無償提供を受け、海巡署が操作訓練に使用していると報じられている。一方、Flexrotorについては、海巡署が実機を受領したという情報を確認できていない。したがって、シミュレーションで使用した3機種を実際に組み合わせ、海上で協調飛行させる体制が整うかどうかは、現時点では不明だ。
さらに、運用を担う人員の訓練も欠かせない。管主任委員は、高度な装備を導入するだけでは不十分であり、隊員の技能向上と訓練が伴わなければならないと強調している。7月に納入された45機のマルチコプターは基本的な操縦技能の習得を目的としており、Shield AIもV-BATの運用に向けて海巡署の操縦員と整備員を訓練すると説明している。単機の操縦から複数機の協調運用へ移行するには、こうした訓練に加え、任務の割り当てや機体間の情報共有、異常発生時の対応手順などを確立する必要がある。
今回の研究成果と実際の装備配備を結びつけるうえでは、海委会が次段階の試験日程と予算を明らかにすること、V-BATの納入が進むこと、隊員が複数機を運用するための技能を習得することが重要な条件になる。ただし、これは公表された研究内容と装備整備の状況を踏まえた整理であり、海委会が正式な実海域試験の実施条件として示したものではない。また、20機の無人機を実際に同時飛行させる具体的な試験計画も、10月26日の発表には含まれていない。
今回の成果は、異なる飛行特性を持つ無人機をAIで協調させるための基礎技術を、シミュレーション上で検証したことに意義がある。一方、海上での安定飛行や通信・制御の信頼性、機体の確保、運用要員の訓練など、実用化に向けた課題は残っている。今後、HIL試験と実海域試験の時期や規模が明らかになれば、20機の無人機群を実際の海上監視に活用できるかどうかを、より具体的に判断できるようになる。
