Apple向けチップ約10億ドルがTSMCに滞留? DRAM不足報道を決算資料で検証
この記事のポイント
- 何が起きた: Tim Culpan氏は、TSMCがDRAMを待つApple向けチップを約10億ドル分抱えていると報じた。
- なぜ重要か: Appleは在庫を110.92億ドルまで増やし、メモリ価格の上昇が次四半期以降もコストを押し上げると説明している。
- 次に見るべき点: AppleとTSMCが、対象製品、滞留工程、メモリ調達への影響を個別に開示するかどうかだ。

CulpiumのアナリストTim Culpan氏が、TSMCがDRAMを待つApple向けチップを約10億ドル分抱えていると報じた。ただし、金額と対象チップ、滞留している工程や情報源は公式資料で確認できない。一方、Appleは棚卸資産を大きく積み増し、メモリ価格の上昇が続くと説明した。TSMCも在庫日数を伸ばしているが、その主因として挙げたのはN2の立ち上げである。報道と両社の開示を同じ数字として扱わず、どこまでが確認済みかを分けて見る必要がある。
## 約10億ドルという報道に残る空白
Culpan氏が伝えたのは、TSMC側にApple向けチップが約10億ドル分滞留し、DRAMの確保を待っているという内容だ。ここで確定しているのは、この主張が報じられたことまでである。金額の算定方法、チップの種類、ウェハーやダイ、パッケージ済みSoCのどれに当たるのかは示されていない。
AppleとTSMCの公式資料も、この約10億ドルやApple向けチップの滞留を個別には開示していない。したがって、TSMCがAppleに納入できない、あるいは対象品が損失や廃棄になった、と読むことはできない。報道の真偽を判断するには、DRAMの規格や供給者、後工程と所有権のいずれかを両社または関係企業が明らかにする必要がある。
## Appleの在庫は110.92億ドルへ増えた
Appleの2026年6月27日時点の棚卸資産は110.92億ドルだった。2025年9月27日の57.18億ドルから53.74億ドル増えている。さらに、同日までの9カ月間のキャッシュフローでは、在庫増加が54.61億ドルの資金使用として計上された。前年同期は12.23億ドルの資金増加だったため、在庫の動きは反対方向に転じている。
Appleの10-Qでは、内訳も示されている。部品は76.45億ドルで、2025年9月末の21.24億ドルから増えた。一方、完成品は34.47億ドルで、同35.94億ドルから減っている。増えたのは完成品ではなく、まず部品側だった。
この連結在庫を、TSMCが保有するという約10億ドルのApple向けチップと足し引きしたり、Appleの在庫からTSMC側の滞留額を推定したりすることはできない。それでも、Appleが調達・供給の不確実性に備えて部品のバッファーを増やしている可能性を考える材料にはなる。
## 持ち越し在庫の緩和効果は9月以降に縮む
Appleは2026年7月30日の2026年度第3四半期決算説明会で、メモリ価格の上昇が続き、9月四半期のメモリコストも6月四半期を上回る見通しを示した。Tim Cook CEOはメモリ価格を「100年に一度の洪水」と表現し、9月四半期以降も上昇する可能性に言及している。
CFOのKevan Parekh氏によると、6月四半期には持ち越し在庫がメモリコストの一部を相殺し、9月四半期にもその効果は残る見込みだ。ただし、その効果は9月以降に縮小する。在庫を先に確保することは一時的な緩衝材になっても、メモリ価格が上昇し続ける局面でコスト圧力を恒久的に消す手段ではない。
Appleは10-Qでも、先端半導体、NAND、DRAMを含む部品で供給制約とコスト上昇が起きており、今後さらに強まる可能性があると記した。値上げで吸収しようとしても、需要を弱めるリスクが残るという。Apple自身が、メモリ問題を一時的な調達遅延ではなく、売上高や粗利率まで波及し得る経営リスクとして扱っている。
## TSMCの在庫日数はN2立ち上げで87日へ
TSMCの2026年第2四半期の棚卸資産は3855.3億台湾ドル、在庫日数は87日だった。前四半期は3114.5億台湾ドル、80日であり、前年同期は3041.9億台湾ドル、76日だった。同社は在庫日数の増加について、N2の立ち上げを主因としている。
TSMCは自社を専業の半導体受託製造企業と説明し、2025年には534顧客向けに12,682製品を製造したとしている。2026年第2四半期には7nm以下の先端技術がウエハ売上の77%を占めた。こうした全顧客・全工程を含む連結在庫は、Apple向けの内訳ではない。TSMCの3855.3億台湾ドルを、DRAM待ちのApple向けチップの根拠にすることもできない。
同社の第2四半期売上高は402.01億ドルで、前年同期比33.7%増だった。2nmはウエハ売上の3%に立ち上がったばかりで、3nmが30%、5nmが33%を占める。TSMCが説明したのは、在庫日数が増えた主因がN2の立ち上げだという点であり、棚卸資産額全体の内訳ではない。少なくとも公開資料の範囲では、Apple向けDRAM待ちと結びつける材料はない。
## ロジックチップとDRAMは別の供給網を通る
Apple製品に使われるSoCやアプリケーションプロセッサと、DRAMやLPDDRは、サプライチェーンでは別部品であり、供給者も異なる。最終製品では同じ基板、パッケージ、組立工程に統合される場合がある。このため、TechPowerUpの報道が正しいなら、TSMCで製造されたロジックチップと、別の供給網で確保するメモリの同期がどこかで崩れた可能性を意味する。
ただし、今回の報道が指す製品やメモリ規格、後工程企業と滞留地点は分かっていない。Appleの在庫増は部品を先に確保した動きを示すが、増加分がメモリかどうかは明らかでない。TSMCの在庫日数増も、公式説明はN2立ち上げに限られる。今後の決算説明や調達状況で、Appleが部品在庫をどこまで使い、TSMCが特定顧客・特定工程に関する説明を加えるかが、約10億ドル報道を確かめる手掛かりになる。
Sources:substack.com | apple.com | apple.com | sec.gov | apple.com | investor.tsmc.com | investor.tsmc.com | investor.tsmc.com | investor.tsmc.com | techpowerup.com