Waymoは、2026年2月、同社の第6世代となる最新の自動運転システム「Waymo Driver」を搭載した新型車両「Ojai(オハイ)」による完全無人走行の運用をサンフランシスコとロサンゼルスで開始したと発表した。

この第6世代システムは、単なる既存技術のアップデートではない。これまでの「実験的なフリート(車両群)」から「数万台規模の商用量産」へとフェーズを移行させるための、戦略的なハードウェアの再定義なのだ。センサー数を42%削減しながら、解像度や処理能力を飛躍的に向上させ、さらに1ユニットあたりのコストを2万ドル以下に抑え込む。この技術的・経済的ブレイクスルーは、Waymoが目指す「2026年内の100万回/週のライド提供」という野心的な目標を支える強固なバックボーンとなる。

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ハードウェアの再定義:少ないセンサーでより高い知能を

第6世代Waymo Driverの最大の特徴は、システム構成の徹底的なスリム化と高性能化の両立にある。従来の第5世代(Jaguar I-PACEベース)が29台のカメラと5台のLiDARを搭載していたのに対し、最新システムではカメラを13台、LiDARを4台にまで削減した。

17メガピクセル・イメージャーがもたらす視覚革命

視覚システムの核となるのは、自社開発の17メガピクセル(17MP)次世代イメージャーだ。これは一般的な自動車用カメラ(5〜8MP)を遥かに凌駕する解像度を持ち、動的範囲(ダイナミックレンジ)と低照度環境下での感度において圧倒的な優位性を誇る。

  • 全方位の死角解消: 解像度の向上により、少ないカメラ台数でも車両周囲360度の詳細な情報を補足可能になった。
  • 過酷な照明条件への耐性: 救急車の強烈な赤色灯や直射日光、夜間のハイビームによる白飛びを抑えつつ、暗い影の中に潜む歩行者や障害物を確実に検知する。
  • 熱安定性: 自動車特有の過酷な温度変化の中でも、画質の劣化を防ぐ高い熱安定性を備えている。

全天候型を支えるイメージング・レーダーとLiDARの進化

WaymoがTeslaのような「ビジョンのみ」のアプローチを採らず、マルチモーダル(多角的な)センサー構成に拘り続ける理由は、いわゆる「ロングテール(稀に発生する特異な事象)」への対応能力にある。

最新のLiDARシステムは、過去5年間の業界全体のコストダウンを背景に、カスタム設計のチップと光学設計を組み合わせることで、解像度と信頼性を高めつつコストを劇的に下げた。このLiDARは、雨や雪による道路の飛沫(スプレー)を透過して背後の物体を識別し、反射の強い道路標識によるポイントクラウドの歪みを回避するよう再設計されている。

また、イメージング・レーダーは物体の距離、速度、大きさをあらゆる気象条件下で即座に追跡する。新開発のアルゴリズムにより、霧や豪雨、降雪時でも物体の識別時間を短縮し、システムが次の動作を決定するための猶予を確保している。

「Ojai」と「IONIQ 5」:マルチプラットフォーム戦略の加速

Waymoは自らを「自動車メーカー」ではなく「ドライバー(ソフトウェアとセンサーのパッケージ)」を作る企業と定義している。第6世代システムは、異なる車種への適合性を高めたモジュラー設計が採用された。

中国Zeekrベースの「Ojai」

最初に第6世代を搭載したのは、中国Geely(吉利汽車)傘下のZeekr(ジーカー)が製造したベース車両「Ojai」だ。ミニバンスタイルを採用したこの車両は、フラットなフロア、低いステップ、高い天井を備え、ロボタクシー専用に設計されたパッケージングが特徴だ。Bピラーのないスライドドア構造は乗降性を劇的に改善している。

Hyundai IONIQ 5への展開と5万台規模の供給

Waymoの拡大戦略において、Hyundai(現代自動車)との提携は極めて重要だ。Waymoは「IONIQ 5」をベースにした第6世代搭載車両の導入も進めており、報道によればHyundai側は最大5万台規模の供給体制を整えようとしている。これは自動運転業界における単一車種の受注としては過去最大級であり、Waymoが「数万台」という量産フェーズに本気で踏み出したことを示している。

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コスト構造の劇的変化:ユニット価格2万ドル以下の衝撃

これまでWaymoのシステムは「1ユニットあたり10万ドル以上(車両代別)」とも言われ、その高コストゆえにスケールが困難だとする批判に晒されてきた。しかし、第6世代ではこの議論に終止符を打つ。

  1. センサー数の42%削減: カメラ、LiDAR、レーダーの総数を大幅に減らしたことで、部品コストを物理的に圧縮。
  2. カスタムシリコンの活用: 複雑な処理を汎用部品の組み合わせではなく、Waymo独自のカスタムチップに集約。これにより電力効率が高まり、部品点数も削減された。
  3. 業界の成熟: LiDAR市場の成熟による汎用部品の価格低下を最大限に活用。

第6世代システムのハードウェアコストは2万ドルを下回る水準まで低下しているという。これは第5世代と比較して50%以上のコスト削減を意味し、1回あたりの走行コストを劇的に引き下げる可能性を秘めている。

政治的摩擦と地政学的リスク:中国製ベース車両を巡る攻防

Waymoの躍進には、技術とは別の課題も浮上している。ベース車両に中国企業であるGeely/Zeekrを採用している点だ。米連邦議会の公聴会では、共和党議員から「中国とベッドを共にしている」との厳しい追及を受けた。

これに対し、Waymoの安全責任者であるMauricio Peña氏は明確に反論している。Zeekrから提供されるのはあくまで「ベース車両(シャシーやボディ、モーター)」であり、自動運転に関わるコンピューティング、センサー、データ管理はすべてWaymoが自社で開発・インストールを行っている。中国側に走行データや乗客の情報が流れる仕組みは存在しないという主張だ。

しかし、米国政府が検討している中国製コネクテッドカー技術の規制は依然として不透明であり、Hyundaiや将来的なトヨタとの提携を加速させている背景には、地政学的なサプライチェーンの多様化という戦略的意図も透けて見える。

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市場拡大のロードマップ:全米20都市と海外進出へ

Waymoの拡大スピードは加速の一途を辿っている。2025年だけで1,500万回のライドを提供し(前年比4倍)、累計走行距離は2億マイルに達した。

  • 2026年の新規展開都市: アトランタ、マイアミに加え、ワシントンD.C.、デトロイト、ラスベガス、サンディエゴ、ダラス、ヒューストンなど計20都市以上の新規展開を計画している。
  • 冬の克服: 第6世代システムの全天候対応能力を活かし、これまで「暖かい都市」に限定されていたサービスエリアを、デトロイトやデンバーといった降雪地帯へも拡大する。
  • 国際展開: ロンドンを皮切りに、東京への進出も視野に入れていることが示唆された。

Teslaとの差別化要因

自動運転分野で常に比較されるTeslaの「FSD(Full Self-Driving)」に対し、Waymoは明確な「安全性の実証データ」で差別化を図っている。

Waymoの発表によれば、人間が運転する車両と比較して、深刻な負傷を伴う事故は90%少なく、エアバッグの作動率は82%低いという。Teslaが監視付きのレベル2/3に留まり、規制当局の精査を受けているのに対し、Waymoは既に6都市で完全無人(レベル4)の商業運転を成立させている事実が重い。

第6世代システムの導入は、Waymoが「研究開発プロジェクト」から、実質的な「公共交通インフラ」へと変貌を遂げたことを象徴している。160億ドルの新たな資金調達、圧倒的な安全実績、そして劇的なコストダウンを実現したハードウェア。この三拍子が揃った今、ロボタクシーが都市交通の主役になる日は、私たちが想像するよりもずっと近くに来ている。


Sources