中国・江蘇省連雲港市の徐圩で2026年11月6日、高温ガス炉を採用する原子力発電所3号機の原子炉関連施設が着工した。中新社の谷華記者による現地報道が同日伝えた。中国核電の11月6日付公告にも、同日に初回のコンクリート打設を予定していることが記されており、3号機の定格電気出力は660MW、設計運転寿命は60年とされる。今回の着工により、原子炉で発生する熱を工業用蒸気として活用する計画が、建設段階へと進んだ。
この事業の規模を考えるうえで重要なのが、中国核電が8月に開示した約103億元の高温炉調達計画だ。ただし、これは今回新たに確定した契約額ではなく、徐圩一期全体の建設費を示すものでもない。徐圩一期では、加圧水型炉「華龍一号」2基と高温ガス炉1基を組み合わせ、工業用蒸気と電力を供給する計画となっている。調達額が対象とする設備や業務と、完成後に販売する蒸気の範囲を区別しなければ、金額の大きさだけで事業の採算性を判断することはできない。
約103億元の調達計画には何が含まれるのか
中国核電の2026年8月1日付公告によると、子会社の中核蘇能が中核能源から調達するのは、高温炉工程に関する請負サービスだ。計画額は1,032,192万元(人民元)で、通常の元単位に換算すると10,321,920,000元、すなわち103億2,192万元となる。
公告の2ページに記載された業務範囲は、高温炉の設計から設備・材料の調達、引き渡しまで幅広い。さらに、許認可の取得や建設技術に関する支援、試運転支援、設備研修に加え、これらに伴うプロジェクト管理も含まれている。したがって、約103億元を原子炉本体や関連機器だけの購入費用とみなすのは適切ではない。また、この金額はあくまで調達計画額であり、徐圩一期全体の総事業費や確定した契約額とは区別する必要がある。
公告に加え、中国核電が8月29日に公表した半期報告と、中国核能行業協会が2024年8月20日に掲載した中国核電の発表を照合すると、各数値の対象範囲と開示時点は次のように整理できる。
| 開示項目 | 対象範囲・内容 | 時期・状態 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1,032,192万元(約103億元) | 高温炉工程の請負サービス調達計画 | 2026年8月1日公告。最終額は契約で決定 | 一期全体の総事業費や確定契約額ではない |
| 公告に記載された業務 | 設計、設備・材料の調達と引き渡し、許認可取得・建設・試運転の支援、研修、プロジェクト管理 | 8月1日公告の2ページ | 機器の購入費用だけを示すものではない |
| 株主承認と契約状況 | 高温炉工程の調達計画 | 8月17日に株主承認。半期報告の開示時点では未署名 | 11月時点の契約締結状況を示すものではない |
| 年間3,250万トンの工業用蒸気 | 華龍一号2基と高温ガス炉1基からなる徐圩一期全体 | 一期完成・稼働後の供給計画 | 高温炉単独の供給量ではなく、約103億元と直接比較できない |
ここで注意したいのは、同じ徐圩プロジェクトに関する数字でも、それぞれ対象範囲が異なることだ。調達公告に列挙された業務だけでは、ほかの建設工事契約との境界や、プロジェクト全体の最終的な事業費の内訳までは確定できない。高温炉工程への支出計画と、3基を組み合わせた設備全体の年間供給計画は、分けて考える必要がある。
株主承認から契約締結までの手続き
8月の公告によると、調達先の中核能源は中国核工業集団(CNNC)が45.98%を保有する企業だ。今回の取引はCNNCの支配下にある関係法人との関連当事者取引に該当するため、所定の承認手続きを経る計画となっていた。
約103億元という金額の算定方法も、公告の4ページで説明されている。それによると、当局が承認した概算を基礎とし、同種のプロジェクトの価格水準や、同時期の設備・材料価格を参考に算定したという。つまり、競争入札によって確定した価格ではなく、計画段階で見積もられた金額である。公告では、最終的な取引価格は当事者間で締結する契約によって決まると明記している。
その後、8月17日に開かれた臨時株主総会で、調達計画が承認された。しかし、8月29日公表の半期報告31ページには、開示時点で取引契約はまだ署名されていないと記載されている。株主総会では、調達計画の範囲内で具体的な取引内容と契約を承認する権限が経営陣に与えられ、その承認を経て双方が契約に署名する手順が認められた。
このように、株主総会による承認と契約締結は別の手続きである。ただし、半期報告に記載された未署名という状態が11月まで続いているとは限らず、現在も契約が締結されていないと断定することはできない。約103億元という調達計画額の意味を理解したうえで、次に確認すべきなのは、建設する設備がどのような熱と電力を、どれだけ供給する計画なのかという点だ。
電気出力だけでは評価できない工業用蒸気事業
中国核電が2024年に公表した計画によると、徐圩一期では、熱需要に応じて発電量を調整する運転方式を採用する。まず、華龍一号の主蒸気を利用して脱塩水を加熱し、飽和蒸気を生成する。その蒸気を高温ガス炉の主蒸気でさらに加熱し、工業用に供給する仕組みだ。このため、専用の蒸気熱交換所を設け、加圧水型炉と高温ガス炉を組み合わせて工業向けの熱を供給する計画となっている。
事業者が見込む一期完成・稼働後の供給規模は、工業用蒸気が年間3,250万トン、年間最大発電量が115億kWh超に達する。ただし、いずれも華龍一号2基と高温ガス炉1基を組み合わせた一期全体の計画値であり、3号機単独の性能や実績を示すものではない。今回着工した3号機の定格電気出力660MWについても、ほかの2基を含む発電設備全体の供給規模とは区別する必要がある。
中国には、高温ガス炉を商業運転へ移行させた先例もある。清華大学の2023年12月8日付発表によると、石島湾の高温ガス炉実証プロジェクトは、168時間の連続運転試験を経て商業運転に入った。同大学は高温ガス炉について、300〜500℃の工業用蒸気を供給できる技術だと説明している。ただし、この温度範囲は高温ガス炉の一般的な供給能力に関する説明であり、徐圩で実際に顧客へ供給する蒸気の契約温度を示すものではない。
工業用蒸気の供給を主な用途に含む原子炉では、電気出力だけで設備の価値を比較することはできない。熱供給に利用するエネルギーが増えれば、その分だけ発電に回せるエネルギーとの配分も変わるためだ。事業の実態を把握するには、どのような温度・圧力の蒸気を、どれだけ安定して供給できるのか、さらに熱需要と発電をどのように組み合わせて運転するのかを確認する必要がある。
採算性を判断するには蒸気の販売条件と総事業費が必要
約103億元という調達計画額を、年間3,250万トンの工業用蒸気供給量で割っても、蒸気の販売単価は算出できない。前者は高温炉工程に関する設計・調達・支援業務の計画額であるのに対し、後者は原子炉3基で構成される一期全体の年間供給計画だからだ。対象とする設備や期間が一致していないうえ、設備への投資額は年間の運転費用や販売収入とも異なる。
事業の採算性を評価するには、まず顧客に供給する蒸気の温度と圧力を確認し、それぞれの供給量と販売単価を把握する必要がある。蒸気を継続的に供給できる条件や設備の稼働率も、収益を左右する重要な要素だ。さらに、熱供給と発電の配分を整理し、資金調達費用を含む総費用と対応させなければ、工業用蒸気と電力を販売する事業全体の収支は評価できない。今回確認できた開示資料だけでは、こうした採算計算に必要な条件はそろっていない。
また、着工から実際の蒸気供給開始までには、建設以外の手続きや技術的な検証も残されている。中国の国家核安全局が11月2日付で発行した建設許可は、初回の基礎コンクリート打設への着手を認めたものだ。一方で、高温部材の長期材料試験とデータ提出を求めているほか、初回の燃料装荷前には運転許可を申請するよう定めている。したがって、今回の着工は建設段階への移行を意味するものの、原子炉の運転や工業用蒸気の供給開始が認められたわけではない。
徐圩3号機の着工は、原子炉の高温熱を工業分野に利用する計画が具体的な建設段階へ進んだことを意味する。ただし、約103億元という調達計画額だけでは、プロジェクトの総事業費や採算性を判断することはできない。今後は最終契約で確定する費用範囲に加え、蒸気の温度・圧力、供給量、安定供給に関する条件、販売価格などの開示が重要となる。設備の建設費用と、実際に販売する熱・電力の条件が明らかになれば、工業用蒸気事業としての経済性をより具体的に評価できるようになる。



