ADATAの会長兼CEOを務めるSimon Chenは、メモリ不足が今後10年続くとの見通しを示した。工商時報が2026年7月20日に報じた発言である。Micronの「2027年を越えて逼迫する」という見方を、一気に2030年代半ばまで延ばす強い予測だ。実際の増産計画をたどると供給がすぐには増えない事情は確認できるが、10年間という期間にはまだ業界共通の裏づけがない。

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「10年不足」が見込むクラウドの先の需要

Chenは、今後10年で最も不足する資源として、電力、とりわけグリーン電力とメモリを挙げた。AIへの投資が過熱しているとの懸念に対しては、「2030年以降に、AIバブルが2040年か2050年に起きるかを議論すればよい」と反論している。足元のクラウド事業者による設備投資だけを見て需要の天井を判断するのは早い、という立場だ。

その需要シナリオは、AIがデータセンターから物理世界へ広がることを前提にする。Chenが挙げたのはロボットや自動運転車、無人工場である。さらにスマートホームや低軌道衛星にも広がり、クラウドと端末の両方でメモリ搭載量が増えるとみる。SamsungSK hynix、Micronに中国の大手を加えても、10年以内には需要を完全に満たせないというのが同氏の結論である。

供給側にもChenなりの根拠がある。大手メーカーは過去の市況悪化を経験しており、需要を上回る規模の設備を一度に建てにくい。中国メーカーも重要な製造装置の調達に制約を受け、工場とクリーンルームを造るには時間がかかる。ただし、工商時報の記事には2036年までの需給を数量で示すモデルは掲載されていない。「10年」は確定した業界予測ではなく、Chenが描く需要シナリオの期間である。

HBMが増やすウェハ消費

SK hynixの説明では、HBM(High Bandwidth Memory)は同じメモリ容量を製造する場合でも、従来型DRAMより多くのウェハを必要とする。複数のDRAMダイを積層し、TSV(シリコン貫通電極)で接続するためダイ面積が大きくなり、1枚のウェハから取れるダイが減るからだ。積層と先端パッケージの工程も加わる。

ここで効いてくるのは、メモリの生産量をビット数だけでは測れない点だ。AIアクセラレーター向けHBMの比率が上がるほど、同じ総容量を出荷するのに必要なウェハと製造スペースは増える。Micronも、HBMの世代更新に伴って1ビット当たりのウェハ消費が増え、HBM以外の供給をさらに圧迫すると説明している。

Samsungは2026年のHBM売上高が2025年の3倍超になると見込み、HBM4の生産能力を拡張中だ。AI向けの高付加価値メモリを増やす判断は合理的だが、PCやスマートフォン、一般サーバーに使う通常DRAMへ回せる生産資源との競合は続く。AI需要が伸びるほど増産しても不足感が消えにくいという逆説は、ここから生まれる。

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2033年まで続く増産に即効性はない

Micronは2026年6月の決算説明で、DRAMとNANDの需要が供給を大幅に上回り、逼迫が2027年を越えて続くとした。2028年から供給は徐々に改善するとみる一方、需要にいつ追いつくかは見通せないという。新工場には技能労働者と許認可、電力インフラの確保が要る。製造装置を搬入して生産を立ち上げる期間も必要だ。

企業・拠点 供給拡大の節目 公表された範囲
Micron Idaho第1工場 2027年半ば 初回ウェハ出力
Micron Idaho第2工場 2028年末 初回ウェハ出力
Micron台湾Tongluo 2027年半ば 既存工場から本格出荷
SK hynix Yongin 2033年 第4工場の建設完了目標

この年表は、工場を建てるという発表と、市場へ十分な量が出る時期が離れていることを示す。SK hynixはYonginの第4工場完成を2045年から2033年へ12年前倒しした。それでも同社はYonginだけでは将来需要を満たせないと判断し、Cheongjuと韓国南西部を含む総額1,100兆ウォンの段階投資を掲げる。Yonginの開発には約9年を要したため、次の大規模拠点も短期間では立ち上がらない。

顧客側も長期契約へ動いた。Micronは2026年から2030年を中心とする16件の戦略的顧客契約を締結し、対象期間に販売するDRAM数量の約20%、NAND数量の3分の1をカバーすると説明した。将来の供給を数年単位で確保する契約が広がれば、スポット市場や契約を持たない顧客が感じる不足は、総生産量の回復より長引く可能性がある。

価格上昇で利益が伸びるADATAの立場

ADATAはDRAMチップを製造する企業ではなく、上流メーカーからチップを調達してモジュールやSSDとして販売する企業だ。同社の2026年第1四半期は売上高261億台湾ドル、営業利益122.80億台湾ドルとなり、売上総利益率は55.69%に達した。売上構成の68%をDRAM、25%をSSDが占めている。

価格上昇前に確保した在庫は、利益を大きく左右する。ADATAの在庫は2025年第4四半期の235.57億台湾ドルから、2026年第1四半期には364.38億台湾ドルへ増えた。さらに同社は第3四半期に500億台湾ドル超まで積み増す方針を示している。2026年5月の売上高も129.43億台湾ドルと前年同月比210.44%増を記録した。

したがって、長期の価格上昇と供給不足を見込む発言は、ADATAの調達戦略と業績見通しに直結する。これは予測を退ける理由ではないが、チップメーカーの生産計画とは分けて読む必要がある。一次資料が支えるのは、逼迫が2027年を越えること、新工場の立ち上げが2027年から2033年にまたがること、HBMがウェハを多く消費することまでだ。

「10年」が現実になるかは、Micronが示す2028年以降の供給改善が需要の伸びを上回れるかで最初の判定ができる。その際は新工場の完成件数より、実際のウェハ出力量と、増産分のうち通常DRAMへ回る比率を見るべきである。