Amazon Web Services(AWS)が、社内エンジニアにEC2のCPU容量を節約するよう求めたとThe Informationが2026年8月7日に報じた。顧客向けの計算資源を確保するため、アイドル状態のインスタンスを回収し、用途に見合うサイズへ縮める取り組みを強めたという。AWSは、新たな容量制約を受けた指示との見方を否定する。ただし、Andy Jassy CEOは2025年の株主書簡で、AWSには未充足需要を生む容量制約があると明記していた。社内の節約要請は、AI時代の計算資源争いがGPUから汎用CPUへ広がった局面で起きている。
5月の社内要請を巡る報道と反論
The Informationによると、AWS幹部は5月にエンジニアと会い、将来にわたってEC2顧客へ十分な容量を提供するため「あらゆる方法で容量を節約」するよう伝えたという。その対象にはAIチップとCPUを搭載するサーバーの双方が含まれる。報道後、一部の社内エンジニアはCPUサーバーを確保するまでの時間が以前より延びたという。
AWSはTom's Hardwareへの回答で、アイドルインスタンスの回収、適正サイズ化、需要に応じた増減は以前から続けていると説明した。こうした効率化を新たな容量制約の証拠とみなすのは誤りだとし、期限付きの削減要請があったかとの質問にも、EC2を巡る筋書きは不正確だと反論した。つまりAWSが否定したのは効率化の実施そのものではなく、それが新たな供給難を原因とする特別な指示だったという因果関係である。
AWS自身が認めていた未充足需要
供給余力が潤沢だとまでは、Amazon自身も述べていない。Jassy氏は2025年の株主書簡で、AWSが2025年に3.9GWの電力容量を追加し、2027年末までに総電力容量を倍増させる計画を示した。そのうえで、容量制約によって取りこぼしている需要があると認めた。大口顧客2社から2026年のGravitonインスタンス容量をすべて購入したいとの要望を受けたものの、他の顧客にも供給する必要があるため応じられなかったという。
需要はその後も伸びた。2026年第2四半期のAWS売上高は前年同期比37%増の422億ドルとなり、年間換算では1690億ドルに達した。AI事業と、Graviton、Trainium、Nitroを含むチップ事業は、いずれも年間換算250億ドルを超えた。過去12カ月の設備取得額は前年同期から661億ドル増え、Amazonは主因をAI投資だと説明している。それでも、電力、建物、サーバーを売上に変えられる状態にするまでには時間がかかる。Jassy氏は株主書簡で、AWSの設備投資は課金開始の6〜24カ月前に必要になるとした。
広報の反論と株主書簡は、対象が異なる。前者は今回の社内効率化を新設の容量対策と結びつける説明を否定した。一方、後者はAWS全体に供給制約があり、Gravitonへ極端な大口需要が寄せられている事実を認めている。今回の待ち時間をAI需要の結果と断定する材料はない。それでも、社内で回収できるCPU容量の価値が上がる背景は、Amazonの公表資料から確認できる。
なぜAIエージェントがCPUを欲しがるのか
AIの計算需要はGPUやTrainiumの稼働分では終わらない。エージェントは推論の前後でコードを実行し、検索やAPIを呼び出し、複数の作業環境を並行して動かす。アクセラレーターがモデル計算を担っている間も、CPUは各環境の制御とデータ処理を続ける。AWSはGraviton5を、多数の同時実行環境を処理しながらアクセラレーターを働かせ続ける、エージェント型AI向けのCPUとして売り出している。
2026年6月10日に一般提供されたGraviton5は、1チップに192コアを搭載する。Amazonの公表値では、Graviton4より計算性能が最大25%高く、コア間の遅延は33%低い。Gravitonを使う顧客は12万を超え、Metaはエージェント型AI向けに数千万コア規模を導入する契約を結んだ。Webサーバーやデータベースが使ってきたCPUに、AIエージェントの実行環境という新たな需要が加わっている。
この構造では、GPUの台数だけを増やしても処理系全体は完成しない。推論を呼び出すCPUやメモリーに加え、ネットワークとストレージを同じ速度で用意する必要がある。Graviton全容量を求めた大口顧客の存在は、汎用計算資源がAI設備の脇役では済まなくなったことを端的に示している。
5%未満を「無駄」と決めない仕組み
AWS Compute Optimizerは最大93日分のデータを分析し、CPUに加えてメモリー、ネットワーク、ディスクなどを見て適正サイズを提案する。アイドル候補の基準も、14日間のピークCPUが5%未満で、ネットワークI/Oが1日5MB未満という複合条件である。利用率の低さだけで停止を決めないのは、突発負荷と可用性を守りながら容量を戻すためだ。
外部顧客向けのSpot Instanceも、余剰EC2容量をオンデマンド料金より最大90%安く提供する仕組みである。通常需要が増えるか供給が減れば、AWSは原則2分前に通知してインスタンスを回収でき、可用性は保証されない。余剰容量にはもともと、必要な場所へ戻せることと引き換えに安く提供される性質がある。今回の社内点検でも、開発環境を止めずにどこまで容量を回収できるかが実効性を左右する。
AWSは2027年末までの電力容量倍増を掲げる。それまでの間、社内の確保時間が改善するかは、増設ペースがAIと通常のクラウド需要に追いついているかを測る早い指標になる。回収したアイドルCPUが開発を遅らせず顧客需要へ回るなら、効率化は設備増設までの時間を買える。



