市場調査会社Mercury Researchが2026年6月に公表したQ1 2026のCPU市場レポートは、数字の表面だけを見ると「AMDの快進撃」を告げるものに映る。AMDのx86全体市場シェアは前年同期の27.1%から32.6%へと5.6ポイント上昇し、過去最高を記録した。Intelとのシェア比はAMD除外の細かな条件でやや変わるが、大局では70対30の構図が定着しつつある。
しかし数字の組み合わせを丁寧に解きほぐすと、まったく異なる景色が見えてくる。AMDのシェアが増えたのは、AMD自身の需要が強かったからではなく、Intel側の供給制約とPC全体市場の縮小によって相対的に底上げされた部分が大きい。市場が縮む中での「シェア拡大」は、パイの奪い合いではなく、パイそのものが小さくなっているという現実を前提に読む必要がある。
デスクトップ市場の「20%減」が示す需要破壊の始まり
2026年Q1において、デスクトップPC向けCPUの出荷台数は前年同期比で約20%減少した。Mercury ResearchのアナリストDean McCarronは、CPU市場は例年Q1に15〜20%の季節的な落ち込みを見せると説明しつつも、今回の下落には「異例の要因」が加わっていると指摘する。
その要因の一つが、「駆け込み購入の反動」だ。2025年末にかけてメモリ(DRAMおよびフラッシュ)の供給逼迫が表面化し、価格が急騰する前に部品を確保しようとするPCメーカーや消費者が需要を前倒しした。その結果、2025年Q4のデスクトップCPU販売は人為的に底上げされ、その反動が2026年Q1に集中して現れた構図だ。
さらに深刻なのが、価格高騰そのものが需要を破壊し始めたという点だ。McCarronは「CPU・メモリ・SSDのすべてを揃えることはできるが、価格を考えると購入を見送る消費者が増えている」と述べる。需要破壊とは、単なる景気後退とは異なる。高い価格水準が消費者の購買意欲を根本から削ぎ、潜在的な需要が顕在化しないまま消える現象だ。AMDのデスクトップCPUシェアは2025年末比で3.2ポイント後退し、同社にとっては「珍しいデスクトップ市場での退潮」となった。
この影響は購入を完全に断念する層だけにとどまらない。DRAM・フラッシュ・CPUすべてが同時に値上がりしている局面では、ミドルレンジのデスクトップ環境を揃えるコストが当初の想定を大幅に上回るため、購入時期を半年〜1年先延ばしにする「様子見」層が増加している。こうした消費者行動の変化——需要の先送りと消滅——が、統計上の出荷急減として数字に現れた構図だ。
Intel供給制約がモバイル市場を直撃
デスクトップ市場がAMDにとって想定外の苦戦となった一方、ノートPC(モバイル)向けCPU市場では別の構図が展開した。モバイル市場全体の出荷台数は前年同期比で低一桁台の減少にとどまり、下落の原因は全面的にIntelの供給制約に起因する。
Intelは2025年に、サーバー向け高付加価値チップへの製造キャパシティ転換を決断した。この判断は短期的な収益性の向上をもたらした反面、PC向けノート用CPUの供給に深刻なボトルネックをつくった。AMDはIntelの供給不足が生んだ空白を自社製品で埋め、モバイル向けシェアを前年同期の22.5%から28.3%へと5.8ポイント拡大した。
McCarronは「2026年Q1がIntelのクライアントCPU供給不足のボトムになるとみている」と述べており、Q2以降の回復に期待を示している。ただし回復のスピードと確実性は不透明で、Intelが製造キャパシティを迅速にPC向けへ戻せるかどうかはサーバー側の需要動向と製造プロセスの制約にも左右される。AIサーバー需要がIntelの意思決定を縛り続ける限り、PC向けの供給回復は「Q2がボトム」という楽観シナリオ通りに進まない可能性もある。
サーバー市場だけが別世界:AI需要がCPU出荷を下支え
PC向け市場が軒並み苦戦する中、サーバー向けCPU市場は前年同期比で約10%増と独り勝ちの状況にある。生成AIおよびエージェント型AIシステムの急増がデータセンターへの投資を加速させており、高性能CPUの需要が継続的に強い。
AMDのサーバー向けCPUシェアは前年同期から6ポイント上昇し33.2%に達した。Intelがデスクトップ・モバイル向けの供給を絞ってまでサーバー向けに製造キャパシティを集中させたことが、結果的に同セグメントではIntelの出荷を安定させ、AMDの拡大も許容するという構図を生んだ。
ただしAMDは2026年Q1の決算発表において、「下半期にはメモリ供給危機の影響でCPU出荷が減少する見込み」と自ら警告している。サーバー需要がAIによって底堅く保たれているとしても、顧客側のDRAM・HPCメモリ調達コストの上昇がサーバー投資の意思決定にブレーキをかける可能性は排除できない。
Armの台頭とx86の独占が崩れる数字
CPU市場の変動を語る上で、もう一つの構造的な変化を見落とすわけにはいかない。Mercury Researchの推計によると、Arm系アーキテクチャを採用したクライアントPC向けCPUのシェアは2026年Q1に14.4%に達した。これはQ4 2025の13.9%から0.5ポイントの上昇だ。
この数字にはAppleのMシリーズ搭載Macと、Google ChromebookのArm系SoCが含まれる。QualcommのSnapdragon搭載Windows PC向けは現時点でMercury Researchの公開レポートに分離計上されていないが、これが別建てで公開されるようになれば、Arm系のシェアはより明確に可視化されるはずだ。
サーバー市場でのArm進出も無視できない水準に達している。Mercury Researchの推計では、Arm系サーバーCPUのシェアは12.5%(Q4 2025)から13.2%へと上昇した。増加の主な牽引役はNvidiaの「Grace」CPUだ。GraceはBlackwell NVL72 AIラックプラットフォームに搭載されており、NvidiaのAI向けシステム出荷の急拡大とともにArm系サーバーCPUの絶対数を急増させた。McCarronは「Arm系サーバーCPUの出荷台数は前年同期比でほぼ2倍になった」と述べている。
x86がサーバー市場においても85%超のシェアを維持しているとはいえ、Arm系サーバーCPUがこのペースで増加を続ければ、5年以内に無視できない規模へと成長する可能性がある。NvidiaがBlackwellシステムにGraceを組み合わせるアーキテクチャを維持する限り、AIインフラ投資の拡大はそのままArm系サーバーCPUの市場拡大に直結する構造にある。x86が牽引してきたサーバー市場の「絶対的支配」は、静かに、しかし着実に侵食されつつある。
下半期に向けた3つのリスク
Mercury ResearchとIDCのデータを重ね合わせると、2026年後半の市場には少なくとも3つの重大なリスクが構造的に存在する。
第一は、メモリ価格の持続的な高止まりだ。IDCは2026年Q4(年末商戦期)のPC販売台数が20%下落すると予測している。DRAM・フラッシュの供給がいつ正常化するかは現時点で不透明であり、高価格が消費者の購買行動を抑制し続ける場合、CPU出荷への悪影響は下半期を通じて継続しかねない。
第二は、需要の「前倒し消化」による空白期間だ。2025年末の駆け込み購入で潜在的な需要の一部は既に消化された。特にデスクトップPC市場では、更新サイクルに乗るはずだった需要が先取りされており、2026年中盤に需要の底打ちが起きても、その回復は緩やかになると見られる。
第三は、AMD自身が警告するCPU出荷の下振れリスクだ。AMDはQ1決算においてメモリ供給危機を理由に下半期の出荷減少を予告した。これはAMDが市場の構造変化を自社の事業計画に織り込んでいることを意味する。「シェア最高」という見出しが躍る一方で、AMD自身が楽観論に距離を置いているという事実は、市場の実態をよく物語っている。