AppleIntel。かつてPC業界の覇権を共に握り、そして袂を分かった二つの巨人が、再び歴史的な合流を果たそうとしている。

2025年12月5日、GF SecuritiesのアナリストJeff Pu氏が公開した投資家向けレポートは実に興味深く、衝撃的な物だ。その中で、Appleが2028年に発売予定のiPhone向けチップ製造の一部を、Intelに委託する可能性が高いと述べられているのだ。

AD

2028年、「A22」チップはIntel製になるのか

Jeff Pu氏のレポート、およびそれを裏付けるサプライチェーンからの情報は、Appleのシリコン戦略における重要な転換点を示唆している。具体的には、2028年に登場が見込まれる「iPhone 20」および「iPhone 20e」に搭載される「A22」チップの製造において、Intelがパートナーとして選定される可能性が高いというものだ。

対象は「非Pro」モデル、最先端プロセス「14A」を採用

ここで重要なのは、Appleがすべてのチップ製造をIntelに委ねるわけではないという点だ。

  1. 対象モデルの限定: Intelが担当するのは、iPhoneのハイエンドモデル(Proシリーズ)ではなく、ベースラインとなる「非Pro」モデル(iPhone 20 / 20e)向けのチップであると予測されている。
  2. 製造プロセス: 製造にはIntelが社運を賭けて開発を進める次世代プロセスノード「Intel 14A」が採用される見込みだ。

この「14A」という名称は、かつてのナノメートル(nm)競争を超えた「オングストローム(A)」世代の技術を指す。もし実現すれば、IntelはTSMCと並び立つ、あるいは特定の領域で競合しうる製造能力をAppleに提供することになる。

設計と製造の明確な分離

ここで誤解してはならないのは、これが「Intelアーキテクチャへの回帰」ではないという点だ。Appleは引き続きチップの設計(アーキテクチャの決定、コアの構成など)を100%自社で行う。Intelの役割は、あくまでAppleが設計した図面通りにシリコンを焼き付ける「ファウンドリ(製造請負)」に徹することにある。これは現在、台湾のTSMCが担っている役割と同様である。

AppleがIntelを「第二の製造拠点」に選ぶ構造的理由

なぜAppleは、長年蜜月関係にあり、圧倒的な技術力と歩留まりを誇るTSMC以外の選択肢を模索するのか。そこには、単なるコストダウンだけでは説明がつかない、地政学的かつ戦略的な「必然」が存在する。

1. 東アジア偏重のリスクと地政学的な緊張

現在、Appleの最先端チップ製造はほぼ全てTSMC(台湾積体電路製造)に依存している。しかし、台湾海峡を取り巻く地政学的な緊張の高まりは、Appleにとって無視できない経営リスクとなっている。万が一、台湾での生産がストップすれば、iPhoneの供給は世界規模で停止し、Appleの収益基盤は崩壊する。

米国に大規模な最先端ファブ(工場)を持つIntelをパートナーに加えることは、「カントリーリスクの分散」という観点で極めて合理的な保険となる。

2. サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)

パンデミック時に露呈したサプライチェーンの脆弱性は、Appleに深い教訓を与えた。アジア地域のロックダウンや物流の混乱が製品出荷に直撃した経験から、Appleは製造拠点の分散(インド、ベトナムなど)を進めてきた。

チップ製造においても同様の論理が働く。北米(米国)での製造ラインを確保することは、物理的な物流リスクを低減し、より強固な供給網を構築することを意味する。

3. 交渉力の強化

「TSMCしか作れない」という状況は、価格交渉においてTSMC側に主導権を握られることを意味する。Intelという対抗馬を育成・確保することで、Appleは将来的な製造コストの交渉において有利なポジションを築くことができる。

AD

段階的な移行戦略:Macから始まり、iPhoneへ至るロードマップ

Jeff Pu氏のレポートは突発的なものではない。著名アナリストMing-Chi Kuo氏による先行レポートと組み合わせることで、Appleの周到な「Intel導入計画」が浮かび上がってくる。

フェーズ1:2027年半ば「Mシリーズ」でのテスト

Kuo氏の分析によれば、Intelとの提携はiPhone以前に、MacやiPad向けのチップで開始される見込みだ

  • 時期: 2027年半ば
  • 対象: ローエンドのMシリーズチップ(一部のMacおよびiPad向け)
  • 技術: Intel 18Aプロセス

これはAppleの典型的なリスク管理手法である。まず、相対的に出荷数が少なく、またバッテリー寿命や発熱の許容範囲がスマートフォンより広いタブレットやPCで新工場の実力を「テスト」するのだ。

フェーズ2:2028年「iPhone」への拡大

フェーズ1でIntelの歩留まり(良品率)や品質安定性が確認された後、満を持して主力製品であるiPhone(Aシリーズチップ)への導入が行われる。ここでも、いきなり最上位の「Pro」モデルではなく、数が出るがリスク分散もしやすい「非Pro」モデルから開始する点は、Appleの慎重さを物語っている。

Intelにとってのラストチャンス:IDMからファウンドリへの変革

Intelにとって、Appleからの受注は単なるビジネスの拡大以上の意味を持つ。それは、かつて「プロセス技術の遅れ」により失墜した技術的リーダーシップを取り戻したことの、これ以上ない「証明書」となるからだ。

「Intel Foundry」の再建

前CEOのPat Gelsinger氏の下、Intelは自社製品だけでなく他社製品も製造する「IDM 2.0」戦略を推し進めてきた。しかし、その道のりは平坦ではなかった。現CEOのLip-Bu Tan氏のリーダーシップの下でもこれは継続しているが、プロセス開発の遅延や巨額の赤字が報じられる中、世界で最も要求水準が高い顧客であるAppleをクライアントに迎えることは、Intelの製造部門(Intel Foundry)がTSMCの正当なライバルとして認められたことを世界に示すことになる。

歴史的な皮肉と新たな関係

かつてAppleは、PowerPCからIntel製CPUへの移行(2006年)を行い、その後Intel製CPUの進化停滞を理由に自社製シリコン(Apple Silicon)へ移行(2020年)した経緯がある。
「Intelのチップを捨てた」Appleが、今度は「Intelの工場で作った自社チップ」を採用する。このねじれた関係性は、半導体業界における「設計」と「製造」の分業化がいかに行き着くところまで来たかを象徴している。

AD

2028年、半導体業界の勢力図は書き換わるか

Jeff Pu氏やMing-Chi Kuo氏のレポートが示唆する未来は、単なるサプライヤーの変更ではない。それは、米国主導による半導体製造の復権と、Appleによる究極のリスクヘッジ戦略の融合である。

この提携が実現すれば、以下のような影響が予想される。

  1. 消費者への影響: ユーザーは「TSMC製」か「Intel製」かを意識することなく、同等の性能を享受できることが前提となる(かつてのiPhone 6sにおけるチップゲート事件の再来は許されない)。
  2. 業界への影響: TSMCの一強体制に風穴が開き、健全な競争が生まれることで、技術革新のスピードが加速する可能性がある。
  3. リスクの低減: 台湾有事などの地政学リスクに対し、iPhoneの供給網がよりタフになる。

「iPhone 20」の心臓部に、かつての盟友でありライバルであるIntelの技術が刻まれる日。それは、シリコンバレーの歴史において新たな1ページとなることは間違いない。AppleとIntel、両社の動向から今後も目が離せない。


Sources