2025年の最後、PCハードウェア業界から驚くべき、しかし極めて合理的な噂が飛び込んできた。テクノロジーの時計の針は常に未来へと進むものだが、業界の巨人ASUSは、あえて「過去」の資産に再び光を当てようとしているようだ。
VideoCardzが報じたサプライチェーン情報によると、ASUSは2026年第1四半期(Q1)において、DDR4メモリに対応したマザーボードの増産を計画しているという。最新規格であるDDR5への移行が進む中で、なぜ今、レガシー規格となりつつあるDDR4への回帰が選択されたのか。その背景には、深刻化するメモリ市場の価格高騰と、枯れることのない「AM4」プラットフォームの需要があった。
ASUSの生産計画変更
信頼できるハードウェア情報のリーク元として知られる「Board Channels」の情報(Videocardz経由)によれば、ASUSは2026年の生産ロードマップを修正し、特定のDDR4対応マザーボードの製造ラインを強化する方針を固めたとされる。
対象となるプラットフォームとチップセット
具体的に増産が計画されているのは、AMDおよびIntelのメインストリーム向けチップセットを搭載したモデルだ。
- AMD向け (AM4ソケット):
- B550: PCIe 4.0に対応したミドルレンジの主力チップセット。
- A520: コストパフォーマンスを最優先したエントリー向けチップセット。
- Intel向け (LGA1700ソケット):
- B760M: 第12/13/14世代Coreプロセッサに対応するミドルレンジ(Micro-ATX)。
- H610M-G: オフィス用途や安価なゲーミングPC向けの廉価版。
特筆すべきは、今回の増産がDDR5マザーボードの減産を意味するものではないという点だ。Videocardzの分析によれば、これはDDR5ラインの縮小ではなく、DDR4ラインへの追加投資、あるいは遊休リソースの再配分であり、ASUS内部でのポートフォリオの再構築と捉えるのが自然である。
DDR5価格高騰という市場の強制力
なぜ、最新技術のリーダーであるASUSが、時計の針を戻すような決断を下したのか。その答えは、市場経済の原則である「需要と供給」、そして「価格」にある。
1. 止まらないDDR5メモリの価格上昇
現在のPCハードウェア市場はDDR5メモリの供給不足と価格高騰という深刻な課題に直面している。SK hynixなどのメモリメーカーは供給逼迫が2028年まで続くと予測しており、この「メモリ危機」は短期的な現象ではない可能性が高い。
次世代コンソールの発売延期さえ噂されるほどの部材不足の中で、相対的に枯れた技術であり、供給が安定しているDDR4メモリの価値が再評価されているのだ。
2. コストパフォーマンスの乖離
2026年現在において、ハイエンドゲーミングやAI処理を目的としない一般的なユーザー層にとって、DDR5がもたらす性能向上と、それに支払うコストのバランスは必ずしも最適解とは言えない状況が生まれている。
DDR4メモリは新品市場での安価な入手性はもとより、中古市場にも潤沢に流通している。コストに敏感な自作PCユーザーや、システムのアップグレードを検討する層にとって、「安価なCPU + DDR4マザーボード + 手持ちのDDR4メモリ」という構成は、非常に魅力的な避難先となっている。
不死身のプラットフォーム「AM4」の延命
このニュースの中で特に注目すべきは、AMDの「AM4」プラットフォームの驚異的な寿命である。2016年の登場以来、長きにわたって現役を続けているこのソケットは、2026年になってもその輝きを失っていない。
Ryzen 5000シリーズと最新CPUの存在
AMDは2025年9月にRyzen 5 5600FというAM4向けの新規CPUを投入するなど、このプラットフォームへのサポートを継続している。
B550やA520マザーボードの増産は、Ryzen 5000シリーズ(Vermeer)や5000X3Dシリーズなどの高性能かつ安価なCPUと組み合わせることで、最新世代のエントリークラスを凌駕するコストパフォーマンスを実現するための布石と言える。AM4は、PC自作史において稀に見る「ロングテール」の成功事例となりつつある。
戦略的分析:Eコマースへの集中投下
今回のASUSの動きで興味深いのは、その販路戦略だ。リーク情報によれば、Intel向けのB760MやH610M-GといったDDR4モデルは、主にEコマース(オンライン販売)チャネルへ重点的に供給される見込みだという。
ここから読み取れるASUSの戦略意図は以下の通りである。
- ターゲットの明確化:
実店舗で最新のパッケージを並べてアピールするのではなく、スペックと価格を細かく比較検討するネット上の自作ユーザーや、BtoB(ビジネス)需要をピンポイントで狙っている。 - 在庫リスクの最小化:
物理的な棚を占有せず、需要に応じて柔軟に供給できるオンラインチャネルに絞ることで、レガシー製品の在庫リスクをコントロールしようとしている。 - ビジネス需要への対応:
最新のゲームをプレイしないオフィスPCや業務端末において、DDR5の帯域幅はオーバースペックであることが多い。企業導入において重要なのは「安定性」と「コスト」であり、DDR4プラットフォームはその両方を満たす最適解だ。
2026年の自作PCトレンドへの影響
ASUSによるDDR4マザーボード増産の噂は、単なる懐古趣味ではなく、市場の歪みに対する極めて合理的な適応戦略である。
もしこの情報が事実であれば、2026年前半の自作PC市場には一つの興味深いトレンドが生まれるだろう。それは、「ハイエンドはDDR5で極限を目指し、メインストリームとエントリーはDDR4で徹底的にコストを抑える」という二極化の進行だ。
DDR5への完全移行はいずれ訪れる未来ではあるが、その道程は一直線ではない。メモリ価格の高騰という「抵抗」が、DDR4という熟成された技術の寿命を、当初の予想以上に引き伸ばしている。ASUSの動きは、他のマザーボードメーカー(MSIやGIGABYTEなど)にも波及する可能性があり、消費者の選択肢が広がるという点において、我々にとっては歓迎すべきニュースと言えるだろう。
「最新こそ最良」というテクノロジーの定説に対し、ASUSは「適材適所」という実利的な回答を突きつけた。2026年、あなたのPC選びにおいて、DDR4は決して「妥協」ではなく、賢明な「選択」となるかもしれない。
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