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CHERRY、機械的摩耗をなくした革新的誘導キースイッチ「IK」とMX新作3種を発表

Y Kobayashi

2025年5月21日10:53AM

キーボード市場の巨人であるCherryは、Computex 2025において、そのスイッチポートフォリオを大胆に刷新する新製品群を発表した。従来のメカニカルスイッチの枠を超え、革新的な誘導式センシング技術を採用した「IK」スイッチの初披露に加え、磁気アクチュエーションを用いる「MK」プラットフォームのプレビュー、そして定評あるMXメカニカルスイッチファミリーに「MX Honey」「MX Blossom」「MX Falcon」の3つの新モデルを投入した。

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CHERRY、キーボードスイッチの未来を再定義 – Computex 2025で革新技術を多数発表

長年にわたりメカニカルキーボードスイッチ市場を牽引してきた独CHERRY。キーボードについて多少なりとも調べたことがあるならば、その名を必ず耳にした事があるだろう。その存在感はあまりにも大きいが、彼らは過去の栄光に安住することなく、常に技術革新の最前線を走り続けている。今回のComputex 2025での発表は、その姿勢を改めて強く印象付けるものとなった。

発表の目玉は、従来の物理接点を持つメカニカルスイッチや、磁力を用いるホールエフェクトスイッチとも一線を画す、IK誘導スイッチのデビューである。これに加え、静音性や打鍵感、軽快さといった異なるニーズに応えるべく、MXシリーズにはMX Honey(サイレントタクタイル)MX Blossom(超軽量リニア)MX Falcon(ロングポールタクタイル)という、実に魅力的なラインナップが追加された。

さらに、詳細はまだベールに包まれているものの、低遅延と高度なカスタマイズ性を追求するMK磁気スイッチプラットフォームの存在も明らかにされた。これは、特に要求の厳しいゲーミング用途において、新たな標準を打ち立てる可能性を秘めていると言えるだろう。

これらの動きは、CHERRYが既存のMXシリーズという強力な柱を維持しつつも、IK(誘導式)、MK(磁気式)という新たな技術領域へ果敢に挑戦し、多様化するユーザーの要求に応えようとする明確な戦略の表れである。

非接触時代の幕開け:革新的誘導スイッチ「IKシリーズ」登場

今回の発表で最も大きな注目を集めているのが、CHERRY初となるIK誘導スイッチだ。これは、キー入力の検知に電磁誘導の原理を利用するもので、物理的な接点を一切持たない「真の非接触型アクチュエーション」を実現する。

驚異の低消費電力と耐久性 – ワイヤレスキーボードの常識を覆すか

IKスイッチの最大の特長の一つが、その驚異的な低消費電力である。CHERRYの発表によれば、IKスイッチは従来の磁気スイッチと比較して消費電力を50%削減し、ホールエフェクトスイッチに至ってはわずか5%の電力しか消費しないという。これは、バッテリー駆動時間が重視されるワイヤレスキーボードにとって、大きなメリットと言えるだろう。これまでバッテリー持ちを気にしてワイヤレスを敬遠していた層にも、新たな選択肢を提供する可能性を秘めている。

また、物理的な接点がないため、機械的な摩耗が原理的に発生しない点も大きなメリットだ。これにより、数百万回以上の打鍵にも耐えうる長寿命と、長期間にわたる安定した性能維持が期待できる。従来のメカニカルスイッチが持つ「摩耗によるチャタリング(意図しない二重入力)のリスク」から解放されることは、プロユースから日常使いまで、あらゆるユーザーにとって歓迎すべき進化ではないだろうか。

IKスイッチの技術的特徴と期待される用途

IKスイッチは、磁石や複雑なセンサーアレイに依存するホールエフェクトスイッチとは異なり、堅牢で磁石を使用しない金属ベースの設計を採用しているとされている。これにより、外部磁場からの影響を受けにくく、より安定したアナログ精度と長期的な信頼性が期待できる。

RGBライティングにも対応し、アクチュエーションポイント(キーが反応する深さ)のカスタマイズも可能であるため、ユーザーは自分の好みに合わせた最適な打鍵感を実現できる。

このIKスイッチは、その低消費電力と耐久性から、高級ワイヤレスキーボード市場はもちろんのこと、薄型ノートPCの内蔵キーボードや、産業用・医療用など特殊な環境下での入力デバイスへの応用も考えられる。CHERRYはIKスイッチを2025年秋に市場投入する予定としており、その登場が待たれる。

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ゲーミングの新たな選択肢?謎多き「MK磁気スイッチプラットフォーム」

IKスイッチと並んで発表されたのが、MK磁気スイッチプラットフォームだ。こちらはまだプレビュー段階であり、詳細な技術仕様は明らかにされていない。しかし、そのキーワードは「磁気作動」と「アナログ出力」であり、これらがもたらすのは低遅延幅広いカスタマイズオプションであると示唆されている。

低遅延とカスタマイズ性に焦点 – 詳細発表に高まる期待

磁気スイッチは、その構造上、アクチュエーションポイントをソフトウェアで細かく調整できる利点があり、これがゲーミングにおける入力速度や反応性の向上に直結する。MKプラットフォームがどのようなアプローチでこれを実現するのか、非常に興味深いところだ。

CHERRYがこのMKプラットフォームを、パフォーマンス重視のゲーミングセグメントに直接切り込むための戦略的製品と位置付けていることは明らかであり、既存のゲーミングスイッチメーカーにとっては強力なライバル出現となるかもしれない。今後の詳細発表に、業界全体の注目が集まるだろう。

伝統と革新の融合:MXシリーズに個性豊かな3モデルが仲間入り

CHERRYの代名詞とも言えるMXシリーズも、着実に進化を遂げている。今回は、既存のMX2Aファミリーをベースに、それぞれ異なる特徴を持つ3つの新しいスイッチが発表された。これらはすべて2025年6月から順次出荷が開始され、追って36個入りのコンシューマー向けスイッチキットも提供される予定だ。

MX Honey – 静寂と確かな打鍵感を両立する初のサイレントタクタイル

MX Honey」は、CHERRYブランド初のサイレントタクタイル(静音茶軸系)スイッチとして登場する。オフィス環境や静かな場所での使用を想定し、タクタイルスイッチ特有の確かな打鍵感を維持しつつ、ノイズを大幅に低減しているのが特徴だ。

MX2Aファミリー共通の改良点である、最適化された新しいスプリングと工場出荷時のプレミアム潤滑剤塗布により、よりスムーズなキーストロークと柔らかな打鍵音を実現。耐久性も1億回以上と、CHERRYならではの信頼性を誇る。これまで「打鍵感は好きだが音が気になる」とタクタイルスイッチを敬遠していたユーザーにとって、待望の選択肢となるのではないだろうか。

MX Blossom – 羽のように軽い、CHERRY史上最軽量リニアスイッチ

MX Blossom」は、CHERRYの72周年を記念して開発された、同社史上最も軽いリニア(赤軸系)スイッチだ。その作動力はわずか35cN。これは、従来のMX Red(赤軸)の約45cNよりもさらに軽く、まさに羽のようなタッチを実現する。

この超軽量設計は、高速タイピングを求めるユーザーや、長時間の作業で指の負担を軽減したいユーザーに最適だ。MX Honey同様、MX2Aファミリーの改良が施されており、スムーズで静かなキープレスを提供する。その名の通り、桜の花びらが舞うような軽やかな打鍵体験が期待できそうだ。

MX Falcon – タイプライターを彷彿とさせる、重厚な打鍵感のロングポールタクタイル

MX Falcon」は、コミュニティからのフィードバックを反映し、より重厚で明確な打鍵感を求めるヘビータイピストやキーボード愛好家に向けて開発されたタクタイルスイッチだ。最大の特徴は、CHERRY初のロングポールステム設計を採用している点。これにより、よりシャープな底打ち感と、豊かで独特な打鍵音を生み出す。

その打鍵感は、クラシックなキーボードや、往年のタイプライターの「カチッ」とした小気味よい感触を彷彿とさせるとCHERRYは説明している。90年代風の遊び心あるカラーリングも、レトロな雰囲気を演出しつつ、現代の高性能スイッチとしての実力を兼ね備えている。確かな手応えと満足感を求めるユーザーにとって、MX Falconは新たな「相棒」となり得るだろう。

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CHERRYの新たな戦略 – 「多技術入力ソリューションイノベーター」への進化

今回の発表全体を通して見えてくるのは、CHERRYが自らを単なる「メカニカルスイッチのパイオニア」から、「多技術入力ソリューションイノベーター」へと再定義しようとしている明確な意志だ。

MK、IK、MX – 3つの柱で多様なニーズに応える

今後、CHERRYのスイッチラインナップは、以下の3つのファミリーを柱として展開されることになる。

  • MKシリーズ: 摩擦のないスピードとゲーミンググレードの精度を追求する磁気スイッチ
  • IKシリーズ: 特許取得済みの電磁誘導センシング技術を搭載し、非接触でエネルギー効率の高いパフォーマンスを実現する誘導スイッチ
  • MXシリーズ: キーボードコミュニティとの連携を通じて継続的に改良され、現代のアプリケーション向けに強化された、象徴的なメカニカルスイッチ

この3本柱体制は、ゲーミング、プロフェッショナル、日常利用といった様々な用途、そして静音性、打鍵感、耐久性、省電力性といった多様なニーズに対して、最適なソリューションを提供しようというCHERRYの野心的な戦略を物語っている。

キーボード市場に新たな波は来るか?

CHERRYがComputex 2025で発表した一連の新スイッチ群は、キーボード市場に新たな選択肢と技術的進歩をもたらすものであり、その影響は決して小さくないだろう。

特に、IK誘導スイッチの登場は、ワイヤレスキーボードの利便性を飛躍的に向上させる可能性を秘めており、今後の市場動向を大きく左右するかもしれない。また、MXシリーズにおけるMX Honey、MX Blossom、MX Falconという個性的な新モデルの投入は、ユーザーの選択肢を広げ、よりパーソナルなキーボード体験の追求を加速させるだろう。謎に包まれたMK磁気スイッチプラットフォームも、ゲーミングデバイスの進化にどう貢献するのか、目が離せない。

筆者としては、これらの新しいスイッチが実際の製品に搭載され、ユーザーの手に渡ったときにどのような評価を受けるのか、そして競合他社がこのCHERRYの動きにどう反応するのか、非常に興味深く見守っていきたい。キーボードという、我々が日々最も頻繁に触れる入力デバイスの進化は、私たちのデジタルライフ全体の質を向上させる可能性を秘めている。CHERRYの挑戦が大いに楽しみだ。


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