2025年12月、世界の半導体産業を揺るがす衝撃的なニュースが深センから飛び込んできた。長年、米国主導の輸出規制によって封じ込められてきたはずの中国が、ついに国産のEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置のプロトタイプを完成させ、稼働に成功したというのだ。

Reutersが報じたこの事実は、米国が構築してきた「対中半導体包囲網」に風穴を開ける歴史的な転換点であり、習近平指導部が国家の威信をかけて推進してきた極秘プロジェクト、「中国版マンハッタン計画」の最初の、そして決定的な成果と言える。

本稿では、一般には知られざるこの巨大プロジェクトの全貌、ASMLの技術がいかにして流出したのか、そしてこの「怪物マシン」が世界のテクノロジー覇権にどのような地殻変動をもたらすのかを見ていきたい。

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「工場の床一面」を占拠する巨大なプロトタイプ

まず、今回確認された中国製EUV装置の実像に迫る。深センにある厳重な警備が敷かれた研究所内で稼働しているこのマシンは、我々が知る商用機とは異質の存在だ。

ASML製とは異なる「力技」の設計思想

オランダのASML社が独占的に製造するEUV露光装置(NXEシリーズ等)は、スクールバスほどのサイズであり、その重量は約180トンに達する精密機械の極致だ。しかし、情報筋によると、中国が開発したプロトタイプは、「工場のフロアほぼ全体を埋め尽くす」ほどの巨大なサイズになっているという。

なぜこれほど巨大なのか。ここに中国のエンジニアたちが直面した苦闘と、それを乗り越えるための戦略が見て取れる。
彼らはASMLのサイズ感を再現しようと試みたが失敗した。その結果、出力を高め、必要な機能を維持するために、装置全体を巨大化させるという「力技」に出たのだ。これは洗練された製品というよりは、機能実証のための「巨大な実験炉」に近い。

稼働状況:光は灯ったが、チップはまだ

重要なのは、この装置が単なるモックアップではない点だ。報告によれば、このマシンは完全に動作しており、半導体回路の形成に不可欠な極端紫外線(EUV光)の生成に成功している。溶融したスズにレーザーを毎秒5万回照射し、20万度のプラズマを発生させるという、EUV特有の超高難度プロセスをクリアしているのだ。

ただし、現時点(2025年12月)では、このマシンを使って実際に機能するチップを製造(テープアウト)する段階には至っていない。まだ「光を出し、ウェハーに当てる」ことはできても、ナノレベルの回路を正確に焼き付ける量産レベルの精度には到達していないのが現実だ。

習近平の「マンハッタン計画」:国家ぐるみの極秘作戦

このプロトタイプは、一企業のR&D(研究開発)から生まれたものではない。それは、米国による技術封鎖に対抗するために組織された、国家ぐるみの巨大プロジェクトの産物である。

最高レベルの政治的優先順位

関係者が「マンハッタン計画(第二次世界大戦中の米国の原爆開発計画)」になぞらえるこのプロジェクトは、習近平国家主席の最重要優先事項の一つとされている。指揮を執るのは、習氏の側近であり、中国共産党中央科学技術委員会を率いる丁薛祥(Ding Xuexiang)氏だ。

国務院や関連省庁が全面バックアップし、数千人のエンジニアが動員されるこの体制は、採算度外視で「西側への依存度ゼロ」を目指す中国の執念を象徴している。ある関係者はその目的をこう語る。「中国は、サプライチェーンから米国を100%追い出すことを望んでいる」。

Huaweiが握る司令塔の役割

この壮大な計画の実質的なコーディネーターを務めているのが、米国の制裁対象であるHuaweiだ。
Huaweiは、チップ設計から製造装置の開発、そして最終製品への統合に至るまで、サプライチェーンの全工程に関与している。同社のCEO、任正非(Ren Zhengfei)氏がプロジェクトの進捗を政府高官に直接報告する体制が敷かれており、まさに「国策企業」としての機能を全うしている。

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影の軍団:偽名で働く元ASMLエンジニアたち

技術的なブレイクスルーの裏には、驚くべき人的資源の動員があった。中国はいかにして、世界で唯一ASMLしか持たないEUVのノウハウを手に入れたのか。その答えは、「人」にある。

偽造IDとコードネーム

深センの研究所では、まるでスパイ映画のような光景が日常となっている。
ASMLから引き抜かれたベテランエンジニアたちは、偽名が記された身分証明書を渡され、互いに本名を知られないようにして働いているという。これは、外部への情報漏洩を防ぐだけでなく、彼らが西側の法的追及や制裁のリスクから身を守るための措置でもある。

破格の待遇と法的グレーゾーン

中国政府は2019年以降、海外で働く半導体専門家に対して猛烈なリクルート活動を展開してきた。提示される契約金は300万〜500万元(約6,000万〜1億円)に加え、住宅購入の補助金もつく。
リクルートされた人材の中には、ASMLで光源技術の責任者を務めたLin Nan氏のような重要人物も含まれている。彼のチームはすでにEUV光源に関する特許を多数出願しており、ASMLでの知見がそのまま中国の技術基盤に移植されていることは明白だ。

ASML側は「元従業員の就職先を制限することはできない」としつつも、機密情報の持ち出しには法的措置をとっているが、一度「頭の中」に入った知識を国境を越えて止めることは極めて困難である。

「リバースエンジニアリング」と「カニバリズム」の現場

技術者の頭脳だけでは装置は作れない。物理的な部品はどう調達したのか。ここでも中国は「あるものは使い、ないものは作る」という泥臭い戦術をとっている。

中古市場とAlibabaオークションの活用

最新のEUV装置は禁輸措置により入手不可能だが、旧世代の装置や関連部品は二次市場(セカンダリーマーケット)に流れている。
中国は、NikonやCanonの装置、そして古いASML製の装置を、仲介業者を通じた複雑なネットワークや、時にはAlibabaのオークションサイトなどを通じて必死に買い集めた。

「解体と再生」のルーチンワーク

入手した装置は、徹底的に解体される。報告によれば、約100人の新卒エンジニアチームが、個々の部品を分解・再組み立てする作業に従事している。彼らの手元は個別のカメラで常に監視・記録され、成功すればボーナスが支給される。
これは既存のDUV(深紫外線)装置や、市場で入手可能な部品から、EUVに必要なコンポーネントを「共食い(カニバリゼーション)」させ、足りない部分を自国で模倣製造するという、執念のリバースエンジニアリングだ。

最大の障壁:カール・ツァイスの「目」

しかし、全てが順調なわけではない。最大のボトルネックは光学系だ。
ASMLの装置の心臓部とも言える光学システムは、ドイツのCarl Zeissが独占供給している。極めて平滑なミラーを製造するには数ヶ月を要し、この精度だけは容易に模倣できない。中国の長春光学精密機械物理研究所(CIOMP)などが代替品の開発を進めているが、依然としてASMLの性能には遠く及ばず、これがプロトタイプの巨大化や歩留まりの低さにつながっている。

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2030年:予測を覆すタイムライン

このプロトタイプの出現は、世界の半導体ロードマップを書き換える可能性がある。

ASMLの予測 vs 中国の現実

2025年4月、ASMLのChristophe Fouque CEOは「中国がこの技術を開発するには、非常に長い年月が必要だ」と述べていた。多くのアナリストも、中国が西側に追いつくには10年はかかると見ていた。
しかし、今回のプロトタイプ完成は、その予測が楽観的すぎたことを示唆している。中国政府内部では、2028年までにこのプロトタイプでチップを製造することを目標としており、より現実的なラインとして2030年の主流化が見据えられている。これは当初の予想よりも数年早いペースだ。

「N+3」プロセスとの相乗効果

EUVの実用化を待つ間も、SMICなどの中国企業は手をこまねいているわけではない。彼らは既存のDUV装置を多重露光させる技術(マルチパターニング)を極限まで洗練させ、7nmプロセス(Huawei Kirin 9000Sなど)の実用化に成功している。さらに、「N+3」と呼ばれるプロセスでは5nm相当のチップ製造も視野に入れている。
この「DUVの極限利用」と「EUVの独自開発」という両輪が噛み合ったとき、中国の半導体産業は本当の意味で自立を果たすことになる。

このブレイクスルーが意味するもの

このニュースから読み取るべきは、「中国がASMLと同等のマシンを作った」ということではない。今のプロトタイプはまだ粗削りで、非効率で、巨大すぎる。しかし、「作れるか作れないか」という0か1かの壁を、中国はついに突破したということだ。

1. 制裁の限界とパラダイムシフト

米国の輸出規制は、中国の進歩を遅らせることはできても、止めることはできなかった。むしろ、「マンハッタン計画」のような国家総動員体制を誘発し、結果として中国国内に完結したサプライチェーンを強制的に誕生させてしまった可能性がある。これは、長期的には西側の半導体製造装置メーカーにとって、巨大な市場を永久に失うことを意味する。

2. 「粗悪品」でも脅威となり得る

たとえ中国製EUVの生産効率がASMLの10分の1であったとしても、国家が補助金でコストを穴埋めすれば、軍事用やAI用の戦略物資としてのチップは製造できる。商業的な競争力はなくとも、安全保障上の自立は達成されてしまうのだ。

3. 次なる戦場は「歩留まり」と「エコシステム」

プロトタイプが動いた今、次の課題は量産に耐えうる「歩留まり」の向上と、素材(レジスト液など)や検査装置を含めたエコシステム全体の構築に移る。光学系や光源の安定化にはまだ数年の試行錯誤が必要だろう。しかし、2030年というタイムラインが現実味を帯びてきた今、西側諸国は「中国抜き」のサプライチェーン維持と、技術流出防止策の抜本的な見直しを迫られることになる。

深センの研究所で灯ったEUVの光は、半導体覇権戦争が新たなフェーズに突入したことを告げる狼煙(のろし)だ。米国が恐れていたシナリオは現実のものとなりつつある。我々は今、テクノロジーの歴史が大きく分岐する瞬間を目撃しているのかもしれない。


Sources