2025年12月18日、米国の市場調査会社Circana(旧NPD Group)が発表した2025年11月のビデオゲーム市場レポートは、業界全体に衝撃を与えるものだった。ブラックフライデーを含む年末商戦の開幕月であるにもかかわらず、ハードウェアの販売台数が過去30年で最低水準に落ち込んだのである。
これは、コンソールゲームビジネスが長年依拠してきた「サイクル後半の低価格化による普及拡大」というモデルが完全に崩壊したことを示す、構造的な変化の兆しと言えるだろう。単なる不調というだけではなさそうだ。
1995年以来の衝撃:データが語る「市場の凍結」
まず、CircanaのエグゼクティブディレクターであるMat Piscatella氏が提示した冷徹な数字を確認する。
- ハードウェア販売台数:160万台
- これは初代PlayStationが米国で発売された1995年以来、11月としては過去最低の数字である。
- ハードウェア支出額:6億9500万ドル(前年同月比27%減)
- 金額ベースでは2005年以来、20年ぶりの低水準となった。
- 物理ソフトウェア売上:前年同月比14%減
- これも1995年の統計開始以来、最低の記録である。
通常、11月はブラックフライデーセールにより、年間で最もハードウェアが動く月の一つだ。しかし、2025年の11月は、市場が文字通り「凍結」したかのような静けさに包まれた。
プラットフォーム別の崩壊
この急落は特定のプラットフォームに限った話ではないが、その落ち込み幅には明確な濃淡がある。
- Xbox Series X|S:壊滅的な70%減
- 前年同月比で70%という数字は、市場からの急速なフェードアウトを意味しかねない危険水域だ。Microsoftのハードウェア普及戦略が大きな壁に直面していることを示唆している。
- PlayStation 5:40%減
- 市場リーダーであるSonyでさえ、4割減という厳しい現実に直面している。PS5 Proの投入や年末商戦への期待があったにもかかわらず、この数字は期待を大きく裏切るものだ。
- Nintendo Switch(Switch 1 + Switch 2):10%減
- 今年6月にローンチされた「Nintendo Switch 2(以下、Switch 2)」が含まれているにもかかわらず、前年のSwitch単独の売上を下回った。新ハードのローンチイヤーのホリデーシーズンとしては異例の事態である。
なぜ消費者は財布を閉じたのか?:「高価格化」という構造的障壁
この歴史的な販売不振の最大の要因は明白だ。「価格」である。
Piscatella氏の分析によると、2025年11月のビデオゲームハードウェアの平均販売価格は439ドルに達し、前年比で11%上昇、11月としては過去最高値を記録した。比較として、パンデミック前の2019年11月の平均価格は239ドルであった。わずか6年で、コンソールの平均購入価格は約2倍に跳ね上がったことになる。
「逆行」する価格サイクル
従来のコンソールビジネスの方程式は、「発売から時間が経つにつれて製造コストが下がり、値下げによってマス層へ普及させる」というものだった。しかし、現在の半導体・エレクトロニクス市場の現実は真逆を行っている。
- 終わらないインフレと関税の影響: 米国におけるインフレ圧力に加え、貿易摩擦(一部報道ではトランプ政権下の関税政策の影響も指摘されている)がコストを押し上げている。
- コンポーネントコストの高騰: 特にDRAM(メモリ)とNANDフラッシュ(ストレージ)の価格上昇が深刻だ。Samsungなどのサプライヤーによる価格引き上げが報じられており、これがコンソールやゲーミングPCの製造原価を直撃している。
結果として、Xbox Series Xは発売から5年が経過しているにもかかわらず、一部小売店では650ドル(Best Buy価格)に達するなど、値下げどころか値上げが行われている。PS5も同様に、デジタル版がローンチ時より100ドル高い500ドルで販売されているケースがある。
消費者の視点に立てば、生活必需品のコストが上昇する中で、5年前のハードウェアに当時以上の金額を支払うことへの心理的抵抗感は計り知れない。「贅沢品」としてのゲーム機は、家計の見直しリストの筆頭に挙げられたのである。
逆説の勝者:「NEX Playground」が示した真の需要
市場全体が沈む中、驚くべき「勝者」が現れた。家族向けのアクティブゲーミングデバイス「NEX Playground」である。
Circanaのレポートによれば、NEX Playgroundは11月のハードウェア販売台数ランキングで、なんとXbox Seriesを抑えて第3位に食い込んだ。この現象は、現在の市場心理を鮮やかに映し出している。
- 価格の勝利: NEX Playgroundの平均販売価格は約200ドル。PS5やXbox Series、あるいはSwitch 2(約486ドル)の半額以下である。
- ターゲットの明確化: 高価なハイエンドグラフィックスよりも、「手頃な価格で家族が楽しめる体験」を求める層が確実に存在し、彼らは400ドル〜500ドルの出費を拒否したのだ。
これは、ハイエンド化・高価格化を突き進む大手プラットフォーマーに対する、市場からの強烈なアンチテーゼと言えるだろう。
Nintendo Switch 2:供給不足なき「静かな」滑り出し
今年最大のトピックであったはずのNintendo Switch 2についても、冷静な分析が必要だ。Piscatella氏は、Switch 2が「発売から6ヶ月時点での米国史上最速販売ハードウェア」であることは認めつつも、11月のパフォーマンスには懸念を示している。
- 供給制約ではない: 通常、人気ハードの初ホリデーは在庫不足が話題になるが、今回は在庫が潤沢にあったにもかかわらず、初代Switchの最初の11月の販売数を下回った。
- 価格感応度: 初代Switchの2017年11月の平均価格は309ドル(現在の価値で約405ドル)。対してSwitch 2は486ドル。この80ドル以上の実質価格差が、ファミリー層やライトユーザーの購入を躊躇させた可能性が高い。
Switch 2への移行は、任天堂が想定していたよりも緩やか、あるいは「慎重」に進んでいると見るべきだろう。
ソフトウェア市場の変調:『Call of Duty』の異変
ハードウェアの不振は、ソフトウェア市場にも影を落としている。11月のベストセラーとなった『Call of Duty: Black Ops 7』だが、その内実は手放しで喜べるものではない。
- 売上高の二桁減少: 前作『Black Ops 6』の2ヶ月目(※比較対象として調整された数値)と比較して、売上高(ドルベース)は二桁パーセントの減少を記録した。
- Game Passの影響: Xbox Game Passへのデイワン提供が、単体販売(フルゲーム売上)を大きく侵食していることは確実だ。
- Battlefield 6の躍進: 一方で、年間売上ランキングでは『Battlefield 6』が依然として首位を走る可能性が高く、FPS市場における王座の揺らぎが見え隠れする。
物理メディアの売上が過去最低(1995年以来)を記録したことも合わせると、ユーザーは「高いハードを買って、高いソフトを買う」という従来の消費行動から、「サブスクリプション」や「基本プレイ無料(F2P)」、あるいは「既存のハード(PCやモバイル)で遊ぶ」スタイルへと急速にシフトしていることが読み取れる。
これは「一時的な不況」か「時代の終わり」か?
筆者は、この2025年11月のデータが単なる「景気後退による一時的な買い控え」であるとは分析しない。これは、コンソールビジネスモデルの構造的な限界が露呈した瞬間であると考える。
1. マス層の離脱
「500ドルのゲーム機」は、もはやマニア向けの製品となった。かつて199ドルや299ドルでハードを手に入れていた広範なマス層は、スマートフォン、PC、あるいはNEX Playgroundのような安価な代替手段へと流れている。RobloxやFortniteが無料で遊べる環境下で、高額な初期投資を正当化するハードルは極めて高い。
2. PCへの回帰とクラウドの台頭
Xboxのハードウェア売上が70%減少した一方で、Microsoftは「Xboxはハードウェアではなくプラットフォーム」というメッセージを強めている。ハードが売れなくても、クラウドやPCでGame Pass会員が増えればよいという戦略だ。今回の数字は、ユーザー側もその戦略に同調し、専用ハードを見限り始めている証左とも言える。
3. サプライチェーンの時限爆弾
Samsungなどによるメモリ価格の引き上げや、AIブームによる半導体リソースの争奪戦は、今後もハードウェアコストを高止まりさせるだろう。つまり、「待っていれば安くなる」という時代は終わったのだ。これからのゲームハードは、「高価なプレミアム機」として生き残るか、クラウド端末のように「極限まで機能を削ぎ落とす」かの二極化を迫られることになる。
2026年に向けた視座
2025年11月の米国市場データは、ビデオゲーム業界に対する「レッドフラグ(警告)」である。
高付加価値・高価格路線をひた走ってきたSonyとMicrosoft、そしてそこに追随せざるを得なかった任天堂。彼らは今、消費者の財布の紐という冷厳な現実に直面している。
今後の焦点は、12月(クリスマス商戦本番)でどこまで巻き返せるか、そして2026年以降、各社がこの「高コスト時代」にどう適応するかにある。ハードウェアの普及台数という従来のKPI(重要業績評価指標)が意味をなさなくなり、エンゲージメントやARPU(ユーザー平均単価)へと評価軸が完全にシフトする転換点として、2025年11月は長く記憶されることになるだろう。
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