中国の検査装置メーカー、精智達(Seichi)は9月4日付の公告で、半導体検査装置と治具の購入契約を締結したと明らかにした。顧客が想定する購入数量を基にした契約総額は税込15億7635万人民元で、実際の発注内容によって数量や金額が変わる可能性がある。
同社の2026年上期のメモリチップ検査装置事業は、売上高が前年同期比147.05%増加した。AI向けメモリの需要拡大は、中国の検査装置メーカーにも事業拡大の機会をもたらしている。
ただし、受注額や売上の伸びだけでは、HBMの量産工程で海外製装置をどこまで置き換えられるかは判断できない。公開されている製品仕様と契約内容を検査工程ごとに整理すると、中国メーカーがどこまで技術を伸ばしているのか、そしてHBMへの対応力を判断するには何を確認すべきなのかが見えてくる。
メモリテスタ市場は25億〜30億ドルの見通し
精智達の成長を支えているのは、一般的なDRAMから高帯域幅メモリ(HBM)まで、メモリを電気的に検査する装置への需要拡大だ。
同社の上期業績の紹介によると、会社全体の売上高は8億400万人民元で、前年同期比81.17%増だった。147.05%という伸び率は、その中のメモリチップ検査装置事業に限った数字である。同社はディスプレー向け検査装置も手がけているため、会社全体の売上高をそのままメモリ関連の売上として扱うことはできない。
世界市場も拡大する見通しだ。アドバンテストは7月29日の決算説明会資料で、2026年のメモリテスタ市場を25億〜30億ドルと予想した。4月時点の22億〜27億ドルから上方修正しており、高性能DRAMへの投資拡大が検査装置市場にも波及している。
同社は4月27日の資料18ページで、2025年の世界メモリテスタ市場を21億ドル、自社シェアを61%と推計している。世界市場で大きな販売規模を持つ既存メーカーに対し、中国企業がどの検査工程から参入できるかが競争の焦点となる。
ここでは、企業全体の売上成長率、市場での販売シェア、実際の半導体工場で採用されている装置の割合を分けて見る必要がある。それぞれが示しているものは異なるからだ。
なぜHBMでは、増産以上に検査能力が重要になるのか
HBMは、複数のDRAMダイを積み重ねて作る。積層する前に欠陥のあるダイを取り除けなければ、不良ダイを組み込んだ後で、ほかのダイや積層・接続工程にかけたコストまで失う可能性がある。そのため、積層前に「良品ダイ」を選別するウェハー段階の検査が重要になる。
ただし、そこで検査が終わるわけではない。
アドバンテストの2023年の技術説明会資料の16ページには、DRAMとロジックのウェハーをそれぞれ検査し、積層した後にもメモリセルや機能を複数回検査する工程が示されている。
実際の順序は製品や製造方法によって異なるが、積層前の良品選別と、積層後の動作確認では役割が違う。積層前に良品と判定されたダイであっても、積層や接続の工程で新たな不良が生じる可能性があるためだ。
検査装置の需要を押し上げる要因も、製造数量だけではない。メモリ容量や積層数が増えれば、検査するメモリセルや試験項目も増え、1個あたりの検査時間が長くなる。
一方、高速動作時の消費電力や発熱が増えれば、多数のチップを同時に試験することが難しくなる。アドバンテストも同資料で、検査時間の長期化と並列測定数の制約を課題として挙げている。
段取り替えや装置停止の時間を除けば、単位時間あたりに検査できるチップ数は、おおまかに「同時測定数÷検査時間」で考えられる。1個あたりの検査時間が延び、同時に測定できる数まで制約されれば、同じ生産量を処理するためにも、より多くの検査能力が必要になる。
HBMの生産量だけを基に、検査装置の需要を単純に比例計算できない理由はここにある。
バーンインから完成品検査まで、中国製装置はどこまで対応しているか
精智達は、メモリ製造の複数の検査工程に向けた製品をそろえている。2026年10月5日時点の公式ページから、製品名と機能を基に担当工程を整理すると次のようになる。
精智達の公開仕様では、S9620はバーンイン、S9930はウェハー検査、S9880は完成品検査を担当し、それぞれ用途が異なる。
表中のDUTは「Device Under Test」、つまり検査対象となるチップを指す。S9930の「TD」は公式ページ上で定義が示されておらず、装置全体として何個を同時測定できるのかとの関係は確認できない。
また、速度や同時測定数は、対象となるメモリや検査工程が異なる条件で示された数字だ。この表を、3機種の性能順位として読むことはできない。
バーンインは、温度や電気的な負荷を加えながら、通常動作では現れにくい潜在的な不良を見つける試験だ。S9620は−10〜150℃の検査温度に対応し、多数のチップを一度に試験する構成を採用している。
これに対し、完成品を高速動作させて検査するS9880では、最大動作速度や対応メモリの種類が重要になる。大量のチップを並列に処理する装置と、高速動作を確認する装置では、重視される性能が異なる。
S9930の速度表記にも注意が必要だ。公式ページでは最大2.25Gbpsと掲げている一方、製品機能表では400Mbpsから2.25Gbpsへ拡張可能と説明している。そのため、2.25Gbpsという数字を、現在出荷されているすべての構成で利用できる性能とみなすことはできない。
さらに、これらのページで示されているのは主にDDR・LPDDR向けの製品仕様であり、HBMの量産工程で採用されていることを証明する資料ではない。
それでも、中国製装置への置き換えを考える際、完成したHBM全体を一つの単位として見るのではなく、バーンイン、ウェハー検査、完成品検査といった工程ごとに考える必要があることは分かる。中国メーカーの進展を追うには、まずどの検査工程を実際に担当できるのかを区別する必要がある。
韓国の採用事例が示す、仕様公開と量産採用の違い
特定の検査工程から新しいメーカーが参入する動きは、韓国のHBM製造でも見られる。
韓国のETNewsは8月26日の独自報道で、業界関係者の情報として、Digital FrontierとUniTestが2026年、SK hynix向けのHBM4ウェハー検査関連装置を合計2839億4000万ウォン受注したと報じた。同紙によると、韓国メーカーが特定の検査機能を担当し、既存の供給体制を補完する形で参入しているという。
また、UniTestはHBM4向けバーンイン装置について、年初に量産工程への導入に必要な適格性評価を完了したとしている。
これは中国メーカーの採用実績を示す事例ではない。しかし、装置メーカーが製品仕様を公開する段階と、半導体メーカーの量産工程で使用するための評価を通過する段階が別であることを理解する材料になる。
さらに、テスタ本体を用意するだけでウェハー検査が成立するわけではない。テスタが生成した電気信号をチップへ届けるためには、プローブカードが必要になる。
FormFactorは良品ダイの高速検査に関する公式解説で、高速信号の品質に加え、温度変化によって接触位置がずれることを課題として挙げている。
プローブカードとウェハーでは熱膨張の仕方が異なるため、温度を変えると接点の位置合わせが難しくなる。高速な電気信号を正確に送れても、狙った端子へ安定して接触できなければ検査は成立しない。
HBM向け検査装置を中国国内で調達できるようにするには、テスタ本体だけでなく、プローブカードなどの接触部品や温度制御まで含めた検査システム全体を、実際の量産条件で安定して動かせるようにする必要がある。
大型契約と18Gbps開発、その先に必要な量産採用
精智達が高速化を進めていることは、上期業績の説明からも確認できる。同社は18Gbpsの高速完成品検査装置について、主要な技術指標が想定した目標に達したと説明している。
ただし、この発表だけから、特定世代のHBMに対応した装置が顧客の量産工程で採用され、検収まで終えたと判断することはできない。
最大速度が同じでも、装置全体の性能が同等とは限らない。
アドバンテストのT5503HS2も最大9Gbpsを掲げているが、総合タイミング精度は±45psとしている。一方、精智達のS9880が掲げる1psは、信号タイミングをどれだけ細かく設定できるかを示す「エッジ分解能」だ。
設定できる時間の刻み幅と、実際の信号が狙った時刻からどれだけずれるかを示す精度は別の指標である。そのため、1psと±45psを単純に比較して、どちらの装置が高性能かを判断することはできない。
実際の性能を比較するには、対象メモリ、試験内容、電気的条件などをそろえる必要がある。
冒頭の大型契約についても、HBM量産への採用範囲までは分からない。
9月4日付の契約公告では、顧客名、製品の仕様・型番、台数、単価を営業上の機密として非開示としている。契約総額は、顧客が想定する購入数量を基に算定されたもので、実際の発注によって数量や金額が変わる可能性がある。
納入は2年以内を予定し、契約の履行に伴って2026〜2028年の売上に寄与する見込みだ。
したがって、15億7635万人民元は契約上の想定総額であり、すでに当期売上として計上された金額ではない。また、この契約額のうち、どの程度がHBM向け検査装置に対応するのかを公表資料から割り出すこともできない。
受注の拡大と製品ラインアップの充実は、精智達をはじめとする中国メーカーが半導体検査装置事業を拡大していることを示している。
今後、その進展を判断するうえで重要になるのは、対応するメモリ世代、実際に担当する検査工程、顧客による量産評価の通過、そして納入後も継続して採用されるかどうかだ。
各工程で求められる速度、精度、処理能力、安定性を満たし、量産ラインへの採用を積み重ねられるか。それが、HBM増産に伴う装置需要を中国メーカーの成長につなげ、海外製検査装置への依存をどこまで減らせるかを左右する。



