SK hynixが2026年8月27日、米インディアナ州ウェストラファイエットでHBMの先端パッケージ工場を着工した。総投資額は40億ドルを超え、次世代HBMの量産開始は2029年後半を予定する。2024年4月の発表では38億7,000万ドルを投じ、2028年後半に量産を始める計画だった。着工によって構想は建設段階へ進んだが、量産時期は約1年後ろへ動いた。
同社は新拠点を「米国初のHBM生産拠点」と呼ぶ。ただし、DRAMウェハーを作る前工程まで米国へ移す計画ではない。韓国で前工程を終えたウェハーをインディアナへ運び、積層から封止、テストまでを現地で担う。米国製HBMという表現が指す工程と、韓国に残る工程を分けて捉える必要がある。
「米国製HBM」がカバーする工程
インディアナ工場が受け取るのは、韓国で回路形成を終えたHBM用ウェハーである。SK hynixの説明では、米国側で先端パッケージングとテストを施し、HBM製品として米国の顧客へ供給する。前工程のDRAM生産は引き続き韓国に依存するため、今回の着工でHBMの全工程が米国内にそろうわけではない。
HBMは、複数のDRAMダイを垂直に積み、シリコン貫通電極(TSV)で接続する。SK hynixはダイ間のバンプを一括接続し、隙間を保護材で埋めるMR-MUFも使ってきた。容量と帯域を増やしながら放熱と耐久性を確保するには、ウェハーを作った後の積層・封止・検査が製品性能と歩留まりを左右する。インディアナが受け持つのは、この後工程である。
供給網にはもう一段残る。SK hynixによれば、HBMはシステム企業へ渡った後、GPUなどのロジックチップと同じパッケージへ統合される。したがってインディアナ工場はHBM製品を米国内で完成させる一方、AIアクセラレーター全体を組み立てる工場ではない。米国が新たに確保するのは、AI計算基盤の供給制約になりやすいメモリー後工程の能力である。
ここでは二つのパッケージ工程が重なる。SK hynixはDRAMダイを積み上げ、電気接続と放熱を成立させたHBMとして出荷する。そのHBMをGPUの近くへ配置し、広い接続幅を持つAI向けパッケージへ仕上げる作業は、その後にシステム企業側で行われる。インディアナへの投資は前者の生産能力を米国に新設するもので、後者の能力やGPU供給量まで増やすとは発表されていない。
それでも後工程を現地化する効果は明確だ。米商務省はHBMの生産能力を、AI産業の主要な供給制約の一つに挙げてきた。韓国でウェハーを作る体制を保ちながら、米国顧客へ渡す前の積層と検査を近くに置くため、供給網は韓国と米国にまたがる。完全な国内化より、工程を二地域へ分ける投資と見る方が実態に近い。
2028年10月は量産開始日ではない
最新計画では、クリーンルームを2028年10月までに開設し、次世代HBMの量産を2029年後半に始める。2024年4月に示した量産時期は2028年後半だったため、予定は約1年後ろ倒しされた。投資額も38億7,000万ドルから40億ドル超へ増え、差額は少なくとも1億3,000万ドルになる。SK hynixは増額や延期の理由を公表していない。
クリーンルームの完成は、製品出荷と同義ではない。製造装置を搬入して工程を立ち上げ、歩留まりを高め、顧客が求める品質を満たして初めて量産へ進める。SK hynixは今回、HBMの世代名、年産能力、顧客名を開示しなかった。2028年10月から2029年後半までの約1年は、建屋を生産能力へ変えるために残された期間となる。
量産時期の変更は、着工という前進と同時に開示された。建設が始まった事実だけを見れば計画は具体化したが、供給能力が市場へ加わる時期は当初より遠のいた。AI向けメモリーの需給を考える際、インディアナ分を2028年の供給増として数えることはできない。会社が示した現行の供給開始時期は2029年後半である。
商用稼働時の人員は約1,000人を見込む。発表にある約7,000人は、工場の直接雇用数ではなく、建設から稼働後までに生じる直接・間接雇用の合計である。材料・部品・装置を供給する企業も100社超を「検討中」としており、契約済みの企業数ではない。大きな数字ほど、対象と期間を切り分けなければ実態を見誤る。
最大9億5,800万ドルの連邦支援は条件付き
米商務省は2024年12月、CHIPS法に基づきSK hynixへ最大4億5,800万ドルの直接資金と、最大5億ドルの融資を決定した。合計枠は最大9億5,800万ドルになる。ただし直接資金は、工事や操業に関する節目の達成に応じて支出される。支援の正式決定は、全額がすでにSK hynixへ渡ったことを意味しない。
同年8月の段階では、直接資金最大4億5,000万ドルを想定した拘束力のない予備的合意だった。商務省は精査を終えた12月に、最大4億5,800万ドルの最終支援決定へ進めた。それでも支出条件は残る。政策としての採択、資金枠の確定、実際の入金を一つの出来事として扱うことはできない。
インディアナ州も2024年時点で、最大8,000万ドルの条件付き支払い、最大5億5,470万ドルの税還付、最大4,500万ドルの周辺インフラ支援を提示した。これらも投資実行後に請求資格が生じる成果連動型である。企業投資と公的資金が同時に積み上がる案件だからこそ、着工式より先の進捗を節目ごとに確かめる必要がある。
州の提示には、最大300万ドルずつの訓練助成と製造準備助成も含まれる。パデュー大学 とPurdue Research Foundationは、90エーカーの割引土地と追加30エーカーの選択権など、約6,000万ドル相当の支援を示した。連邦、州、大学の支援は目的が異なるため、数字を足しただけでは工場へ投入される現金額にならない。
米国側の狙いは、AI向け半導体供給網で不足してきたHBMの後工程を国内へ置くことにある。連邦支援が生産能力へ変わったかを測るには、支援上限額より、クリーンルーム完成、装置稼働、量産開始の順に実績を見る方が確かだ。2029年後半という新しい期限は、補助金の成果を測る期限にもなる。
PurdueとのR&D拠点が量産工場に加わる
生産ラインの隣には「Advanced Packaging R&D Testbed」が置かれる。顧客、大学、事業パートナーが次世代パッケージ技術を共同開発し、試作と性能検証を行う施設だ。SK hynixは着工日にパデュー大学とMOUを結び、HBMを含むシステム統合と先端パッケージ技術を共同研究する方針も決めた。
2024年の計画は、パデュー大学のBirck Nanotechnology Centerなどと異種統合を研究し、メモリー中心のシステム設計やメモリー内・近傍コンピューティングへ協力範囲を広げる構想も示していた。製造人材については、パデュー大学とIvy Tech Community Collegeが訓練プログラムや学際的な学位課程を検討する。工場の約1,000人を地域で確保するため、研究と教育を生産計画へ接続する狙いである。
量産と研究を同じ地域に置く意味は、次世代HBMの設計課題を試作設備で検証し、その知見を製造へ戻せる点にある。だが、MOUは研究成果や量産歩留まりを保証しない。どの企業が参加し、どの技術を試作し、顧客認定まで何カ月を要するのかは公表されていない。
インディアナ工場が米国のAI供給網を実際に強くするかは、韓国から届くウェハーを安定して処理し、2029年後半に顧客が使える品質と数量で出荷できるかで決まる。2028年10月のクリーンルーム開設後に、装置の稼働状況、歩留まり、年産能力が開示されれば、40億ドル超の投資がどれだけの供給増につながるかを判断できる。


