富士通は2026年9月14日、国産Arm CPU「FUJITSU-MONAKA」の単体販売と、同CPUを載せる「Fujitsu MONAKA Server」の販売を11月に始めると発表した。これまで開発計画や内部設計として語られてきたMONAKAが、CPU部品と完成サーバの二つの商流を持つ製品になる。だが、11月から誰もがサーバを受け取れるわけではない。今回の発表で確定した製品構成と、性能・冷却・ソブリン性を評価するために残る条件を分けて読む必要がある。
11月に買える、とは限らない

MONAKAの商用化には二つの入口がある。富士通は11月から、クラウド・データセンター事業者とサーバベンダーにCPU単体を世界で販売する。同じ月に完成品のMONAKA Serverも日本と欧州で販売する。対象には企業や大学・研究機関のほか、防衛分野も含む。
ただし、発表にある「販売」「先行提供」「出荷」は同じ状態ではない。2026年11月の「販売開始」は一般出荷の開始を意味せず、限定顧客への先行提供を経て、日本・欧州への順次出荷は2027年4月以降である。
同社が示した時系列では、2026年度下期に限定顧客へ実機を先行提供し、その後に順次出荷へ移る。限定顧客の選定条件も、提供台数も公表されていない。2027年4月以降という日付も、3系列の全モデルが日本と欧州で同時に即納されることまでは意味しない。11月は販売が始まる節目であり、限定顧客への先行提供は2026年度下期、日本・欧州への順次出荷は翌年度に置かれている。
CPU単体の販売は、富士通製サーバを購入する経路とは別に、他社がMONAKAを使うサーバを設計できる可能性を開く。一方、その採用にはマザーボード、ファームウェア、OS、保守体制まで必要になる。今回の発表はCPUの価格や最小注文数、対応プラットフォームを示しておらず、部品ビジネスがどの規模で立ち上がるかはまだ判断できない。
3系列は密度と冷却で役割を分ける
完成サーバは一つの標準構成ではなく、2U空冷、1Uスケーラブル、2Uマルチノードの3系列に分かれる。共通するのは1CPU当たり144コアのMONAKAとPCIe Gen6だが、CPU数、基準周波数、冷却方式、ストレージ構成は大きく異なる。
| 系列 | CPUとベース周波数 | メモリ | ストレージ | 冷却・主な狙い |
|---|---|---|---|---|
| 2Uラック | 2CPU、各144コア・2.1GHz | RDIMM 24スロット | E3.S×4、M.2×2 | 空冷。既存DCやエッジ、GPU拡張 |
| 1Uスケーラブル | 1〜2CPU、各144コア。空冷2.1GHz/水冷2.9GHz | 1CPU時12、2CPU時24スロット | E3.S×8、M.2×2 | 空冷または水冷。CDI/CXLによる構成変更 |
| 2Uマルチノード | 4ノード、各2CPU。各144コア・2.9GHz | 各ノード24スロット | 各ノードE1.S×2、M.2×2 | 水冷。AIデータセンターや大規模計算 |
出典:富士通の2026年9月14日付発表。周波数は製品表にあるベース値で、CPUの最大動作周波数3.8GHzとは異なる。
2Uマルチノードは、8CPU×144コアで1筐体1152コアとなる。これは構成密度を表す計算であって、筐体全体の処理性能ではない。アプリケーションがどこまで並列化できるか、メモリ帯域を何ノードで使うかによって実効性能は変わる。
1Uモデルでは水冷時のベース周波数2.9GHzが、空冷時の2.1GHzより約38%高い。計算は2.9÷2.1−1である。しかし、周波数差をそのまま性能差や電力効率へ置き換えることはできない。同社はモデル別の消費電力、全コア負荷時の持続周波数、水冷設備を含む費用を示していないからだ。
2025年のISC資料には、2U空冷モデルとマルチノード案について最大6TBのメモリ容量など、さらに詳しい仕様が載っていた。ただし、その表には変更の可能性が明記されていた。今回の販売発表はRDIMMのスロット数を示す一方、最大容量を記していない。従って、6TBを現行販売モデルの確定仕様として持ち込むことはできない。
「2倍」と「80%削減」は同じ性能指標ではない
富士通は、行列演算専用命令、Arm SVE2、ソフトウェア最適化を組み合わせ、AI推論のスループットを他社CPUの2倍にすると説明する。同じ処理量に必要なサーバ台数と消費電力も半減できるという。製品ページはさらに、CPUだけで30〜70Bパラメータ級のLLMを「実用的な性能」で動かせると掲げる。
「2倍」「半減」「最大80%削減」「30〜70B」は、比較対象、モデル設定、冷却基準、トークン生成速度の少なくとも一部が公表されておらず、同一条件の性能表として横並びにはできない。
| 公称値 | 測っているもの | 公表されていない主な条件 |
|---|---|---|
| 他社CPU比2倍 | AI推論スループット | 比較CPU、モデル、精度・量子化、バッチ、ソフトウェア、実測か推定か |
| サーバ台数・消費電力を半減 | 同等処理量を満たす設備量と電力 | サーバ構成、処理量、測定範囲、CPU以外を含むか |
| 冷却電力を最大80%削減 | サーバ冷却に使う電力 | 比較する冷却設備、負荷、外気・水温、施設全体を含むか |
| 30〜70Bを実用的に実行 | 扱えるとするLLMの規模 | モデル名、精度・量子化、文脈長、バッチ、出力速度 |
表は2026年9月15日時点で、富士通の発表と製品ページに記載された項目を分類したものだ。未開示だから性能主張が誤りだという話ではない。第三者が同じ条件を組み、別製品と再現可能な形で比べられる段階にないという意味である。
冷却について同社は、空冷で周囲温度40℃、水冷で水温45℃まで使えるとする。高温の空気や水を許容できれば、冷却機の仕事を減らせる可能性はある。しかし「最大80%」の分母がサーバ内部のファンなのか、冷却水設備なのか、データセンター全体の冷却電力なのかで効果の意味は変わる。施設の総消費電力を80%減らすという値ではない。
富士通は顧客環境で性能とアプリケーション動作を確かめる検証機トライアルを始めている。導入者に必要なのは、自分が使うモデル、量子化、入出力長、同時実行数を固定し、トークン生成速度とサーバ全体の電力を測ることだ。水冷を選ぶなら、ポンプや熱交換器まで含めた設備側の電力も切り離せない。
CXLで筐体を越えるには構成一式が要る
1Uモデルの特徴として、富士通はCDIとCXLを使い、サーバの枠を越えてメモリやアクセラレータを配置できる構成を掲げる。CPUごとに資源を固定して余らせるのではなく、必要なホストへ割り当てる狙いだ。
CXL Consortiumの公式資料は、メモリプーリングを、CXL接続メモリを必要に応じて異なるホストへ割り当てたり解除したりする仕組みと定義する。一方、複数ホストが同じメモリへ同時にアクセスする「共有」は別の機能である。プールできるという説明だけで、どのアプリケーションからも一つの共有メモリとして見えるわけではない。
また、CXLはCPUの機能だけで完成しない。対応メモリ装置やアクセラレータ、スイッチに加え、資源を割り当てるFabric Managerとソフトウェアが要る。富士通の発表は、これらをどの組み合わせで購入できるか、プーリングと共有のどちらを提供するかを示していない。CXL 3.0が掲げるx16リンクの生帯域も規格上の値であり、このサーバの実効帯域や遅延ではない。
つまり、1Uモデルで確定したのは筐体外の資源を使える設計方向とPCIe Gen6対応までだ。導入判断には、販売されるCXL機器、接続構成、管理ソフト、障害時の切り替え方が必要になる。
国産サーバとCCAが担うソブリン性は別の層
MONAKA Serverは国内で設計・開発され、富士通の笠島工場で製造される。同社は部品の出所と製造履歴を追跡できるようにする。サーバの組み立て場所と供給履歴を把握できることは、調達経路の透明性を高める。
CPUが採用するArm Confidential Compute Architecture(CCA)は、別の問題を扱う。CCAのRealmは、仮想マシン内で処理中のデータを、ハイパーバイザーや他の高権限ソフトウェアから見えにくくし、変更されにくくする。システム管理者にハードウェア資源の管理を認めながら、Realmの内容へのアクセスを分離する仕組みである。
ただし、CCAにも信頼しなければならないソフトウェア部品が残る。Armの説明では、侵害されたハイパーバイザーがRealmの実行を妨げる可能性もあり、可用性までは保証しない。CCAが守るのは主に使用中のデータであって、データの保存国、国内法への準拠、部品の出所、運用主体を自動的に決める機能ではない。
富士通自身も2026年2月、ソブリン性にはデータ流出リスクの抑制に加え、自律的な運用や国内法への準拠が必要だと説明していた。セキュリティリスクの透明性と、技術を自ら管理できることも挙げている。国内製造と部品追跡は供給面、CCAは使用中データの隔離を担うが、法務と運用の条件は導入組織が別に設計しなければならない。
「国産」という表現にも範囲がある。今回確認できるのは、国内でのサーバ設計・開発と笠島工場での製造、部品履歴の追跡だ。発表は、半導体の全製造工程や全ての構成部品が国内で完結するとは述べていない。
商用化後に見るべき数字
MONAKAは、144コアの国産CPUという開発目標から、用途別の完成サーバとCPU単体販売へ進んだ。製品表が出たことで、空冷と水冷、ラック型とマルチノード、GPU拡張とCXLという選択肢までは比べられる。商用化は確かな前進だ。
一方、価格、搭載可能なメモリ容量、モデル別消費電力、対応OS、GPU互換表、購入できるCXL構成は公表されていない。一般出荷の数量も分からない。公称2倍や最大80%削減を調達判断へつなぐには、2026年度下期の先行提供で、同じモデルと設備条件を使った結果が示される必要がある。
2027年4月以降の順次出荷までに、顧客の実機検証からトークン生成速度とサーバ全体の電力が明らかになり、CXL構成とソブリン運用の責任分界も定まれば、MONAKAは国産CPUという看板を越えて、比較して選べるAI基盤になる。
