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JEDEC、HBM4規格を正式発表:最大2TB/s帯域で次世代AI・HPCメモリの新時代へ

Y Kobayashi

2025年4月18日

半導体メモリの標準化をリードするJEDEC Solid State Technology Associationは、待望の広帯域メモリ(HBM)の新規格「HBM4」を定めた「JESD270-4」を正式に発表した。この新規格は、急速に進化する生成AI(人工知能)やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)などの要求に応えるため、前世代のHBM3から帯域幅、電力効率、容量を大幅に向上させることを目的としている。最大2TB/sという驚異的な帯域幅は、次世代コンピューティングの性能を新たな次元へと引き上げる可能性を秘めている。

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HBM4規格「JESD270-4」:進化のポイントと狙い

今回発表されたJESD270-4は、マイクロエレクトロニクス業界におけるメモリ標準化を推進するJEDECが、業界リーダーとの協力のもとに策定したものである。HBMはDRAM(Dynamic Random Access Memory)チップを垂直に積層し、シリコン貫通ビア(TSV)技術を用いて接続することで、従来のメモリと比較して圧倒的な帯域幅と低消費電力を実現するメモリ技術だ。

HBM4は、先行するHBM3規格の進化版として位置づけられており、その中核的な目標は、より高いデータ処理レートを実現することにある。これは、特に生成AI、HPC、ハイエンドグラフィックスカード、サーバーといった、膨大なデータセットと複雑な計算処理を効率的に扱う必要があるアプリケーションにとって極めて重要となる。JEDECは、HBM4が帯域幅、電力効率、そしてダイあたり・スタックあたりの容量を向上させることで、これらの要求に応えるとしている。

HBM4の技術的進化:性能・効率・容量の飛躍

JESD270-4で定義されたHBM4は、HBM3から数多くの技術的改善が施されている。その主な進化点を具体的に見ていこう。

  • 圧倒的な帯域幅の向上: HBM4は、2048ビットという広大なインターフェース幅全体で、最大8 Gb/sのデータ転送速度をサポートする。これにより、メモリスタックあたりの総帯域幅は最大2 TB/s(テラバイト/秒)に達する。これはHBM3世代から大幅な向上であり、演算ユニットの性能を最大限に引き出すことに貢献する。
  • チャネル数の倍増による柔軟性向上: HBM3では1スタックあたり16個だった独立チャネル数が、HBM4では32チャネルへと倍増された。さらに、各チャネルは2つの疑似チャネルを持つ構造となっている。これにより、メモリコントローラーはメモリキューブに対して、より多くの独立した経路で、より並列的にアクセスすることが可能となり、メモリアクセスの柔軟性と効率が向上する。これは、多様なメモリアクセスパターンを持つ複雑なアプリケーションにおいて特に有利である。
  • 電力効率の改善: 電力効率も重要な改善点だ。JESD270-4では、ベンダーが特定の電圧レベルを選択できるようになった。インターフェース電圧(VDDQ)は0.7V、0.75V、0.8V、または0.9Vから、コア電圧(VDDC)は1.0Vまたは1.05Vから選択可能となる。これにより、システム全体の要求に応じて消費電力を最適化し、エネルギー効率を高めることが可能になる。
  • 信頼性・可用性・保守性(RAS)の強化: HBM4にはDirected Refresh Management (DRFM) と呼ばれる機能が組み込まれている。これは、DRAMセルへのアクセスが特定箇所に集中することで隣接するセルのデータが破壊される可能性がある「Row Hammer」と呼ばれる現象への対策を強化し、メモリシステムの信頼性、可用性、保守性(RAS: Reliability, Availability, and Serviceability)を向上させるものである。ミッションクリティカルなシステムにおいては極めて重要な機能となる。
  • 大容量化への対応: HBM4は、1スタックあたり4段(4-High)、8段(8-High)、12段(12-High)、そして最大16段(16-High)のDRAM積層構成をサポートする。使用されるDRAMダイの記憶密度は24Gb(ギガビット)または32Gbとなる。これにより、例えば32Gbのダイを16段積層した場合、1つのHBM4キューブで最大64GB(ギガバイト)という大容量を実現できる。これは、巨大なAIモデルや大規模なデータセットをメモリ上に展開する上で大きなメリットとなる。
  • 後方互換性の確保: HBM4インターフェース定義は、既存のHBM3コントローラーとの後方互換性を保証している。これにより、システム設計者は必要に応じて単一のコントローラーでHBM3とHBM4の両方をサポートすることが可能となり、スムーズな技術移行と設計の柔軟性が確保される。
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業界の期待とエコシステム:主要企業が HBM4 を歓迎

HBM4規格の発表は、業界全体から歓迎の声が上がっている。

JEDEC HBMサブコミッティの議長であり、NVIDIAのテクニカルマーケティングディレクターであるBarry Wagner氏は、「高性能コンピューティングプラットフォームは急速に進化しており、メモリ帯域幅と容量の革新を必要としている。HBM4は、AIやその他のアクセラレーテッドアプリケーション向けに、効率的で高性能なコンピューティングの飛躍を推進するために設計された」と述べている。

JEDEC理事会のMian Quddus議長も、「JEDECメンバーは、未来の技術をサポートするために必要な標準の開発に専念している。HBM標準を継続的に改善するHBMサブコミッティの努力は、多種多様なアプリケーションにおいて著しい進歩を推進する可能性を秘めている」と付け加えた。

AMD、Cadence、Google Cloud、Meta、Micron、Samsung、SK hynix、Synopsysといった業界の主要企業からも、HBM4への期待と標準化への貢献を表明するコメントが寄せられている。各社は共通して、AI、HPC、グラフィックス分野におけるHBM4の重要性を強調しており、特に帯域幅の拡大、電力効率の向上、容量の増加が、次世代の計算負荷に対応するために不可欠であるとの認識を示している。これらの企業が開発初期から協力することで、HBM4を中心とした強力なエコシステムの形成が期待される。

HBM4が拓く未来:AIとHPCの進化を支える基盤技術

HBM4規格の登場は、単なるメモリ性能の向上に留まらない。AIモデルの規模は指数関数的に増大し、科学技術計算はより複雑化・大規模化している。これらの進化を支えるためには、プロセッサとメモリ間のデータ転送ボトルネックを解消することが不可欠であり、HBM4はその鍵を握る技術と言えるだろう。

最大2TB/sという帯域幅は、より巨大なAIモデルの学習時間を短縮し、リアルタイム推論の精度と速度を向上させる。また、HPC分野においては、気象シミュレーション、ゲノム解析、物理シミュレーションなどの計算速度を大幅に向上させ、科学技術の進歩を加速させることが期待される。

HBM3との後方互換性が確保されている点も、普及に向けた重要な要素である。これにより、システムベンダーは既存の設計資産を活かしつつ、段階的にHBM4へと移行することが可能になる。

JEDECによるHBM4規格の正式発表は、高性能コンピューティングの新たな時代の幕開けを告げるものだ。今後、メモリメーカー各社からHBM4準拠製品が登場し、それらを搭載したAIアクセラレーターやスーパーコンピューターが、私たちの社会に更なる技術革新をもたらすことになるだろう。


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