Lexarが中国向けに、国産DRAMを使う「THOR RGB DDR5第2世代」の32GBキットをJD.comへ掲載した。容量は16GBモジュール2枚、転送速度は7200MT/s、CASレイテンシーはCL38。Tom's Hardwareが2026年8月3日に確認した価格は3,999元(約93,300円)だった。中国製DRAMが高クロック製品の市場投入の意味は大きいが、その価格は「供給元が増えればPCメモリは安くなる」という期待に冷水を浴びせるものだった。
6000から7200へ、THORの役割が変わった
Lexarが2024年11月に発表した従来のTHOR RGB DDR5は、最大6000MT/sの製品だった。同社の高性能帯は、SK hynix製DRAMを採用して最大8000MT/sに達するARES RGB第2世代が担っていた。今回の中国向けTHORは、従来比で転送速度を20%引き上げ、7200MT/sの領域へ踏み込んだ。
JD.comの商品名には「国産DRAM」とあるものの、メーカー名は書かれていない。ただし、IT Homeが7月7日に伝えたLexarの製品予告は、CXMT(ChangXin Memory Technologies、長鑫存儲)製DDR5を明記していた。予告された構成は7200MT/sと7600MT/sの2種類で、どちらもCL38、16GB×2。販売ページに出た7200MT/s版と一致する。
細部も高性能キットの作法に沿う。Tom's Hardwareが確認した仕様は38-48-48-86、1.40Vで、Intel XMP 3.0とAMD EXPOに対応する。アルミ製ヒートスプレッダと8個のRGB LEDも備える。安価な標準メモリではなく、選別したDRAMを高いクロックで動かすゲーミング製品として設計された。この点が、価格を見る前提になる。
3,999元が映す「国産なら安い」の限界
3,999元という掲載価格は、CXMT系DRAMの登場が既存3社への価格圧力になるとの見方を、少なくともこの製品では裏づけない。Tom's Hardwareが同日に調べた米国の32GB DDR5-7200キットは、G.Skill、Corsair、Kingston製が585〜700ドルだった。税や流通が異なる中国価格と米国価格は厳密に比べられない。それでも約592ドル相当のLexar製品に、ひと目で分かる安さはない。
DRAM市場そのものは供給不足にある。TrendForceは7月30日、2026年のDRAM需給充足率を約マイナス1〜2%と推計した。大手メーカーが高帯域メモリ(HBM)へ生産能力を振り向ける一方、AIサーバーはCPU用DRAMも大量に調達している。新工場が供給へ大きく寄与するのは2028年以降とみられ、2027年もDRAM価格には上昇圧力が残るという。
さらに、メモリモジュールの値段はDRAMチップの原価だけでは決まらない。7200MT/sで動くチップを選別し、プリント基板や電源管理ICへ実装する必要がある。放熱部材とRGB、保証や販売チャネルの費用も完成品価格に加わる。新規メーカーのチップを採用したという事実だけでは、完成品が安くなるとは判断できない。
高クロック化の実体はメモリとBIOSの共同作業
CXMTは2025年11月、最大8000Mbps、最大24GbのDDR5ダイを公式に披露した。UDIMMからサーバー向けRDIMMまで製品形態を広げており、7200MT/s級のデスクトップ製品は公表済みの技術範囲に収まる。ただし、このロードマップだけでJD.com掲載品のチップメーカーを特定することはできない。
高クロック動作にはマザーボード側の対応も要る。MSIは7月14日、CXMT系DDR5に合わせてIntel 800シリーズのBIOSを調整し、Z890で8000MT/s超を検証した。4スロットのPRO Z890-S WIFIでは16GBモジュール2枚を8200MT/sで動かし、MemTestを100%超まで通している。CXMTが8000Mbpsまでの製品群を示し、MSIが実機で8000MT/s超を検証したことで、DRAM側の公称仕様とマザーボード側の動作確認が高クロック帯で揃い始めた。
とはいえ、MSI自身も到達速度はCPU内蔵メモリコントローラの個体差、モジュールとICのロット、システム構成に左右されると断っている。Tom's Hardwareが確認したLexarの互換性リストも43機種に限られ、内訳はASUSが30機種、MSIが13機種。Intel Z890/B860とAMD B850は載るが、AMD X870や旧世代チップセットは含まれなかった。XMPやEXPOのロゴは、あらゆる構成で7200MT/sを保証する印ではない。
購入判断はチップ名より実売価格とQVL
今回の製品が変えたのは、中国製DRAMを「安い代替品」ではなく、高クロックメモリの供給源として評価できるようになった点だ。2024年のTHOR RGBが6000MT/sだったことを考えれば、7200MT/sでの店頭投入は明確な前進である。一方、3,999元は性能帯に見合う強気な設定であり、価格破壊を告げる数字ではない。
購入時には、製品名にある「国産DRAM」やCXMTというブランドだけで割安さを判断できない。同じ容量、速度、タイミングの製品と現地の実売価格を比べる必要がある。加えて、使用するマザーボードのQVL(Qualified Vendor List、動作確認済みリスト)と必要なBIOS版も確認しなければならない。販売個体のSPD情報やチップ刻印でCXMT採用が確認され、7200MT/s版と7600MT/s版の価格が通常販売でどこまで下がるか。そこまで揃って初めて、中国製DRAMがPCメモリ市場の価格競争も動かしたと判断できる。



