米Navitas Semiconductorと韓国Magnachip Semiconductorは2026年7月23日、高電圧・超高電圧の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体で提携した。MagnachipはNavitasのGeneSiC第4世代・第5世代技術をライセンスし、1200V、2300V、3300Vと、それを上回る耐圧の製品開発に使う。技術は韓国内の工場へ移し、資格認定を経て内製化する計画だ。

Magnachipの製品表には、すでに650Vと1200VのSiC MOSFETが並ぶ。それでも今回の契約が必要なのは、同社が2025年末時点でSiCを社内製造できず、外部委託に頼る必要があると開示していたからである。発表の核心はSiC製品の初投入ではない。既存の1200Vから2300V・3300V以上へ耐圧を広げながら、製造工程そのものを韓国へ取り込もうとしている。

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ライセンスの中心は韓国工場への工程移管

契約の対象は、NavitasがGeneSiCブランドで展開するTrench-Assisted Planar(TAP)技術である。共同発表によると、Magnachipはデバイス技術に加え、Navitasが築いたSiCの供給網と材料調達基盤にもアクセスする。材料調達まで含む支援によって、市場投入までの準備期間を縮める狙いだと両社は説明する。

両社は今後の作業を「移管」「資格認定」「内製化」の3段階で表した。この区分は、契約締結と出荷開始の間に検証工程があることを示す。ライセンス契約を結んでも、Magnachip製のGeneSiCが直ちに出荷されるわけではない。工程を工場の装置へ合わせ、電気特性と信頼性を確認し、量産条件を固める作業が先にある。

共同発表は移管先を工場名で特定していない。Magnachipの2025年Form 10-Kによれば、同社の製造拠点は韓国・亀尾の単一ファブで、月間能力は約36,000枚の8インチ換算ウェハーである。同社は2025年に亀尾工場の更新へ2140万ドルを投じたが、この投資を今回のSiC移管と結び付ける説明はない。

契約対価と期間、ロイヤルティや独占性も明かされていない。SiC以外にも協力するとしているものの、対象分野は後日発表される。現時点で確定しているのは技術移管の枠組みであり、量産契約や顧客からの受注ではない。

既存1200V製品と今回の契約は何が違うのか

Magnachipの公開カタログと今回の契約を並べると、変化点は明瞭になる。

公開時点 SiCの電圧範囲 製造の状態
契約前の製品カタログ 650V、1200V 2025年末時点で社内SiC製造能力なし
今回のGeneSiCライセンス 1200V、2300V、3300V以上 韓国工場へ移管し、資格認定後に内製化する計画

つまり、Magnachipは完成したSiC製品を扱う段階から、プロセスを自社工場へ持ち込む段階へ進もうとしている。現在の650V・1200V品がどの企業の工程で作られているかは公表されていないため、既存品とGeneSiCの関係を同一視することはできない。

同社は2025年にディスプレイ事業を終了し、Power Analog SolutionsとPower ICへ経営資源を集めるパワー半導体専業企業へ移行した。従来の製品範囲は、シリコンのスーパージャンクションMOSFETで500Vから900V、IGBTで650Vと1200Vが中心である。GeneSiCを社内製造できれば、既存の設計・営業基盤を使いながら、電力網や蓄電設備向けの2300V・3300V級へ製品範囲を押し広げられる。

ただし、内製化の採算はまだ計算できない。SiCウェハーの口径と追加装置が不明だ。月産能力や歩留まり、資格認定の完了時期も出ていない。契約が技術上の入口を開いたことと、競争力のあるコストで量産できることは別に確かめる必要がある。

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1.2kV、2.3kV、3.3kVが担う電力変換

今回まとめて供与される技術は、世代と電圧が同じではない。第5世代GeneSiCは1.2kV(1200V)のTAP MOSFETで、第4世代が2.3kV(2300V)と3.3kV(3300V)の超高電圧品を受け持つ。Navitasは第5世代について、前世代の1200V技術よりRDS(ON)×QGDという性能指標を35%改善し、QGD/QGS比も約25%改善したと説明している。ゲートしきい値電圧は3V以上に保つという。これらはNavitasの試験に基づく数値である。

RDS(ON)は通電中の損失、QGDはスイッチを切り替える際の負担に関わる。積を小さくできれば、大電流を流すときの発熱と高速スイッチング時の損失を同時に抑えやすい。TAPは平面ゲートを残し、ソース領域へ浅い溝を加える構造だ。Navitasは、標準的なトレンチゲートが平面ゲートより約40%多い工程を要すると説明しており、TAPでは製造しやすさを保ちながら電流の流れと電界分布を整える。

2300V・3300V級の役割は、電力網に近い高い電圧を扱う変換器で部品の直列数を減らし、回路を簡素化することにある。米国立研究所は、中電圧SiCパワーエレクトロニクスの用途として15kV級配電網への接続、固体変圧器(SST)、太陽光・蓄電池・EVと直流系統の接続を挙げる。従来は商用周波数の大型変圧器で電圧を下げてから半導体で変換していたが、高耐圧SiCは中電圧側で直接スイッチングする構成を可能にする。

もっとも、3300V素子1個で13.8kVや34.5kVを受けるわけではない。Navitasが示すSSTも、入力を直列、出力を並列につなぐモジュール構成を採る。素子の耐圧が上がれば直列段数を減らせるが、装置全体の効率や小型化は回路方式と実装で決まる。

3.3kV級ではパッケージと絶縁が前面に出る

3.3kV以上になると、デバイス単体の動作確認だけで電力変換装置の長期信頼性は判断できない。国立研究所などがまとめた査読レビューは、3.3kVから40kVのSiCモジュールに共通する課題として寄生要素の制御と電磁妨害(EMI)を挙げる。部分放電と熱管理も残る。高速に電圧と電流を切り替えるほど、配線や絶縁材まで電気回路の一部として設計しなければならない。

今回ライセンスされるのはGeneSiCのデバイス基盤である。共同発表は、Magnachipがどのパッケージやモジュールで2300V・3300V品を提供するかを示していない。自動車向けなら車載認定、電力網向けなら高電圧環境での絶縁と寿命評価が必要になる。用途一覧はAIデータセンターや蓄電設備から、自動車と産業電化まで広い。同じ製品をそのまま各市場へ投入できるとは限らない。

資格認定の公表では、まず耐圧とオン抵抗を確認したい。高温動作や動的スイッチング、部分放電とパッケージの熱抵抗も判断材料になる。顧客側の設計採用はその後だ。今回の契約から始まる検証は、製造工程と実装の双方に及ぶ。

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ファブレスとIDMの事業転換が重なった

Navitasはファブを持たず、現在のSiC製品を米国のX-Fabへ委託している。2025年後半にはモバイル・消費者向けを縮小し、AIデータセンターと電力網、高性能計算から産業電化へ研究開発と製品を移す「Navitas 2.0」を始めた。高電圧SiCの知的財産と供給網を持つNavitasにとって、Magnachipの製造・販売基盤を使う契約はGeneSiCを広げる手段になる。

Magnachipには、長年運用してきたパワー半導体工場と顧客網がある。一方、2025年末の10-KはSiCの社内製造を弱点として明記した。Navitasが工程と供給網を出し、Magnachipが工場と顧客網を出す組み合わせだ。ただし、共同発表からは供給責任の分担や製品の販売主体を確認できない。

この提携を量産体制の成立と評価できるのは、Magnachipが移管先の工程と資格認定の完了時期を示してからだ。認定後の能力と歩留まりも欠かせない。さらに製品型番と採用顧客、ライセンス収入または製造売上が開示されれば、技術契約が事業へ移ったかを判断できる。