AMDの次々世代CPUアーキテクチャ「Zen 7」に関する詳細なリーク情報が、著名なテクノロジーリーカーであるMoore’s Law Is Dead (MLID)氏によってもたらされた。TSMCの未発表1.4nmプロセス採用の可能性や、CPUコア単体の性能を劇的に向上させるとされる革新的な「3Dコア」の存在など、その内容はまさに次世代の覇権を握るものになりそうだ。
Zen 7、登場は2027年後半以降か? まずはZen 6の足音
まず気になるのは、Zen 7がいつ我々の手の届くところにやってくるのか、という点だろう。MLID氏の情報によれば、Zen 7のテープアウト(設計完了)目標は2026年10月とされており、実際の製品リリースは2027年後半から2028年初頭になる見込みだ。
これは、現在開発が進められているZen 6アーキテクチャの登場から、さらに1年半から2年後ということになる。AMDは近年、Intelとの熾烈な競争の中で、CPUアーキテクチャの更新サイクルを加速させており、Zen 7もそのアグレッシブなロードマップの一環として位置づけられていると考えられる。市場が成熟し、技術革新のペースが鈍化しているとの見方もある中で、AMDがこれほど野心的な計画を推し進めていることは注目に値する。
IPCは最大25%向上? Zen 7の驚異的な性能目標
Zen 7の性能に関して最も注目すべきは、IPC(クロックあたりの命令実行数)の大幅な向上だ。MLID氏によれば、Zen 7は現行のZen 6と比較して15%から25%のIPC向上を目指しているという。特に、業界標準のCPUベンチマークであるSpecINT17においては、20%以上の性能向上をターゲットにしているとのことだ。
もしこれが実現すれば、Zen 7は前世代から飛躍的な性能向上を遂げることになる。近年のCPU開発では、製造プロセスの微細化によるクロック周波数の向上が頭打ちになりつつあり、IPCの向上が性能を左右する重要な要素となっている。AMDがZen 7でコア数の大幅な増加ではなく、IPCの向上に注力しているのだとすれば、それはアーキテクチャ設計における大きな戦略転換の可能性を示唆しているのかもしれない。シングルスレッド性能が重視されるアプリケーション、特にPCゲームなどにおいては、このIPC向上が大きなアドバンテージとなるだろう。
TSMC 1.4nmプロセス採用と、V-Cacheの新たな進化
Zen 7の性能目標を支える基盤技術として、製造プロセスの進化も注目される。リークによれば、Zen 7のコアチップレットにはTSMCの1.4nmプロセス「A14」が、そして3D V-Cacheチップレットには4nmプロセスが採用される可能性があるという。
TSMCは2025年4月の北米技術シンポジウムで、このA14プロセスを2028年に量産開始予定であると発表しており、第2世代ゲート・オール・アラウンド(GAA)ナノシートトランジスタやNanoFlex Proといった革新技術の採用が明らかにされている。仮にZen 7の初期製品がA14プロセスを採用する場合、TSMCのロードマップによれば当初はBSPDN(バックサイドパワーデリバリーネットワーク)非搭載版となり、BSPDN搭載版は2029年の提供計画であるため、AMDの製品展開戦略も注目される。
この情報の信頼性がどの程度かは不明だが、これが事実であるならばAMDがTSMCとの強固なパートナーシップのもと、次世代プロセスの早期導入を計画していることを物語るものとなるだろう。もちろん、最先端プロセスの採用には製造コストの増大や歩留まりのリスクも伴うが、AMDはIntelとの競争において性能面で優位に立つため、果敢に挑戦する構えのようだ。
キャッシュ構成については、コアあたり2MBのオンダイL2キャッシュに加え、コアあたり7MBのL3キャッシュがV-Cacheチップレットの形で提供されるという。これは、従来のRyzen X3Dシリーズで採用されてきた、CCD(Core Complex Die)単位でL3キャッシュを積層する3D V-Cacheとは異なるアプローチを示唆しており、よりきめ細かいキャッシュ管理と低レイテンシ化が期待される。特に「7MB/コア」という数値は、かなり大容量であり、これがどのように性能に寄与するのか興味深い。
革新的「3Dコア」とは何か? 5つのコアバリアント戦略の全貌

Zen 7のアーキテクチャに関する最も刺激的なリークは、新たに「3Dコア」と呼ばれるCPUコアが登場する可能性だろう。MLID氏によれば、AMDはZen 7において単一の基本アーキテクチャを開発し、そこから特性の異なる複数のコアバリアントに派生させる戦略をとるという。具体的には以下の5つのバリアントが計画されているようだ。
- Classicコア: IPCと最大クロック周波数を重視した、従来の高性能コア。
- Denseコア: 電力効率とIPCを重視し、周波数はやや抑えめにしたコア。サーバー向けなどで高密度実装を目指すものか。
- Low-Powerコア: スペース効率と電力効率を最大限に高めたコア。モバイル向けなどを想定しているのかもしれない。
- Efficiencyコア: 電力効率とIPCを重視した、いわゆる高効率コア。IntelのEコアに対抗するものか。
- 3Dコア: IPC、あるいはコアあたりの性能を最大限に引き出すことを目的とした新しいタイプのコア。

この中でも特に注目されるのが「3Dコア」だ。MLID氏が示唆するところによれば、この3Dコアは、各コアが個別のキャッシュチップレットを持つ、より進化した3Dスタッキング技術を採用する可能性がある。従来の3D V-CacheがCCD全体でキャッシュを共有していたのに対し、各コアが専用のキャッシュを持つことで、メモリアクセスのボトルネックをさらに低減し、特にゲーミング性能において圧倒的なアドバンテージを生み出す可能性がある。もしこれが実現すれば、CPUのアーキテクチャ設計における大きなブレークスルーとなるだろう。
Epycサーバー向けZen 7は最大264コア? データセンター市場への野心
コンシューマー向けだけでなく、サーバー向けCPU「Epyc」においてもZen 7は大きな進化を遂げるようだ。リークによれば、Zen 7世代のEpycは33コアのチップレット構成を採用し、最大で264コアという驚異的なコア数を実現する可能性があるという。
また、これらのZen 7 Epycコアチップレットは、先行して登場するZen 6世代のIOD(I/O Die)と後方互換性を持つ可能性も示唆されている。これは、プラットフォームの移行コストを抑えたいデータセンター事業者にとっては朗報となるだろう。AMDはデータセンター市場においてもIntelに対する攻勢を強めており、Zen 7 Epycの超多コア構成と高性能は、その野心を明確に示していると言える。
リーク情報の信憑性
ここまでZen 7に関する刺激的なリーク情報を見てきたが、これらの情報が現実のものとなるかについては、慎重な姿勢が必要だ。MLID氏は過去にも正確なリーク情報を提供してきた実績があるものの、Zen 7の登場はまだ2年以上先であり、開発状況によっては計画が変更される可能性も十分に考えられる。
しかし、もしこれらのリークが現実となれば、AMDはCPU市場における技術的リーダーシップをさらに強固なものにするだろう。特に、TSMCの最先端1.4nmプロセスの採用や、革新的な3Dコアの導入は、Intelの次世代アーキテクチャ(Nova Lakeなど)との競争において、AMDに大きなアドバンテージをもたらす可能性がありそうだ。
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