中国のEVメーカーNIOは2026年9月27日、浙江吉利控股集団有限公司(Geely Holding)傘下の子会社が、NIO Powerの株式30%を取得する正式契約を結んだと発表した。
Geely側は、現金に加えて、事業用車両向けのバッテリー交換事業を手掛ける易易互聯科技(Yiyi Internet Technology (Chongqing) Co., Ltd.)の全株式をNIO Powerへ拠出する。現金の投資額は6.4億元だ。
取引が完了すれば、3年前に始まったバッテリー交換規格の標準化をめぐる協力は、Geely側の交換事業をNIO Powerへ統合し、両社が資本関係を持つ段階へ進む。
ただし、Geely側が取得する30%という持分は固定ではなく、統合後の業績によって20%まで減る可能性がある。NIO Powerの投資後企業価値を約160億元とする今回の取引を評価するには、現金以外に拠出される事業会社の価値と、この持分調整条項を合わせて見る必要がある。
Geelyの持分30%は固定ではない
取引完了時には、Geely Holding傘下の子会社がNIO Powerの30.0%、NIOの中国子会社であるNIO Chinaが63.6%、既存投資家の武漢光創が6.4%を保有する。
NIO Chinaは過半数の持分を維持するため、NIO Powerは引き続きNIOの連結対象となる。
ただし、取引には規制当局の承認など通常の完了条件があり、発表時点ではまだ成立していない。
今回の取引で特徴的なのは、完了後にもGeely側の持分比率が変わる可能性があることだ。
NIOの発表によると、NIO Powerが一定の事業目標を下回った場合、Geely側の持分は最低20%まで引き下げられる可能性がある。
一方、どの指標を事業目標として使うのか、どの期間の実績を評価するのか、30%から20%までの減少幅をどのように決めるのかは公表されていない。
易易互聯科技の事業価値を、NIO Powerへ統合した後の実績に応じて調整する仕組みと考えられるが、現時点の開示だけでは、どの当事者がどの程度の業績未達リスクを負うのかまでは分からない。
一方、Geely側が持分を増やせる条項もある。
Geely側は、取引完了から2年後、またはNIO Powerが次回の資金調達について拘束力のある契約を締結する日のうち、早い方までに追加で6.4億元を投資できる。
取引完了後に持分調整が行われないと仮定すると、この追加投資によってGeely側の持分は34.0%に増え、NIO Chinaは60.0%となる。
つまり、Geely側の持分は条件次第で20%から34%まで変動する可能性があり、取引完了時点の30%だけでは最終的な経済持分を判断できない。
現金以外の対価は単純計算で約41.6億元
NIOが公表したNIO Powerの投資後企業価値は約160億元だ。
この企業価値にGeely側の取得予定持分30%を掛けると、取引対価は単純計算で約48億元になる。ここから現金6.4億元を差し引くと、残る約41.6億元が、Geely側が拠出する易易互聯科技の全株式に対応する計算になる。
式にすると、
160億元 × 30% − 6.4億元 = 約41.6億元
となる。
総対価約48億元のうち、現金が占める割合は約13.3%で、残る約86.7%は事業会社の株式による対価と考えられる。
ただし、この41.6億元を易易互聯科技の確定した公正価値とみなすことはできない。
160億元というNIO Powerの企業価値自体が概算であり、NIOは易易互聯科技について独立した評価書を開示していない。売上高や利益、バッテリー交換拠点数なども明らかにされていない。
さらに、統合後の業績が一定の目標を下回れば、Geely側の持分は20%まで引き下げられる可能性がある。
同じ易易互聯科技の全株式と6.4億元の現金を拠出しても、最終的な持分が30%から20%へ下がれば、30%を前提に逆算した約41.6億元という評価をそのまま維持することはできない。
この持分調整条項が存在すること自体、両社が易易互聯科技の価値を無条件に固定しているわけではないことを示している。
比較できる過去の取引もある。
2024年5月、武漢光創はNIO Powerへ10億元を投資し、10%を取得する契約を結んだ。この条件から単純計算すると、当時の投資後企業価値は100億元となる。
今回示された約160億元はそれより60%高い。
ただし、これをそのまま「NIO Powerの企業価値が2年間で60%上昇した」と解釈することはできない。
2024年の投資が最終的にどのような条件で完了したのか、その後の追加投資や希薄化、今回NIO Powerへ持ち込まれる易易互聯科技の事業範囲、さらに持分調整条項など、比較条件がそろっていないためだ。
資本構成にも説明されていない部分がある。
2024年に武漢光創が取得するとされた10%が、今回のGeely向け新株発行によって30%分だけ単純に希薄化したのであれば、取引後の持分は7.0%になる計算だ。
しかし、今回公表された武漢光創の持分は6.4%となっている。
NIOの今回の発表では、10%から6.4%へ至るまでに行われた取引や持分調整については説明されていない。
3年前の技術提携から、交換事業そのものの統合へ
NIOとGeely Holdingがバッテリー交換で協力するのは今回が初めてではない。
両社は2023年11月、乗用車向けと事業用車両向けの二つのバッテリー交換規格を共同開発し、交換ネットワークの運営、対応車両の開発、バッテリー資産の管理などでも協力すると発表していた。
Geely傘下の易易互聯科技は主に事業用車両向け、NIOは乗用車向けのバッテリー交換で経験を積んできた。
2023年時点の発表では、交換網の共同運営や相互に利用できる車両の開発を目標としていたものの、どの会社に資産を集約するのか、投資負担をどう分けるのかまでは決まっていなかった。
今回の契約では、そこに資本関係が加わる。
易易互聯科技の事業はNIO Powerへ組み込まれ、GeelyはNIO Powerの少数株主としてバッテリー交換事業の成果を共有する。
つまり、共通規格を共同で開発する関係から、同じバッテリー交換事業へ資本を投入し、その企業価値を共有する関係へ進むことになる。
一方、充電事業では反対方向の出資も行われる。
NIO Chinaは、Geely Holding傘下で充電事業を運営する浙江浩瀚能源科技(Zhejiang Haohan Energy Technology Co., Ltd.)の新株を現金で引き受け、10.0%を取得する。
浩瀚能源は調達した資金を使い、NIOが保有する一部の充電資産を取得する予定だ。
つまり、バッテリー交換事業ではGeely側がNIO Powerへ出資し、充電事業ではNIO側がGeely傘下企業へ出資する構図になる。
ただし、NIOは浩瀚能源の10%を取得するために支払う金額や、移管する充電資産の具体的な範囲と価格を明らかにしていない。
形式上は相互出資となるが、両方の取引規模が同じとは限らない。
バッテリー交換事業についてはNIO Powerの企業価値として160億元という数字が示された一方、充電事業については同じように比較できる企業価値や投資額が公表されていない。
4,000カ所の交換網をGeely車も使えるようになるのか
NIOは2026年8月、4,000カ所目となるバッテリー交換ステーションを稼働させた。
初の第5世代交換ステーションについては、NIO、ONVO、FIREFLYという自社3ブランドの全モデルとの互換性を高めたと説明している。
この交換網をGeely傘下の車両にも広げるのであれば、既存の4,000カ所をどの車種が実際に利用できるのかが、インフラ投資の効率を左右する。
NIOは2026年1月までに、充電・バッテリー交換インフラへ累計180億元を投じたと公表している。
中国国内の充電・交換拠点は合計8,541カ所、累計バッテリー交換回数は9,600万回を超えたという。2030年には、充電拠点と交換拠点をそれぞれ1万カ所以上へ拡大する目標も掲げている。
ただし、8,541カ所という数字はバッテリー交換ステーションだけを数えたものではなく、充電設備も含む。
また、累計投資額180億元も、NIO Powerの現在の企業価値や事業の採算性を直接示す数字ではない。
今回の統合によって、この大規模な固定インフラに事業用車両の利用を加えられる可能性がある。
配車サービスやタクシーなど走行時間の長い車両では、充電を待つ代わりに短時間でバッテリーそのものを交換できるメリットが大きくなりやすい。同じ交換ステーションの利用回数を増やす効果も期待できる。
ただし、NIOは易易互聯科技について、現在の交換回数、対応都市、売上高などを公表していない。
そのため、今回の統合によってステーションの利用頻度がどの程度上がり、NIO Powerの収益性がどれだけ改善するのかを現時点で判断することはできない。
一般消費者向けのGeely車がNIO Powerの交換網を利用する計画も、まだ具体化の途中にある。
両社はバッテリー交換技術を採用した車両を開発し、NIO Powerが交換サービスを提供する初期計画を持っているものの、Geely傘下のどのブランドが参加するのかは決まっていない。
具体的な車種やバッテリーの寸法、発売時期、利用できる交換ステーションも明らかになっていない。
NIOがすでに4,000カ所の交換網を持っていることと、Geely車が実際にそこでバッテリー交換できることは別だ。
実現には、車両側と交換ステーション側の双方で規格や機構を対応させる必要がある。
今後見るべきなのは「30%」より、その前提となる条件
今回の取引を評価するうえで重要なのは、GeelyがNIO Powerの30%を取得するという数字そのものより、その持分を変動させる条件だ。
まず、Geely側の持分を30%から最大20%まで引き下げる可能性がある事業目標が、今後具体的に開示されるかどうか。
次に、NIO Powerへ統合される易易互聯科技について、交換拠点数、利用回数、売上高、利益などが明らかになるか。
充電事業についても、NIOが浩瀚能源の10%を取得するために支払う金額と、同社へ移す充電資産の価格や範囲が必要になる。
NIO Power単体の売上高、利益、営業キャッシュフローも現在は公表されていない。
NIOはこれまで交換ネットワークの規模や累計利用回数を示してきたが、インフラ事業の価値は拠点数だけでは決まらない。
1カ所当たりの利用回数、対応できる車種の数、設備の建設・維持費などが分かって初めて、投入した資本に対してどれだけの収益を生んでいるのかを評価できる。
今後、業績条件による持分引き下げが発生せず、Geelyが追加投資によって34%まで持分を増やし、さらに具体的なGeely車がNIOの交換網を利用するようになれば、2023年に始まった標準化の構想は、実際の共同インフラ事業へ発展したと言える。
一方、業績条件の詳細や対応車種が明らかにならないままであれば、今回示された160億元という企業価値は、あくまで事業統合を始める時点で置かれた評価額として見る必要がある。
今後開示される契約条件と、実際にバッテリー交換へ対応する車種が、この提携が資本参加にとどまるのか、本格的な共同インフラへ発展するのかを判断する材料になる。
