使用済み核燃料の最終的な行き先を、まだどの国も用意できていない。フィンランドのPosivaは2026年8月26日午後、Olkiluoto島の地下400mを超える深さで、恒久処分場Onkaloの処分孔第1号の掘削を始めた。8月上旬にはフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)が運転許可の安全要件を満たしたと評価しており、審査書類の段階から19億年前の岩盤を削る段階へ移った。掘る孔は、中心線からのズレを全長にわたって25mm以内に収めなければならない。この寸法の厳しさは、人の管理を前提にせずに放射性物質を閉じ込めるという設計から来ている。
78トンの掘削機と、25mmしか許されない曲がり
掘削機は独Herrenknecht AG製のDeposition Hole Boring Machine(DHBM、処分孔掘削機)で、Posivaが2022年6月に受け入れた。本体は全長9.13m、幅3.15m、高さ3.93m、重量78トンある。これに7mのエネルギーユニット(22トン)と、高さ4.1mの掘削処理プラント(18.5トン)が付く。World Nuclear Newsによれば、Posivaは8月25日にキックオフミーティングを開き、翌26日の午前から午後にかけて機材を最終調整したうえで岩盤に取りかかった。
ぶっつけ本番ではない。2022年末にHerrenknechtのクルーが試験孔を4本掘り、その後Posivaの自社クルーが供給元の支援を受けてさらに4本を掘っている。建設運用マネージャーのKimmo Lehtola氏は「すでに何本かの孔で練習し、実際の処分孔掘削への準備は長く続けてきた」と述べ、「この日をチームは待ち望んでいた。実際に最終処分の一部になる孔を初めて掘る機会を得られたことは素晴らしい」と続けた。
完成した孔は深さ8.4m、直径1.75mになる。中心線からのズレは全長にわたって25mm以内でなければならず、これを超えた孔は最終処分から外される。孔が曲がれば、キャニスターとその周囲を埋めるベントナイトの収まりが設計どおりにならないためだ。そこでPosivaは最初の3本について、掘削が終わるたびに測り直す検査体制を敷いている。
ペースの目安もLehtola氏が示した。フィンランドの条件下では8mの孔を1本掘るのに実働で約10時間かかり、岩盤が硬いほど遅くなるという。量産体制に入ったあとの目標は週2本だ。いま掘っている最初の処分用トンネルは長さ約330mで、処分孔を約30個収容する予定であり、週2本が出れば1本のトンネルを孔で埋めるのに15週、およそ4か月かかる計算になる。
銅とベントナイトは、何をどう止めるのか
Onkaloが採用するKBS-3方式は、スウェーデンで開発された多重バリアの設計である。使用済み燃料は、鋳鉄のインサートを内蔵した銅製キャニスターに封入される。鋳鉄が荷重を受け持ち、銅が地下水と岩盤の側を向く。材料ごとに役割を分けているところが、この方式の骨格だ。
キャニスターは処分孔の中でベントナイト緩衝材に包まれる。ベントナイトは水を含むと膨らむ粘土で、孔とキャニスターの隙間を自ら埋め、地下水の通り道を狭める。処分孔を並べたトンネルも、同じ性質の膨潤性粘土でバックフィルする。最後に19億年前のOlkiluoto岩盤そのものが、いちばん外側のバリアになる。
バリアを重ねる理由は、どれか一つが期待どおりに働かなかった場合を織り込むためだ。銅が損なわれてもベントナイトが地下水の移動を遅らせ、粘土が変質しても岩盤の低い透水性が残る。Posivaは、この重ね合わせによって放射性物質が地表へ到達するのを防ぐと説明している。人が監視や補修を続けることを前提にしない点が、地上の中間貯蔵との決定的な違いになる。
処分の場所は地下450mだと紹介されることが多いが、Posiva自身の説明はもう少し細かい。Onkalo施設が到達する最も深い部分が約450mで、燃料を実際に納める処分トンネル群は地下400〜430mに位置する。今回掘り始めた孔も、深さ400mを超える地点にある。ここにウラン換算で6,500トンの使用済み燃料を、約3,250本のキャニスターに分けて納める計画だ。
規模の全体像も出ている。World Nuclear Newsは、100年の操業期間に処分トンネルを約100本、総延長で約35km掘ると伝えた。1本あたりの最大長は350mで、いま掘っている約330mのトンネルはその上限に近い。
Forsmarkの着工、Cigéoの見積り、そしてユッカマウンテンの空白
同じKBS-3方式を採るスウェーデンのForsmark処分場は、2025年1月に着工した。Vattenfallの発表によれば、深さ約500mにキャニスター約6,000本、使用済み燃料を最大12,000トン納める計画で、操業開始は2030年代、全トンネルの完成は2080年代を見込む。事業費は処分場単体の数字では示されておらず、運営元のSKB(スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社)は処分場・封入施設・既存の低中レベル廃棄物処分場(SFR)拡張を合わせた投資額として210億スウェーデンクローナを挙げている。2026年8月27日のSEK円レート16.74円で換算すると約3515億円にあたる。キャニスター本数ではOnkaloの約3,250本の約1.8倍にあたるが、着工の時点で9年遅れて出発している。
フランスのCigéoは、Onkaloと同じ「規制手続きの終盤」にいる。建設許可(DAC)の申請は2023年1月、原子力安全・放射能防護庁(ASNR)による技術審査は2025年11月に完了し、法定の公開意見聴取も2026年5月18日から7月16日までの60日間で終えた。この後は調査委員会の結論公表や政令案の審査を経て、政府がデクリ(政令)を交付する段階に入る。Onkaloが政府の許可決定を待つ構図と重なる。地下連絡坑の掘削開始は2035年頃、核関連地表施設と中レベル長寿命廃棄物の貯蔵室掘削は2040年頃、高レベル廃棄物の貯蔵室は2045年頃という工程が示されており、限定的な一部操業(パイロット段階)の開始はASNRの資料で2045年から2050年頃と見積もられている。
事業費についてNucNetは、計画全体の最新見積りとして税抜き約334億ユーロ、税込みで約370億ユーロを伝えている。2026年8月28日のユーロ円レート185.57円で換算すると、それぞれ約6兆2000億円と約6兆9000億円にあたる。Forsmarkの投資額とは対象範囲も通貨も違うため、金額をそのまま並べて優劣を論じることはできない。
米国は逆方向へ進んだ。ユッカマウンテン計画は数十年と数十億ドル規模の調査を経て、DOEが2010年に許可申請の取り下げを試みたが、NRC(米原子力規制委員会)の審査部会は同年6月にこれを退けた。技術・環境面の審査自体は2013年に再開し、安全評価書が2015年、環境影響評価書の補足が2016年にまとまったが、その先へ進むための裁判形式の審理手続きは2011年9月に停止したまま今も再開されておらず、法的には宙づりの状態が続いている。その間に使用済み燃料は増え続け、現在は全米73カ所の原発サイトで約9万5000トンが暫定保管され、年間約2000トンのペースで積み上がっている。処分地を決められない状態が、そのまま各サイトの負担として残っている。
| 施設 | 現在の段階 | 操業の目標時期 |
|---|---|---|
| Onkalo(フィンランド) | 処分孔の掘削開始(2026年8月) | 政府の許可決定を待つ段階 |
| Forsmark(スウェーデン) | 建設着工(2025年1月) | 2030年代 |
| Cigéo(フランス) | 技術審査・意見聴取が完了、政令交付待ち | パイロット操業は2045〜2050年頃の見込み |
| ユッカマウンテン(米国) | 2011年9月から審査停止中 | 未定 |
四つを並べると、深地層処分という方式そのものが行き詰まっているわけではないことが読み取れる。止まったのは、場所をめぐる決着がつかなかった米国の案件である。
「2026年末」はPosivaの目標であって、政府の決定ではない
Posiva社長兼CEOのIlkka Poikolainen氏は「2026年末までに最終処分開始の運用準備を整えることが我々の野心的目標だ」と述べた。野心的という語は謙遜ではない。同社が使用済み燃料の封入プラントと最終処分施設の操業許可を申請したのは2021年12月30日で、要請した許可期間は2024年3月から2070年末までだった。申請時に描いた開始時期から、すでに2年以上ずれている。
規制側の判断は8月上旬に一段進んだ。STUKは、使用済み核燃料の最終処分場として世界で初めて運転許可の安全要件を満たしたとの評価をまとめている。経済雇用省は、秋にも政府への許可決定案を準備できるとの見解を示したが、政府がいつ議決するかまでは示していない。
ここまでの道のりは長い。Eurajokiのサイトが選ばれたのが2000年、国会が基本決定を承認したのが2001年、建設許可を申請したのが2012年12月、取得したのが2015年11月で、そして2016年に着工した。Posivaは電力大手Fortumと産業電力会社TVO(Teollisuuden Voima Oyj)の共同出資会社であり、両社が出す使用済み燃料の行き先を自前で作ってきた。
今回の発表に出てこない数字もある。処分孔1本あたりの掘削コスト、事業費の最新値、そして許容誤差を外れた孔をどこまで許容できるのかについて、Posivaは触れていない。トンネル1本あたり約30個という計画に対して不合格を何本まで吸収できるのかが分かれば、週2本という目標の現実味も測れるようになる。
26年で掘削に届いたフィンランド、文献調査で止まる日本
日本の高レベル放射性廃棄物処分は、まだ場所を探している段階にある。原子力発電環境整備機構(NUMO)が北海道の寿都町と神恵内村で文献調査を始めたのは2020年で、これは文献調査、概要調査、精密調査という三段階の選定プロセスの最初の一つにあたる。2026年8月の時点で、次の概要調査へ進んだ自治体はない。
フィンランドは2000年にEurajokiを選び、そこから26年で処分孔の掘削まで来た。日本はその起点にあたるサイト選定にまだ届いていない。仮にいま処分地が決まり、フィンランドと同じ26年をかけたとすれば、最初の処分孔を掘るのは2050年代になる。もっともOnkaloは2001年に国会の基本決定という政治的な決着を早い段階で得ており、その承認がなければ同じ年数では進まなかった。
場所が決まらない間、燃料は発生した場所に置かれ続ける。米国の約9万5000トンが73カ所に分散し、年々積み上がっているのは、その帰結である。日本の使用済み燃料も、処分地の議論とは別に原発サイトと再処理施設で管理が続く。
Onkaloが次に越える節目は三つある。政府による操業許可の決定、封入プラントでの最初のキャニスター製作、そして処分孔への最初の定置だ。この三つが揃えば、深地層処分は設計図と審査書類の対象から、稼働実績で語れる技術に変わる。日本が処分地を議論するとき、比較の相手はそのとき初めて他国の計画書ではなく動いている施設になる。
