米カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所に8月20日、Oura Ringの睡眠段階推定の精度表示を巡る集団訴訟が提起された。原告Madison Surberは、Ouraが表示する精度が消費者を誤導したと主張する。だが現時点で裁判所は事実を認定しておらず、クラスも認定していない。Oura側の答弁、または却下を求める申立ても、8月23日時点の公開ドケットでは確認できない。

争いを「リングは脳波を測れないのだから睡眠段階を出せない」と片付けるのは正確ではない。指輪は心拍変動、体動、温度といった相関する信号から段階を分類できる。一方で、商品ページの「95% Sleep Staging Accuracy」がどの条件で得られた数値かは、購入を検討する画面から読み取れない。95%79%53.18%は同じ物差しではない。この差をほどくことが、今回の訴えを読む出発点になる。

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提案段階の訴訟で、認定も判断も出ていない

訴状の事件名は「Surber v. Oura, Inc. et al」、事件番号は3:26-cv-08686である。被告はOura, Inc.とOura Health Oy。Surberは2025年5月22日ごろ、ロサンゼルス郡でOuraのWebサイトからOura Ring 4 Goldを約513.68ドルで購入したと訴状で述べる。対象製品にはOura Ring 5、Ring 4、Ring 4 Ceramicを挙げるものの、原告本人が購入したとされるのはRing 4 Goldである。

原告側は、米国内の購入者による全国クラスと、提訴前4年間にカリフォルニア州で購入した人によるサブクラスを提案した。請求は詐欺的表示、不当利得、カリフォルニア州の不正競争法・虚偽広告法・消費者法、明示保証違反、Song-Beverly法上の黙示保証違反など7項目に及ぶ。差止め、訂正広告、損害賠償などを求めているが、いずれも原告側の請求であり、認められた救済ではない。

また、訴状はクラス100人超、係争額500万ドル超を連邦管轄の根拠として主張する。これも認定済みの人数や損害額ではない。集団訴訟として認定されるには、裁判所が複数の認定要件を満たすかを判断する必要がある。クラス全体に共通する争点の有無は、その一つだ。広告を見た購入者の理解、購入時の依拠、損害をどう共通の証拠で示すかは、後の手続で分かれる部分になる。

「95%」の近くに、睡眠段階の検証条件はない

現行のOura Ring 5商品ページは「95% Sleep Staging Accuracy」と、「clinical sleep lab」との比較を表示している。睡眠段階を睡眠検査室と比べた精度だと読める表現だが、ページ上では被験者の属性、測定した夜数、端末とアルゴリズムの世代、accuracyの分母や算出方法を確認できない。95%がどの睡眠段階分類を対象にするのかも、同じ画面では説明されていない。ただし、この表示は2026年8月23日時点のRing 5ページ上のものだ。SurberがRing 4 Goldを購入した2025年5月ごろの表示内容や、Ring 4とRing 4 Ceramicへの適用範囲は、このページだけでは確定できない。

対照的に、同ページは心拍精度99%について、心電図(ECG)との決定係数r²だと示し、研究記事への脚注を置く。r²と睡眠段階の一致率は別の指標であり、99%95%を横に並べて性能を比較することもできない。ただ、心拍には検証方法の手掛かりが付くのに、睡眠段階の95%には同程度の条件が見えない。この表示差が、訴状の主張と消費者の理解を考える際の具体的な論点となる。

Ouraはサポートページで、Ringは医療機器ではなく、疾病の診断や治療などを目的としないとしている。この注意書きは、広告の正確さを巡る訴えを自動的に解決しない。反対に、医療機器でないから精度の説明が不要になるわけでもない。法廷では、95%が何を表すと合理的な購入者が受け取るかと、表示の近くに必要な限定があったかが問われ得る。

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PSGの直接測定と、リングの推定を混同しない

睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、脳波(EEG)・眼球運動(EOG)・筋電図(EMG)などを用い、専門家が通常30秒単位で覚醒・浅睡眠・深睡眠・REMの各段階を分類する。リングにEEG、EOG、EMGはない。Ring 5は赤色・赤外LEDで血中酸素飽和度(SpO2)を、緑色・赤外LEDで心拍、心拍変動、呼吸数を取得する。さらにデジタル温度センサーと加速度センサーを備える。

しかし、直接測らないことは推定が不可能である証明にはならない。心拍変動や体動、温度、概日リズムには睡眠段階と関係する情報が含まれ、モデルはそれらの組み合わせから分類を試みる。センサー構成からも、リングとPSGが同じ測定でないことは明らかだ。従って検討すべきなのはセンサーの有無そのものより、どの入力をどのモデルで分類し、PSGとのずれをどの指標で示したかである。

睡眠段階の数値は一種類ではない。睡眠と覚醒だけを分けた全エポックの一致率、覚醒・浅睡眠・深睡眠・REMを分けた4分類の全体一致率、各段階を拾えた割合、段階別の誤判定、総睡眠時間の誤差は、それぞれ別の問いに答える。特に段階の出現数が偏るデータでは、accuracyだけで性能を評価しにくい。どの割合の分母かを書かずに単一の数字を比べると、見かけ上の優劣が実際より大きく見える。

79%と53.18%は、95%の反証にも裏付けにもならない

公開研究の数値を並べると、条件の違いがはっきりする。2021年にSensorsへ掲載されたAltiniとKinnunenの論文は、健康な106人の440夜、計3,444時間のPSGとOuraデータでモデルを開発・評価した。両著者はOura Health所属だった。データ取得には、市販の第2世代リングと同じセンサーに追加メモリーを備えた研究用Gen2Mが使われた。5分割交差検証では、4分類のエポック単位accuracyが79%、睡眠・覚醒の2分類が96%だった。研究自身も、健康な被験者の結果を臨床集団へ一般化できないこと、母集団や分類法が違う研究の数字を直接比較しにくいことを記している。

2025年のScientific Reports論文は、大学病院の睡眠検査室で、多様な臨床症状がある45人を調べた。Oura Ring Gen3を評価できたのは31夜で、睡眠・覚醒のaccuracyは85.03%、覚醒を検出する感度は46.19%だった。覚醒・浅睡眠・深睡眠・REMの4分類overall accuracyは53.18%である。著者らはOuraから資金提供を受けず、利益相反もないと記載した。ただし初回利用の一夜を対象に、5分単位のOura出力を30秒PSGに合わせて評価した研究であり、Ring 5や日常での長期トレンドの成績をそのまま示すものではない。

数字 何を比べたか 対象・条件 その数字だけで言えないこと
95% Ring 5商品ページのSleep Staging Accuracy clinical sleep labとの比較。ページ上で詳細条件は確認できない 79%53.18%との優劣、対象モデルへの適用範囲
79% 4分類のエポック単位accuracy 健康な106人、440夜。研究用Gen2M、5分割交差検証 現行Ring 5の独立検証、臨床集団での精度
53.18% 4分類overall accuracy 臨床症状がある参加者、Gen3を評価できた31夜。2025年の独立研究 95%表示の数学的な反証、長期利用時の精度

表の三つは、母集団から端末・アルゴリズム世代、評価単位、指標までが異なる。53.18%を「コイントス並み」とするのは訴状の比喩で、4分類のクラス不均衡を考慮しなければ偶然水準と同じ意味にはならない。逆に79%を現行製品の保証値として扱うこともできない。数値が割れること自体は、どちらかの研究や広告が誤りだと直ちに示すものではない。

2026年のSleep Advances論文では、健康な若年13人と高齢19人を一夜評価した。OuraはGen3(version 2.8.41)で、総睡眠時間を比較できたのは若年12夜、高齢15夜だった。その平均差(Oura−PSG)は若年-15.5分、高齢-75.5分である。PSG夜の欠損は若年1/13(7.7%)、高齢4/19(21.1%)だったが、この欠損率の群間差は統計的には確認されていない(p=0.625)。小規模な一夜評価ながら、年齢層によって成績が異なり得ることを示す結果である。

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次に確かめるべきは、精度の数字を再現できるか

訴訟の進行でまず確認されるべきなのは、95%を支える検証資料である。どのRing世代とソフトウェア、どの被験者、何夜分のデータを使い、PSGの分類を何段階で、どの単位と分母で照合したのか。商品ページの表示だけからは追えない条件だ。Ouraが答弁するなら、原告の主張への反論とともに、こうした条件が争点に入る可能性がある。

購入者にとっても、一夜ごとの深睡眠やREMの絶対値を診断結果として読むのは慎重であるべきだ。同じ端末を継続して装着した際の傾向を見る用途と、睡眠障害を評価する用途は分けて考える必要がある。症状や睡眠障害が気になる場合は、PSGなどの医療評価を優先する。今回の提訴はまだ原告側の主張にすぎないが、ウェアラブルが掲げる精度の数字を、対象と指標から読める表示にできるかを問う入口にはなった。