Dave Plummer氏がChatGPTと基板設計ツールのEasyEDAを使い、PDP-11向けの4MBメモリカードを設計した。2026年10月30日(UTC)には、製作したカードを使ってUNIXの起動に成功したと報告している。今回製作したのは、既製のメモリチップと制御回路を組み合わせた拡張カードであり、半導体そのものを製造したわけではない。前日の試験ではメモリ容量を認識できたものの、奇数番地へのアクセスに失敗していた。メモリの存在を認識することと、指定したアドレスを正しく読み書きできることは別であり、今回の開発経過は、AIの支援を受けた設計を実機で動作させるまでに必要な検証の重要性を示している。
4MBのメモリカードをChatGPTと設計
Plummer氏がメモリカードの自作に取り組んだ背景には、旧式メモリの調達コストがある。同氏によると、PDP-11向けのメモリは入手できたとしても1MBあたり約1,000ドルするという。ただし、これは本人が示した価格の目安であり、市場の平均価格や実際の購入額を意味するものではない。1970年代に登場したPDP-11のメモリを、現代の電子部品で代替しようという個人プロジェクトである。
10月29日の本人投稿によると、Plummer氏はChatGPTの支援を受けながら、EasyEDAで回路図を作成し、基板の部品配置や配線を設計するとともに、部品表を用意した。試験用として発注した基板は5枚だった。同氏には基板設計の経験があったものの、これほど複雑な基板を扱うのは初めてであり、FPGAへの書き込みも初挑戦だったという。ただし、ChatGPTが各工程で具体的に何を出力し、どこまで人間の作業を代替したのかは明らかにされていない。
Tom's Hardwareが紹介した部品構成によると、メモリの制御にはLattice製FPGA「MachXO2 2000HC」を採用し、ISSI製の1MBメモリチップを4個接続している。FPGAは内部の論理回路を書き換えられる半導体デバイスで、今回の基板ではPDP-11からの読み書き要求を受け取り、メモリチップを適切に制御する役割を担う。1MBのチップを4個搭載することで、合計4MBのメモリ容量を確保する構成だ。ただし、4MB分のチップを搭載したことと、その全領域を正しく読み書きできることは同義ではない。
メモリ容量の認識だけでは不十分だった理由
最初の試験でPlummer氏は、M8190と同じバックプレーンに自作カードを挿入したところ、4MとROM用の予約領域が認識されたと報告した。バックプレーンとは、複数の基板を共通の配線で接続するための基板である。しかし、この段階では奇数番地へのアクセスに失敗していた。メモリの存在と容量を認識できても、実際のデータの読み書きには問題が残っていたのである。
この問題を理解するうえで参考になるのが、別の開発者が公開しているQ-Bridgeの設計資料だ。PDP-11が扱う16ビットのワードは2バイトで構成される。Q-Bridgeの実装例では、Q-Busからの読み書き要求に応答するだけでなく、下位の偶数番地に対応するバイトと、上位の奇数番地に対応するバイトへの書き込みを区別している。16ビットのワード全体を書き込む場合には、両方のバイトを選択する仕組みとなっている。
つまり、メモリ容量を認識できるだけでは不十分であり、要求されたアドレスに応じて適切なバイトを読み書きする制御も必要になる。奇数番地へのアクセスに失敗したからといって、「実際に使える容量が2MBしかない」「メモリチップの半分が故障している」と判断することはできない。ただし、Q-BridgeはPlummer氏のメモリカードとは別の設計であり、同じ回路構成や制御コードが使われているという証拠はない。この資料は奇数番地へのアクセス制御を理解するための参考にはなるものの、今回の不具合の原因や具体的な修正箇所を特定するものではない。
不具合の修正を経てUNIXの起動に成功
FPGAへの書き込みでも、Plummer氏は試行錯誤を重ねた。FPGA内部の論理回路を設定するためのデータであるビットストリームを用意し、FT232HとopenFPGALoaderを使って書き込んだという。その過程では、圧縮されたビットストリームの扱いに苦労したと説明している。ただし、FPGAへの書き込みが成功しても、設定された回路がPDP-11からの要求に対して正しく動作するとは限らない。
実際の動作確認では、奇数番地へのアクセス障害を修正した後も、別のテストで問題が発生していた。その後、Plummer氏はFPGAのコードを修正し、10月30日の投稿でUNIXの起動成功を報告した。以下は、10月29日の投稿とその返信、および10月30日の投稿を基に、検証の経過を公開順に整理したものだ。日時はいずれもUTCでの投稿時刻であり、実際に修正作業を行った時刻とは限らない。
| 公開日時(UTC) | Plummer氏が報告した状態 | 確認できた検証段階 |
|---|---|---|
| 2026年10月29日18:22 | 4MとROM予約領域を認識したが、奇数番地へのアクセスに失敗 | 容量の認識には成功したものの、メモリアクセスに問題が残る |
| 10月29日の元投稿に続く本人返信 | 奇数バイトの問題を修正したが、テストパターン3で失敗 | 最初の不具合を修正した後も、別の検査で問題が発生 |
| 2026年10月30日00:04 | FPGAのコードを修正し、全テストの通過とUNIXのマルチユーザーモードでの起動を報告 | 本人の実機環境でOSの起動まで確認 |
10月30日の投稿でPlummer氏は、すべてのテストに通過し、UNIXをマルチユーザーモードで起動できたと報告している。初日はメモリ容量を認識できる段階にとどまっていたが、不具合の修正を経て、実際にOSが動作するところまで到達したことになる。ただし、ここでいう「すべてのテスト」とは本人が実施した試験を指しており、具体的な検査項目や実行時間、対象となったメモリ領域の詳細は示されていない。UNIXの起動成功は実機での動作を裏付ける重要な進展だが、全アドレスの正常動作や長期間の安定性まで証明されたわけではない。
AI支援によるハードウェア設計の可能性と課題
今回のプロジェクトでは、ChatGPTの支援を受けて設計したメモリカードが、コードの修正と実機での検証を経て、UNIXを起動できる段階に達した。AIを活用することで旧式コンピューター向けのハードウェア開発を進められる一方、実際の機材と正しく通信し、期待どおりに動作するかどうかは、実機で検証しなければ分からないことが改めて浮き彫りになった。ただし、開発中に見つかった不具合がAIの生成した設計に起因するのか、また修正作業にAIがどの程度関与したのかは不明だ。AIの設計能力を評価するには、単にAIを利用したという事実だけでなく、具体的にどの作業を担当させ、どのような成果が得られたのかを区別する必要がある。
コスト面でも、1MBあたり約1,000ドルというPlummer氏の価格認識だけでは、自作によってどれほどの費用を節約できたのかは判断できない。基板の製造費や電子部品の購入費、設計と検証に費やした時間など、総コストを算出するための情報が示されていないためだ。また、今回の動作報告から、完成したカードの販売予定や、ほかのPDP-11構成との互換性を確認することもできない。
今後、同様の旧式コンピューターを維持するユーザーにとって重要になるのは、修正後のFPGAコードや変更内容、試験したメモリアドレスの範囲、長時間運転での安定性などの情報だ。第三者による再現結果が公開されれば、Plummer氏の環境以外でも正常に動作するかを判断しやすくなる。今回の成果は、AIを活用した旧式ハードウェアの再設計が実用的な動作につながる可能性を示す一例となった。今後、設計データと詳細な検証結果が公開されるかどうかが、ほかのPDP-11ユーザーへの応用可能性を見極めるうえで重要になる。



