Perplexityは2026年8月25日、AIエージェント「Perplexity Computer」をNVIDIA DGX Spark上で動かす「Portable Computer」の提供を始めた。2月に登場したComputerはクラウド上で複数のモデルとサブエージェントを束ねていたが、新版はモデルや会話履歴、タスクの実行系を端末内へ移した。検索やクラウドモデルは捨てず、必要なときだけユーザーの許可を得て呼び出す。「ローカルを既定、クラウドを例外」とするこの境界設計が、今回の変化の中心にある。

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クラウド版Computerから、実行の既定位置を端末内へ

Portable Computerでは、ローカルモデルに加えて、タスクを分解するプランナーやツールの呼び分けを担うルーターが端末内で動く。長時間の処理を管理するスケジューラーと永続タスクキュー、ローカル検索用の索引も同じ機械に置かれる。ファイルの分析やコード処理を端末内で完了すれば、そのデータをPerplexityのサーバーへ送る必要はない。ローカルで処理した分は、サービスのクレジットも消費しない。

ただし、ローカルファーストと完全オフラインは同義ではない。最新情報が必要ならPerplexity検索を使い、より難しい推論では15種類を超えるクラウドモデルへ助言を求められる。接続先にはGoogle DriveとGmailのほか、SlackやGitHubがある。端末上の内容を外部サービスへ送る場面では、Portable Computerが対象を示してユーザーに許可を求めるという。

クラウド側のモデルは、端末のファイルやツールを直接操作しない。ローカルの実行基盤が関連する文脈を選び、個人情報を検査したうえで、承認された範囲だけを送る。クラウドモデルが返すのは助言のテキストであり、ツールを実行する権限は端末側に残る。プライバシーは「通信しない」ことで守るのではなく、何を外へ出すかを処理ごとに制御する設計だ。

音声入力にも同じ考え方を当てはめた。NVIDIA Nemotron 3.5 ASR Modelが端末上で音声を文字に変えるため、録音とローカルファイルの操作をクラウドへ送らずに済む。機密文書を見ながら口頭で指示する仕事では、モデルの精度と同じくらい、データが通る経路を把握できることが効いてくる。

100K超で表れた性能低下を補う設計

初期版が使うのはQwen 3.8 27B、またはPerplexityが同モデルを事後学習したPPLX 27Bである。NVIDIAの300億パラメータMoEモデル「Nemotron 3.5 Lightning」も追加予定だ。Perplexityはモデル選定に加え、小型のローカルモデルが長い仕事を続けられるよう実行基盤も作り直した。

Qwen 3.8 27Bのコンテキスト長は公称約260Kトークンだが、Perplexityの実験では100Kを超える入力で性能が低下し始めたという。これは一律の入力上限ではなく、同社が経験的に確認した傾向である。そこで中核のシステムプロンプトと常設ツールを小さく保ち、調査やデータ分析、文書作成などのskillsを必要な場面だけ読み込む。会話が長くなれば、古い文脈を要約して有効範囲へ戻す。

接続アプリの扱いも軽量化した。一般的なMCPサーバーはツール定義そのものがコンテキストを消費するため、利用頻度の高い機能を短いコマンドラインツールへ変換した。モデルが抱える説明文を減らし、実際の資料と作業履歴へトークンを回す狙いである。

精度を補うもう一つの手段が自己検証だ。モデル自身の判断や実行監視用のフックが再確認を促し、結果を提出する前に誤りを探す。ツールはOSレベルのサンドボックス内で動き、プロセス、アクセス可能なファイル、ネットワーク接続を制限する。サンドボックスを使えない場合は、権限を緩めて続行せず、ツール呼び出しを停止する。

ここで効いているのは、モデルの規模を追う競争から、限られた能力をどう配分するかへの転換である。Portable Computerは小型モデルの弱点を隠していない。実効コンテキスト、ツール定義の重さ、難問での推論力を分け、それぞれを圧縮、軽量化、クラウド助言で補っている。

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85.4%という自己評価をどう読むか

Perplexityは、日常的な知識労働53件からなる社内評価「Local Knowledge Work Bench」で、PPLX 27B版Computerが85.4%を記録したと説明する。基盤モデルのQwen 3.8 27Bを同じComputer上で動かした場合は82.6%で、汎用エージェント基盤のPiは77.6%、Hermesは74.0%だった。各タスクは3回試行されている。

評価 Computer Pi Hermes 読む際の条件
Local Knowledge Work Bench(53件、Qwen 3.8 27B) 82.6% 77.6% 74.0% Perplexityの社内評価
BrowseComp(1,266問) 66.7% 50.2% 43.9% 検索基盤が同一ではない
ParseBench-100(100件) 65.1% 13.9% 34.6% 文書理解の平均スコア

同じ基盤モデルを使った比較では、モデルよりハーネスの差を見やすい。ただしBrowseCompでComputerはPerplexity検索を、PiとHermesはBraveを使っている。66.7%という差には検索エンジンの違いも含まれるため、実行基盤だけの効果とは断定できない。Local Knowledge Work Benchも現時点では公開されておらず、PPLX 27Bの技術報告とともに今後公開する予定とされる。

難しいコーディング課題では、ローカルとクラウドの役割分担が数字に出た。Terminal Bench 2.1の89タスクで、Qwen 3.8 27Bのローカル実行は59.6%。Claude Opus 5へ助言を求める構成は73.0%へ上がり、推定API費用は1回の実行あたり0.415ドルだった。Claude Opus 5だけを使う場合は82.4%0.65ドルである。

つまり、端末内の実行でフロンティアモデルと同じ結果が出たという発表ではない。Perplexityの評価では、難易度に応じてクラウドへ相談すると性能差の一部を縮められた。実利用では、何件をローカルで完了できるか、どの情報を助言モデルへ渡すか、外部API費用が総費用へどれほど影響するかを一緒に測る必要がある。

最初の入口はDGX SparkとLinuxに限られる

公開時点でPortable Computerを使えるのは、NVIDIA DGX Sparkを持つPerplexity ProまたはMaxの加入者で、OSはLinuxである。Perplexityアプリからワンクリックで導入できるという。Windows、GeForce RTX、RTX PRO、DGX Stationへの対応は予定段階にある。

DGX SparkはGB10 Grace Blackwellを載せた小型機で、20コアArm CPU、128GBのLPDDR5x統合メモリ、4TBのNVMeストレージを備える。FP4演算性能は疎性を利用した理論値で最大1PFLOPだ。27B級モデルを常時動かす余裕を用意する一方、一般的なWindows PCへそのまま広げられる構成ではない。

「ローカル処理はクレジットを消費しない」という利点にも条件が付く。DGX Sparkの購入費や電力、端末の管理費は残る。クラウド検索や助言モデルを使えば、通信とAPI費用も発生し得る。企業が導入効果を測るなら、クレジット使用量に絞らず、ローカル完了率と外部送信の回数、1件の仕事を終える総費用まで記録する必要がある。

Portable Computerが広く使われる製品へ進むかは、Windows/RTX版が予定どおり届くかでまず判定できる。その次は、未公開評価セットの公開と第三者による再現、そして許可画面が端末外へ出る情報を十分細かく示せるかだ。これらが揃えば、機密データを扱うAIエージェントは、クラウド利用を前提とする道具から、手元の計算資源を基点にする道具へ変わっていく。