Samsung Electro-Mechanicsが米Qualcommと組み、人工知能(AI)半導体向けの先端パッケージング技術「2.1D有機ブリッジ(Organic Bridge)」の共同開発を進めている。両社は1年以上にわたり開発と検証を続けており、Samsung Electro-Mechanicsは2026年9月9日から11日に開催された「KPCA Show 2026」で関連する基板技術を初めて一般に公開した。高価なシリコンインターポーザを排してダイ同士を直接つなぐこのアプローチは、先端パッケージングのコスト構造と特許競争にどのような変化をもたらすのか。 ## インターポーザを省く2.1D構造と提携の背景 生成AIの拡大に伴い、AIアクセラレータやデータセンター向けプロセッサでは、複数のコンピュートダイ同士、あるいはGPUと高帯域幅メモリ(HBM)の間を広帯域かつ低遅延で結ぶ先端パッケージングが不可欠になっている。従来の主流である2.5Dパッケージング(TSMCのCoWoS-Sなど)は、基板の上にシリコンインターポーザを敷き、その上にチップを並べる方式を採ってきた。しかし、大型のシリコンウエハを加工して作るインターポーザは極めて高価であり、露光装置のマスクサイズ(レチクル限界)による面積制限や歩留まりの低下が常に製造上の足かせとなっていた。 この課題を解決する手段として浮上したのが「2.1Dパッケージング」と呼ばれる手法だ。2.1Dでは全面にわたるシリコンインターポーザを使わない。信号密度の高い配線が必要なダイの境界部分にのみ、超小型の「ブリッジ」と呼ばれる中継部品を配置し、チップ同士を直接連結する。 Samsung Electro-Mechanicsは、このブリッジを従来のシリコンではなく、プリント配線板(PCB)の材料技術を応用した「有機材料(オーガニック)」で形成する技術を開発した。チップを載せるフリップチップ・ボールグリッドアレイ(FC-BGA)基板の側にキャビティ(凹部)を彫り込み、そこへ微細な有機ブリッジをあらかじめ埋め込む。その上にQualcommの演算ダイなどを実装することで、インターポーザなしで高密度なマルチダイ統合を果たす仕組みだ。 両社はこの構成を用いた基板の電気的性能や熱サイクル試験、接合信頼性の評価を1年以上にわたって継続してきた。ファブレス半導体企業であるQualcommが自らパッケージングの要素技術を主導し、大手基板メーカーであるSamsung Electro-Mechanicsが具現化を担うという異例のタッグが組まれた背景には、後工程のコストと調達網を自らの手で制御したいという強い動機がある。 ## シリコンから有機へ:有機ブリッジの構造と微細仕様 有機ブリッジの実態は、極めて微細な多層配線層を備えた超小型サブストレートだ。Qualcommが公開したインターコネクトブリッジ特許(US20260101781A1)では、金属層と誘電体層を交互にパターニングした「金属-誘電体複合構造(再配線層: RDL)」と、モールド樹脂などの「有機構造層」を接合し、有機層を貫通するビア(through-layer interconnects)を介してパッケージ基板側の配線と電気的に結合する構造が開示されている。 Samsung Electro-Mechanicsが目標として掲げている設計仕様は、5〜7層のRDL回路構造だ。回路の配線幅および配線間隔(Line / Space: L/S)はそれぞれ1.5〜2.0μm、層間をつなぐビア(Via)の径は4〜5μmという極限の微細化を目指す。これにより、ダイとダイの境界におけるパターン配線密度は、1mm幅あたり500〜1,000本に達する。 通常のFC-BGA基板で用いられるビルドアップ配線層の線幅は、最も微細なものでも10μm前後にとどまる。そのため、基板側の配線だけでダイ間を直接接続しようとすると、必要な信号線の本数を確保できず、帯域が致命的に不足する。一方で、有機ブリッジのL/S 1.5〜2.0μmという密度は、シリコンウエハ上に形成される配線技術に匹敵する水準だ。微細配線を有機ブリッジ側に集約することで、FC-BGA基板自体の設計ルールを無理に極限まで攻めることなく、局所的に高密度の信号伝送路を形成できる。 製造と供給体制の面でも、Samsung Electro-Mechanicsは周到な検証を進めている。有機ブリッジの供給ルートとして、同社は自社製造と外部調達の2系統を並行して評価中だ。自社のパイロットラインで評価用ブリッジを少量試作する一方、サムスン総合技術院(SAIT)傘下の日本研究拠点であるDSRJ(Device Solutions R\&D Japan)でも評価サンプルの作製が進められている。さらに、外部の基板・材料パートナー企業が製造した有機ブリッジを調達し、Samsung Electro-MechanicsのFC-BGA基板へ埋め込むプロセスも検証対象に含まれている。特定工場の一極集中を避け、量産時の歩留まりと供給安定性を早期に確保する狙いが透けて見える。 ## なぜ有機なのか:Intel EMIB特許の回避とコスト構造の転換 なぜ半導体業界は、実績のあるシリコンではなく「有機材料」のブリッジに挑むのか。最大の理由は、製造コストの引き下げと、先行する特許網の回避にある。 基板に小型ブリッジを埋め込んでチップ間を接続する発想自体は、Intelが2017年から実用化した「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」が先鞭をつけた。しかし、EMIBが採用しているのはシリコン製の微細チップ(シリコンブリッジ)だ。シリコンブリッジは優れた微細性を誇るものの、前工程の半導体ファブでウエハ上に微細回路を露光・エッチングして製造しなければならない。高価なウエハ処理費用がかかるうえ、シリコン片を基板に埋め込む際の熱膨張係数(CTE)の違いによる応力集中や反りなど、高度な製造管理が求められる。 加えて、IntelはEMIBの基本構造や埋め込み手法に関して強固かつ広範な特許網を長年かけて構築してきた。競合他社やファブレス企業がシリコンブリッジ方式を採用しようとすれば、Intelの知的財産(IP)に抵触するリスクが常につきまとう。 有機ブリッジは、この二重の障壁を打破する対抗軸となる。半導体前工程の設備を必要とせず、PCBやパッケージ基板の製造プロセスを拡張したRDL技術で作製できるため、製造コストを大幅に抑制できる。何より、ブリッジ自体のコア基材を有機ポリマー材料と銅配線で構成することで、Intelが保有するシリコンブリッジ関連の特許網を法的に迂回できる。 高密度接続が必要な箇所にだけ安価な有機ブリッジを配置し、シリコンインターポーザを完全に撤廃する2.1D構造は、莫大なコストがかかる先端パッケージングにおいて、ビッグテック各社が最も切望していた現実解といえる。 ## 一次発表・特許・発端報道の開示ギャップと役割分担 今回の2.1D有機ブリッジを巡る動きは、企業の公式発表、公開特許情報、そして調査報道の間で開示範囲に興味深いギャップが存在している。 まず、Samsung Electro-MechanicsによるKPCA Show 2026での公式発表では、シリコンインターポーザを介さずにチップ間を直接接続する2.1Dパッケージ基板技術の出展が明かされたものの、具体的な顧客企業名や共同開発パートナーの存在は一切伏せられていた。一方、Qualcomm側は2024年10月に、有機構造層と複合配線層を組み合わせたインターコネクトブリッジ特許(US20260101781A1、2026年4月公開)を出願しており、自社独自のブリッジアーキテクチャを着実に固めていた。そして、これら点と点を結び、Samsung Electro-MechanicsとQualcommが1年以上にわたり有機ブリッジ内蔵FC-BGAの評価を共同で進めてきた実態を報じたのが韓国The Elecのスクープ報道であった。 この協業体制において特に重要なのが、Samsungグループ内での明確な役割分担だ。物理的なFC-BGA基板の製造および有機ブリッジのキャビティ埋め込みを担うのはSamsung Electro-Mechanicsであり、後工程におけるパッケージ全体の組み立て性能や熱・機械的信頼性の総合評価はSamsung Electronics Foundry事業部が担当している。 一部の海外速報では、製造主体をSamsung Electronics Foundryと誤認して伝える向きも見られたが、実態は電子部品・基板専業のSamsung Electro-Mechanicsが主導する基板技術である。Samsung Electronics Foundryは、自社の先端パッケージング群(シリコンブリッジのCube-Eや有機RDLインターポーザのCube-R)とSamsung Electro-Mechanicsの2.1D基板を連携させ、受託サービスのメニュー拡充を図る評価パートナーとしての立ち位置を採る。 ## QualcommのデータセンターAI戦略と今後の実用化展望 パートナーであるQualcommの狙いは極めて明確だ。同社はスマートフォン向けSoCの主導権を握る一方で、データセンター向けの大型マルチダイAIアクセラレータの開発を本格化させている。Qualcommは2024年10月の特許出願に続き、2026年3月には韓国国内で有機ブリッジ技術に精通した先端パッケージング技術者の採用を実施した。 Qualcommが目指しているのは、複数のコンピュートダイを有機ブリッジで稠密にタイリングし、ソフトウエアからは単一の巨大なアクセラレータとして動作するマルチダイAIプロセッサの実現だ。自社ファブを持たないファブレス企業として、TSMC一社へのパッケージング依存から脱却し、Samsung Electro-MechanicsおよびSamsung Electronics Foundryと組んで独自の供給ルートを確立する意図が読み取れる。 ただし、商用化への道のりには技術的なハードルも残されている。有機材料はシリコンに比べて熱膨張係数が大きく、高発熱を伴うAIアクセラレータの動作環境下では、長時間の熱サイクルによる微細接合部の疲労破壊や基板の反り(Warpage)が発生しやすい。目標値であるL/S 1.5〜2.0μmの極微細配線を、量産規模で欠陥なく高歩留まりに維持できるかも問われる。 1年以上の検証を経た技術が商用製品へいつ実装されるのか。コストと特許の制約を同時に解きほぐす2.1D有機ブリッジは、TSMC独走が続くAI半導体実装のパワーバランスに新たな選択肢を提示している。