SK hynixは、2024年4月23日に米国カリフォルニア州サンタクララで開催されたTSMC North America Technology Symposium 2025において、次世代の高帯域幅メモリであるHBM4のサンプルを公開した。 この発表は、AI(人工知能)開発を加速させるメモリ技術の最前線を示すものであり、2025年後半の量産開始を目指す計画も明らかにされた。
次世代メモリの本命、HBM4の全貌

AI技術の急速な進化に伴い、膨大なデータを高速処理できるメモリへの要求は高まる一方だが、その中核を担うと期待されるのがHBM (High Bandwidth Memory) だ。SK hynixは今回のシンポジウムで、最新世代となるHBM4の12層積層サンプルを展示し、その驚異的な性能の一端を披露した。
SK hynixが公開した12層HBM4は、現行のHBM3E世代から大幅に性能を向上させた次世代メモリであり、最大の特徴は、1秒間に2テラバイト以上のデータを処理できる圧倒的な帯域幅で、これは現行のHBM3Eと比較して60%以上の高速化を実現している。
HBM4の主要スペックには、以下のような特徴が挙げられている:
- インターフェース幅:2048ビット(HBM3の1024ビットから倍増)
- 帯域幅:2.0 TB/秒(HBM3Eの1.2〜1.25 TB/秒から大幅向上)
- I/O速度:8.0 Gbps
- 最大容量:48GB(1スタックあたり)
現在、HBM市場ではSK hynix、Samsung、Micronなどが開発競争を繰り広げている。しかし、SK hynixが競合他社に先駆けてHBM4の商用バージョンに近いサンプルを公開したことは、同社が少なくとも現時点ではこのレースで一歩リードしていることを示唆している。
積層技術の進化:Advanced MR-MUFとTSV

HBM4のような高性能メモリを実現する鍵となるのが、チップを効率的かつ確実に積層する技術である。SK hynixは、今回の発表で「Advanced MR-MUF (Mass Reflow-Molded Underfill)」と「TSV (Through-Silicon Via)」がその中核にあることを強調した。 シンポジウム会場では、これらの技術の3Dモデルも展示され、来場者の関心を集めた。
MR-MUFは、チップ間の隙間を液状の封止材で充填し、熱で硬化させる技術であり、積層チップの保護や放熱性の向上に貢献する。Advanced MR-MUFは、これをさらに進化させたものだ。反り制御を取り入れた次世代MR-MUF技術であり、従来比40%薄いチップを反りなく積層できることが大きな特徴となっている。また、新保護材の採用により放熱性も向上している。
TSVは、DRAMチップに微細な穴を開けて垂直に配線を通す技術で、チップ間のデータ経路を最短化し、高速化・低消費電力化を実現するものだ。
また、SK hynixはHBM4と並んで、16層積層を実現したHBM3Eメモリも展示した。 こちらは帯域幅1.2TB/sを実現しており、NVIDIAの次世代AIアクセラレータ「GB300 “Blackwell Ultra”」への搭載が見込まれている。 NVIDIAは将来的に「Vera Rubin」世代でHBM4への移行を計画しているとも報じられており、SK hynixとの連携は今後も続くと考えられる。
AI時代を支えるメモリソリューション群

SK hynixの展示はHBMだけにとどまらない。「AI/Data Center Solutions」ゾーンでは、AIやデータセンターの性能向上と省電力化を両立する多様なサーバー向けメモリモジュールが紹介された。
これらの多くは、同社の最新世代である1cノード(10nmプロセス技術の第6世代)を用いて製造されたDDR5 DRAMをベースにしている。 具体的には、以下のような製品ラインナップが展示された。
これらの高性能サーバーメモリは、AIモデルの学習や大規模データ処理など、データセンターにおける様々なワークロードの効率化に貢献することが期待される。
SK hynixの優位性とAIメモリ市場の未来
今回のTSMCシンポジウムでの発表は、SK hynixがHBM市場およびDRAM市場全体において、技術革新と主要パートナー(特にNVIDIAやTSMC)との連携を通じて、強力なリーダーシップを確立しつつあることを印象付けた。 特にHBM4で競合に先行している点は、今後のAIアクセラレータ市場の動向に大きな影響を与える可能性がある。
SK hynixは、TSMCとの継続的な技術協力を通じてHBM製品ラインナップの量産を成功させ、AIメモリのエコシステムを拡大し、業界におけるリーダーシップをさらに強固なものにすることを目指している。
HBM4の登場は、より複雑で大規模なAIモデルの開発を可能にし、科学技術計算、自動運転、創薬など、様々な分野でのブレークスルーを加速させるだろう。2025年後半とされる量産開始が、AI技術の新たな地平を切り開くマイルストーンとなるのか、業界の注目が集まっている。
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