東京ガスは2026年11月4日、家庭向けの「蓄電池ネットワークサービス」を同月中に拡充し、蓄電池から電力系統へ放電した電気を最大70円/kWhで買い取る仕組みを導入すると発表した。遠隔制御の効果を確認できるマイページも新たに提供する。70円/kWhが適用されるのは、当日の電力需給に応じた遠隔制御によって送配電網へ放電した電力量に限られる。市場価格などの予測に基づく前日制御には別の単価が適用され、いずれも太陽光発電の買取単価を含むため、通常の売電額に70円が上乗せされるわけではない。

東京ガスは2024年から家庭用蓄電池の充放電を遠隔制御するサービスを展開してきた。これまでは電力需給の調整に加え、停電対策や太陽光発電の自家消費、蓄電池の導入補助などを主なメリットとしていた。今回の拡充では、制御の目的に応じた買取代金の還元と、その効果を可視化する機能が加わる。ただし、家庭の経済的なメリットは買取単価だけでは決まらず、実際の放電量や充電費用、加入するコースによって変わる。

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最大70円/kWhが適用されるのは当日制御による系統放電

買取対象となるのは、東京ガスの遠隔制御によって蓄電池から電力系統へ放電した電力量だ。制御には、容量市場からの発動指令など当日の需給状況に対応する「当日制御」と、電力市場価格などの予測に基づく「前日制御」があり、それぞれ買取単価が異なる。

制御方式 制御の契機 買取単価 単価の条件
当日制御 容量市場の発動指令など、当日の電力需給 70円/kWh 太陽光発電の買取単価を含む総額
前日制御 電力市場価格などの予測 電力量料金単価+10円/kWh 太陽光発電の買取単価を含む総額。基準単価は月ごとに変動

前日制御の買取単価は、2026年11月の例で48.35円/kWhとなる。計算の基準となるのは、東京ガスの「基本プラン」における月300kWh超の電力量料金単価に、燃料費調整額と再生可能エネルギー発電促進賦課金を加えた金額だ。11月の場合、1kWhあたり39.50円-5.33円+4.18円+10円=48.35円となる。燃料費調整額などが変わるため、翌月以降も同じ金額になるとは限らない。

つまり、70円/kWhは当日の需給調整に応じた系統放電に適用される単価であり、蓄電池からのすべての放電や、家庭内で自家消費した電気に適用されるものではない。

容量市場は、将来必要となる電力の供給力をkW単位で確保する市場だ。今回のサービスでは、東京ガスが家庭用蓄電池を遠隔制御し、実際に系統へ放電した電力量をkWh単位で計測して買取代金を支払う。供給力を表すkWと、電力量を表すkWhは異なる指標である。東京ガスは2025年12月、加入者の家庭用蓄電池200台超を使い、発動指令に遠隔で応答できるかを検証する実効性テストを実施した。同社は現在、2027年4月からの供給力提供に向けて準備を進めている。

年間2,000〜5,000円の還元試算をどう見るか

買取単価が高くても、それがそのまま家庭の利益になるわけではない。年間で何回制御され、合計何kWhを系統へ放電するかに加え、蓄電池の充電に必要な電気代も収支に影響する。東京ガスも、遠隔制御によって電気代が増える場合があると説明している。

同社が示す「おたすけコース」の年間還元目安は約2,000〜5,000円で、制御日数は無制限とされている。一方、「おたすけコース(ライト)」は年間30日程度の制御を想定し、還元目安を約2,000円としている。ただし、制御日数だけでは実際の放電量や利益を算出できない。

この還元目安は、売電による収入の総額ではない。蓄電池を自家消費運転だけで使用した場合と、遠隔制御サービスに参加した場合の年間収支を比較した東京ガスの試算である。前提条件は、年間電力使用量5,727kWh、太陽光発電設備4kW、蓄電池容量11kWh、定格出力5.9kW。電気料金には東京ガスの基本プラン、売電には太陽光電力買取プランを想定している。

また、約2,000円という金額は2025年度、約5,000円は2022年度の東京エリアのスポット市場価格を使った試算だ。実際の還元額を保証するものではなく、設備の購入費用を何年で回収できるかを示す数字でもない。家庭ごとの収支を判断するには、太陽光発電の発電量や電力消費量、蓄電池の充放電状況を踏まえ、自家消費運転のみの場合と遠隔制御に参加した場合を比較する必要がある。電池の劣化や充放電損失まで考慮した個別の利益や投資回収年数は、この試算からは分からない。

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対象機種や契約条件、停電用の残量にも注意

サービスへの加入には、対象となる蓄電池を新たに購入し、インターネットに接続して遠隔制御を受けられる状態にする必要がある。対応するメーカーなどのサービスを利用することも条件となる。コースへの加入は原則として蓄電池の購入時に限られるため、すでに設置している蓄電池が無条件で参加できるわけではない。

系統放電による買取還元を受けるには、卒FIT向けのおたすけコースなどに加入し、対応機種で系統放電の設定と申請を行う必要がある。対象メーカーはオムロンソーシアルソリューションズ、京セラ、長州産業の3社だが、各社の全機種が対応しているわけではない。さらに、東京ガスとの電気需給契約と、太陽光発電電力の受給契約も必要となる。

東京ガスによると、制御サービスの加入費、月額利用料、解約費用はいずれも0円だ。ただし、蓄電池本体や設置工事の費用が無料になるわけではない。また、停電に備えて利用者が指定した蓄電池の残量は確保されるという。買取還元だけでなく、非常時にどれだけ電力を残しておきたいかも、遠隔制御への参加を判断する重要な条件となる。

新たに提供されるマイページでは、すべての加入者が制御予定や履歴を確認できる。東京ガスの電気契約者は、経済的なメリットや、太陽光発電設備・蓄電池による電気代削減効果も確認可能だ。ただし、設備による削減効果は、太陽光発電や蓄電池を導入していない場合との比較試算であり、実際の請求額とは異なる場合がある。

ここで注意したいのは、二つの試算で比較対象が異なることだ。年間還元目安は「蓄電池を自家消費運転だけで使った場合」との差額だが、設備による電気代削減効果は「太陽光発電や蓄電池を導入していない場合」との差額を示す。両者を同じ基準の金額とみなして単純に足し合わせることはできない。

電力需給に応じて消費電力や蓄電池の充放電を調整する仕組みは、デマンドレスポンス(DR)と呼ばれる。さらに、各家庭に分散した蓄電池などを束ね、一つの発電所のように運用する仕組みがVPP(仮想発電所)だ。東京ガスが目指す2027年4月からの供給力提供に向けては、参加家庭をどれだけ確保し、安定した制御を続けられるかが焦点となる。利用者にとっても、買取単価の高さだけでなく、対象機種や契約条件、停電時の備えを確認した上で、実際の制御履歴と年間収支を見極めることが重要だ。